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「ムーアの法則」の終焉は何を意味するのか?


IntelによるCPU製造プロセス(プロセスルール)の10nm移行に大幅な遅れが生じているというニュースに代表されるように、長らく半導体業界を支配してきた「ムーアの法則」が維持できなくなる日が刻一刻と近づいています。ムーアの法則が崩れたときに、次に来るべき新機軸とは何かについて、Nature Newsがまとめています。

The chips are down for Moore’s law : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/the-chips-are-down-for-moore-s-law-1.19338

「ムーアの法則」は、「半導体集積回路のトランジスタ数は2年ごとに2倍になる」というもので、Intel創業者の一人であるゴードン・ムーア氏がFairchild Semiconductorに在籍していた1965年に出した論文の中で初めて提唱されました。ムーアの法則自体は半導体業界の技術を観測したムーア氏が経験則に基づく予測として提唱したものですが、その後、半導体の技術革新はほぼムーアの法則通りに進化したことから、半導体産業では「法則」と呼ぶにふさわしい絶対的な指標として取り扱われてきました。なお、トランジスタ数は「性能」に置き換えられ、ムーアの法則は「コンピューターの性能は18カ月で2倍になる」と表現されることもあります。


ムーアの法則に従って小さくなってきた集積回路は、スマートフォン全盛の2016年では回路幅が14nmに到達。スマートフォンなどのモバイル端末の高性能化だけでなく、IoTの実現を念頭に、プロセスルールは今後、10nm、7nmとさらに微細化することが求められています。


1960年代から50年以上にわたって半導体産業で通用してきたムーアの法則は、偶然の産物というわけではありませんでした。半導体業界は、技術を進化させる指標としてムーアの法則を捉えており、数年間のうちに実現させる技術計画であるロードマップを作成するにあたって、ほとんどの開発者がムーアの法則を基準にしてきたという歴史があります。つまり、ムーアの法則を堅持するべく技術を開発し、法則が崩れそうになるとブレイクスルーとなる技術を生み出すことで、何とかムーアの法則を維持し続けてきたという事実があり、業界関係者一同でムーアの法則を維持するという目標があったので、ムーアの法則は単なる結果論ではないというわけです。


ムーアの法則を守り続けてきた半導体業界ですが、すでに微細化の技術は行き詰まりをみせています。微細化が進むにつれて消費電力の低減が難しくなり、消費電力制約の観点から電力を供給できない「ダークシリコン」と呼ばれる領域の割合が増えるという問題もあり、この点でも微細化を押し進めることの難しさが高まっており、ムーアの法則を堅持することが難しくなっています。

仮にムーアの法則通りに事が運べば、2030年にはプロセスルールは2nmに突入する予定ですが、これは原子10個分というスケールで、量子的な影響がこれまでにも増して大きくなるため、電子の安定した挙動は期待できないと考えられています。つまり、もはや微細化すればするほど性能が向上するという単純な世界を描けない領域に到達する時が目前に迫っているのです。


しかし、重要なことは「ムーアの法則が終わることが技術の進化の終わりではない」ということ。アイオワ大学のダニエル・リード教授は、「半導体業界の進化のたどろうとしている道は、飛行機でたとえれば分かりやすいと言えます。ボーイング787は1950年代のボーイング707に比べてスピードで勝っているわけではありません。しかし、性能は確実に進化しておりまったく別物の飛行機と言えるはずです」と述べています。つまり、飛行機の性能を単なるスピード競争で語るべきではないように、半導体の性能は集積回路の密度だけで語るべきではないというわけです。

コンピューティングの中心が、デスクトップPCやノートPCからスマートフォンやタブレットを中心とするモバイル端末に急速に移行し、さらに、クラウドサービスが一気に普及するという傾向から、ムーアの法則の次にくる指標は演算能力以上に省電力性能が重要視されたり、CPU、メモリ、GPU、無線チップなど複数の異なるチップを一つにまとめるパッケージングの技術も、半導体の性能を測る指標になり得そうです。


また、ムーアの法則が維持できなくなった原因の一つとして挙げられている技術進歩に従って増大する製造コストの問題も引き続き、重要な要素であることは間違いなさそうです。

さらに、半導体素材としてシリコンに変わる材料の研究も進んでいます。例えば、カーボンナノチューブグラフェンなどの炭素で構成される物質がシリコンに取って代わる半導体材料の有力候補として研究されています。一方で、原子1層分の究極の薄さを持つシリコン「Silicene」こそが次世代半導体にふさわしいという研究もあります。

By Argonne National Laboratory

「半導体集積回路の密度が2年ごとに倍増する」というムーアの法則は遅かれ早かれ終焉を迎えることになりそうですが、ムーアの法則に取って代わる法則が何になるのか、そもそも現れるのかという問題はさておいて、「ユーザーの得られる価値は2年ごとに倍増する」というような、修正した「新・ムーアの法則」の維持に向けて、半導体業界の進化は続いてきそうです。

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