VR市場に殴り込みをかけるソニーの「PlayStation VR」開発秘話


Oculus RiftやHTCのViveといったVRヘッドセットの予約が開始され、2016年はVR元年とも言える年になっています。2016年上期に発売が予定されている「PlayStation VR」も、VRヘッドセットとして注目を集めているデバイスで、ゲーム関連メディアのPolygonが開発者たちにインタビューを実施し、その気になる開発経緯が明らかになっています。

The making of PlayStation VR | Polygon
http://www.polygon.com/2016/3/9/11174194/the-making-of-playstation-vr

◆Magic Lab
ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEA)には、進化し続けるテクノロジーをどうやってPlayStationに融合させることができるかを研究する「Magic Lab」という部署があります。Magic Labは人間の視線の動きを追跡・分析するアイトラッキングの技術をゲームプレイの操作に応用できるかなど、ありとあらゆる技術について研究を行っています。そのMagic Labの取締役を務めるのがRichard Marks氏です。Marks氏はMajic Labを「研究している全てのことが製品化するとは限らないことを理解してもらうために、Mgic Labと名付けたんです。我々が行っているのは、実験的なことなんですよ」と語っており、自分たちの役割はソニーに多数ある部署をつなげるための「のり」のようなものだと形容しました。

PS VRを手に持つMarks氏。


◆プロトタイプ
そのMagic Labで開発されているのが仮想現実ヘッドセットの「PlayStation VR」です。PS VRの開発経緯には、2010年に発売された片手用コントローラーの「PlayStation Move」が大きく関わっています。PlayStation Moveは、当時のゲーム業界で注目を集めていたモーションコントローラとカメラを使用するタイプのコントローラーですが、すでに任天堂のWiiリモコンが登場していたこともあり、新しいアイデアというわけではありませんでした。Wiiリモコンの後追いとユーザーたちから見られたPlayStation Moveは大きな話題になることなく、とても成功とは言えない製品でした。

しかし、PlayStation Moveの開発は無駄になったわけではありません。PlayStation Moveが存在したおかげで、エンジニアの1人であるJeff Stafford氏から「PlayStation Moveを頭に装着して、頭の動きでゲームを操作する」というアイデアが生まれました。そこからPS VRの開発が動き始めたというわけです。

Stafford氏は、「録画ができるプレステ」のPSXでHuluやメジャーリーグといった企業のコンテンツをストリーミングするためのソフトウェアの開発に携わっていました。しかし、ソフトウェア開発を数年間担当したものの、開発に大きな興味を抱けなくなっていったとのこと。この後、Stafford氏は拡張現実の研究を開始します。ソニーは、PlayStationに関係しそうなことなら勤務時間の10%をそれに当ててもよいという「10%プロジェクト」を進めており、Stafford氏はこれを活用したというわけです。

Stafford氏の研究に注目していたのがソニーの周辺機器部門を率いるCrusoe Mao氏。Mao氏はStafford氏にVRを研究してみることを提案し、Stafford氏は当時VRヘッドセットの構想に携わっていたImmersive Technology Groupというイギリスの研究チームと協力して、レンズと光学で何が可能になるかの研究を始めました。

Stafford氏は2012年1月に開催されたCESを訪れ、VR関連の製品を探し求めていたところ、ヘッドアップディスプレイのようなものを発見。しかし、近づいてみるとそれは頭をマッサージする製品でした。何らかの新しいアイデアを求めていたStafford氏は落胆しましたが、すぐに「このマッサージ器を使ってプロトタイプを作れるのではないか」と考え直し、Amazonで購入したそうです。その製品を使って複数のプロトタイプを開発するに至りました。

以下の画像に写っているのはPS VRの早期プロトタイプです。バンド部分にPlayStation Moveが搭載されているのがわかります。画像の右に写っているものは、左のプロトタイプよりかなりコンパクト。


プロトタイプの開発後、VRヘッドセットのコードネームは「Project Morpheus」と名付けられ、2014年のGDCで初めて試作機が発表されました。

◆改良
2012年にOculusが製品版リリースに関するプランを発表し、VRヘッドセットは世界中から注目を集めます。ソニー以外の他社もVRヘッドセットの開発に取り組み始めたころ、ソニーはアメリカと日本のオフィスの社員からジョイントチームを作成。ハードウェアの開発は主に日本のチームが担当したとのことです。ある日、PS VRの開発トップを務める伊藤雅康氏はPS VRのプロトタイプが着用しにくい点に気づき、プロトタイプのデザインの微調整を行いユーザーテストを繰り返し行いました。着用しやすくするためにゴム製のストラップを取り除き、デバイスとプレイヤーの間に隙間が空くようにデザインを変更。隙間があくことで、プレイヤーは着用していても地面を確認できるようになり、仮想空間を体験することに我慢できなくなったり、何かをつかまないといけなかったりする場合にも対処しやすくなっています。


ソフトウェアだけでなくハードウェアの開発にもトップチームを投入し、着用時の快適性と安全性を追求。首を疲れさせないためにディスプレイ部を軽量化したり、ユーザーの頭の形が同じでないことからヘッドフォンの搭載を取りやめたり、ユーザーがセンサーで感知できない場所に移動したときは周囲のモノにぶつからないように、ディスプレイにメッセージを表示したりなどなど、最高レベルの快適性と安全性をプレイヤーが体験できるように改良に次ぐ改良が加えられました。

また、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジア(SCEJA)の「ASOBIチーム」はPS VRのディスプレイだけでなくPlayStation 4を接続しているディスプレイにも同じ画面を出力できるように提案。この機能により、「Playroom VR」というマルチプレイできるゲームが可能になりました。このことから、PS VRの開発には、特定の研究・開発チームだけでなくソニーが誇るトップレベルのエンジニアやクリエイター、チームが複数参加しているということがよくわかります。


◆PS VRのゲーム
東京ゲームショウ2015」や「PlayStation LIVE Circuit 2015」では、ホラーゲームやアクションゲーム、VRライブ、RPGなど10タイトルの試遊プレイが行われました。SCEワールドワイド・スタジオの吉田修平氏がPolygonに語ったところによれば、ソニーに100人以上がタイトルの開発に携わっているようなVRゲーム開発チームはないものの、多くのリソースをかけるようなゲームは自然にでてくるとのこと。「コンテンツ側が投資を始めたときは、最初は規模が小さいのが普通です。PS VRに関して言えば、規模が小さいコンテンツでも大きなインパクトを与えられますし、むしろその方が望ましい。私は開発者に『大きなデザインを描き出してはいけない。まずは、素晴らしい体験を発見し、それをパッケージ化することに集中しなさい。そして何度も繰り返さないといけない』と言っています」と吉田氏は話しました。

PS VRがまだProject Morpheusだったころ、それほど多くのVRゲームは発表されませんでしたが、その後「鉄拳7」や「グランツーリスモ スポーツ」、「Until Dawn」といったビッグタイトルがVRに進出することが明らかになっており、新たにビッグタイトルが発表されることも大いに期待できます。なお、気になるゲームの価格に関して吉田氏は「PS4のソフトと同じくらいの値段になるでしょう」とPolygonに語っています。


PS VRの競合となるOculus RiftやHTCのViveは発売日がすでに発表されていますが、PS VRはまだ発売日が明らかになっておらず、価格に関してもさまざまな情報が飛び交っている状態。ただし、PS VRの公式サイトには「2016年上期に発売予定」と書かれており、近いうちに何らかの新しい発表がなされるはずです。

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in ハードウェア,  ゲーム, Posted by darkhorse_log