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金よりも貴重と言われる顔料「ウルトラマリン」の作り方

by MJI Photos (Mary J. I.)

金よりも貴重とされる顔料「ウルトラマリン」は芸術家に重宝され、画家のフェルメールはウルトラマリンを使いすぎたがために家族を借金まみれにしたと言われています。そのウルトラマリンは一体どのように作られているのか、イギリスのボドリアン図書館がその方法を公開しています。

Bodleian Libraries | Exploring Ultramarine
http://www.bodleian.ox.ac.uk/our-work/conservation/case-studies/ultramarine

ウルトラマリンとは一体何で、どのように使われてきたのか?ということは以下の記事からわかります。

世界で最も高価な色、金より貴重な顔料「ウルトラマリン」の歴史 - GIGAZINE


顔料としてのウルトラマリンには人工のものと天然のものが存在しますが、天然のウルトラマリンの原料は宝石のラピスラズリです。最初にラピスラズリが顔料として使われたのはアフガニスタンの寺院で、現在でもアフガニスタンは質の高いラピスラズリを採掘できる場所として知られています。

ラピスラズリはラズライト、ソーダ石、藍方石、黝方石など複数の鉱物によって構成される半貴石で、深い青色に白い斑点が浮かんでいるような質の高いものから、白い部分と青い部分がまだらになっているような質の低いものまで、見た目はさまざまです。


ウルトラマリンの鮮やかさは原料であるラピスラズリの質に大きく左右されます。以下の写真で言うと、左側の顔料は等級が高いので青が深く、右に行くほど低い等級の原料によって作られているのでグレーっぽい色合いになっています。ラピスラズリの青さはラズライトによるものなので、ラズライトの成分が多ければ多いほど、鮮やかなウルトラマリンに変化します。


ラピスラズリを顔料としてのウルトラマリンに変えるには一定のプロセスを踏む必要があります。実際にボドリアン図書館のワークショップでラピスラズリからウルトラマリンが生成された時の記録によると、ラピスラズリはかなり固く、ハンマーで小さく砕かれてから粉状にすりつぶされたとのこと。すりつぶせばすりつぶすほど青が深くなりますが、これはラピスラズリに含まれる透明鉱物や硫黄がつぶされるためで、作業中は硫黄の匂いが発生していたそうです。

キメの粗いすりこ木で石をつぶしたら、今度はキメの細かいすりこ木で粉状になるまでさらにラピスラズリをすりつぶし、水を加えていきます。


最後は柔らかい雪花石膏でできたすりこ木で仕上げ作業を行い、純度が高く重い粒子とそれ以外の不純物を分離させるために容器の中に水を注ぎ入れ、何度か洗浄します。容器の底にたまった顔料が深い青になるまで、この作業を繰り返すことで顔料としてのウルトラマリンは完成するわけです。


また、ワークショップではボドリアン図書館に収蔵してある14世紀から18世紀の書物で、さまざまなトーンのラピスラズリから作られた顔料が使われているページが展示されたとのこと。この時、各書物の顔料には卵白から生成したうわぐすりや、動物性の接着剤、ゴムなど、さまざまな媒質が使われていました。

例えば、ペルシアの彩飾において、顔料はできるだけ細かくすりつぶされアカシア樹脂で練られていました。また、顔料には湿り気を出すためのハチミツや均一性を与える牛乳が加えられ、少しずつ粘度の調整が行われましたが、ハチミツや牛乳には色を豊かにするという役割もあったそうです。

同じウルトラマリンでも顔料の調整によって色が変化する様子は以下の画像から確認可能。16世紀に出版された「MS. Arab. d. 98」という書物で使われているウルトラマリンは、非常に明るく鮮やかです。一方、1485年に出版された「MS. Elliott 287」は深く豊かな青色が使われていますが、これは媒質が多い可能性を示唆します。


ウルトラマリンの顔料の粒子は貝殻のような独特の形状で、かつ密度が高いので、水彩の塗料のようには簡単に扱えません。水をベースにした媒質を使用した時、ウルトラマリンの透明度は低くなりますが染着力が生まれます。しかし一方で、ウルトラマリンは粒子が重く、粒子が独特の形をしているので、筆を動かした時に抵抗が生まれます。

また、他の色と組み合わせた時も、密度の違いによって他の色がウルトラマリンの下地に沈んでしまうことも。以下の写真を見ると、ウルトラマリンの上に描かれた金色の花をつなぐようにして金色の蔦が描かれているものの、目をこらさないとわからないレベルになっています。


一方で、MS. Elliott 287では金色が鮮やかに見えています。


これはウルトラマリンの上に金色を重ねたのではなく、金色で模様を描いたのちに、ウルトラマリンで仕上げをしたため。


また、以下の図柄ではウルトラマリンで塗られた中心部分よりも、槍のような形の周囲の装飾の方がやや暗い色に見えますが、これは粘度の調整が行われたためとのこと。


色の鮮やかさが原料の質に大きく左右され、顔料を作る際にも素手で作業をするのが難しく、灰色がかかった青色の粉末が完成してしまうことが多かったウルトラマリンですが、さらに使用に際しても扱いが非常に難しかったわけです。それにも関わらずウルトラマリンは今なお「天然のウルトラマリンを手に入れられるならば自分の耳を切ってもいい」と語る画家が存在するほど、芸術家たちに愛される色となっています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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