メモ

2016年1月にパブリックドメインになったかもしれない作品たちに見る著作権延長法の功罪


アメリカの著作権保護期間は著作者の死後70年が原則ですが、法人著作物の場合は発行後95年または制作後120年のいずれか短い方までとなっているため、ミッキーマウスなどのような法人著作物の場合、非常に長い期間、著作権が保護されます。この保護期間は度重なる著作権法改正により、延長され続けてきましたが、保護期間延長措置法が施行されるタイミングによっては、パブリックドメインになる日が大きく遅れることになった数々の有名作品があり、それは著作権の期間のあり方を大きく問う存在となっています。

What Could Have Entered the Public Domain on January 1, 2016?
https://web.law.duke.edu/cspd/publicdomainday/2016/pre-1976

アメリカの著作権法はたびたび改訂されてきましたが、その主眼は基本的には著作権の保護期間を延長することにあります。これは、ミッキーマウスの著作権を有するディズニーの強力なロビー活動によって、ミッキーマウスの著作権が切れそうになる度に法改正がされてきたことから、著作権延長法を「ミッキーマウス法」と揶揄する声もあります。

「ミッキーマウス」の著作権を守るため、これまでどのような著作権法の変更が行われてきたのか? - GIGAZINE


これは、度重なる法改正によって、アメリカの著作権の保護期間がどのように延長されてきたかを示す図。要件によって保護期間は変わるので保護期間の種類は複数あれど、すべて期間が延長される形で法改正されてきたことがよく分かります。


上図でも分かるとおり、1978年に施行された著作権延長法(Title 17 of the United States Code)によって、更新することで最大56年まで有効だった著作権の保護期間は、著作者の死後70年まで、職務著作物や無名著作物の場合は発行後95年までと大幅に延長されることになりました。そのため、仮に1978年の著作権延長法がなければ、1959年に世に出た多くの作品が2016年1月1日の時点でパブリックドメイン(公有)に帰し、自由に利用できるようになっていたはずです。

もしも1978年の著作権延長法がなかったらという「仮定の世界」であれば、例えば映画で言えば、「ベン・ハー」「北北西に進路を取れ」「眠れる森の美女」などの超大作がパブリックドメインになっていました。音楽作品であれば「サウンド・オブ・ミュージック」「エーデルワイス」などが、変わったところで言えばプログラミング言語の「COBOL」も1959年作なのでパブリックドメインの対象になっていたはず。また、NatureやScienceに掲載されたさまざまな科学論文も、32ドル(約3800円)の購読料を支払うことなく閲覧できたはず。しかし、著作権の保護期間が延長された結果、これらの作品は最長で2055年まで著作権で保護されることになったのが現実というわけです。


著作権法が著作者の権利を保護するのは、権利を保護することで創作を奨励し文化の発展に寄与するという目的があるからです。しかし、ほとんどの作品は、それまでの積み上げられてきた作品の歴史から完全に独立して発生するものではなく、過去の作品を模倣、改変、改良し乗り越えることによって生まれるという側面があることに鑑みれば、あまりにも長い著作権の保護期間を認めることは、新たな作品の創出を妨げ、ひいては社会全体の不利益にもなりかねません。

仮定の世界では2016年に著作権が消滅していたはずの映画ベン・ハーは、ルー・ウォーレスの「ベン・ハー - キリストの物語」という1880年の小説を基にした作品であり、もしもこの作品が著作権延長法によって保護された「仮定の世界」であれば、大作映画ベン・ハーは世に出てこられなかったことを考えれば、あまりにも長すぎる著作権の保護は大きな弊害になり得ると言えそうです。


ミッキーマウスの延命とは切っても切り離せないアメリカ著作権法に関して、著作権法の延長措置に反対するグループは、「議会は『限られた期間』、著作者・発明家に対して独占権を与えることができる」というアメリカ合衆国憲法第1条8節第8項の規定を根拠に、著作権延長法は憲法違反であるとして数々の訴訟を提起しています。つまり、ミッキーマウスを保護するために半永久的に続きかねない保護期間はもはや「限られた期間」とは言えはない、という主張です。アメリカの著作権保護期間の延長措置に引きずられる形で日本を含む各国も著作権保護期間を延長する中、いつミッキーマウスがパブリックドメインになる日がくるのか、議論は続きそうです。

By Kurman Communications, Inc.

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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