ピクサー創始者ジョン・ラセターが振り返るピクサー30年の歴史
1985年にピクサーの設立に参加し、映画「トイ・ストーリー」を監督したジョン・ラセター氏が、ピクサー設立時のスティーブ・ジョブスの印象や、「なぜピクサーは特別なのか」という秘密など、ピクサーが歩んできた30年の歴史について振り返るインタビュー映像がYouTubeで公開されています。
John Lasseter Looks Back on 30 Years of Pixar - YouTube
「何がピクサー映画をピクサー映画たらしめているのか」と語りだすジョン・ラセター氏。
ディズニーの創始者であるウォルト・ディズニーにとって、アニメーションにおいて最も重要なのは「物語」でした。ピクサーの原点もウォルト・ディズニーの考えに基づいています。
映画において、作り手が観客に共感することが大切であり、ディズニーの伝説的なアニメーター「ナイン・オールドメン」のフランク・トーマスとオリー・ジョンストンはよく「ペーソス」について語っていたとのこと。ペーソスは日本語で「哀愁」や「哀感」と訳される感情で、これが人を映画へとかき立てるそうです。
映画を美しくしたり……
恐ろしくしたり……
面白くしたりなど、作り手には「こういう映画を作りたい」という思いがあります。
しかし、つきつめていくと映画を通して作り手は「人を感動させたい」という思いがあるはずです。
続いて、ピクサー創設時の話へ。スティーブ・ジョブズがルーカスフィルムの子会社インダストリアル・ライト&マジックのコンピュータ関連部門を買収しCEOとなった時、ラセター氏はその才能に驚かされたとのこと。
ラセター氏は「いつかコンピューターを使ってアニメーションを作ってみたい」と考えていたため、ピクサー設立には非常にわくわくしたと語りました。未来の映画界において、何か偉大なことができると直観していたそうです。
しかし、ピクサーの前身はもともとテクノロジー会社だったため、アニメーション会社として機能するには時間がかかりました。ピクサーが設立されてからトイ・ストーリーが公開されるまでの9年間の進化は、非常にゆっくりとしたものだったとラセター氏。
一方で、初期のピクサーは一流のテクノロジー会社であり、高学歴で優秀な人材がそろっていたため、もともとアニメ―ターだったラセター氏はプログラマーたちが何をやっているのかちんぷんかんぷんで、「プログラムを学ばないと……」と途方に暮れたこともあったそうです。
……と、ここで映し出されるピクサー社内。
開放的なオフィスや……
やたらとファンシーなオフィスもあります。
プログラマーたちに囲まれあせりを感じていたラセター氏ですが、そのうち「あせる必要はない。彼らは私が知っている、『キャラクターたちに命を与える方法』を知らないのだ。自分は彼らの隣で仕事をし、コラボレーションすればよいのだ」と考えるようになります。ピクサーの設立は、アートのテクノロジーに対する挑戦であり、テクノロジーにとってはアートに刺激させられる機会だったわけです。
そして、1985年にピクサーが設立されてから、どんどんテクノロジーは進化してきました。「モンスターズ・インク」におけるふわふわした毛の質感や……
「ミスター・インクレディブル」においての光の効果
ウォーリーにおける荒廃した世界やロボットの質感などは、非常にリアリティがあるものでした。
また、ピクサーの最新作「The Good Dinosaur(邦題:アーロと少年)」は今まで見たどの映画よりもリアリティがあり、説得力のある映像に仕上がっているとのこと。
アーロと少年の予告編は以下のムービーから見ることできます。
The Good Dinosaur Official US Trailer 2 - YouTube
これらの映像はもちろんテクノロジーの進化によるものもありますが、ピクサー設立当時に発見した、「観客を映画にかきたてるものは何か」ということに基づいています。つまり、それが「観客への共感」「ペーソス」「ハート」といったもの。これらがあることで、実際には存在しないものであっても観客は「なんてリアルなんだ」と感じるわけです。
多くの人が知っているように、子どもたちがいなくなった後の部屋で、オモチャたちは命を得ます。
子どものころにオモチャで遊んだことがある人はこの考えを抱いたことがあるはず。しかし、「命を得たオモチャの視点」で物語を描くことで、まったく新しい世界が生まれます。ここに「現実にないこと」に「リアリティ」を生み出すカギがあるようです。
「ピクサーが特別なのはどういう点か」という質問に関しては、「スタッフが仕事に心血を注いでいること」とラセター氏は回答。
スタッフたちは映画と仕事を愛し、常に新しいものを生み出そうと考えているとのこと。
技術的な面でも芸術的な面でも、常に挑戦的です。
また、トイ・ストーリーが完成した後の打ち上げパーティーはピクサーの歴史の中でも偉大な瞬間の1つだったとのこと。これまで誰もなしえなかったことを、少人数のスタッフでやり遂げたという思いで誇らしく、非常にワクワクしていたとラセター氏は語りました。
また、カリフォルニアディズニーランドに映画「カーズ」のテーマパーク「カーズランド」ができたことは、ディズニーランドと共に育ってきたラセター氏にとって特別な出来事だったそうです。
そして、トイ・ストーリーの公開後に、空港にいた少年がウッディの人形を持っているのを見て、「ウッディはもう自分のキャラクターではなく、あの少年のものになっている」ということに気付いたとのこと。
クリエイターが作ったキャラクターや映画が誰かを感動させ、誰かの人生の一部になっているということに気付いたその時のことを、ラセター氏は「とても貴重な瞬間だった」と語りました。
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