全米最後の「カセットテープ複製工場」で続けられる音楽カセットの製造風景


音楽プレーヤーやビデオデッキに「巻き戻し」と書かれていたのはもう過去の話で、最新の機器では「早戻し」と表記されていることに気づいて愕然とした人も多いはず。「巻き戻し」は記録メディアに磁気テープを用いていた時代の言葉だったわけですが、音楽がデジタルデータとして扱われるようになってからは、以前は誰でも使っていたカセットテープの姿を見ることはすっかり少なくなってしまいました。

そんな時代でも、世界にはカセットテープのサウンドを求める人々は存在しています。アメリカ・ミズーリ州で50年近くにわたってカセットテープの製造や複製を行ってきた企業、National Audio Companyは、全米でも最後になったというカセットテープ複製工場で新しい製品作りを続けており、そんな様子が以下のムービーでまとめられています。

The last audio cassette factory - YouTube


「人々はわれわれの仕事を見て『頑固だ』とか『バカげている』とか思うのでしょうね」と語るNational Audio Company(NAC)の社長、スティーブ・ステップ氏。しかし同社では、2015年という時代にありながら過去最高の生産数を誇るに至っているそうです。


工場内にズラリと並べられた装置の数々。これらは、複製元となる「マスターテープ」の音源を磁気テープに録音して複製する「デュプリケーター」という専用の装置です。いわばプロ用のダビングマシンといったところで、NACではこれらのマシンを使って空のカセットテープに音源を複製して音楽カセットを製造する業務を行っています。


朝になると、従業員がぞろぞろと出勤してきました。この日もテープ複製の仕事が山積みになっている模様。


NACは、「ブランクテープ」と呼ばれる生カセットを製造する会社として誕生したそうです。


1990年代から2000年にかけ、カセットテープに見切りをつけた多くのカセット複製業者は、CDに代表されるデジタルメディアの複製へとビジネスを転換し始めました。


その当時のNACはカセット複製ビジネスには携わっていなかったため、市場の縮小でダメージを受けることはなかったとのこと。しかしステップ社長はカセットが見直される時代が来ると踏んでいました。


そこで、同社では事業を転換したり撤退した同業者の買収を行い、使われていた機器を再生させてカセット複製事業への体制を整えていったとのこと。


ステップ社長の読みは見事的中。競合相手が少なくなったこともあり、同社のカセット複製ビジネスは好調にあるとのことです。


「スティーブ(・ステップ社長)と仕事をする最高の点は、彼が『アナログの王様』ということね」と語るのは、NACで生産管理を担当するスージー・ブラウンさん。「スティーブは『最後のカセットテープ工場』を目指してきたんだけど、いまや本当に最後のカセットテープ工場になったのよ」と誇らしげに語ります。


いまや、音楽スタジオでも姿を消しつつあるオープンリールデッキにセットされるテープ。この機器は1970年代に製造されたデュプリケーターで、NACではメンテナンスを続けて現役のまま使い続けているとのこと。


一方、こちらのマシンではまだテープが収められていないカセットが次々とセットされています。これは何の機械かというと……


スタンパーを使ってカセットの表面にアルバムジャケットを転写する装置でした。


次の工程では、まずは転写の済んだカセットを機械にセット。


するとカセットのリールが回転し、複製の済んだテープが巻き取られていきました。これぞ、アナログ時代のものづくりの姿。


このようにして、1日あたり2000本のカセットテープが生産されているとのこと。


この機械は、完成したカセットをフィルムでラッピングする機械。なんと1938年に製造されたものだそうです。


このような機械を使い続けることで、NACは現在でもカセットテープの生産を続けているというわけです。


NACで機材メンテナンスを担当するロバート・カバーストンさん。いかにもベテランといった雰囲気漂う人物です。


これらの機器を製造していたメーカーは、はるか昔に姿を消しています。カバーストンさんはこれまでの知識と経験をもとに、機材のメンテナンスを日々行っているそうです。


カバーストンさんが取り組んでいるのが、日々のメンテナンスに加えてこれらの技能を受け継ぐ技術者の育成とのこと。


しかし、ほとんどがプログラムで解決できるデジタル機器とは異なり、アナログ回路は多くの電気の知識が求められるため、技術者の育成は一筋縄では行かないのが難しいところだそうです。


デジタル音楽が全盛になった現在ですが、カセットテープなどのアナログ機器へ回顧する流れも生まれています。音楽の詰まったカセットテープを所有するという、一種のノスタルジー感に魅せられる人が増えている模様。


同社にもテープ複製の依頼はいろいろと舞い込んでいる様子。MARVEL映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のサウンドトラックの生産が行われていたり……


どういう経緯で舞い込んだのか、大御所ヘヴィメタルバンド「メタリカ」のアルバム「KILL 'EM ALL」の仕事も請け負っている様子。まるで自作テープのような独特の雰囲気にビビッと来る人もいるはず。


「35歳以下の世代でも、アナログのサウンドを好む人が多くいてくれるのは非常に心強く感じます」と語るステップ社長。


アナログサウンドに備わっている暖かい音質を再評価する人が増えており、その規模は拡大を続けているといいます。


ステップ社長は「私はiPodもMP3プレイヤーも持っていないし、いまだに携帯電話は従来のフリップ式(いわゆる「パカパカ」)だよ」と笑います。


デジタル全盛の時代に、音楽の原点ともいえるアナログの世界が生き続けているのはなんとも心強いところ。いつまでもこのような技術が受け継がれることを願わずにはいられないムービーでした。

・関連記事
食べ物のトルティーヤをレーザー光線でエッチングして演奏可能なレコードに変える - GIGAZINE

レコードのように自分で回すと音楽が再生できる結婚式の招待状 - GIGAZINE

アナログレコードの溝をプレーヤーの針がうねうね動く様子を顕微鏡で見るとこんな感じ - GIGAZINE

国営FMラジオの終了が決定しデジタルラジオへ移行開始 - GIGAZINE

192kHz/24bitのハイレゾ無圧縮音源は本当に聴き分けられるものなのか? - GIGAZINE

MP3ファイルの音質を聞き分られるか自分の耳をテストできる「mp3ornot.com」 - GIGAZINE

多くのファンを魅了しながら突然姿を消した謎の天才オーディオエンジニア「NwAvGuy」 - GIGAZINE

414

in ハードウェア,  動画, Posted by logx_tm