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巨大企業・富裕層がいかにタックスヘイブンなどで巨額の金を隠し持っているか暴露する「パナマ文書」が公表される

By Thibault Houspic Follow

ロシアのウラジミール・プーチン大統領に近い人物や、アイスランドの首相、サッカーのスタープレイヤーであるリオネル・メッシ選手など、世界の著名人がタックス・ヘイヴン(租税回避地)で資産を運用する実態を示す資料が明らかにされました。「パナマ文書(Panama Papers)」とも呼ばれるこの文書は1150万件・合計2.6テラバイトにも及ぶデータを集めたものとなっており、ほとんど明らかにされることがないオフショア取引の実態が明らかにされています。

Panama Papers The secrets of dirty money| Süddeutsche Zeitung
http://panamapapers.sueddeutsche.de/articles/56febff0a1bb8d3c3495adf4/


◆公表された「パナマ文書」
この資料は、パナマの法律事務所「Mossack Fonseca(モサック・フォンセカ)」の過去40年にわたる業務内容に関するもので、ICIJ(International Consortium of Investigative Journalists:国際調査報道ジャーナリスト連合)がドイツの新聞「Süddeutsche Zeitung (南ドイツ新聞)」を通じて入手したもの。ICIJ事務局を運営するジェラルド・ライル氏は、「リークされた内容の規模からすると、オフショア取引(国境をまたぐ金融取引)に関与する人々にこれまでで最大の一撃となるでしょう」と、その影響の大きさを語っています。

その規模は、南ドイツ新聞が示している内容でも明らか。以下の図はデータの規模を図示化しているものなのですが、赤色で示されている今回リークしたデータの規模は、2013年にリークされていた、それまでで過去最大のオフショア取引のリーク情報とは比較にならないほど巨大であることがわかります。


この件は世界中のメディアが一斉に報じていることからも、その重大さを感じることができます。BBCも今回のモサック・フォンセカのリーク文書によるエリート層のタックス・ヘイブンについて報じています。

Panama Papers: Mossack Fonseca leak reveals elite's tax havens - BBC News
http://www.bbc.com/news/world-35918844

世界のエリート層の資金運用 資料で実態明らかに - BBCニュース
http://www.bbc.com/japanese/35957243


BBCによると、この資料には、エジプトのムバラク元大統領の家族や側近、シリアのアサド大統領やリビアで2011年まで独裁体制を敷いていたカダフィ大佐に関係する非公表のオフショア法人などが記されているとのこと。さらに、10億ドル(約1100億円)規模のマネーロンダリング(資金洗浄)活動をロシアの銀行、バンク・ロシアが行っているとされる疑惑についても触れられており、これにはプーチン大統領に近い人物たちも関与しているとされています。バンク・ロシアがどのように運営されているか分かったのは今回が初めてで、同銀行は、ロシアによるクリミア併合を受けて実施された米国や欧州連合(EU)による経済制裁の対象となっているとのことです。

AFP通信でもこの件に関するニュースが配信されており、リークされた文書から浮上した著名人や企業について詳細に報じています。

各国首脳や著名人ら、租税回避地で巨額取引 ICIJ 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News
http://www.afpbb.com/articles/-/3082799


AFPが報じたところによると、この文書にはサッカースペイン1部リーグ、FCバルセロナのリオネル・メッシ選手や、中国で汚職撲滅に力を入れている習近平国家主席の親族に関係するオフショア企業、アイスランドのシグムンドゥル・グンロイグソン首相夫妻の他、ウクライナ大統領、サウジアラビア国王、パキスタン首相の名前もあったとのこと。また、この文書には21万4000団体の企業などが含まれていたことも明らかにされています。

■調査で名前が浮上した人物や企業

・ プーチン露大統領に近い複数の人物
ICIJは「銀行や企業を通じて20億ドル(約2200億円)もの資金を秘密裏に移動させた」としている。内部文書にプーチン氏本人の名前はなかった。

・ アイスランドのグンロイグソン首相夫妻
自国の金融危機のさなか、数百万ドル相当のアイスランドの金融債を持つオフショア企業を秘密裏に保有していたという。

・ 国際サッカー連盟(FIFA)のフアン・ペドロ・ダミアニ(Juan Pedro Damiani)氏
FIFAの倫理委員会の委員を務める同氏の法律事務所は、FIFAのスキャンダルで起訴された3人と取引実績があった。その3人は前FIFA副会長のエウヘニオ・フィゲレド(Eugenio Figueredo)被告、中南米でのサッカー試合放映権を得る目的で贈賄したとされるスポーツマーケティング会社元幹部のウーゴ・ヒンキス(Hugo Jinkis)被告とその息子のマリアノ・ヒンキス(Mariano Jinkis)被告。

・ リオネル・メッシ選手とその父親
アルゼンチンのサッカーのスター選手メッシ氏と父親のホルヘ・オラシオ・メッシ(Jorge Horacio Messi)氏はパナマにダミー会社、メガスター・エンタープライゼズ(Mega Star Enterprises)を所有していた。この会社はメッシ父子の脱税疑惑をめぐるスペイン当局の捜査では浮上していなかった。

・ 欧州サッカー連盟(UEFA)のミシェル・プラティニ(Michel Platini)会長
仏メディアのフランスTVアンフォ(Francetv info)によると、FIFAから6年間の活動停止処分を受けたプラティニ氏はパナマに拠点を置く税務企業から便益を受けていたが違法行為は確認されていない。

ただし、今回明らかになった取引のほとんどは合法的なものであるとも言明。とはいえ、名前が浮上した人物については政治的に大きな影響をもたらす可能性があるとICIJは指摘しています。また、BBCによると、モサック・フォンセカは40年間にわたり「非難されるいわれのない」営業を続けてきており、犯罪で訴追されたことも一度もないというコメントを出しているとのこと。

さらにICIJによると、文書に含まれている少なくとも33の個人・団体は、北朝鮮やイラン、レバノンのイスラム教シーア派原理主義組織「ヒズボラ」に関連した不法行為の疑いで、米国政府のブラックリストにも名があがっているとのこと。入手したデータは1975年から2015年末までのもので、ICIJはこれまで不明だった世界の租税回避地内部の実態を明らかにするものだと評しています。入手した文書の検証には70か国以上の370人を超える記者が参加しており、誰が文書をリークしたのかは今のところ明らかになっていません。

◆「タックス・ヘイブン」の存在とその意味
モナコやドバイ、ケイマン諸島のようなタックス・ヘイヴンと呼ばれる国や地域は、外国資本や外貨を獲得する為、意図的に法人税をゼロにしたり極めて低い税率設定したりして、企業や富裕層の資産を誘致しています。

この仕組みを利用し、大企業や富裕層、さらには富裕層には含まれない個人レベルに至るまでがタックス・ヘイブンに法人を設立することで、本来は自国に支払われるはずだった税金を逃れているという実態があります。タックス・ヘイブンから見れば、実際に国内に実態がない企業などに対する金融サービスであることから、別名「オフショア(岸の向こう)」とも呼ばれています。


その起源は、自国に産業を持たない小国が、他国からの産業を誘致するためなどに作られた制度だったわけですが、法人税率の低さ(あるいは無税)に目を付けた企業がこぞってタックス・ヘイブンに法人を設立し、利益を移動させることで莫大な額の法人税を「節約」しています。これら企業の中にはAppleやGoogle、Amazonといった誰でも聞いたことのある企業が含まれており、イギリスのスターバックスは15年間でたったの1回しか税金を払っていないという実態も存在しています。また、その匿名性の高さから、犯罪組織のマネー・ロンダリング(資金洗浄)の手段として用いられていることも指摘されています。

2011年に発覚したオリンパス事件の中でも、ケイマン諸島に設立されていたペーパーカンパニーの存在が話題になったこともありました。

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とはいえ、これらの取引は全て現地の法律に基づいた「合法」な行為であるため、最大の利益を追求するという企業の目的に照らし合わせると当然の行動と受け止めることもできます。しかし、そうすることで、本来はある国に収められるはずだった税金が消え去ってしまうために税収が下がるという負の側面が存在していることも一方では事実です。このようにして税収が下がると、その埋め合わせのために別のところから税を取りたてるということが当然おこるわけであり、日本の大企業・富裕層はタックスヘイブンで世界第2位の巨額な税逃れを行う一方で、庶民には消費税増税と社会保障削減が行われているとも指摘されています。

いわば、租税を回避する企業・人物のおかげで、回避できない人が割を食っているという構造のタックス・ヘイブンなわけですが、その存在は国際的にも問題視されるようになっています。経済協力開発機構(OECD) では、一定の条件に該当する非加盟国・地域をタックス・ヘイブンと認定し、有害税制リストに載せているほか、世界各国でも税制上の対抗策などが講じられるなどの対策が進められています。

2013年にはICIJが公式サイト上で、タックス・ヘイブンを使った法人や個人を特定できるデータベースを公開するという行動に出ており、タックス・ヘイブンへの圧力が高まりつつある状況となっています。

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今後も新たな情報が出てくると思われる今回のリーク劇に、今後も関心が集まることになりそうです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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