プロスポーツ選手の視線が重要な局面で空間のある一点に定まる「Quiet Eye(視線固定)」はどのようにして起きるのか?

By Nicole Yeary

人間の視線は1秒間に2、3回程度の頻度で繰り返し動いています。しかし、スポーツなどの運動を行っている最中、例えばバスケットボールのシュートのような正確な動作が要求される場合、動作の成否を分ける大きな要素として「Quiet Eye(視線固定)」と呼ばれる現象が注目されています。文字通り「視線が空間のある1点に定まる」という現象が視線固定なのですが、これがスポーツとどのような関係を持っているのかをニュースメディアのThe Atlanticが解説しています。

How the 'Quiet Eye' Technique Makes Athletes More Coordinated - The Atlantic
http://www.theatlantic.com/health/archive/2015/11/what-athletes-see/416388/

ロサンゼルス・クリッパーズのスターであるデアンドレ・ジョーダン選手は、NBAの中でも最も強くて素早いプレイヤーのひとりです。しかし、彼の2014年シーズンのフリースロー成功率はわずか39%でした。それまでにも、ジョーダン選手の圧倒的なスキルを警戒した敵チームはピンチの際には「わざと」ファールを犯すことで、彼に苦手なフリースローを打たせるという戦術をとってきたそうです。一方、ジョーダン選手のチームメイトであるジャマール・クロフォード選手は、ジョーダン選手のようなスピードもパワーも持ち合わせていませんが、ファウルラインからのシュート成功率はなんと90%で、リーグ随一の成功率を誇っています。

同じプロのバスケットボール選手でありながら対照的な数字を残している2人ですが、このシュート成功率の差を決めているのは、もしかすると「視線固定」と呼ばれる視線が空間のある1点に定まる現象かもしれません。

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「あなたの目が提供してくれる情報から、これからあなたの運動系がどのような動作を行うかが分かります」と、目の動きが多くを語ってくれることを力説するのはカルガリー大学で働く認識心理学者であり、「視線固定」理論の第一人者でもあるジョアン・ビッカーズ氏。人間の脳はGPSシステムのようなもので、ターゲットを認識し、速度・強度・距離などを検知するそうです。しかし、「視線固定」はただの視覚以上の効果を人間にもたらすそうで、人間の「注意力(集中力)」にも影響を及ぼす、とビッカーズ氏は語ります。

しかし、近年までは多くの研究者はバスケットボールのフリースローや縫合手術のような「正確な運動スキル」の精度は、優れた身体操作能力を持った人が高いと考えてきました。そんな中で「視線固定」に着目して新たな研究結果を公表したのがイギリスのエクセター大学の心理学者たちによる研究グループ。研究では集中力を測定するのに優れた方法である「人間の短期記憶能力」と「視線固定を使用する能力」の間に明確なつながりがあることが発見され、「集中力」と「視線固定」のつながりが見つかりました。さらに「『視線固定』が、集中力を調整する脳の背側を刺激している」ことも明らかになっています。

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エクセター大学の心理学の教授で、「視線固定」の研究に取り組んだマーク・ウィルソン氏は「心拍数や筋肉の動きのパターンを知るように、『視線固定』の幅を知ることがこの技術をトレーニングすることにつながるかもしれない」とコメントしています。「人間は『どこかしらのポイントを見ている』と考えていますが、それは間違いです。これを正しく行うことは非常に難しいのです」と語るのは、ウィルソン氏の共同研究者であり、エセクター大学の心理学者でもあるサム・バイン氏。

バイン氏によると、プロと初心者の「1点を見続けることができる時間」はごくごくわずかな差しかなく、これはわずか0.2秒程度だそうです。そんな1秒に満たない時間ですが、例えばバスケットボールのフリースローの時、競技レベルの高い人ほどシュート直前のタイミングでバスケットゴールに視線を留めるそう。つまり、このわずかな差がシュート精度と深く関わっている、とのこと。

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「視線固定」の素晴らしい点は、これが教えられる技術である、という点です。実際に、バイン氏はプロゴルファーやオリンピックに出場するレベルのプロアスリートに「視線固定」のトレーニングを行ったそうで、バスケットボールのシュートの他、ゴルフ・射撃術・外科手術などのパフォーマンスを向上させることに「視線固定」のトレーニングが役立つことが示されています。

また、筋肉や神経、視覚・聴覚などに異常がないにもかかわらず、「キャッチボール」や「字を書く」などの協調運動に困難を呈する障害である「発達性協調運動障害」の子どもたちに「視線固定」のトレーニングを施したところ、トレーニング前と比べてキャッチボールが上達したそうです。これは、発達性協調運動障害の子どもたちがボール以外の部分(フォームやその他の要素)に注意を払いすぎていたということを示しますが、同時に「視線固定」はちょっとした訓練で習得できる技術であることも示しています。

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スポーツなどでは大事な場面で不安や緊張が一気に押し寄せて集中力が低下してしまい「プレー失敗」ということはよくあるものです。しかし、1点を凝視するだけでも脳が周囲の雑音を除去し、ひとつの動作に集中することを手助けしてくれるので、大事な場面でこそ「視線固定」を思い出して持てるパフォーマンスを最大限に発揮したいところです。

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in サイエンス, Posted by logu_ii