音速の5倍で地球の裏まで飛ぶ航空機を可能にする企業「Reaction Engines」とは


通常の旅客機の約5倍となるマッハ5(高度1万メートルで時速約5000km)で飛ぶ航空機のエンジン開発が加速の動きを見せています。イギリスの航空機エンジン開発企業「Reaction Engines」は20年余りにわたって次世代航空機エンジンの開発を進めてきましたが、大手航空宇宙企業や政府からのバックアップを得たことで、従来にはないエンジンが実現に向けて大きな一歩を踏み出そうとしています。

British technology company to 'transform' air and space travel with pioneering new engine design - Telegraph
http://www.telegraph.co.uk/finance/newsbysector/industry/engineering/12023867/British-technology-company-to-transform-air-and-space-travel-with-pioneering-new-engine-design.html

2015年11月3日、イギリスの航空防衛大手企業・BAE Systemsが、次世代の航空機用ロケットエンジン「SABRE(セイバー)」を開発する企業・Reaction Enginesの株式の20%を、約2000万ポンド(約37億円)で取得したことが報じられました。ボーイングやロッキードといった航空宇宙企業をしのぐ規模のBAEが、従業員数75名という開発企業であるReaction Enginesに資本参加することは異例の出来事とも言えるわけですが、従来にない画期的なロケットエンジンの実現を目指すReaction Enginesにとっては、BAEが持つ技術やノウハウを得られることで非常に大きな意味を持つ出来事であったといえます。

Reaction Enginesが開発を進めるロケットエンジン「SABRE」は、地上での離陸からマッハ5.5という超音速での飛行まで全ての速度域を1つのエンジンでこなすことができるという、従来にはなかった性能を持つエンジン。さらに、宇宙空間では宇宙ロケットと同じく液体酸素を使うことで、マッハ25という極めて速い速度で飛行することが可能になります。


SABREの断面図はこんな感じ。ジェットエンジンのような回転するタービンと軸は持たず、軽く湾曲した本体の先端(図中右)から取り入れた空気を後端(図中左)にあるロケットエンジンで燃焼させて推進力を生みだすようになっています。そんなSABREエンジンの最大の特徴は、図中で青く示された「プリクーラー」と呼ばれる、空気を冷却する機構です。


超音速状態になるとエンジンに取り込む空気が圧縮されて非常に高温になるため、燃料の燃焼効率が落ちて必要な出力を十分に得ることができません。そこで、SABREエンジンは取り込んだ空気の一部をプリクーラーに通して温度を下げることで、超音速域でも十分な推力を確保するように設計されているのです。


プリクーラーの内部には液体ヘリウムが通る細いパイプが無数に並べられ、空気中の熱を効果的に吸収するように設計されています。超音速の状態で圧縮されて1000度を超えるまでに加熱された高温の空気は、以下のように液体ヘリウムが通るパイプの間を通ることによって0.01秒という一瞬でマイナス150度にまで冷やされます。こうすることによって空気に含まれる酸素の密度をグッと高め、超音速飛行に必要な高い効率の燃焼を可能にするというわけです。


このSABREエンジンを搭載して、地球の裏側まで4時間で到達できるという航空機「SKYLON」のテスト飛行が2019年に予定されています。SKYLONの詳細や実験段階のSABREエンジンが実際に動いている様子は、以下の記事でも確認することができます。

地球の裏側まで4時間で到着できる航空機「SKYLON」のテストが2019年に実施予定 - GIGAZINE


これまで20年以上にわたって、Reaction EnginesはSABREエンジンの開発に携わってきたとのこと。地球の大気圏内を飛行する間は空気と水素燃料を燃焼させることで推力を生みだしますが、速度がマッハ5.5に達する頃には地球の大気圏と宇宙空間との境界に到達します。するとSABREエンジンは「ジェットエンジンモード」へと変化し、水素燃料と液体酸素を混合し、まさにロケットと同じ原理で飛ぶ状態へと移行するよう設計されています。

良く似た仕組みを持つエンジンとしてはラムジェットエンジンが知られています。ラムジェットエンジンは高速飛行する際に圧縮されて高温になった空気をうまく取り込み、そこに燃料を噴射することで燃焼させて推進力を得る仕組みを備えています。

By Cryonic07、Emoscopes、Wolfkeeper

SABREエンジンと同じような仕組みを持つラムジェットエンジンですが、うまく作動するためには一定の条件が必要となってきます。高速・高圧で空気を取り込む必要があるため、ラムジェットエンジンは静止状態では作動そのものが不可能。そのため、ラムジェットエンジンを使う場合はまず機体をマッハ3程度まで加速させるジェットエンジンを別で備える必要があります。さらに、マッハが5を超えると燃焼効率が悪化するという限界が存在しています。

そんな問題を克服し、たった1種類のエンジンだけで停止状態からマッハ25までの極めて幅広い速度域をカバーできる可能性を備えているのがSABREエンジンというわけです。1989年に設立され、新型エンジンの開発を進めてきたReaction Enginesは、これまで限られた予算で開発を進めてきたとのこと。今や、BAEからの2000万ポンド(約37億円)の出資に加え、政府系金融機関からも6000万ポンド(約110億円)という資金調達の約束を取り付けており、同社の企業評価額は1億ポンド(約185億円)にものぼると言われています。

Reaction Enginesのマネージング・ディレクターを務めるマーク・トーマス氏は「5か月かけてBAEとの話しをまとめてきました。我々が求めていたのは巨大な航空宇宙企業であり、必要としていたのはプロジェクトを一括でまとめ上げるシステムインテグレーションの能力です」と、BAEとの提携の狙いについて語っています。前出の通り、SABREエンジンの仕組みはジェットエンジンとロケットエンジンの組み合わせと言うことができ、複雑な機構を1つのシステムとして完璧に作動させる必要があります。トーマス氏は「そのような能力を備えている組織を考慮した時、BAEは常に最有力候補として挙がっていました」と語っています。


Reaction Enginesに加わる前のトーマス氏は、航空機エンジンメーカーであるロールスロイス社でチーフエンジニアの職に就いており、戦闘機のユーロファイター タイフーンやエアバス・A380型機のエンジンの開発に携わっていたとのこと。トーマス氏はSABREエンジンについて次にくる大物(the next big thing)としており、「我々は今、心躍る流れのスタート位置にいます。とてつもなく大きなことが始まろうとしている、その始めの段階にいるのです」と語っています。

SABREエンジンの利点についてトーマス氏は「スケーラブルである(状況に応じて大きさを変えられる)ことである」としています。同社ではすでに乗客300名レベルのボーイング787型機クラスの機体に搭載できるエンジンについての研究を開始しているとのこと。また、民間宇宙開発といえば必ず名前が挙がるSpaceX社のイーロン・マスクCEOとの関係についても「競争相手ではなく、大きな敬意を払っています」と語っています。一方で、「SABREエンジンは他にない独自のエンジンです。将来、マスク氏が我々のエンジンを求めて話をしにやって来ることもあるでしょう」と自信のほどをのぞかせています。

SABREエンジンを搭載した航空機の実現には今後10年から15年程度の時間が必要とのこと。アメリカ同時多発テロ事件の影響もあり、1度はついえたかに見えた超音速航空機によるスーパーソニック構想ですが、再び実現に向けて舵を切ることになるのか、関心が集まりそうです。

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