国際的詐欺「ナイジェリアの手紙」にだまされてしまう心理学効果とは?

By Antonio Rosario

主にナイジェリアなどのアフリカ諸国を舞台に、貴族・政府・銀行などの関係者を装って莫大な資金の移動の援助を求め、その手数料として要求される金銭をだまし取る国際的詐欺の一種が「ナイジェリアの手紙」です。以前から手紙やFAXで行われていた詐欺ですが、メールの普及により日本でも被害者が出ています。そんな単純に見える詐欺の手口がなぜ有効なのか、ということが心理学的に解説されています。

The First 'Nigerian Prince' Scam - Science Friday
http://www.sciencefriday.com/articles/the-first-nigerian-prince-scam/


あるアメリカの新聞に「とある国の王子」と名乗るビル・モリソンという人物の投稿が掲載されました。王子はナイジェリアの貴族の縁戚の生まれだと書かれており、王子が望んだただひとつの願いは、「アメリカ人の文通相手がほしい」ということ。連絡先は紙上で無料公開されており、大量のアメリカ人が「モリソン王子」に手紙を送ることになりました。

モリソン王子はその中から数人に返信を書き、その中でたった4ドルという金銭や、もう履くことのないズボンを送ってほしいと要求しました。王子はお返しに膨大な分量の象牙・ダイヤモンド・エメラルドを送るはずだったのですが、要求された金銭や古着を送ったアメリカ人に宝石が届くことはなかったとのこと。その後、郵便局に苦情が殺到したため、警察当局が怪しい王子を捜査した結果、手紙の送り主は14歳のアメリカ人で、膨大な財産も持ち合わせていないことがわかりました。これが世界初の「ナイジェリアの手紙」と言われています。

そんな「ナイジェリアの手紙」はメールの普及とともに、フィッシング詐欺が横行する以前まで世界中で行われていたのですが、Maria Konnikova氏の著作「The Confidence Game」の中では、このような単純な詐欺がなぜ成功してしまうのか、という研究についてまとめられています。

1966年のスタンフォード大学の心理学者であるジョナサン・フリーマン氏およびスコット・フレーザー氏の研究によると、人は小さな要求を了承すると、その後の大きな要求に同意しやすくなるという「フット・イン・ザ・ドア」というテクニックが実証されています。研究で行われた実験は150人の主婦に対して、2時間にわたって家庭で使用している家庭用品の分類調査を求めるもので、5・6人の研究チームが自宅に訪れて調査するという旨を説明します。

By eltpics

実験の結果、150人の主婦は、以前に一度好きな石けんのブランドに関する簡潔な質問に電話で回答したグループと、一度も接触していないグループに分けられ、初めて家庭用品の分類調査を求められたグループの了承率が5分の1だったのに対して、以前に質問に回答していたグループのうち半数以上が、分類調査に同意したとのこと。これのテクニックは、「落とした手袋を拾ってもらう」「携帯電話から数分間電話させてもらう」などの好意を与えた人物に対して、もっと親切にする可能性が高くなるという心理現象を実証したもので、類似する手口が詐欺師グループの間でも常套手段として使われているとのこと。

心理学者ダリル・ベム氏が提唱した自分自身を観察することで、自分でも知らない自身の内的状態を知覚できる「自己知覚理論」は、上記の実験を補足可能なもの。急に他人に叫びかけると不作法に当たりますが、誰かにドアを開けてあげることは親切に感じられます。親切な行為を見ると心が和むように、多くの人は誰かに親切にしたいと考えているそうです。

人々は「他人に好意を与えて、自分が寛大な人間である」と証明することを好む傾向にあり、アメリカの心理学教授ロバート・B. チャルディーニ氏は、「説得される場面において私たちを弱くする要素は、『自分たちの良いイメージを保ちたい』という欲望にある」と指摘しています。自分たちを「価値ある人間」と感じてもらえる場合に、要求に応じやすくなる性質を持っているということです。

ナイジェリアの手紙は自らの貧困や困窮を訴えた上で、自国では安易に動かせない財産を相手の口座に移し替え、一部をお礼として渡したい、などと要求します。これを了承してしまうと、ありもしない財産の受け渡しに必要な手数料を要求され、最後には連絡不通になるという手口なのですが、「財産の移動を了承する」ことで「フット・イン・ザ・ドア」が成立しています。さらに「貧しい国の困っている人を助けている」という親切心が生まれているため、手数料を支払いやすくなるものと考えられます。一見すると、引っかかりようもない安易な手口に見えますが、計ってか計らずしてか、「ナイジェリアの手紙」は、2重の心理ロジックに裏打ちされた作戦になっているわけです。

By vaXzine

なお、有名な国際的詐欺事件の中には「ナイジェリアの手紙(別名:419の手紙)」以外にも、「貿易取引方詐欺」「国際入札勧誘型詐欺」「投資型詐欺」「査証取得型詐欺」「国際結婚型詐欺」「送金先変更詐欺」などの手口が出現しており、以下のページでジェトロ(日本貿易振興機構)が、それぞれの詐欺の手口を説明して注意喚起を行っています。今回の人間の心理と合わせて読んでおけば、「思わぬうまい話」の防衛知識として役立つかもしれません。

国際的詐欺事件について(注意喚起) | FAQ(よくある質問) - FAQ/お問い合わせ - ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/contact/faq/419.html

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