サイエンス

精子のmiRNA経由で子孫のストレス反応が影響を受けている可能性

By Zappys Technology Solutions

ペンシルバニア大学の研究チームがマウスを使った実験で、ストレスに対する反応が親と子で違うことを発見し、その原因が父方のマウスの精子に含まれるmiRNAにある可能性が出てきました。

Transgenerational epigenetic programming via sperm microRNA recapitulates effects of paternal stress
http://www.pnas.org/content/early/2015/10/14/1508347112

Paternal stress given to offspring via RNA packed into sperm | Ars Technica
http://arstechnica.com/science/2015/10/paternal-stress-given-to-offspring-via-rna-packed-into-sperm/

Sperm RNAs Transmit Stress | The Scientist Magazine
http://www.the-scientist.com/?articles.view/articleNo/44273/title/Sperm-RNAs-Transmit-Stress/

トレーニングで鍛えた筋肉など人間が一生の間に環境の影響によって得たもののことを「後天性形質」といい、この後天性形質が遺伝する可能性については1801年に博物学者のジャン=バティスト・ラマルクが提唱し、多くの研究者を引きつけてきた議題です。

チャールズ・ダーウィンが体現化した「自然選択説」により、後天性形質遺伝の議論は下火になったものの、後天的に決定される遺伝的な仕組みを研究する学問のエピジェネティクスが1940年代に登場し、DNA配列の変化を伴わずに後天的な作用により変異を伴うことに関する研究が多数行われました。

By Howard Ignatius

最近では親のストレスや栄養状態が子孫の健康に影響を与えるという複数の研究が行われましたが、その多くが「なぜ、どのようにしてストレスや栄養状態が子孫に伝わるのか」という部分の詳細について明らかにすることができなかったとのこと。しかしペンシルバニア大学の研究チームにより、そのメカニズムの謎が徐々に明らかになっています。

研究チームはオスのマウスに光・臭い・音・新しい経験・環境の変化など、ありとあらゆるストレスを6週間かけて与え続け、そのオスがメスと交尾して生まれた子どもに親と同じ環境下でストレスを与え、ストレス負荷時に分泌量が増加するコルチコステロンを計測することで、ストレス反応に変化があるかを調査しました。

By Rick Eh?

調査の結果、子どものマウスの方が同じ状況下においても親よりコルチコステロンの分泌量が少ないことが判明し、ストレスに大きく関係がある脳内の視床下部という領域から下垂体を経由して副腎へと至る一連のシステム「視床下部-下垂体-副腎系」の反応が低くなっていることもわかりました。また、オスの精子に含まれるmiRNA(マイクロRNA)のレベルが増加していたことも明らかになりました。

この調査結果から、研究チームは「子どものコルチコステロン分泌量が減少したのはオスの精子に含まれるmiRNAに原因がある」という仮説を立て、オスの精子に含まれるmiRNAと似た配列のmiRNA混合物を単一細胞のマウスの受精卵に与え、生まれた子どもに前の調査と同じ環境でストレスを与えるという実験を実施。受精卵から生まれたマウスの子どもは、ストレス負荷を与えられた親から生まれた子どもと同じ配列のmiRNAを持っており、前と全く同じ環境でストレス負荷をかけたところ、コルチステロン分泌量や視床下部-下垂体-副腎系反応の低下などで同じ反応が確認され、「ストレスに対する反応の遺伝」は「親の精子のmiRNA」に関係があると結論づけられました。

By University of Michigan School of Natural Resources & Environment

また、miRNA混合物を受精した受精卵の細胞を分析したところ、オスのmiRNAが染色体の構造を管理する重要な要素であるメスのmRNAを大量に破壊し、受精卵におけるmRNAレベルが極端に下がっていたこともわかりました。研究チームによると、受精卵におけるmRNAレベルの低下が遺伝子発現の変化を生じさせ、これがストレスに対する反応の変化に影響している可能性があるそうです。

ワシントン州立大学でエピジェネティクスを研究するMichael Skinner氏は「ペンシルバニア大学の研究は素晴らしく、綿密に計画された研究だと思います」と、同研究を評価。研究チームは今後、オスが与えられたストレスがどのようにして精子のmiRNAに変化をもたらしたのかを調査し、子どもだけではなく孫世代に渡ってストレスに対する反応を調べるとのことです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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