メモ

何が人生を幸福・健康・成功に導くのかを70年間追跡調査した「The Life Project」でわかったことまとめ

by Saulo Victor*

1946年3月、イギリスの研究機関が1週間のうちに生まれた子ども数千人の出生について記録し、その後、彼らの成長を追っていくことを決定しました。この研究結果が非常に有意義なものであったことから、研究者らは追跡調査を行うとともに、1958年、1970年、1990年初頭にも同様の調査を繰り返し、今では調査対象が5世代・7万人・70年分に拡大し、膨大なデータが記録されています。研究内容の多くは機密なのですが、5年前から研究に参加しているジャーナリストのHelen Pearson氏がその一部をThe Guardianで公開し、何が人の幸福・成功を作り出し、不平等はどのようにして生まれるのかをつづっています。

The Life Project: what makes some people happy, healthy and successful – and others not? | Books | The Guardian
http://www.theguardian.com/books/2016/feb/27/the-life-project-what-makes-some-people-happy-healthy-successful-and-others-not

インタビューなどの聞き取り調査からへその緒の採取まで、人の人生のあらゆる事項の追跡調査を行ったのが「The Life Project」と呼ばれる研究。The Life Projectを元にこれまで6000もの論文や書籍が発表されており、胎児の成長・慢性疾患・老化についての人々の理解を深くすると共に、妊娠・出産・教育など、さまざまな政策にも影響を与えてきました。そして一方で、The Life Projectは近代社会に不平等や肥満がどれほどはびこっているかなど、耳障りの悪い事実も明らかにしてきました。


研究の始まりは1946年3月で、1週間のうちに子どもを産んだ母親に対して研究者らが派遣されました。そして、「子どもに十分なミルクを与えられているか?」ということから、「自分が子どもの面倒を見ている間、誰が夫の世話を行っているのか?」や「子どものシーツや子供服はどれくらいの値段で、自分が着るコートや下着といった衣服はどのくらいの値段か?」といったことまで、とにかくあらゆる事柄について詳細な質問が行われました。

その結果、最も低い階級の母親から生まれた子どもは、高い階級の母親から生まれた子どもよりも70%も死亡率が高いことが判明。この結果に衝撃を受けた政府は、1948年に医療費の自己負担がほとんどないか無料になる国民保健サービス(NHS)をスタートさせ、妊娠や出産に関する事柄を全てに無料化します。他にも、The Life Projectの研究結果が出産・育児休暇や家族が受けるサービスの充実化に結びつくことにもなりました。

by Kevin Conor Keller

次にThe Life Projectが影響を与えたのは教育。1944年からイギリスの中等教育は試験の結果で生徒の頭のよさをランク付けし、「grammar school」「secondary technical school」「secondary modern school」の3つの学校に分けて教育を行っていました。試験の結果が重視されるため、名目上は出身や階級に左右されることなく優れた子どもが優れた学校に行けるようになっていたのです。

しかし、実際のところ、労働者階級の子どもは中流階級・上流階級の子どもよりも試験の成績が悪いということが研究によって明かになり、「賢い子どもの無駄使い」を生み出していると指摘されるようになります。そして1965年、労働党が成績のランクごとに学校を分けない、総合中等学校の拡大を打ち出します。現在でも「中等教育は成績別に分けた方がいいのか総合教育がいいのか」については議論の分かれているところですが、The Life Projectがイギリスの教育制度に影響を与えたことは確かです。

また、今から考えると驚くべきことですが、1970代、妊婦のうち40%が喫煙を行っていました。当時は喫煙が胎児に与える影響があまり考えられていなかったのです。1970年に行われた調査で、The Life Projectは新生児の母親に対する質問に「喫煙していたか否か」というものを追加。すると、母親の階級の差を考慮しても、喫煙者と非喫煙者で生まれてくる子どもの体重や死亡率に差があることが明らかになりました。1972年に調査結果が報告されると議論が巻き起こったものの、最終的に科学者や医者は「喫煙が胎児に影響を及ぼす」という意見に賛同し、公的機関が妊婦に行う助言の内容に変化がもたらされます。以後、妊娠中の喫煙が危険である、という見方は現在までゆるぎないものとなっています。

by jurek d.

さらに、何十年にもわたり何度も新生児の出生が観測された結果、世代ごとの変化も比較できるようになりました。時代を経るにつれて観測されている被験者の身体的特徴は、「体重の増加」。戦後の時代は食べ物が配給制だったため、被験者の多くは健康的な体型で、太りすぎな人はあまりいなかったそうです。しかし、1980年代、研究初期の被験者らが40代に突入する頃を境に肥満率は急上昇しだします。また、1980年代に行われた調査の最初の3回の被験者たちを比較したところ、生まれた年代は別々にも関わらず、太りすぎの兆候が見られたとのこと。被験者の年齢を問わずに訪れた「肥満の爆発」の原因を、研究者らはライフスタイルの変化だと見ています。1980年代、イギリスでは一般人の給与額が上がり、外食が増ええるとともに、自動車の普及で歩く機会が減ったためです。

この時に観測された体重の増加傾向は現在に至るまで続いており、今では子どもが3歳になる前に「太りすぎ」と診断される割合は23%にまで上昇しています。ただし、肥満や太りすぎはライフスタイルだけでなく、遺伝子なども関係してくるため、今後も肥満を解消するための研究は続けられていく模様です。

1990年代に入ると、大人の被験者に対して「配管工の電話番号は電話帳の何ページに載っているか?」「68ペンスのパンと45ペンスのスープを購入するときに2ポンドを出すと、お釣りはいくらか?」「縦12フィート、横14フィートの部屋の面積は?」といった質問を追加します。このことで明らかになったのは、成人の持つ読み書き能力と計算能力の欠如です。The Life Projectをもとに発表された研究によると、1990年代イギリスで11歳の子どもが持っているはずの能力よりも読み書きの能力が低い、とされた大人は5人に1人の割合でした。計算に関しては3人に1人が11歳の子どもの能力よりも低く、7~9歳の子どもよりも能力が低かった割合は4人に1人だったとのこと。

by Abhi Sharma

この事実を重く見たイギリス政府は2000年代初頭に成人を対象とした教育システムを開始。読み書きと計算において、イギリスの全国統一試験制度(GCSE)を受けるのに等しい能力を無料で身につけられるコースを開始しました。コースを通して、モチベーションが高くなったり自尊心を身につけることができた人も見られたそうです。

さらに、The Life Projectは社会に横たわる不平等の存在についても明らかにします。研究では両親の収入と子どもの収入の関係についても調べられたのですが、1958年に生まれた子どもより、1970年に生まれた子どもの方が、大人になった時の収入と親の収入の間のつながりが強かったとのこと。つまり、時代が進むと共に、子どもは自分のバックグランドから逃げ出しづらくなっているということが判明したのです。

もちろん、どの世代にも社会の不平等は存在します。いずれの世代の被験者も生まれた環境に障害があると、学校の成績が悪かったり、就職に失敗したり、健康に問題を抱えたり、という傾向がありました。唯一の救いは、生まれた環境がよくなかった子どもであっても、みんながみんなバックグラウンドから逃れられないのではなく、大人になって成功する人も存在したということです。

特に重要なのは子どもが生まれて最初の数年に親がいかに子どもに関心を示すか、ということで、不利な環境で生まれた子どもであっても親が子どものために尽くすことで子どもの生涯が変わってくることもわかっています。2006年に行われた研究では、不利な環境で生まれた子どもであっても、子どもが5歳の時に親が本を読んでやり、10歳の時に教育について考えている家庭では、子どもが30歳になった時に貧困である可能性が著しく低かったとのこと。

by eyeliam

今、The Life Projectに参加した最初の世代の被験者たちは、70代に突入しようとしています。彼らの健康状態についてももちろんチェックされており、最初の世代の85%は心疾患・高血圧症・コレステロールの上昇、糖尿病・肥満・精神面の問題・がん・呼吸器系の疾患などの症状のうち、少なくともいずれか1つに悩まされていることがわかっています。これは、例え質問に対して「自分は健康である」と語っている人でも同じで、平均すると1人あたり2つの疾患を持っているそうです。また、別の研究では50代に行った身体能力テストで物をしっかり持てなかったり、イスから立ち上がるのに苦労したり、目をつぶった状態で片足立ちできなかった人は、そうでなかった人に比べて後の13年間で死亡する割合が高い、ということも判明しています。

なお、環境汚染の影響から離婚率、疾病に関する遺伝子の研究まで、これまでさまざまな事実を明るみにしてきたThe Life Projectは記事作成時点で終わりを予定しておらず、今後もイギリスの人々の姿の映し鏡として機能するものと見られています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「80歳の時に健康であるかどうかは50代の時の人間関係で決まる」など幸福な人生を送るための重要な3つの教訓まとめ - GIGAZINE

人を幸せにするものは何か?ということがハーバード大学の75年間の研究で明らかに - GIGAZINE

総体的な幸福を得るために人が犯しやすい意外な9つの間違い - GIGAZINE

「何時間眠ると幸せになれるのか?」が数十万人のライフログを分析して判明 - GIGAZINE

「幸せを感じやすい脳」を作る方法 - GIGAZINE

お金で幸せは買えないが、時間で幸せは買える - GIGAZINE

科学的に証明されたハッピーな人間になるための13の方法 - GIGAZINE

幸せな人生をおくるためのガイド - GIGAZINE

稼げば稼ぐほどハッピーになれるのは年収650万円まで、それ以上だと幸福感は収入に比例しない - GIGAZINE

脳に良いのは「軽い運動」と「激しい運動」のどちらか? - GIGAZINE

「適度な運動」の「適度」がどのくらいなのか研究で判明 - GIGAZINE

軽い運動でも睡眠の質を劇的に改善することが判明 - GIGAZINE

たった6秒激しく運動すれば健康を維持できることが明らかに - GIGAZINE

運動時、私たちの脳に何が起きてどのように幸福感をもたらしているのか? - GIGAZINE

in メモ, Posted by logq_fa

You can read the machine translated English article here.