サイエンス

どんなドナーからでも移植手術が可能になる革新的な新技術が誕生

By Zdenko Zivkovic

移植手術を行うにはドナーから組織や臓器を提供してもらう必要があります。人間の体の免疫系が移植された臓器に対して拒絶反応を起こす場合もあるため、毎年何万人もの患者が自分の体と適応するドナーを求め、今か今かと臓器の提供を待ち続けているのが現状です。しかし、新しい研究が、特定の処置を施すことで「どんなドナーからでも移植手術が可能になる」という革新的な方法を発見しました。

New Procedure Allows Kidney Transplants From Any Donor - The New York Times
http://www.nytimes.com/2016/03/10/health/kidney-transplant-desensitization-immune-system.html


2016年3月にThe New England Journal of Medicineで公表された研究によると、医者が患者の免疫系を変更して「適合しないドナーの腎臓」を移植することに成功したそうです。また、移植後8年が経過してからも患者の様態は安定しており、「適合しないドナーの腎臓」を移植された患者は、ドナー提供の順番を普通に待っている患者や死亡したドナーから臓器を移植した患者よりも生存率が高いことも明らかになっています。

免疫系を変更して「適合しないドナーの腎臓」を移植する、という方法は「脱感作」として知られるもので、「多くの命を救う可能性を秘めている」と語るのはペンシルベニア大学ペレリマン医学部の腎臓専門医であり全米腎臓財団の会長を務めるジェフ・ベルン博士。

免疫系を変更して「適合しないドナーの腎臓」を移植することで、適合する臓器が提供されるまで延々と待ち続けなければならないという移植手術が抱える問題を解決でき、さらには「手術が行えないため透析を受け続ける」という必要もなくなります。実際、「適合しないドナーの腎臓」を移植したニューオリンズ在住の56歳の弁護士であるクリント・スミスさんは、「私の生活は一変しました」と移植でより素晴らしい生活が送れるようになったことを喜んでいます。

By Howard Lake

研究者によればアメリカでは5万人が腎臓移植の順番待ちをしており、20%はとても敏感な免疫系のせいで適応する臓器を見つけるのが困難な状況に陥っているとのこと。加えて、今回の研究に携わったジョンズ・ホプキンズ大学の移植手術外科医のドリー・シーゲフ博士は、「いつまで経っても順番がこないので移植待ちの腎不全患者の多くが諦めていった」と語っています。

適合しないドナーの腎臓を移植する脱感作というのは、まず最初に患者の血液中の抗体をフィルターし、その後、免疫系が抗体を再生成している間に他の抗体を注入します。そうすることで、理由はハッキリとはわかっていないそうですが、移植される臓器(適合しないドナーの臓器)に適応した抗体が再生成される模様。

しかし、もしも再生成された抗体が移植された臓器と適合しない場合、患者はあらゆる白血球を攻撃する薬を用いた治療を受ける必要がある、というリスクもあります。また、この薬物治療は約3万ドル(約340万円)と非常にコストが高く、現在のところはこういった目的で使用されることが認められていない、という問題もあります。なお、移植手術の費用は約10万ドル(約1100万円)です。

腎臓の専門家によると、年間7万ドル(約790万円)のコストがかかる透析よりも、移植手術の方が長期でみれば「はるかに安価で済む」とのこと。さらに、腎臓以外の臓器でも脱感作が「理論上は可能」とのことで、さまざまな移植手術での応用も期待されています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii