乗り物

フォルクスワーゲンに約2兆円の罰金が科される排ガス不正を見つけた研究の内容とは

by Americo Ferraiuolo

ドイツの自動車メーカー・フォルクスワーゲンが、アメリカの排ガス規制をクリアするために1100万台の車に不正なソフトウェアを搭載していたことがわかり、約2兆円の罰金を科されることになりました。この不正を見つけたのはウェストバージニア大学の研究者で、2014年5月に排出ガスに関する論文が発表されていました。

This photo shows how researchers caught VW cheating on its emissions tests - Vox
http://www.vox.com/2015/9/23/9383663/vw-emissions-scandal-photo

In-Use Emissions Testing of Light-Duty Diesel Vehicles in the United States
(PDFファイル)http://www.theicct.org/sites/default/files/publications/WVU_LDDV_in-use_ICCT_Report_Final_may2014.pdf

研究を行ったのはグレゴリー・J・トンプソン博士らのチームで、NOx吸蔵還元触媒技術(LNT)を用いたFR車(車両A)、尿素SCRシステム搭載FR車(車両B)、尿素SCRシステム搭載4WD車(車両C)の3台を用いました。NOx・CO・THC・CO2排出量の測定には、堀場製作所の車載型排ガス計測システムOBS-2200 PEMSが使用されました。

車両Aに実際に測定装置を詰んだところ。


テストに用いられた3台の車両は、いずれもアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)の定めた基準をクリアしています。

基準の一例が、ロサンゼルスの朝の通勤時間帯を参考に、平均時速34.1kmで17.77kmを走行する「FTP-75」と呼ばれるもの。


こちらはより高速で走ることを想定した「US06」。


トンプソン博士らは、これらの基準とは別に、自分たちで車を走らせて排出物がどれぐらい出るのかを計測しました。以下に、7種類の棒グラフが4群並んでいます。棒グラフは「ルート1:高速道路」「ルート2:ロサンゼルス市街地」「ルート3:アップダウンのある田舎道」「ルート4:サンディエゴ市街地」「ルート5:サンフランシスコ市街地」「FTP-75」「US06」「NEDC(ヨーロッパの燃費測定方法である「新欧州ドライビングサイクル」)」の7つを示しており、それぞれのルートで「アイドリング状態(時速2km以下)」「低速(時速2km~50km)」「中速(時速50km~90km)」「高速(時速90kmより速い)」の割合がどれぐらいかを示しています。


たとえばそれぞれの速度群で左端にある「ルート1:高速道路」はアイドリング状態になる割合が10%未満で、低速なのが20%ほど、中速も15%ほどと多くなく、60%近くを高速で走行することになります。これとは対照的に、「ルート2:ロサンゼルス市街地」だと、アイドリングが約25%、低速が約65%で、中速は10%ちょっと、高速で走れるところはほとんどなかった、というわけです。また、右側に3つの基準用測定値が並んでいますが、速度の割合はバラバラであることもわかります。

ルート1からルート5を平日、ラッシュアワーではない時間帯に実走行したときの速度データはこんな感じ。


テスト走行を重ね、測定データを積み重ねていった研究チームによる、車両Aと車両BのCO2排出量のデータがこれ。色の濃い棒グラフが車両A、色の薄い棒グラフが車両Bで、いろいろな測定方法別の結果が表示されています。なお、グラフにR印がついているのは、目詰まりを起こしたディーゼル微粒子捕集フィルターの再生動作が発生したものを示しています。こうしてみると、一部のテストで基準値をクリアできていないように見えます。


一方、NOx排出量だと、測定方法によって大きな差が出ました。車両A、車両BともにFTP-75はクリアしていますが、NEDCやUS06だと完全にアウト。


5種類のテストルートを走行した時の平均NOx排出量のグラフはこうなりました。車両Aは顕著に悪い結果が出ていて、ルート1からルート4のいずれでも基準値を大幅に上回る排出量が検出されました。ルート5はデータなし。しかし、これでもFTP-75に準拠した測定方法だと基準をクリアしています。車両Bも同様の傾向が見られます。車両Cはルート3以外はかなりマシな結果に。


詳しい分析は以下の記事でも行われていて、「今回の不正ソフトウェアの正体は『FTP-75の走行パターンに合わせてスロットルを開閉する際には優等生モードで走行し、それ以外の状態で高負荷がかかると一気に不良モードになって有害なNOX満載の排ガスを撒き散らす、ただし燃料は完全燃焼させるため燃費は良い』というドライバーと試験機関を騙すのに特化したソフトウェアの可能性が高そう」という結論が導かれています。

【VW匠の技】似非クリーンディーゼル技術の極みを検証してみた | 膝と相談させてください
http://shimesaba.dyndns.org/?p=24043

フォルクスワーゲンの件の発覚は、この博士らが直接EPAなどに持ち込んだものではなく、この研究が発表された場にEPAの担当者が来ていたのがきっかけだとのこと。ちなみに、ディーゼル車からのNOx排出量が規制値よりも多いのではないかという指摘は、2014年10月に国際環境交通会議が行っています。

Real-world exhaust emissions from modern diesel cars | International Council on Clean Transportation
http://www.theicct.org/real-world-exhaust-emissions-modern-diesel-cars

なお、日本は2011年6月に、排出ガス低減性能の「無効化機能」を搭載したいすゞ自動車のトラックが、適合基準をクリアしつつも実走行時にはNOxを3倍以上排出していたのが見つかっています。「無効化機能」は反社会的行為として、欧米では禁止規定が明文化されているとのこと。

最新排出ガス規制適合車 低減性能の「無効化機能」|東京都
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/06/20l63600.htm

また、2012年11月の報道によると、尿素SCRシステムを搭載した車両で、規制値を上回るNOxが排出される例が相次いでいることがわかっています。環境省は「走行距離が伸びると何らかの原因で装置が劣化する可能性がある」とコメントしたようですが、実態はどうだったのでしょうか。

NOx:「浄化」後も高濃度 装置劣化?ディーゼル大型車6万台- 毎日jp(毎日新聞)
https://web.archive.org/web/20121230182646/http://mainichi.jp/feature/news/20121126dde041040012000c.html

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in 乗り物, Posted by logc_nt