なぜ中国人富裕層は海外に子どもを送り出し土地を買いあさるのか?


めざましい経済発展を遂げた中国には、日本人の想像を絶するレベルの金持ちである「スーパーリッチ」が登場しています。しかし、その中国人スーパーリッチの多くは、自身の子どもたちを海外に留学させています。中国の富豪が子どもをこぞって海外に送り出す背景には、急すぎる経済成長とその裏にある中国社会の歪みの存在があるようです。

China’s Rich Kids Head West - The New Yorker
http://www.newyorker.com/magazine/2016/02/22/chinas-rich-kids-head-west

The New Yorkerで編集を務めるジャン・ファンさんは、カナダのバンクーバー近辺に留学する中国人を取材しました。ファンさんが取材した中国人はいわゆる「スーパーリッチ」と呼ばれる富裕層の子どもたちで、本国の中国に両親や親族を残して海外に留学する10代、20代の青少年たち。ほとんどの取材対象者が浮き世離れした生活を送っていたとのこと。

ある日曜日の朝、ファンさんを車で迎えに現れたのはウェイミという二十歳の女性。2時間前まで夜遊びしていたというウェイミは、白のマセラティ・グラントゥーリズモで現れたそうです。

By Ángel Álvarez

ウェイミは日常生活でかかるコストを高級品で表現することが多く、会話では「お手伝いさんの給料はロジェ・ヴィヴィエのハイヒールくらいね」とか「夜遊びではだいたいバーキンのバッグの半分くらいのお金を使うわ」といった具合。ウェイミが通っていたバンクーバーファッション研究所の同窓生が働くブティックに連れて行ってもらったファンさんは、その同級生に「中国人の友達は、私たちのお店をスーパーマーケットのように扱うの。3000カナダドル(約25万円)の洋服はまるでミルクカートンのようなものなの」と答えたそうです。

ウェイミは14歳で台湾からバンクーバーに移り住んだとのこと。両親は台湾で半導体事業を起こした中国本土出身の成功者で、「英語に強くなりたかった」と常々話す父の考えにより、ウェイミはアメリカ、オーストラリアなどのインターナショナルスクールを経てカナダにやってきたそうです。

めざましい経済成長を遂げた中国では、その大きな波にのって成功した人は巨万の富を得ています。しかし、共産主義経済から市場経済へと急速に移行した中国では、経済成長の波にのった成功者を生むと同時に依然として苦しい生活から抜け出せない多くの貧困層をも生みだし、一説には中国国内の富の3分の1はわずか1%の富裕層が所有しているとも言われています。資産が100万ドル(約1億1000万円)以上のミリオネアの数は、すでに中国がアメリカを抜いて世界一位になっています。

経済的に恵まれない貧困社会から一代で富を築いた「第一世代」は、貧しさを知らない豊かな「第二世代」の子どもたちを生み出しました。この豊かな第二世代の子どもたちは、生まれながらに裕福だった上に一人っ子政策の影響もあって一族の期待と愛を一身に受けて育ったため、中国の伝統的な価値観である倹約の精神を備えていない悪名高い世代の子どもとして「Fuerdai(富二代)」と呼ばれています。

カナダにいる多くの富二代のお気に入りは、「Noble Bride: Regretless Love」などに代表される富二代のきらびやかな生活を描いた中国ドラマです。中国語と英語両方の字幕が用意されたドラマを見た富二代たちは、ドラマの世界を地でいくかのように高級品を買いあさり、高級外車を乗り回し、夜な夜な高価なシャンパンを浴びまくるそうです。


時代とともに富は世界中を移動し、いわゆる「成金」を生み出してきたのは歴史が証明する事実で、成金に対する蔑視に近い冷ややかな目はつきものです。しかし、カナダにいる成金の子どもたちは、かつての成金たちとは少し様子が異なるとファンさんは考えています。

中国経済の急激な発展は、かつてないほどの速度で貧乏人を億万長者に変えました。このため、新しく生まれた富をどのように扱えば良いのかを知る人は中国社会にはいないため、"成金としての浪費"にお手本となるモデルが存在しないから、度を超えた金の使い方があるというわけです。

2015年には100万円を超える価格の「Apple Watch Edition」を2本、自分の飼い犬に与えたとSNSに投稿した富二代も現れました。


ノースウェスタン大学で政治学を教えるジェフリー・ウィンターズ教授は、「中国は共産革命後にかつてないスピードで富裕層を生み出しました。どんな文化にも、古くからの富裕層に伝わる知恵があります。それは、目立つことなく暮らすことが安全であるということです」と述べ、古くから伝わる富裕層の暮らしぶりが当てはまらないほど急激に富を拡大させた特異な例としてロシアと中国の二国を挙げています。

中国銀行による最近の研究によると、中国国内にいる資産1000万元(約1億8000万円)以上という控えめな基準に該当するリッチ層の60%が海外移住を望んだり検討したりしているとのこと。そして、1年間に4500億ドル(約51兆円)の資金が海外に送金されていると推測されており、その流出資金の多くが海外の不動産に流れ込んでいるそうです。

中国では土地の所有権は認められていません。建物を所有しようと思ったら土地所有権を持つ中国政府に土地を借り賃貸借契約を締結するのみ。中国政府の思惑によっては強行な立ち退きの憂き目に遭いかねないことを憂慮して、土地所有権を渇望する中国人富裕層は海外の不動産投資にのめり込むことが多いとのこと。そして、その不動産投資先は土地そのものの資産価値だけでなく、安全が保証されており子どもを移住させられる教育水準の高い国が望まれています。


ファンさんがカナダの富二代に取材する過程で知り合った、ポール・オエイさんは中国の富裕層について「彼らはためらうことなくカナダの不動産を買います。カナダはニューヨーク、ロサンゼルス、香港、日本に比べると地価が安く、また、資産を安全に保管できるからです」と述べ、中国人富裕層にとってカナダが魅力的である理由を述べています。

中国人富裕層が不動産を買いあさった結果、過去6年間でバンクーバーの戸建て住宅の価値は平均190万カナダドル(約1億6000万円)と75%も急騰しているとのこと。しかし、中国に住む不動産所有者はカナダの地域コミュニティへ参加することはなく、良好な住環境を作り上げてきた地域コミュニティとの間でトラブルになる例が増えてきています。このため、所有者が不在の不動産や投資対象の不動産に高額な課税をするべきというバンクーバー市長の訴えの一方で、地域住民の中には不動産価格高騰によって所有する資産価値上昇の恩恵を受けていることから、資産価値を大きく損ないかねない法律の制定には反対の意見もあるそうです。

バンクーバーの街は、良くも悪くも中国人のニューリッチによる影響を大きく受けていますが、そのニューリッチの子どもたちである富二代も安泰というわけではないとのこと。マセラティを乗り回すウェイミは「私を育てるために一生懸命働いている父だけど、作り上げた会社を潰したくはないの。父は私に『もしも会社の経営を引き継ぐ能力がないと分かったら、他の誰かに経営を譲るつもりだ』と言ったわ」とファンさんに話したとのこと。子どもたちをかわいく思う中国人富裕層ですが、築き上げてきた会社を子どもと同じくらい愛しており、我が子といえども会社を引き継げる保証はないそうです。

バンクーバーなどの海外に子どもを送り出す中国本土の富裕層は子どもたちの能力を見極めるために、起業するための資金を与えるとのこと。この"試験"で自身の経営能力を示した富二代のみが、両親が生み出した巨万の富を引き継げるというわけです。

なお、オエイさんは、ウェイミのような富二代の両親は、「中国の経済ピラミッドの頂点にいる1%ではない」と言います。オエイさんに言わせれば、富二代の親たちはあくまで上位1%と2%の間にいる人たちとのこと。「1%のトップ層は、中国共産党との太いパイプを持ち、政治的、経済的な安定を手にする人たちであり、そもそも子どもを海外に送り出したり資産を海外に持ち出したりする必要はないだろう」とオエイさんは話したそうです。

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