ハードウェア

Wi-Fiの消費電力を1万分の1まで減らす新技術「Passive Wi-Fi」でバッテリー長持ち・モノのインターネットが近づくかも


従来は「消費電力が大きい」とされてきたWi-Fiの弱点を解消する新しい技術が開発されました。ワシントン大学の研究チームが開発した「Passive Wi-Fi」は、通信速度に影響を与えることなく必要な電力を最大で従来の1万分の1程度にまで激減させることが可能で、スマートフォンなどのバッテリー消費を削減可能なほか、モノのインターネット(モノがネットにつながる社会)の普及にもつながりそうな技術となっています。

Passive Wi-Fi
http://passivewifi.cs.washington.edu/

Researchers create super-efficient Wi-Fi | Ars Technica
http://arstechnica.com/information-technology/2016/02/researchers-create-super-low-power-wi-fi/

Passive Wi-Fiの仕組みを理解するためには、ここで使われている通信技術に先に触れておいたほうが良さそう。Passive Wi-Fiは一般的なWi-Fiとは少し異なり、飛び交っているWi-Fiの電波を「反射」させることで通信を行うという技術です。周囲(ambient)の電波を反射(backscatter:後方散乱)することでデータを表現するという意味の「アンビエント・バックスキャッター」と呼ばれる技術を使っているわけなのですが、その詳細は以下の記事を読んでおけば理解できるかも。

バッテリーなしで無線通信できるIoTに最適な技術「WiFi Backscatter」とは? - GIGAZINE


アンビエント・バックスキャッターは、戦闘機などに使われるステルス技術を活用し、Wi-Fiルーターなどから発された電波を反射またはスルーさせることで「0」と「1」の状態を作りだしてデータ通信を可能にするというもの。自らは電波を発しないため電力は必要とせず、「0」と「1」のスイッチングに必要な電力は、飛び交っている電波をエネルギーに変換することで賄うことが可能になっています。


この仕組みを発展させたのが、Passive Wi-Fiというわけです。その仕組みや動作の様子などは、以下のムービーから確認が可能。

Passive Wi-Fi - YouTube


手前に見えるアンテナ付きのデバイスがPassive Wi-Fiの装置。その向こうには、スマートフォンを持った研究チームのスタッフが座っています。


スマートフォンの画面には、Passive Wi-Fiのデバイス名「Passive_Wi-Fi_1」が表示されており、正常なWi-Fi端末として動作していることが確認できます。


なぜWi-Fiは電力を多く消費するのかについて解説。一般的なWi-Fiデバイスは、デジタル信号を処理する「ベースバンド」と、信号をアナログに変換して電波を発する「RF(高周波信号発信器)」を搭載しています。


これらのうち、ムーアの法則に沿って進歩したベースバンドの部分は省電力化が進み、マイクロワットレベルの低電力性を実現しています。一方、すでに枯れた技術ともいえるアナログの部分は低電力化が難しく、100ミリワット程度の電力を消費せざるを得ないとのこと。これは、スマートフォンなどの携帯端末にとっては非常に頭の痛い部分であると同時に、バッテリーの搭載が難しいケースが多い「モノのインターネット」の中でWi-Fiを活用することが難しい理由の一つともなっています。


そこで、研究チームが考案したアイデアが、RFの部分は電源を供給してもらえるデバイスに担当させ、実際にWi-Fiを使うパッシブ型デバイス(Passive Device:受動端末)には信号を処理するベースバンドだけを搭載しておくことで、電力消費を削減しようというもの。ここで、上記のアンビエント・バックスキャッターの技術が活きてきます。


Passive Wi-Fiの動作は以下のような仕組み。コンセントからの電力を受け、好きなだけ電波を発することができる発信器からベースとなる電波を発信します。この電波は、ベースバンドを搭載したパッシブ型デバイスにも到達。


パッシブ型デバイスは、この電波の反射をオン・オフすることでデジタル信号(パケットデータ)を作りだし、通信したい相手(Wi-Fi Receiver)へとデータを届けるという仕組みです。この、自らは電波を発さずに他からの電波を活用するという仕組みから、「Passive Wi-Fi(受動型Wi-Fi)」と名付けられているというわけです。


研究チームは、この仕組みを使い、1Mbpsから11Mbpsでの通信に成功しています。つまり、無線LAN規格「IEEE 802.11b」に準じた通信がすでに可能になっていることを意味するということ。また、必要な電力は15~60マイクロワット。これは一般的なWi-Fiの1万分の一程度であり、省電力性が特徴のBLE(低電力Bluetooth)やZigBeeに比べても1000分の1程度のレベルとなっています。


Passive Wi-Fiは複数のデバイスでも利用が可能。画面の右側には電波の発信器が置かれ、机の上には2台のPassive Wi-Fiのデバイスが置かれています。これらのデバイスにはそれぞれ別のSSIDが割り当てられています。


スマートフォンの画面には、「Passive_Wi-Fi_0」と「Passive_Wi-Fi_1」の2台のデバイス名が表示されており、ともに正常に動作していることが確認できています。


この技術を使えば、スマートフォンの省電力化や、モノのインターネットにWi-Fiを取り入れることが現実的になります。特に、Wi-Fi技術を利用することで、Wi-Fiに備わっているセキュリティ技術をそのまま利用できるというメリットもあるとのこと。


コーヒーマシンやペーパータオルのホルダーなどにセンサーとPassive Wi-Fiのデバイスを組み込んでおくことで、スマートフォンに「買い物リスト」を自動で表示できるようなユビキタス社会の実現がさらに近づくかも。従来とは異なったレベルのWi-Fiの活用が可能になりそうです。

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