やるべき事を後回しにする「先延ばし行動」の背景にある「感情」を理解する事で問題解決を狙う取り組み方法とは

By Jack Lyons

今やるべき事や、将来のためになすべきことに手を着けられずに後回しにしてしまう「先延ばし行動」は、誰しも多かれ少なかれ心当たりがあったり、そんな自分に悩む人もいるはず。単に「逃げているだけ」と非難されることも多い先延ばし行動ですが、その背景には人間のある「感情」が横たわっている可能性があり、その感情を理解することで行動の改善が期待できることが明らかになっています。

To Stop Procrastinating, Start by Understanding the Emotions Involved - WSJ
http://www.wsj.com/articles/to-stop-procrastinating-start-by-understanding-whats-really-going-on-1441043167

何となくやる気が起きずに、ついYouTubeのムービーに夢中になったりゲームに現実逃避してしまったりする「先延ばし行動」は多くの人にとってそれほど珍しいことではないといえますが、そのような優柔不断な行動が慢性化している場合には従来とは違う目線からの対処が必要になってくるのかもしれません。スウェーデン・ストックホルム大学の研究チームは2015年8月に発表した研究内容の中で、慢性的な先延ばし行動はストレスに対処するための感情の働きであり、その結果、人間関係や仕事、健康面での問題を引き起こしてしまう可能性があることを明らかにしています。

◆「先延ばし行動」の問題点と原因
研究チームでは先延ばし行動を「将来の否定的な結果を予測できるにもかかわらず、自らの行動を自発的に遅延させること」と定義づけており、この行動によって人々は目の前にある近視眼的な満足や心地よい雰囲気を得る代わりに、長期的な観点でみた人生の「損失」を背負うことになるとしています。

By Laura

この分野について多くの著書を記しているカナダ・カールトン大学のティモシー・ピッチェル教授は、先延ばし行動の本質について「心地よくなることに屈すること」と解説。また、いわゆる「完璧主義者」の心理も先延ばし行動につながることが指摘されています。ある会社で業務マネージャーを担当するイギリス人のベン・ロックウッドさんは、性格は必ずしも怠惰ではないのですが、あらゆることに完璧さを求めてしまうがために仕事やプライベートを問わずに何も手を着けられず、色んなことを先延ばしにしてしまうことがよくあるとのこと。ロックウッドさんはそんな時の様子について「何でも完璧にやらないといけないと思うあまり、頭が『まひ』してしまい、何かに取りかかることが心配で仕方がなくなってしまうのです」と語っています。

ロックウッドさんは自分の将来に関わる重要な行動を起こす必要があるような時でも、ついジムに行ってトレーニングを行ってしまうことがあるとのこと。これは研究者が「moral compensation(道徳的補完)」と呼ぶ行動で、本来やるべき行動を先延ばしにする負い目を感じるかわりに、何か気分の良くなることを行ったり、生産的な活動を行って感情の埋め合わせを行うことを指しています。ロックウッド氏はこのような行動をとる自分について嫌悪感を抱いており、「『何かを先送りにしている』と誰かに言うぐらいなら、『銀行強盗に入った』と伝える方がよっぽどマシだ」とその心境を語っています。

By Ian Boyd

このような「継続的な先延ばし行動」をとる人について、これまではその原因と行動の意味について間違った解釈がなされていました。従来は「完璧にしないといけない」という「恐れ」から物事に取りかかることができないと理解されていた先延ばし行動ですが、実際には「衝動性」に関連するものであるということがわかっています。カナダ・カルガリー大学の組織行動論学者のピアーズ・スティール教授によると、この行動は「恐れ」に起因する衝動に駆られることで、即座に行動を起こしてしまうというものだそうです。

また、数々の研究データによると、衝動的な傾向が低い人々の場合は「恐れ」が行動を始める原動力になっているのに対し、衝動性の強い人は「恐れ」を感じることで思考が停止してしまう傾向にあることが判明しています。スティール教授によると、衝動性の強い人は「恐れ」に対処することが下手で、何か他のことを行うことで悪い感情を取り去ろうとする傾向にあるとのこと。

継続的な先延ばし行動や、極端な先延ばし行動は、結婚生活の破綻や失業などさまざまな問題を引き起こす可能性が高いと専門家は指摘しており、常習的に先延ばし行動をとっている人物は「うつ」や不安神経症にかかる確率が高く、心身の健康状態も低くなる傾向にあることが判明しています。

By Adrian Black

とりわけ、先延ばし行動が身体面や健康面に及ぼす影響についてはまだあまりよく知られていない現状があります。イギリス・シェフィールド大学のフスキア・シロワ教授の研究内容からは、先延ばし体質にあり高血圧や心臓病を患っている人々は、病気に前向きに対処する割合が低くなる傾向にあることが明らかになっています。シロワ教授は、そのような人々は治療の重要性を良く理解せず、効果的な治療活動から逃げる行動をとり、病気にかかっている自分を責めて病気であることを忘れようとする傾向が見られることを指摘しています。

シロワ教授はさらに、先延ばし体質にある人は自分が下す判断や行動が将来において自分にどのような影響を及ぼすかを理解する能力が弱いことを指摘しています。その状態を「一時的な近視眼性(temporal myopia)」と名付けたシロワ教授は、先延ばし体質にある人は自身の将来を「抽象的」かつ「他人事」のように捉え、自分の将来像に対して「感情的なつながりを持たない」と語っています。この傾向の原因についてシロワ教授は「将来の心配よりも、いま目の前にある心配事に目を向けざるをえないほどの強いストレス状態」を挙げています。

◆「先延ばし行動」をやめるための対処法は
このように、「先延ばし行動」にはさまざまな弊害が存在していることが浮き彫りにされてきました。これまでの先延ばし行動に対する対処法としては、問題を明確にして解決までの予定をマネジメントする「タイム・マネジメント」が有効とされてきたのですが、専門家の間からはこの方法だけでは大きな効果が得られないという指摘が挙がっているとのこと。より効果的な対策を行うためには、感情を制御する観点を盛り込むことが必要であるとされています。

その方法の1つとして、先延ばし体質にある人に対して「何かを始める際に『強い心配』のような感情を抱いていることを自覚させること。ただしそのことを理由に自己批判させない。次にまずは作業に取りかからせ、あえて視野を狭くした状態で少しずつ物事を進めさせること」が挙げられています。

また、博士課程で臨床心理学を専攻するアレクサンダー・ローセンタル氏が発表した研究内容では、インターネットを用いた認知行動療法の有効性が語られています。この研究では150名の被験者を2つのグループに分け、それぞれのグループに課題を与えて自分自身、あるいはセラピストの協力を得て問題を解決することを求めました。

片方のグループには初めに最終的なゴールを設定させ、さらに長期的なゴールを短期的な細かいゴールにブレイクダウンすることで問題解決の取り組みを進めさせ、ブレイクダウンした小目標に対するスケジューリングや小目標をクリアした際の「コーヒー休憩」といった報酬に至るまで非常に細かくスケジュールを設定。もう一方のグループには、長期的なゴールだけを与え、被験者にストレスのかかる状態のまま同じ問題解決に取り組ませています。

By Jenny Poole

この結果、問題をブレイクダウンしたグループではもう一方のグループよりも高い問題解決能力を示すことに成功したことが明らかになりました。さらに、その中でもセラピストの助けを借りた被験者はさらに良い結果を残したことも判明しており、適切なマネジメントとアシストがあれば先延ばし行動は回避することが可能で、さらに良い結果を生むことにもつながることが明らかにされています。

スティール教授の研究チームでは、ソフトウェア開発企業と協力して先延ばし行動に対処する方法の研究が行われています。香港に拠点を置く企業・Saentと共同で開発したソフトウェアを使うと、例えばインターネットでFacebookを開く際にはページ表示までに15秒かかったり、本来は必要のないパスワードを求めたりといった手間を意図的に挿入することで作業の「脱線」を防止する仕組みが考えられています。

By ben dalton

このように、ひと口に「先延ばし行動」といっても軽度なものから継続的に発生するものまでそのレベルはさまざまであり、その背景には「感情」が存在していることが判明しています。ピッチェル教授は「もしあなたが一時的に物事を先延ばしにしているだけの人物であれば、余計なことは考えずにとにかく次のタスクに取りかかってください。一方、継続的な先延ばし体質にある人の場合はセラピーを受けて自分の感情をよく理解し、問題に対処する方法を見つけることが大切です」と語っています。

By BK

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