メモ

ITスタートアップの資金調達と資金回収を時系列に図表で読み解くとこうなる


IT企業の中には、独自の技術や高度な知識を基に独創的で革新的な製品やサービスを提供することで、従来の常識にとらわれない急成長をみせる企業が珍しくありません。ITスタートアップを巡る資金調達と資金回収をグラフを使って解説するサイト「Venture Dealr」を見れば、一攫千金を狙ってベンチャー企業を興す創業者だけでなく、早くから資金を投じることで巨額のリターンを目指すベンチャーキャピタルまで、ITスタートアップの投資ラウンドにおける投資とリターンがよく理解できます。

Venture Dealr
http://dlopuch.github.io/venture-dealr/

◆創業
あるスタートアップを2人で創業したとします。製品開発や販売などの費用はすべて二人の創業者が手元資金でまかなうことにし、株式の持ち分比率を仮に60%と40%と仮定。この株式が企業の成長と共にどれくらいの価値になるのかその変遷を見ていきます。


◆シード
創業まもないスタートアップが製品を販売し、ヒットしたとします。たいていの創業者は、さらに企業活動を拡大させようと投資家から資金を調達します。この最初の投資ラウンドを「シード」と呼びます。なお、創業間もないころのスタートアップに投資する投資家は、一般的に「エンジェル投資家」と呼ばれます。

シードラウンドで見事に200万ドル(約2億4000万円)の資金をゲットできました。シードラウンドで資金調達する時点での企業価値を800万ドル(約9億円)と見積もった場合、企業は1000万ドル(約12億円)の潜在的な資産価値をもつことになります。


資金調達ではエンジェルに対して新規株式が発行されます。新株を発行することで全体のパイが拡大し、創業者の持ち分比率が低下する「希釈化」が起こります。希釈化具合を図にするとこんな感じ。水色部分がエンジェルの持ち分で、創業者の持ち分(茶色と紫色)が圧縮されたことが分かります


なお、創業者が持つのは普通株式なのに対して、シードラウンドで資金を調達したエンジェルに対しては配当や残余財産の分配で有利な条件を得られる優先株式が発行されるのが一般的なので、創業者の持ち分から得られる利益は実は上図で示される以上に小さいことには注意が必要です。

◆シードの後
シードラウンドで資金調達に成功した後に、最初に行うのは従業員の拡充です。スタートアップの創業間もない頃に優秀な人材を獲得することは、企業の発展を大きく左右する大切なもの。そのため、優秀な人材を確保するために、株式を分配したりストックオプションを発行したりすることが一般的です。なお、割り当てる株式は創業者が持ち分から切り崩します。

仮に株式全体の15%分を従業員に割り当てた場合、創業者の持ち分の希釈化はさらに進みます。


この時点では、創業者二人の持ち分は650万ドル(約7億8000万円)、従業員の持ち分が150万ドル(約1億8000万円)、エンジェルの持ち分は200万ドル(約2億4000万円)相当の株式となります。


潜在的な資産価値を縦軸、持ち分の割合を横軸にしたグラフに、創業者(紫色、茶色)、エンジェル(水色)、従業員(灰色)をプロットするとこんな感じ。


なお、希釈化が進むと創業者の持ち分はどんどん減りますが、事業が大きく成ることで持ち分の減少分以上の大金をゲットするもの。資金調達が進み、事業が順調に拡大している限り、希釈化はむしろ健全な状態であるとのこと。

◆シリーズA
新しい従業員を得て、順調に業績が拡大し、資産価値が2000万ドル(約24億円)に拡大したら、いよいよベンチャーキャピタルから投資を受ける時期にきます。ベンチャーキャピタルから資金調達を受ける最初の段階は「シリーズA(アーリーステージ)」と呼ばれます。シリーズAでは500万ドル(約6億円)の資金を調達することに成功しました。


シードからシリーズAにかけて、スタートアップの資産価値は拡大。それに応じて創業者、エンジェル、従業員はいずれも保有する株式価値を高めていることが分かります。


創業者、エンジェル、従業員は持ち分比率を減らしながらも、保有する株式価値は上昇しています。まさに健全な希釈化が進行しているというわけです。


◆シリーズB
投資ラウンドはシリーズA以降、シリーズB、シリーズC……と続いていくのが一般的。シリーズAでの資金調達によって地ならしを終えた後は、さらなる成長を求めてシリーズBで資金調達を行います。

シリーズB時点での企業価値が3000万ドル(約36億円)であったとして、600万ドル(約7億2000万円)の資金を調達したと仮定。


潜在的な企業価値は3600万ドル(約43億2000万円)のうち、創業者やエンジェル、従業員、シリーズAでの投資家、シリーズBでの投資家の持ち分を図示するとこんな感じ。


シード、シリーズAでの保有株式の価値の拡大に比べると、シリーズBでの持ち分比率の減少に対する資産価値上昇のペースは鈍化することが分かります。これは、成長するかどうか不透明なリスクの高い時期に投資する方が、より高いリターンを利益を得る可能性があるという当然の事実を表すものです。


◆シリーズC
シリーズBに続いて行う投資ラウンドは「シリーズC」。もっとも、企業の成長戦略次第では、シリーズB以降の資金調達は行わないこともあります。希釈化を嫌って社債発行などで資金調達をするという方法もアリです。

仮に企業価値が7500万ドル(約90億円)の時点でシリーズCを行い、2500万ドル(約30億円)という巨額の資金調達をすると……


創業者やエンジェルなどの利害関係者の保有する株式の価値はこんな感じ。


希釈化が進むにつれて、保有する株式価値が順調に成長しています。このような右肩上がりのグラフが描かれている限り、創業者、従業員、投資家などの利害関係者の富は拡大し続けるので、営利を追求する企業の本来の目的は十二分に発揮されていることになりそうです。


保有する資産価値の拡大に対して、利害関係者の会社株式の持ち分を図示するとこうなります。投資ラウンドを経る度に、持ち分比率は低下し希釈化していますが、保有資産価値は上昇します。


◆EXIT(投資回収)
・理想型
シリーズCの投資ラウンドを経て、ついに企業価値は2億ドル(約240億円)に到達。あまりにも順風満帆な成長ぶりですが、ITベンチャー企業であればそれほど珍しい事例ではなさそうです。


投資家は企業が成長し資産価値が高まったある時点で、株式を売却することで利益を確定させるものです。この投資回収のゴールは「EXIT」と呼ばれます。EXITで株式を売り抜けるのは投資家だけでなく、株式を保有する従業員や、スタートアップを立ち上げた創業者の場合もあり得ます。

このあまりにも順調に成長したスタートアップが企業の時価総額が2億ドル(約240億円)の時点で、創業者、エンジェル、株式保有従業員、シリーズごとの投資家がEXITした場合の成績を一覧するとこんな感じ。シリーズCの投資家は総額2500万ドル(約30億円)の投資に対して6550万ドル(約78億6000万円)を得たことから、ROIは162%になります。シリーズBの投資家のROIは315%、シリーズAの投資家のROIは333%でシードで投資したエンジェルのROIは541%。なお、創業者はそれぞれ2100万ドル(約25億2000万円)、1410万ドル(約16億9000万円)の大金をゲットできています。


しかし、企業活動はそうそう順風満帆な事ばかりではありません。投資に対して優れた業績を上げられなかった場合には、優先株式の存在が利害関係者の手にするお金に大きな影響を与えることがあります。

・Last-In-First-Out
シリーズCの投資ラウンド後に業績が悪化し、資産価値が大幅に減少した場合を考えます。


ここで、後から投資ラウンドに参加した投資家から優先的に保護されるというルール「Last-In-First-Out」が採用されている場合、残余財産からシリーズC、シリーズBの投資家が出資額を優先的に保護されるという特約によって守られる反面、シリーズAの投資家が総額500万ドル(約6億円)の投資に対して200万ドル(約2億4000万円)しか回収できず損失を被るということもアリ。もちろん創業者の二人は普通株式保有者なので無一文になってしまいます。


他方で、業績は悪化していなくとも優先株式の存在が普通株式保有者の利益を損ねる場合もあります。シリーズCの巨額の投資ラウンド後に、それに見合った成長がなかった場合。


優先株式を保有するエンジェル、シリーズA、B、Cの投資家が株式売却によって利益を上げる一方で、株式を分配されたりストックオプションを割り当てられた従業員などの普通株式保有者が利益を目減りさせるというケースもあります。このように投資や労働の見返りに得られるのが優先株式なのか普通株式なのかによって、資金回収に雲泥の差が生まれる場合があるようです。

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