取材

「SL冬の湿原号」でタンチョウやエゾシカを見ながら真っ白な湿原を走破してきた


JR北海道が道東で走らせている冬の2大観光列車の1つが流氷を眺められる「流氷ノロッコ号」。そしてもう1つが、SLを用いて運行している「SL冬の湿原号」です。この流氷ノロッコ号とSL冬の湿原号を1日で乗り継ぎ可能な唯一のルートを見つけたので、ノロッコ号を満喫した後に乗りに行ってきました。

SL冬の湿原号2016年運転案内
http://www.jrkushiro.jp/sl2016/index.html

蒸気機関車(SL)はディーゼル機関車に比べると燃費や安全性の問題があったことから、1960年から始まった「動力近代化計画」でディーゼル機関車や電車へと置き換えが進み、1975年12月にSLを用いた列車運行が終了。1976年3月には構内での入換作業での使用も終了しました。


しかし、SL運行の終了に重なるように、1970年代前半に「SLブーム」が発生。この流れを汲む形でSLを用いた観光列車が運行されるようになり、こうしてJR北海道では「SL冬の湿原号」が運行されています。ところが、運行期間は毎年1月から2月にかけてと短期間で、しかも釧網本線・釧路駅~標茶駅の間を1日1往復だけ。乗ろうと思うと、このSL冬の湿原号のダイヤに合わせて他の予定を組む必要が出てきます。

今回の旅では、同じく道東を走る観光列車である「流氷ノロッコ号」にも乗ることを考えていたのですが、流氷ノロッコ号が走るのは同じ釧網本線ではあっても運転区間の重ならない網走~知床斜里間。

参考1:SL冬の湿原号と流氷ノロッコ号のダイヤ(主要駅のみ)

釧路  標茶  川湯温泉緑   知床斜里網走  
SL冬の湿原号1108→1237
SL冬の湿原号1529←1355
流氷ノロッコ2号855→1000
流氷ノロッコ1号1122←1025
流氷ノロッコ4号1154→1255
流氷ノロッコ3号1455←1357


この、知床斜里と標茶の間が空白地帯でうまい乗り継ぎがどうにも見つからず、SLを諦めようか……と思ったときに見つけたのが「ツインクルバス知床号」というバスです。乗り継ぎの試行錯誤については記事末尾にオマケとして掲載しています。

ツインクルバス - 冬のひがし北海道周遊紀行|GOTTON JR北海道
https://www.jrhokkaido.co.jp/travel/doutou_win2015/twinkle.html


このバスの「知床斜里・標茶ライン」は網走発の流氷ノロッコ1号が11時22分に知床斜里駅に到着したのを受けて、知床斜里駅前を11時30分に出発。標茶駅に13時30分ごろ到着し、13時55分発のSL冬の湿原号に乗り継げるダイヤになっています。


バスのチケットは「乗車3日前までにJR北海道の主な駅・ツインクルプラザ(旅行センター)で購入」という条件があり、ネットや電話での購入は不可能。今回はみどりの窓口で購入したのですが、単にチケットを買うのではなく、このような旅行申込書への記入が必要でした。


バウチャー券2枚、会員券1枚、案内券1枚がセットになっていました。これは、ツインクルバスが単なる路線バスではなくツアーバスのような扱いだから。しかし、この区間の需要は決して小さなものではなく、購入時点で残り座席は1ケタ台でした。


流氷ノロッコ1号での旅を終えて知床斜里駅を出ると、すでにバスが待ち構えていました。


バスはごくごく一般的な4列タイプの観光バス。足元のスペースも頭上の収納も広くはないので、スーツケースなどの大きな荷物は乗り込む前にトランクルームに積んでもらった方が無難です。


行程はおおよそこんな感じ。駅を出たら斜里川を越えてから南下、しばらくは釧網本線沿いに道道1115号を進み、札弦駅を過ぎると道道805号に入ってJRを渡って南西へわずかに方向を変え、国道391号に合流。あとは標茶までほぼ道なりです。


北海道らしくダイナミックな道が続きますが、場所によっては同じような風景が続いて眠くなるかも。


途中、川湯温泉ではバス停を経由しますが、乗降客はなく、すべてのお客さんがノロッコ号からSLへと乗り継ぐようでした。


これは川湯温泉を過ぎてから見えた「硫黄山」だと思われます。


いかにも温泉の近くらしく、水蒸気が上がっていました。


出発からおよそ2時間、標茶駅が見えてきました。


標茶駅南側にある「標茶バスターミナル」に到着。道路はアイスバーンのようにつるっつる。


三角屋根風の標茶駅。


駅の内側にはこれまでの「SL冬の湿原号」のパネルがたくさん飾られていました。


これが運賃表。知床斜里~標茶間は1840円。バスは3000円だったので、鉄道ならもうちょっと安く来られたというわけです。ただ、ちょうどいい列車がありません。


すでにSLは1時間ほど前に釧路から標茶に到着していて、この時間は機関車を切り離して、釧路側に付け替えるための準備をしていました。


「SL冬の湿原号」標茶駅に停車中のC11 171 - YouTube


客車は1時間ほどホームに停車している状態。


やがて、機関車が後進を開始。ちょうど、改札も始まりそうだったので駅へ戻ります。


駅に入ると、客車の釧路側に係員さんが2人。


そして、列車を牽引するC11 171が近づいてきました。頭のほうから連結しようとしていますが、釧路行きはこの通り、バック運転で客車を牽引していきます。


「SL冬の湿原号」標茶駅で逆向きに連結されるC11 171 - YouTube


連結作業は手際よく、あっという間に完了。


跨線橋から見る、斜め上方からの姿も乙なもの。


ちょっと煙たいです。



客車には「SL冬の湿原号 2016」のサボ


指定席エンブレム


これらのアイテムは車内の販売カウンターで購入が可能。


この窓には絵が描かれていました。


内側に回るとこんな感じ。


座席はちょっと大きめのテーブルを挟んだボックス席。クッションもあってリッチな雰囲気。


この客車にも「流氷ノロッコ号」と同様のダルマストーブがついています。


観光ガイドをすることもあって、車両の隅にはBOSEのスピーカーを装備。


車内販売アイテムはこんな感じ。サボ・指定席エンブレムはそれぞれ3000円。


カフェメニューも充実。ただし、標茶からの列車は復路なので、すでに売り切れの品が出ていることも……。


標茶町生まれのミルクックさんに見送られて、出発。


列車は西側(釧路行きは進行方向右側)に釧路湿原を見ながら走ります。注意深く観察していると、そこそこの頻度でシカを見つけることができます。


ちょっと開けたスペースがあるのは茅沼駅。ここは、普段は畑です。「タンチョウツルは国の天然記念物です 遠くから暖かく見守ってください」(原文ママ)という看板がありますが……


この駅はタンチョウ(丹頂鶴)を見られる確率が非常に高い駅。このときも前方から「ツルだ」の声があり、できるところまでカメラを振ってみると端にツルの姿が。


「タンチョウも私もSLの煙は大嫌い」という看板は、地元の声でしょうか。ともかく、3羽のタンチョウがSLの煙にも負けずに歩いている姿が見られました。


運が良ければ、飛び立つところも見られるそうです。


タンチョウとSLの組み合わせを撮影しようと、多くの人が集まっていました。


列車は一路南へ。雄大な風景が続きます。


標茶から45分かけて、塘路(とうろ)駅に到着。


釧網本線は全線単線。釧路方面から来た列車と行き違いをするため、SL冬の湿原号はこの駅で9分停車します。ということは、SL撮影のチャンス。


客車側に連結されていて見えない蒸気機関車の正面はこんな感じ。立派なヘッドマークが取り付けられています。


運行に用いられているC11 171は1940年に製造された機関車で、北海道各地で活躍。1975年に釧路機関区に所属し、標津線で使用されたのを最後に引退。1975年11月から標茶町に無償貸与され、町内の桜町児童公園で静態保存されていました。


しかし、地元からの要望もあって、1998年から復元工事を開始。NHK連続テレビ小説「すずらん」放映を機に、1999年5月、深川~留萌間を走る「SLすずらん号」として復活。2000年1月からSL冬の湿原号の運行を担当しています。


機関車の正面(バック運転なので「背面」)間近に回り込める機会は多くないためか、多くの人がカメラやスマートフォンを持って集まりました。


その中に混じって撮影。


この雄姿。すらっとして最高です。


同じように、いい写真を撮るべく集まった人たち。


駅舎はわりと新しめです。


塘路駅を出て、釧路川沿いにさらに南下。


写真ではかなりわかりづらいのですが、この区間でもちらっとシカを見かけました。


時折、景色が煙にまかれるのが蒸気機関車らしさ。


遠くに高く見えている一対の塔のような建造物は岩保木水門の新水門。


かなり川幅の広くなった釧路川を越えて……


約1時間30分の旅は終わり。釧路駅に到着です。


釧路駅のステーションギャラリーには、SLやノロッコ号の写真と、沿線にいるエゾジカ・タンチョウ・キタキツネのパネルが飾られていました。そういえば、キタキツネは見ることができませんでした。


釧路駅からは、スーパーおおぞらに乗れば4時間弱で札幌まで移動可能。また、バスでたんちょう釧路空港まで移動すれば、羽田行きが1日に6便飛んでいます。


「SL冬の湿原号」の2016年の運行は2月28日(日)まで。こちらは「流氷ノロッコ号」と異なり来年以降も問題なく運転されるはずなので、気になる人はぜひ乗りに行ってみて下さい。

・オマケ:「SL冬の湿原号」と「流氷ノロッコ号」との乗り継ぎ計画
「1回の旅で両方乗る」という欲張り計画も、例えば、SL冬の湿原号に往復乗車して、降りたあと釧路からバスで川湯温泉や知床のウトロ温泉に移動して宿泊し、流氷ノロッコ号には翌日乗車……というコースなら容易に実現可能でしたが、今回は日程の都合などがあり、どうしても「1日で両方乗る」という計画が必要でした。

軸になるのは「11時8分釧路発→12時37分標茶着」「13時55分標茶発→15時29分釧路着」という1往復しかないSL冬の湿原号。しかし、SLに先に乗車したとすると、SLが12時37分に標茶へ到着する前に、流氷ノロッコ4号が知床斜里を出発してしまいます。また、折り返しの流氷ノロッコ3号は網走を13時57分に出発しますが、標茶から網走までは国道243号経由で112km。車で約2時間かかるため、乗り継ぎは不可能です。

参考2:SL冬の湿原号からの乗り継ぎ関連ダイヤ(流氷ノロッコ3号のみ運行方向が逆)

釧路  標茶  川湯温泉緑   知床斜里網走  
SL冬の湿原号1108→1237
流氷ノロッコ4号1154→1255
4730D1226→1322→1403
流氷ノロッコ3号1455←1357
4740D1605→1657→1738→1800→1831→1921


となると「13時55分までに標茶に到着してSL冬の湿原号に乗車する」を目指すことになります。まず目につくのは流氷ノロッコ1号、これなら知床斜里に11時22分に到着するので2時間ほどの猶予があります。ところが、知床斜里から先へ向かう4729Dは「緑」行きで、標茶に到達することはできません。到達するためには12時40分標茶着の快速「しれとこ」に乗る必要があり、流氷ノロッコ2号ならギリギリ乗り継げそうですが、網走駅での乗り換え時間はわずか1分。網走まで乗らずに北浜駅で乗り換えるという手もありますが、せっかくの観光列車を途中下車とは味気ない話です。

参考3:SL冬の湿原号への乗り継ぎ関連ダイヤ(流氷ノロッコ2号のみ運行方向が逆)

網走  北浜  知床斜里緑   川湯温泉標茶  釧路  
4725D641→657→727→802→817→905→1007
流氷ノロッコ2号1000←945←855
しれとこ1001→1015→1041→1128→1143→1240→1329
流氷ノロッコ1号1025→1048→1122
4729D1126→1159
SL冬の湿原号1355→1529
4733D1424→15061558


それでも何か手はないか、と見つけ出したのが今回の旅で利用したバスでした。「泣く泣く北浜駅で乗換をするしかない」から「流氷ノロッコ号で知床斜里~網走間を往復できる」への変更はかなり大きかったのは上述の記載の通りです。

「4729Dをそのまま標茶まで走らせてくれればいいのに」という思いはありますが、緑から標茶までは川湯温泉を通って1時間かかる山越え。それなら、12時7分に緑で折り返して13時24分に網走に到着するという現在の運用の方が、まだ地元のニーズに合っていそう。残念ながら「流氷ノロッコ号」は現行方式での運行は2016年分で終了することが決定しましたが、気動車を用いての運行が検討されているとのことなので、その際にはぜひ、SL冬の湿原号と合わせた鉄道旅ができるような何かがあれば……。

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in 取材,   乗り物,   動画, Posted by logc_nt

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