メモ

ソ連の沈没した弾道ミサイル潜水艦を引き上げるCIAの極秘任務を敢行した巨大船「グローマーエクスプローラー」とは?


かつてアメリカとソ連によって繰り広げられた冷戦の時代に、ソ連の弾道ミサイル潜水艦「K-129」が太平洋に沈没するという事故が起こりました。アメリカはソ連の機密情報を入手するために、沈没したK-129を秘密裏に引き上げることを決定。ソ連の監視の目をくぐりぬけながら極秘任務を遂行すべく、巨大なサルベージ船「Hughes Glomar Explorer(ヒューズ・グローマーエクスプローラー)」が開発されました。

Confirmed: The CIA's most famous ship headed for the scrapyard | Public Radio International
http://www.pri.org/stories/2015-09-07/ship-built-cias-most-audacious-cold-war-mission-now-headed-scrapyard

1968年3月、ソ連のゴルフ型潜水艦「K-129」が太平洋のハワイ沖で爆発事故を起こしました。アメリカのシースパイダーソナーネットワークは即座にこの爆発を探知。衛星や海兵隊の調査船によって事故の状況を探るなど、K-129の沈没事故について追跡調査が行われました。


アメリカがK-129に強い関心を寄せた理由は、K-129が弾道ミサイルを搭載する潜水艦であることから、沈没船から冷戦の相手国であるソ連の軍事技術や暗号技術を入手できると期待したから。アメリカがK-129に関する情報を入手したがっていることはもちろんソ連も把握しており、ソ連は海軍を派遣してK-129の探索に乗り出しましたが、沈没した潜水艦を発見することはできず。しかし、ソ連の失敗を尻目に、アメリカ海軍の原子力潜水艦ハリバット(SSN-587)が太平洋の水深5キロメートルの海底に沈むK-129を発見することに成功しました。

中央情報局(CIA)はソ連の機密情報を入手するために、秘密裏にK-129のサルベージを断行することを決め、「Project Azorian(アゾレス諸島プロジェクト)」と呼ばれる極秘任務がスタート。しかし、ソ連の監視の目をかいくぐるために、表だって沈没潜水艦を引き上げることはできません。そこで、CIAは当時、アメリカ海軍と武器や航空機に関する製造契約を結ぶなど実業家として成功を収め「地球上の富の半分を持つ男」と呼ばれていた大富豪のハワード・ロバート・ヒューズ・ジュニアと結託して、架空のマンガン掘削事業を隠れ蓑に利用しました。


CIAはヒューズの運営するヒューズ・ツールカンパニーにK-129を引き上げられる巨大なサルベージ船の建造を依頼。1972年11月に、排水量6万3000トン、高さ189メートルで、すべての付帯設備を含めるとパナマ運河にも収まらないという全長を持つ「ヒューズ・グローマーエクスプローラー」の建造がスタートしました。


グローマーエクスプローラーは沈没船を海底の土ごと持ち上げるための巨大な機械式の鉤爪(かぎづめ)を搭載。なお、鉤爪はロッキードが開発を担当したとのこと。さらに鉤爪で引き上げたK-129をソ連の衛星に探知されないように格納する巨大施設「ヒューズ・マイニングバージ」も併設されました。


こうして完成したグローマーエクスプローラーはマンガン団塊掘削船という表向きの顔を与えられた上で、1974年7月にリカバリーポイントに配置され、約1カ月にわたる諜報作戦を開始。なお、ソ連の監視の目をそらせるために億万長者のヒューズがマンガン採掘プロジェクトに大金を投じたというプレスリリースまで打ち、海洋採掘事業が大々的に発表されたそうです。

グローマーエクスプローラーはサルベージ開始から数週間後にK-129を引き上げましたが、水深約2.7キロメートルの地点で機体が分裂。結果的に潜水艦の前方部分だけが回収されたとのこと。なお、引き上げに成功したK-129からは6人の乗組員の遺体が発見され、アメリカ軍によってひっそりと葬儀が行われています。


なお、K-129乗組員の水葬を記録した極秘ムービーが公開されています。

M/V Hughes Glomar Explorer/Project Azorian - Burial At Sea - YouTube


こうしてAzorianプロジェクトではK-129の機体半分の引き上げに成功しましたが、肝心の軍事技術や暗号技術などは見つからなかったとされています。しかし、核魚雷や暗号表など有益な諜報情報を入手したとする説もあり、1997年に発刊されたクライド・W・ブルーソン著「The Jennifer Project」では、そもそも機体が半分しか回収できなかったというのも偽の情報であると記述されるなど、アメリカが有益な情報を獲得していた事実をCIAが隠蔽しているとする陰謀論も根強く残っています。

冷戦時代に最も複雑で極秘裏に行われた諜報作戦の一つに数えられるAzorianプロジェクトを成功させたグローマーエクスプローラーは、2006年にはアメリカ機械学会から「前例のない挑戦を敢行し成功した歴史的建造物」に認定されましたが、Public Radio Internationalの報じるところによると、スクラップ現場に搬出され、ついに解体されることになったそうです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「ヒトラーの失われた艦隊」と呼ばれるUボート3隻が黒海海底で発見される - GIGAZINE

人々から置き去りにされ、さび付き朽ち果てた戦車や戦闘機などの写真集 - GIGAZINE

英海軍の軽空母「インヴィンシブル」がネットオークションに登場 - GIGAZINE

8億円以上をかけて造られた1万メートル以上潜れる潜水艇が海底で大破 - GIGAZINE

インターネットを支える海底ケーブルを巡る知られざる盗聴戦争とは? - GIGAZINE

in メモ,   乗り物, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.