ピザには欠かせない丸いサラミ「ペパロニ」をうまくカールさせるための必要条件とは?

By Alexis Gallisá

ピザにおける人気トッピングはさまざまな種類がありますが、どうしても欠かせないものの1つにスパイスがよく効いたサラミの「ペパロニ」が挙げられます。こんがり焼けてカリッとした表面、上向きにカールした独特の形状、そしてカールでできた「カップ」の中にたまるペパロニの肉汁が生みだす味はピザを定義づける風味としてなくてはならないものといえるわけですが、そんなペパロニはなぜ焼いた時にカールするのか、そしてうまくカールさせるための条件はあるのか、そんなことを真剣に追求したブログが公開されています。

The Food Lab: Why Does Pepperoni Curl? | Serious Eats
http://slice.seriouseats.com/archives/2012/12/the-pizza-lab-why-does-pepperoni-curl.html

ブログを作成したJ. Kenji López-Altさん(ケンジさん)は、食に関する専門サイト「Serious Eats」を運営するほか、多くの食に関するコラムを執筆する人物で、ピザに対しても並々ならぬ思い入れを持っている模様。ピザのペパロニに関するブログエントリーを書くにあたり、「これは私のキャリアの中でも、いや、人生においても最も重要なものになる」と語るほどの気合の入りようで、特に以下の写真のようにクルッとカールし、その中にジューシーな肉汁がたまっているペパロニについて熱く持論を展開しています。


お店や宅配でピザを注文して届いたものを目にすると、ペパロニがペタッと平べったいものになっていることもあるものですが、ケンジさんはそれが許せない模様。ペパロニがのっているピザというものは、カールしたペパロニが溶けたチーズに半分程度埋まり、カリッとした焼け具合とジューシーな肉汁が欠かせない、とひたすら熱く語ります。


ケンジさんは、カールしたペパロニについて「grease chalice」という表現を使っています。「脂の聖杯」を意味するこの用語は、2005年に開催された食に関する英語の俳句コンテストで詠まれた以下の作品で触れられたものだそうで、ケンジさんは「これほどまでに美しく、核心を突いたものを見たことがあるか?」と絶賛しています。

crisp pepperoni

edge curled from heat

a chalice of sweet, hot oil

(訳)
カリカリのペパロニ

熱せられてカールした縁

甘く、熱き脂の聖杯

というふうに、やや暴走気味にペパロニ論を打ち立てるケンジさんは、ペパロニには欠かせないカールが生じる条件について、「カット時の厚み」と「ペパロニのケーシング(皮膜)の素材」が重要であるという仮説を立てて検証することにしたそうです。

◆仮説1:厚みが重要
ピザを焼いた時にペパロニがカールするのは、オーブンの熱にさらされる上面と、ピザ生地とチーズによって熱が遮断させる下部との間で焼け具合の違いが生じることで収縮率が変わり、その結果カールが生じる、と考えたケンジさんは、実際にさまざまな厚みにペパロニをスライスして、どのような違いが生じるのかを検証。


実験の際にはノギスを使って正確に厚みを測定し、1.3mmから6.4mmの間で8通りの厚さにカットしたペパロニを用いたそうです。


生地の上にピザソース、モッツァレラチーズだけを乗せたピザ生地の上に、8つのペパロニをトッピングしてオーブンにIN。


その結果はこんな感じ。「Cuppage(カッページ:カップ化)」のレベルはペパロニの厚さによって影響を受け、薄いものほどカッページのレベルが低くなることが判明したとのこと。その中でも、中レベルの厚さを持つペパロニが最もうまくカッページを発生させていたことがわかったそうです。


実験からは、ある程度の厚さがあればカッページが発生することが判明したものの、厚みだけで全てを検証することは無理だとケンジさんは判断。ペパロニの両面に生じる熱の違いによってカッページが左右されると考えたケンジさんは、別の検証を行うことにしました。


◆仮説1から導かれる帰結:熱源の向き
ケンジさんは、6通りの厚みにスライスしたペパロニをフライパンの上に並べ、下から火で熱を加えました。すると、いずれも下向きにカールしてカッページ(カップ化)が生じることが判明。仮説1の「厚み」に加え、「熱源の向き」がカッページを起こす要素の1つであることが認められたとしています。


◆仮説2:ケーシングの素材が重要
一般的にペパロニに用いられるケーシング(皮膜)には、天然の素材を用いたもの、コラーゲンから作られる人工のもの、そしてケーシングを持たない3つのパターンが存在しているとのこと。そこでケンジさんは、知りあいの業者から複数の素材のケーシングからなるペパロニを取り寄せ、種類ごとにどのような違いが生じるのかを検証しました。


その結果、天然のものよりも、コラーゲンによるケーシングを持つペパロニの方が、よりカッページが強く発生することがわかったとのこと。これはつまり、加熱時に起こるケーシングの熱収縮が素材によって異なり、コラーゲンタイプのものはより強く収縮するために、周辺部が中心部よりも大きく縮むことでカッページが大きく生じるというわけです。

一定の傾向が見えたところで、ケンジさんはケーシングを剥いた状態でペパロニを加熱してみたとのこと、するとなんと、ケーシングを持たないペパロニも同じようにカールすることが判明。つまり、ケーシングの素材の違いによるカッページの度合いは異なるものの、製造段階で肉の素材をケーシングに詰めて調理することで、ペパロニはケーシングがなくとも自らの働きでカールを起こすことが明らかになったというのです。


この状況にケンジさんは混乱を覚えたとのこと。カールが生じる力の源であると考えられたケーシングが必要条件ではないと言うことが判明したため、真の仕組みの把握のためには別の要素を見つけ出す必要が生じました。次にケンジさんが注目したのが、「詰め物の流体力学」つまり、ペパロニの材料である肉をフィリングする(詰める)際に生じる密度の違いが作用するのではないか、という仮説です。

◆仮説3:詰め物の流体力学 (The Fluid Dynamics of Stuffing)
上記のように混乱したケンジさんは、肉の専門家に助言を依頼。すると、天然素材のケーシングとコラーゲンのケーシングにフィリングを詰める時には、ケーシングの伸び方が異なることを教えられたそうです。

以下の写真は、コラーゲン素材のケーシングを持つペパロニを長手方向にカットしたもの。ケーシングがあまり伸びないため、フィリングを押し込む時にはペパロニの中心部により大きな力が加わり、結果的に密度が高い状態が残ることで、長手方向に模様が生じていることが見てとれます。


一方の天然素材を用いたケーシングの場合は、フィリングに生じる模様にバラつきや模様が認められず、均一に行き渡っている様子がわかったとのこと。この密度の違いがカールの度合いに影響を与え、コラーゲン素材のケーシングを持つペパロニの方が、より強くカッページが起こるものという結論が導かれると言うわけです。


それでは、この流体力学によって生じた密度の差は、本当にカールに影響を与えるのでしょうか。ケンジさんはこれを検証するために、同じペパロニからスライスされた4枚のペパロニ辺をペーパータオルに乗せ、電子レンジで加熱する実験を行いました。ペーパータオルには「○」と「×」の記号が書かれ、○にはペパロニを表向きに、×には裏向きに置いて加熱することで、ペパロニの収縮に方向性が存在するのかを確かめます。


その結果、見事に○と×でカッページの向きが一致したことが判明。どうやら、ペパロニがカールする理由の1つはフィリング時に残留する内部の密度差に存在しているであろうことが明らかになってきました。


◆仮説3から導かれる帰結:乾燥工程と密度
ペパロニのように加工された食品の場合は、「乾燥工程」の存在という、考慮すべき要素があるといいます。

食品の乾燥を行う際、一般的には製品の外側から内側にかけて乾燥が進むため、外側に近いほど乾燥度が高くなり、密度に差異が生じます。その後、製品は湿度が一定のパックに詰められて出荷され、開封するまで保管されます。この状態に置かれることで乾燥度の違いは再び均一化され、それに伴って密度も均一に戻ります。


しかし、最終的な状態は乾燥前と乾燥後では異なるといいます。1度乾燥された食品に水分が戻ったとしても、それは乾燥前と同じ状態ではなく、素材そのものに起こった変化は元に戻りません。そのため、結果的にペパロニの内部と外側では水分をキープする保水力に違いが生じ、その違いが加熱時のカールのしかたの違いとしてあらわになる、というのがケンジさんの結論というわけです。

◆結論
以上の検証を踏まえ、ケンジさんはペパロニのカッページは以下の要素によって発生すると結論づけています。

フィリングの詰め方:ケーシングの素材による密度の違い

加熱時に生じる両面の温度差:ピザ窯で加熱する際、熱に直接触れる外側は収縮し、ピザ生地で熱が拡散される側は縮まない

ペパロニの内側と外側で生じる保水力の違い:加工時に生じる変化によってもカッページの度合いは影響を受ける

このように、ペパロニのカールひとつを取ってみても、熱く検証してみるといろいろなことが見えてくるということでした。なお、ケンブリッジ大学で素材学を研究するケンジさんの友人は、ペパロニに加えられる熱の差異によって生じる収縮の違いをコンピューターでシミュレートした動画を作成してくれたとのことです。

Pepperoni Curling Demonstration - YouTube

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in , Posted by darkhorse_log

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