ボーイングの最新鋭787型機は巨額の開発費を回収して最終利益を出すことができるのか?

By Jetstar Airways

2011年に日本のANAが初就航を実現させ、すでに世界中の空を飛び交っているボーイングの最新鋭旅客機「ボーイング・787型機」は先進的な設計を取り入れた高い経済性と、大きな窓やより地上に近い大気圧を実現するなどで乗り心地の良さを追求した機体です。機体制御の多くに電気系統を用いるなど従来とは全く異なるシステムをこれでもかと盛り込んだ787ですが、開発段階ではその革新性が原因で多くの混乱が生じ、開発の遅延とそれに伴う開発費用の増加が問題となりました。「天文学的」と表現するにふさわしい巨額の開発費用が与える影響について、Seattle Timesが最新の状況をまとめています。

Will 787 program ever show an overall profit? Analysts grow more skeptical | The Seattle Times
http://www.seattletimes.com/business/boeing-aerospace/will-787-program-ever-show-an-overall-profit-analysts-grow-more-skeptical/

◆困難を極めたボーイング787型機の開発過程と、巨額の開発費用
2011年の初就航以来、ボーイング787型機は世界中の空港を結ぶ路線に投入されて人や物資を輸送しています。先端が緩やかにカーブした翼や、ギザギザに成型された「シェブロン」と呼ばれるエンジンカバー、カーボンファイバーの複合素材で構成された軽量な機体などを用い、燃費を向上させて高い経済性と環境性を実現している最新鋭の機体として、世界各国の航空会社で導入が進められています。

世界の空にも定着した感のある787型機ですが、そのデビューにいたるまでの道のりは前例を見ないほどの難産でした。2004年に開発がスタートし、2007年には初テスト飛行にこぎ着けるとされていたスケジュールは度重なるトラブルのために幾度となく延期が繰り返され、当初は2008年5月に予定されていたカスタマーへの引き渡しは、実際にはそれから3年以上も遅れた2011年9月へとずれ込んでいます。その最も大きな原因は、新素材による機体の開発や、エンジンからの与圧空気(ブリードエア)を使わない空調システム、そして従来とは比べものにならないほど高い電力依存を支えるリチウムイオンバッテリーのトラブルなどが挙げられています。

By Artem Katranzhi

度重なるスケジュールの延長に伴い、開発にかかる費用もそのたびに次々と増加の一途をたどりました。当初は100億ドル(約1兆2000億円)ともいわれていた開発費でしたが、実はさらに多くの費用が費やされてきたことが判明しています。

ボーイングでは、開発に投じてきた費用を将来に繰り延べし、機体が販売されるごとに費用を計上する会計方式を採っているとのことですが、計算上は787が1機売れるごとに2500万ドル(約3億円)の赤字が発生する状況になっているとのこと。それでもボーイングでは今年度末までにこの状況が好転してついに黒字が発生する段階に到達するとしており、そこから320億ドル(約3兆9000億円)にのぼるともいわれる巨額の開発費の精算が始まると説明しています。

同社では、今後787の販売を強力に進めることで巨額の開発費がおよそ6年で相殺されるとしていますが、この見通しにはボーイングに対して好意的アナリストからも疑問の目が投げかけられている模様。2年前にボーイングが公表していた開発費用額は現在より100億ドル(約1兆2000億円)も少なかったこともあり、今後もこの数字がどのように変化するのか予断を許さない状態が続いています。航空業界のコンサルタント業務を行うLeeham CompanyのBjorn Fehrm氏は「あり得ない」とこの見通しを評価しており、「ボーイングは1機あたりもっと多くの利益を挙げなければいけないが、それを成し遂げるのは無理だろう」と厳しい見方を示しています。

以下のグラフでは、繰り延べられている1機あたりの負債額の変化が示されています。2015年から2016年にかけての繰り延べ開発費は2900万ドル(約3億5000万円)と見積もられていますが、これは控えめに見積もられた額とのこと。


ボーイングでは、今後登場予定である787の発展型機「787-10」を含めて900機以上の機体を販売し、1機あたり3500万ドル(約4億2500万円)の利益をあげることで開発費の回収を進める見通しを立てているとのこと。すでに787には1100機以上のファームオーダー(確定発注)を受注しており、さらに数百機規模での発注見込みをも得ているとのこと。同社では1300機が1つの採算ラインであるとしています。しかし、機体のカタログ価格と実際の契約価格は異なることが普通であり、計算どおりの利益が得られないことが半ば常識とされています。経済アナリストのDavid Strauss氏は「実現は難しいでしょう。1300機よりもさらに多くの販売を行う必要があります」と、これに厳しい見通しを述べています。

さらに、MITとも提携しているInstitute for Strategic Leadershipでシニアフェロー(上級研究員)を務めるTed Piepenbrock博士は何機の787が販売された時点で黒字化を達成するのかを試算。するとその答えはなんと「実現不可能」というものだったといいます。Piepenbrock氏はかつてボーイングで787の予定を評価するエグゼクティブチームに参加していたこともあり、四半期ごとに発表されるボーイングの報告をもとに分析を行っています。Piepenbrock氏によると、最も良い結果の場合でもボーイングは2000機の787を販売した結果として、50億ドル(約6000億円)の赤字を残すだろうとしています。

◆「回収は可能」とするボーイング
これに対し、ボーイングのスポークスマンは実現が可能であるとの見通しを語っており、330億ドル(約4兆円)にのぼる開発費を回収し、「一ケタ台の純利益」を最終的に確保するためには、今後販売する機体1機あたり5000万ドル(約60億円)の利益をあげる必要があるとしています。ただし、これは1機あたり30パーセントの利益率を確保する必要があることを意味するのですが、同社が長年にわたって供給してきた737型機や777型機においてさえも平均利益率が20~25パーセントであることを考えると、787が持つ先進性(=高付加価値)や今後登場予定の派生機種を考慮しても実現は簡単ではないことが予想されます。

また、最大のライバルであるエアバスから登場する新型機「A330neo」や、すでに引き渡しが開始されている「A350」といった競合機の存在も懸念材料とのこと。特にA330neoは787と同種のジェットエンジンを搭載し、複合素材を多く用いることで高い経済性を実現する機体となっており、787に対する価格面での大きなプレッシャーになることが予想されています。

さらに、機体の製造コストの観点からも利益率の向上に懐疑的な見方を示す声も挙がっています。航空業界アナリストのAdam Pilarski氏は、2つあるボーイングの組立工場がアメリカ大陸の東西(エバレット・サウスチャールストン)に存在していることを指摘。生産スキルの向上や生産効率の改善が2か所に分断されるデメリットが存在する問題点を挙げ、ボーイングが必要とする生産コスト削減の難しさを指摘します。さらに、外部サプライヤーへの生産委託を拡大していることも懸念材料としています。

By Woodys Aeroimages

◆787の開発費問題が与える影響は
このように、787に費やされてきた莫大な開発費の回収は非常に困難であることが濃厚となっています。開発に要した費用が回収されないというのは非常に大きな問題となるわけですが、この事実が持つ影響について前出のアナリストは意外にも「さほど問題なし」という答えを導き出しています。

経済アナリストのStrauss氏は「これらの費用はすでに支払いが完了しているサンクコスト(埋没費用)です。重要なのは、ここからボーイングが進める改善の中身にあります」とし、前述していた「回収困難な開発費用」が実は今後においてさほど大きな問題ではないことを語っています。同氏はさらに、ボーイングではこれから2020年にかけて787型機の販売により多額のキャッシュを手にすることになるだろうとしており、ボーイングの株に対して「ニュートラル」(=売却する必要には至らず)という見方を示しています。

ドイツ銀行のMyles Walton氏も787の売上をプラスに評価しています。2020年までボーイングは毎年50億ドル(約6000億円)の現金を手にするだろうと分析しており、同社の株を「買い」と評価しています。

By Dave Sizer

とはいえ、これから先の状況がボーイングにとって無双状態にあるというわけではないようです。787が費やした多額の開発費の埋め合わせをしているのが、同社のラインナップの中でも最大の成功作である737型機と777型機の存在です。特に、約40年前にデビューしたロングセラー機である737は、累計で1万機にも及ぶ販売実績がある史上類を見ない成功例といわれていますが、ライバルのエアバスをはじめ、ボンバルディア Cシリーズエンブラエル E-Jet、そして2015年11月にも初飛行が見込まれている三菱 MRJなど次々と姿を表す競合機の圧力を受け、価格競争に巻き込まれる可能性も高くなっています。さらに、777に関しても生産数の減少が今後予定されているため、売上額の減少につながる可能性が存在しています。

これまでの好調さに支えられてきたボーイング787の開発費問題でしたが、状況の変化に伴ってその環境は変化しているといえます。今後の状況は787の利益性がどの程度向上するかによるところが大きいと見られており、Fehrm氏は「これからの5年はボーイングにとって厳しい時期となるでしょう」と判断しています。

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in 乗り物,  メモ, Posted by logx_tm