アメリカによる対イラン用の電子戦計画「ニトロ・ゼウス(NITRO ZEUS)」の存在が明らかに

by Christiaan Colen

2010年にイランにある核燃料施設を目標としたサイバー攻撃で用いられたワーム「スタックスネット」が、防空網・通信システム・送電網・その他の重要施設を目標とした「ニトロ・ゼウス(NITRO ZEUS)」と呼ばれる対イラン電子戦計画の一部であったことが明らかになりました。その後、スタックスネットはイラン国外でも感染例が見つかっていますが、これは計画が露わになってしまう恐れのあった「想定外の事態で、この件で共同戦線を張っていたアメリカとイスラエルとの間で歩調が乱れたためということも判明しました。

Exclusive: Israel’s rash behavior blew operation to sabotage Iran’s computers, US officials say - Middle East - Jerusalem Post
http://www.jpost.com/Middle-East/Iran/Israels-rash-behavior-blew-operation-to-sabotage-Irans-computers-US-officials-say-444970


U.S. Had Cyberattack Plan if Iran Nuclear Dispute Led to Conflict - The New York Times
http://www.nytimes.com/2016/02/17/world/middleeast/us-had-cyberattack-planned-if-iran-nuclear-negotiations-failed.html

U.S. Hacked Into Iran's Critical Civilian Infrastructure For Massive Cyberattack, New Film Claims - BuzzFeed News
http://www.buzzfeed.com/jamesball/us-hacked-into-irans-critical-civilian-infrastructure-for-ma

Massive US-planned cyberattack against Iran went well beyond Stuxnet | Ars Technica
http://arstechnica.com/tech-policy/2016/02/massive-us-planned-cyberattack-against-iran-went-well-beyond-stuxnet/

とんでもない事実を明らかにしたのは、ベルリン国際映画祭2016に出品されたアレックス・ギブニー監督によるドキュメンタリー映画「ゼロデイ(Zero Days)」。本編に登場する軍や情報当局の人間に対して行われたインタビューで、数々の新事実が明らかになりました。

極悪ワーム「スタックスネット」がアメリカの国家安全保障局(NSA)とイスラエルの諜報機関・ユニット8200によって共同で作られたものであるということは、2012年にニューヨーク・タイムスが報じました。翌2013年には、ドイツのニュース週刊誌・シュピーゲルの取材を受けた元NSA職員のエドワード・スノーデン氏も、この事実を認めています

オペレーション「ニトロ・ゼウス」は行政・発電所・送電網など、イランの重要なインフラの活動を妨害するための大規模サイバー攻撃計画で、その構成要素の1つが「スタックスネット」でした。この名前は研究者が名付けたもので、当事者の間ではこのワームを使った攻撃をオペレーション・オリンピック大会(Olympic Games)と呼んでいたそうです。

計画は2006年、ジョージ・W・ブッシュ大統領がイランの核開発計画を妨害しようと考えたことから始まりました。1999年から2005年にNSA長官、2006年から2009年にCIA長官を務めたマイケル・ヘイデン氏によれば、「爆撃するか、されるか」という二択を残したくなかったブッシュ大統領のために、イランにある核施設、特に施設内にあるコンピューターを何とかして妨害できないかと考えた結果だとのこと。

攻撃にあたって、イランのナタンズにあったウラン濃縮用遠心分離機の精巧なレプリカが、テネシー州オークリッジの国立研究所とイスラエルのディモナに作られ、スタックスネットを用いてそのローター(回転子)を破壊するテストが行われました。テストは成功し、破壊されたローターを見たブッシュ大統領がオペレーションを承認、ついにサイバー攻撃が行われました。

サイバー攻撃はオバマ政権下でさらに攻撃性を増していきますが、オバマ大統領は自分たちがイランに対して行っているようなサイバー攻撃を、中国やロシアから受けるのではないかと懸念したとのこと。しかし、最大の懸念は、イスラエルがネタニヤフ首相バラク国防大臣を中心としてイランへ軍事行動を起こし、アメリカが戦争状態に引きずり込まれてしまうのではないかということだったそうです。

イスラエルでは、成果を求めるネタニヤフ首相の圧力を受けて、ユニット8200の技術支援のもと諜報機関・モサドがスタックスネットをもっと攻撃的な仕様に変更しました。そして、イランと仕事上の付き合いがあった、台湾の2つのメーカーの製品にこの改良型のスタックスネットを混入。この結果、2010年9月にナタンズで、ウラン濃縮用遠心分離機約8400台が稼働不能に陥る事態が発生することになります。

しかし、仕様を変えたため、スタックスネットの感染はイランの国外にも広がってしまい、ナタンズでの件が起きる直前の2010年6月、ベラルーシのアンチウイルスソフトメーカー・VirusBlokAdaに発見されるに至ります。もし、イスラエルのこの暴走ともいえるような行動がなかった場合、スタックスネットはイランでのみ猛威を振るうワームとして活動を続け、未だに検出されていなかったかもしれません。

なお、スタックスネットによるサイバー攻撃を受けたイランは、報復として自国製の攻撃ツールを改良、サウジアラビアの石油会社・アラムコとアメリカの銀行が所有する3万台のコンピューターに対して攻撃を行いました。

かつて、サイバー攻撃というと、腕に覚えのあるハッカー(クラッカー)個人が自分自身の楽しみや政治目的のために行うか、犯罪者が詐欺・窃盗目的で行うか、企業が産業スパイ目的で行うものだ、というものでしたが、アメリカ・イスラエルとイランは国同士でサイバー攻撃をし合っており、すでに世界初の国と国との「サイバー戦争」は開戦しているのかもしれません。

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