自動車メーカーからの脱却を目指すフォードのキーマンは創業家出身の元CEOビル・フォード


自動車ビッグ3の1つであるフォードは、Amazonと提携して開発する自宅から自動車のエンジンをかけてエアコンを入れられるという遠隔操作技術や、アフリカなどの道路整備のおぼつかない場所をデータマッピングするバイク、カーシェアリングシステム「GoDrive」、そして開発を進める自動運転カーの動向などを世界最大の家電見本市であるCES 2016の会場で次々と発表し、自動車メーカーとしての立場から、新たにモビリティ(移動体)関連企業への転身を図っていることを強く印象づけました。自動車メーカーという枠を超えて、他分野に進出するフォードには、元社長で創業家出身のビル・フォード氏が大きな影響力を与えているようです。

Bill Ford Isn’t Scared of Apple — Backchannel — Medium
https://medium.com/backchannel/bill-ford-isn-t-scared-of-apple-9822fd3ecb78#.m8kyif7hl

ビル・フォード(William Clay Ford, Jr.)氏は、フォードを創業してT型フォードを生み出したことで「自動車の育ての親」と呼ばれるヘンリー・フォードのひ孫で、大学を卒業後、1979年にフォードに入社。その後、MITのスローン経営大学院でMBAを取得し、フォードのスイス支社長、フォードのトラック部門担当副社長などのポストを歴任した後、2001年にフォードの社長に就任するなど、歴史ある自動車メーカー・フォードの創業家出身の御曹司として「王道」を歩んできました。


フォード氏は、社長就任早々に理想と現実とのギャップに苦しみます。来たるべきエネルギー革命に備えて小型車やハイブリット車などの燃費の良い自動車や電気自動車(EV)を開発する方向への転換を検討していたフォード氏でしたが、当時は長らく続く安い原油価格もありSUVやピックアップトラックなどの大型車がアメリカ市場を中心として大人気でした。最終的に、社内の圧力に抵抗することができずにフォード氏は利益率が高い大型車を重視する戦略を選び、この選択によって後に業績の低迷に悩まされることになります。

大型車シフトを決め、当時進めていたEVの開発を中断させたフォード氏でしたが、2005年にはプリンストン大学の同級生だったメグ・ホイットマンCEOが率いるeBayの社外取締役に就任したことで、シリコンバレーとの接点が生まれました。当時のフォードの取締役の多くはeBayの存在自体を知らないこともあり、フォードのトップが得体の知れないIT企業の社外取締役に就くという事態に自動車王国のデトロイトではちょっとしたパニックが起こったそうです。

しかし、eBayの取締役会(委員会)に参加したフォード氏は、自動車産業とIT産業とでまったくと異なる思われていた世界に、協調できる可能性を見いだしたとのこと。その中で、フォード氏は当時は無名のスタートアップだったテスラ・モーターズのマーティン・エーベルハルトCEOと知り合っています。エーベルハルト氏は、当時のフォード氏の印象について「信じられないほどスマート(聡明)な人である」と述べており、その当時、すでにフォード氏がEVに深く精通していたことに驚嘆したとのこと。エーベルハルト氏が無名のEVメーカーのテスラCEOとして、「自動車メーカーのCEOになるとはどういうことか」と質問したところ、フォード氏は「タイタニック号の舵取りをまかされているようなもの」と答えたそうです。


その後、市況の変化もあり、燃費の悪いピックアップトラックなどの大型車が売れなくなり、小型車やハイブリッドカーが高い人気を集めるようになると、フォードの業績は急激に悪化し、数十億ドル(数千億円)の赤字を計上して株価も暴落。2006年にフォード氏はフォードの社長を辞任して会長になり、経営の最前線から退きました。

社長時代にはフォードを傾かせた経営者としての評価を受けるフォード氏でしたが、その後もフォードの創業家代表としてフォードの経営に影響を与えつつ、それ以外にもビル・フォードという人物自体の持つ大きな影響力を発揮していきます。

2011年にフォード氏はTEDカンファレンスで、世界で初めて自動車を量産し世界を変えてきたフォードの歴史に誇りを持ちつつも、環境問題に取り組むべき必要性を感じ、環境を守る技術革新の必要性を訴えたことで、自動車産業のみならず多くの人に感銘を与えました。

Bill Ford: A future beyond traffic gridlock | TED Talk | TED.com


このTEDでのスピーチに感銘を受けた人物の一人に、かつてロッキード・マーティンの宇宙システム研究所で研究していた原子力エンジニアのケン・ワシントン氏がいます。ワシントン氏は、フォード氏のスピーチを見て大きな刺激を受けたとのこと。「トップが未来を見据えて地球をより良いものにしようとする会社こそ、自分が仕事をしたい会社ではないか」と思ったワシントン氏は、ロッキード・マーティンを退職後、フォードに入社し、高度研究開発部門を担当する副社長に就任しています。

また、自動運転カーの開発が自動車メーカーのみならずハイテク企業でも重要なテーマになりつつある昨今、フォードはハイテク企業に勤める優秀なエンジニアを次々とヘッドハントしています。最先端のハイテク企業に勤めるエンジニアが、よく言えば歴史のある、悪く言えば旧態依然とした自動車メーカーに勤めたがるのか疑問に思う人もいるかもしれませんが、フォードではフォード氏の強力なリーダーシップによって企業文化の変革が行われており、さらにはシリコンバレーに最先端の研究開発拠点を設けるなどの努力の結果、着実に人材が集まっているそうです。


フォード氏は、CES 2016の閉幕後にフォード本社を訪ねたBackchannelの取材に対して、「私はフォードの最高経営責任者という仕事の意味を知っています。そして、自身の強みが何であるかも知っています。だから、私はフォードの社長に戻ることはないでしょう」と述べたそうです。

経営の表舞台からは姿を消したものの、多大な影響力を与えるフォード氏の存在によって、フォードは単なる自動車メーカーから、次世代のモビリティを開発し、未来を変える先進的な企業への変革を進めているようです。

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