インタビュー

ゲーム発売直前にアニメ化が発表された「蒼の彼方のフォーリズム」の原作&アニメメインスタッフ対談


昨年2014年11月28日(金)に発売され、萌えゲーアワード2014 大賞ユーザー支持賞を受賞した「蒼の彼方のフォーリズム」は、ゲーム発売直前にアニメ化が発表され、さらに2016年にはPS Vita版の発売も予定されるなど、次々と展開が決まっています。

原作をプレイした人からしてみれば、どういうストーリーになるのか気になるところであり、同時にこの作品をプレイしていない人からすれば、萌えゲーアワードを受賞したという作品がどんなアニメになるのかが気になるはず。現在、まさにアニメ化に向けて作業が進められているところなのですが、忙しいスケジュールの中、原作ゲームのメインスタッフとアニメのメインスタッフに集まってもらって、どういった作品が作られようとしているのか、話を聞いてきました。

TVアニメ「蒼の彼方のフォーリズム」特設ページ / sprite
http://aokana.net/animation/

TVアニメ「蒼の彼方のフォーリズム」(@aokana_TVanime)さん | Twitter
https://twitter.com/aokana_TVanime

作品の概要はこんな感じです。

反重力を発生させるシューズ、通称"グラシュ"の発明により、人が簡単に空を飛ぶことが出来るようになった世界。
空を飛ぶ新興スカイスポーツ「フライングサーカス」が流行し、高校の部活動にまで採用されるようになっていた。
青く広がる海に囲まれた島々を舞台に「フライングサーカス」にかける少女たちの爽快青春ストーリー。
時にはぶつかり、励まし合い、それぞれの目標に向かいながら、強力なライバル達に立ち向かっていく――

GIGAZINE(以下、G):
まずは、どういったメンバーが集まっているのか、それぞれ作品で果たした役割とともに自己紹介をお願いします。

spriteプロデューサー サカモトアキラさん(以下、サカモト):
ゲーム版でプロデューサーを務めていますサカモトと申します。

キャラクターデザイン 鈴森さん(以下、鈴森):
原作のキャラクターデザイン・原画・演出・アートディレクターを担当しました鈴森です。

企画・シナリオ担当 木緒なちさん(以下、木緒):
原作の企画とメインシナリオ監修を担当した木緒なちです。

エンカレッジフィルムズ 追崎史敏さん(以下、追崎):
アニメ版の監督をやらせていただく追崎と申します、よろしくお願いします。

吉田玲子さん(以下、吉田):
シリーズ構成と脚本の吉田です。

G:
spriteさんの作品では以前、「恋と選挙とチョコレート」がアニメ化されていますが、本作の場合はどうやってアニメ化の企画が動いていったのでしょうか?

サカモト:
原作の企画をしているときから、木緒さんと打ち合わせをしていて「アニメ化できるような作品になるといいね」と意識はしていましたが、具体的に付き合いのあるアニメーション制作会社さんがあるからやろうということではありませんでした。うちの営業担当者が、別の会社の方と営業をしているときに、たまたま間に立つ方がGONZOさんと話をしてくれて話が進みました。実は、アニメ化が決まったのはゲームが発売される3週間ぐらい前でした。

G:
アニメ化の発表がゲーム発売の直前だったので、もう制作中から企画が動いていて、ゲーム発売に合わせてアニメ化を発表するという段取りだったのかと思ったのですが、そうでもなかった?

サカモト:
いやー、直前でした。決まったらすぐ発表した方がいいんじゃないかと言われたので、発売する2週間前の11月14日に発表させていただきました。

G:
アニメ化が発表されるときには、すでに制作の第一段階には取りかかっているのかなという勝手なイメージがあったのですが、本作の場合はもっと早い段階での情報公開だったんですね。

サカモト:
はい。発表時期と放送の時期とを照らし合わせていただけると、これがウソじゃないということはわかっていただけると思います(笑)

G:
ゲームの企画段階でアニメ化できたらいいねという話があったとのことですが、決まっていたわけではなかったと。

サカモト:
そうですね、スタッフの中ではアニメになればいいねという話はしていましたし、アニメ映えはすると思いましたが、そうなったのはあくまで原作の企画を作った結果そうなっただけで、最初からアニメを見越すだなんて、そんな確率の高い話ではありませんから(笑)

木緒:
アニメの作り方を知っている人間が企画したら、こんなややこしいことは考えていなかったと思います(笑) あくまで、アニメを作ることに対しては素人の僕たちがイメージしたものを作り上げた結果、「これはアニメ化、大変ですよ」というものができあがったというところです。

G:
では、アニメを作る側の立場としては、話をもらったときの第一印象はいかがでしたか?

追崎:
話をもらったのは2014年の年末だったと思います。タイトルで検索してみたら、公式サイトに「アニメ化決定!」と書いてあって、「おおっ!?発表されている!?」と驚いた覚えがあります。こんなに早いタイミングで発表されているのはなかなか異例のパターンで「ひょっとして、急ぎの仕事なのかな?」とドキドキもしました(笑)


吉田:
私は監督が追崎さんだと決まった後だったと思います。

追崎:
あれ、僕も玲子さんの名前が入っているのを見たような……きっと近い時期に話をもらったんでしょうね(笑)。僕は、初監督作品の「ロミオ×ジュリエット」でご一緒させていただいて、その後も顔を合わせることはあったのですが、仕事をするのは久々だったので、嬉しいなと思いました。

吉田:
そうですね、会う機会はいろいろなところでありましたけれど、仕事だと久々ですね(笑)

G:
アニメ化にあたって、「これはやるべき」「これはやらないでおこう」など、現時点で決まっていることがあれば教えてください。

追崎:
基本的には原作が完成されている世界なので準拠していますが、ゲームとアニメでは媒体が違いますし、そのままコピーができるわけでもないので、どう変換しようかなと話し合いながら調整しているところです。

G:
原作には複数ヒロインのルートがあるので、アニメ化にあたってはどういう構成になるのか、誰のルートになるのかというのは原作をプレイした人が一番気になるポイントだと思います。現時点で出せる情報はありますか?

鈴森:
明日香とみさきのウェイトが大きく、中心で大事に扱われているというのが今の流れですね。

木緒:
原作でも、この2人のお話は表裏というか、人気でも1、2を争う感じなので、この2人の話を追っていく形でやっていただいています。原作スタッフから見ても、期待を裏切らない形になっているんじゃないかなと思います。

鈴森:
原作の主人公である晶也(まさや)が一歩引いて、この2人が中心に立つ感じになっていますね。

サカモト:
原作でも評判の良かった2つのルートのいいところを集めて作っているという感じですね。

G:
「蒼の彼方のフォーリズム」では、オンラインユーザー登録フォームでメインキャラクター・サブキャラクターの人気投票や、作品の評価がつけられるようになっていますが、フリーコメント欄からアニメについての要望や意見などは寄せられていますか?

サカモト:
「この子のルートをアニメで見たい」という方が多いですね。


鈴森:
好みのヒロインに限らず、「フライングサーカスをアニメで見たい」という声は大きいです。「動いているところが見たい」と。

・注
この世界はほぼ現代の日本とそっくりだが、重力を無効化する「反重力粒子」が見つかっている。「アンチグラビトンシューズ(主にグラシュと呼ばれる)」は履くことによって全身に反重力子「メンブレン」を纏うことができ、自由に空を飛ぶことができる。「フライングサーカス」はこのグラシュを利用した新興スポーツで、競技者は専用のスーツとグラシュに着替え、縦横飛行可能領域の中を飛び回り、制限時間内までにどれだけ多くのポイントを獲得できるかを競う。

G:
確かに、作中に登場する「フライングサーカス」は、架空のスポーツですが実在してもおかしくないようにじっくり丁寧に描かれていて、アニメでどう描かれるのかがとても楽しみな題材ですね。監督としていかがでしょうか?

追崎:
現時点では、「私も楽しみにしています」としか言えない段階ですね(笑) この作品の肝でもあるので、まずは「こういうスポーツなんです」という説明を受けて理解するところから始まりましたが、熱いドラマをやっているなと感じていて、どうしようかな?こうしようかな?とイメージを膨らませています。主人公たちが「フライングサーカス」を楽しんでいるのと同じように、僕たちも作っていて楽しい作品にしたいと思っています。

G:
アニメとして「空を飛ぶ」という映像を作るのは難しいものですか?

追崎:
そうですねえ……そこは千差万別ですね。メインに据えている明日香が空を飛ぶことやフライングサーカスに対して「楽しい」という感情を抱いているので、それをどれだけ表現できるだろうかということと、ドラマ部分が熱いので、その気持ちに同調してもらうためにはどうしたらいいかな、と頭をひねりながら作業しているところです。

G:
吉田さんはすでに作業をかなり進められているんですか?

吉田:
そうですね、半分をちょっと過ぎたところです。フライングサーカスは架空のスポーツですが、アニメの1話の尺はそれほど長くないですから、どれぐらい理解してもらって盛り上がるところまでいくかが工夫のしどころです。今は、話の内容に合わせて、アニメの中でうまく盛り上がる試合展開をどうするか、みんなで考えて、試行錯誤しているところです。


G:
アニメ側、ゲーム側双方のスタッフが協力しつつ作り上げているところなんですね。

木緒:
ゲームだと動きの描写について読者の想像に任せられる部分というのがありますけれど、アニメにするとそれが全部具体的になってくるので「説明できない」というわけにはいきませんから……最初は「書いてあるものをアニメにしてもらえばいいんだ」と思っていましたが、やっているうちに「そんな簡単なものじゃなかった……」と実感しています。

鈴森:
原作では、こういう言い方はよくないかもしれませんが「こうしておけば大丈夫だ」という部分があったんですが、いざアニメにするにあたって「厳しいです、すみません」となってしまって(笑)、新たに設定を起こした部分もあります。

木緒:
原作があるから楽にコンバートできる、という部分って、実はそんなにないんですよ。

G:
そうなんですね、監督も仰っていましたが、媒体の違いが結構大きいとのことなんですね。

木緒:
はい、やってみないとわからない部分も多々ありました。

追崎:
こちらから「こういう試合展開にしたいんですが、どうすればこう持って行けますかね?」と相談したりすることもあります。

鈴森:
そうすると「わかりました、ちょっと考えてみます」とフィギュアを使って確認したり、あるいはこのボードを使ったりします。


G:
これが……!

鈴森:
オフラインフライングサーカスです。これを動かしてゲームの状況を把握したり、キャラクターの位置確認をしたりしています。

木緒:
市販フィギュアの足に羽をくっつけたものも使います。

追崎:
スタート時点でどのキャラクターがどこにいて、そこから試合が展開したときに、それぞれどこにいるんだろうかと。当然のことなんですが、一つ一つ押さえていかなければいけません。


木緒:
「このキャラとこのキャラ、30mぐらい離れているのに普通に喋ってるぞ?」「あっ!?」とかね。

追崎:
もちろん、演出上そういう見せ方をすることもありますが、位置関係がふわっとしたままでは動かせないので、理解した上で確認しつつ「では、こう動かしましょう」と相談しています。

G:
なるほど。理解した上で、あえてそういった構成にすることもあるんですね。

追崎:
アングルを工夫したり、見せ方を変えたりと、やり方はあります。でも、せっかく緊迫したシーンなのに、何十mも離れたところで言い合いをしてるのをただ見せても面白くありませんからね(笑)

G:
こうしてアニメを作っていくにあたって、双方でこだわりたいなぁと思っているところはありますか?

木緒:
アニメになる時、「これは取り入れてもらえるかな?」と心配していたのはストーリーの大枠や展開、キャラクターがどう成長するかという部分でした。我々3人はやはりゲームにすごく思い入れがあるので、アニメ化でどうなるんだろうと思っていましたが、すごくいい形で進められていると思います。また、ゲームから変更しなければならない部分についても、相談して、納得できるものを作っていただいています。

G:
自身の作品のアニメ化を、藤子・F・不二雄さんは「嫁に出す」と表現していましたが、この作品に関してはとてもいい関係が築けているなと感じます。

木緒:
いやぁもう、本当によくしていただいて……。

鈴森:
逆に、娘の新しい良さが見えてきたかもしれません。

追崎:
娘さんを預かってしまって……(笑) こちらでは、ドラマが熱いものなので、キャラクターの感情をちゃんと追わなければならないだろうと考えています。視聴者が見た時に納得できるもの、感情移入できる展開にしなければならないですが、やることが多いからといって段取りをなぞるだけにすると視聴者は置いてけぼりになってしまうので、そこは調整しつつ気をつけています。

G:
話としては段取りを踏まなければならない部分はもちろんあると思いますが、段取り通りだと思わせないコツみたいなものはあるんでしょうか。

追崎:
コツというほど大それたものではありませんが(笑)、キャラクターが感情に沿って自然に動いてくれる展開を用意できれば、「原作の展開がこうだから、こういう流れになった」ではなく、キャラクターたちが自発的に動いたように見てもらえると思います。

G:
ゲームではイラストと文章で見せていた「フライングサーカス」を、アニメだと動かす必要が出てきます。躍動感を伝えるために気をつける点などはありますか?

追崎:
そうですねぇ……作業はこれからですが、普通のファンタジーやバトルアクションではなくスポーツなので、動きのちょっとした隙間というか合間の仕草や表情などが大事になってくるのかなと思います。アクションの動きは当然ですが、戦い終えた後のちょっとした仕草、ピンチになった瞬間の表情などに気をつけたいというのはありますね。彼女たちは超人ではないので、人間くさい芝居というのが必要なんじゃないかなと思います。

G:
原作とアニメではキャラクターデザインが変わってくると思いますが、アニメのキャラクターになるにあたって「ここが大事だよ」「ここは気をつけて欲しい」と伝えるポイントは何かありますか?

鈴森:
現時点で、とても再現度の高いものを用意していただいているので、何も言うことはありません。むしろ、「ここはどうなってるんですか?」と突っ込まれて「あっ、すいません、こうです」と補足しているような感じです。その他のデザインにしても、たとえばグラシュだと、アニメのために360度のデザインを作っていただいたときに「これだと足が入らないかも……」ということで、調整してもらった部分があったりします。

G:
ということは、ゲーム版からさらにブラッシュアップされたデザインが見られる……?

鈴森:
はい。

アニメ版の明日香のキャラクターデザインはこんな感じ。


そして、初公開となるみさきのキャラクターデザイン(顔正面)


G:
透明感のあるキャラクターデザインだけではなく、背景美術の美しさもある作品だと思いますが、これもまた、アニメ化にあたっては大変なポイントではないでしょうか。

追崎:
大変ですっ!

(一同笑)

追崎:
苦労はしますが、それだけ期待していただけるものにしなければと思っています。

G:
原作の背景が相当こだわって描かれていますよね。

鈴森:
実際に舞台にした九州地方の島の写真を集めたり、空や海を舞台にした過去のアニメの背景画集を見たりして「これを目指そう」と作ったものです。でも、今いただいている美術ボードもとても美しいもので、むしろ勉強させていただいたこうと、うちの美術スタッフのテンションが上がっています。

追崎:
アニメのスタッフも、原作に負けないものを作り出そうと頑張っているので、いい相互作用が出てくればと思いますね。

G:
なぜこの島々が舞台になったんですか?

サカモト:
「空を飛ぶ」という要素は出てきますが、近未来にしてしまうと親近感が沸かなくなってしまうので、SFではなくちょっと田舎の現代日本という世界観で作りたいと考えたんです。その中で場所を選定していき、九州地方の島を舞台にすることになりました。

鈴森:
高低差のある島ならグラシュによって生活が便利になるだろうということで、美術スタッフがGoole Earthで「いい島ないかな~」と日本中の島の外周をチェックしました。いくつか候補が出た中で、この舞台になった島は形が美しく、上から見た時にどこからでも島と海が入るので「ここにしよう!」と決めました。


G:
そんな地道な作業が……!

木緒:
企画の草案を作った時点ではもっと近未来を想定していて、あまり現代から乖離しすぎるのはどうだろうかという話をしていたら、その美術資料がドサッとやってきて、「なるほど、これはちょうどいいな」と。

鈴森:
近未来を想定していたときには、空飛ぶ島がゴウンゴウンゴウン……というイメージも考えていたんですが、SFではないということで今の形に落ち着きました。

木緒:
もしあのままだったら、アニメ化は本当に難しいものになったと思いますよ。

追崎:
考えたくないですね(笑)

鈴森:
「空飛ぶ田舎の女子学生」で良かった(笑)

G:
非常に良い制作環境であることを感じるのですが、こうしてアニメ化でさらに設定を詰めたりしていると、ゲームに反映させたい部分も出てくるのではないですか?

鈴森:
そうですね……できあがったアニメを見た後、もう1回ゲームを作り直してみたいという気持ちはあるかもしれませんね(笑)

木緒:
それはあるかもしれない(笑) こうして再構築していると「もっと削ぎ落とせたんじゃないか」「もう1シーン入れられたんじゃないか」という部分がどうしても出てくるので、もう1回何かやりたくなるかもしれません。すごく幸運なセッションができたなと思います。


鈴森:
設定にしても、いろんなスタッフさんに愛していただいているのを感じます。

木緒:
ただ、終わった後は「いいやりとりができたなぁ」という満足感があるのですが、打ち合わせに出かける前は「何かやらかしていないだろうか、迷惑をかけていないだろうか」と心配です。

追崎:
全体監修で終わりではなく、細かい部分についても「こうしたらどうでしょう」と提案をいただいたり、相談に乗っていただいたりと、まめにサポートをしていただいています。

G:
すでにいろいろと打ち合わせを進められていると思いますが、原作のスタッフの方に聞いてみてより深くわかった部分などはありますか?

追崎:
やはり、それぞれのキャラクターの掘り下げについては大きく助けられていますし、「このキャラクター、ここはどうしましょうか」と相談しつつ深めていく時もあります。

G:
吉田さんは脚本作業の中で、印象的なキャラクターだとか、この場面はいいなぁという部分はありましたか?

吉田:
書いているとそれぞれのキャラに思い入れが出てきますね……。書くときには、この4人のメインビジュアルの感じが頭にあったので、なるべく女子たちの個性やキャラクターが「跳ねる」ようにと思っています。また、彼女らの気持ちを理解して、試合を見ていて彼女らを応援したくなるようにと考えています。作業をしている6話ぐらいまではいい形で原作の方々とも協力しつつ作り上げていて、ゲームとは同じでも何かが違う世界ですが、親近感を持ってもらえるキャラクターになっているのではないかと思います。

鈴森:
ゲームだと主人公であるコーチの目線で全てを見ていましたが、アニメだと群像劇的でカメラがいろいろな人たちのところに行くので、「こういうところもあったのか」と身近に感じる魅力も出てきます。僕自身、脚本を読んでいて「ああ、そうか……」と思ったりすることがあります。どうしても、コーチとしての目線、同級生の男の子からの目線でしたから、景色が違うといいますか。

木緒:
ヒロインたちの心情は主人公が推し量るしかなかったんですが、アニメではヒロインたちの目線で、ヒロインたちの言葉で出さなければならなくなるので、こちらも改めて考え直しになるんです。「このとき、こう考えていたんだったら、こういうセリフを言わさなきゃいけないよね」と。

吉田:
ゲームだと晶也目線なので女の子同士の横の関係がありませんが、アニメではその関係が変わり、ヒロインたちの横のつながりが見えてくるというのが大きいですね。私はやはり女性なので、女の子に感情移入しやすいですから、「彼女たちから見た晶也」という方が共感しやすいんです。それは、ゲームを作っている方々やプレイする方々とは違う目線なのかなと思いますね。

鈴森:
晶也はちょっと薄暗いところを持っている主人公だったので、そのフィルターを通してヒロインたちを見ていましたが、吉田さんの脚本で視点が変わることによって「あっ、この子たちはこういうかわいい面もあったんだ!」と気付かされる部分がありました。

木緒:
確かにそうですね。話の流れは原作に沿ったものなんですが、見ていただくとまったく別物であるという印象を受けるかもしれません。これはまったく悪い意味ではなくて、新しいものが生まれた、新鮮なものができたと僕は捉えています。

サカモト:
原作ファンの方がアニメを見ると、もっとキャラクターたちのことを好きになると思います。すごくかわいいので(笑)

木緒:
ここにいる原作スタッフ3人は「蒼の彼方のフォーリズム」をプレイした人間の中でも一番、「原作愛に溢れている」と思うんです。


(一同笑)

木緒:
でも、この3人がこれだけ納得しているならば大丈夫だろうと思います。

G:
脚本作業の中で、自分で当初想定したよりも話が弾んだような部分はありますか?

吉田:
そうですね……思っていたよりも、明日香やみさき達以外も動き始めたという感じがしています。最初はビジュアルにいる4人で進むかなと思いつつ作業をしていたんですが、周りのキャラクタ-たち、さらには他の学校の生徒たちもいるので、思ったよりもいろんなキャラクターにスポットが当たっているなと思います。真白や莉佳にしても、より前に出てきたなと。

鈴森:
前に出たがるキャラクターが多いですよね(笑)

吉田:
佐藤院さんとかね(笑) 書いていて、思わず「佐藤院さん」ってさん付けで呼んじゃうぐらいです。あとは、例えば実況を担当する実里なんかも、キャラクターが勝手に前に出てきちゃいますね。

G:
特にこのキャラクターは勝手に走り出してしまうなぁというのは……

吉田:
真白ですね。独自のポジションを保っていて、かつ女の子らしいかわいい面もあるので、どなたが書いても弾むんだと思います。

鈴森:
脚本だと、ゲームでは何百もあったセリフがぎゅっと凝縮されているので、かわいさも凝縮されていると思います。

G:
監督のお気に入りのキャラクターはいますか?

追崎:
こうして作品に触れているといつもそうなんですが、親目線になってしまうというか、作中でいうと各務先生ポジションの立ち位置でしょうか。キャラクター誰か1人に入り込むというよりも、それぞれのかわいさが見えてきて、皆の良さを拾ってあげたいなと思ってしまいます。

(一同うなずく)

G:
ゲームでのセリフの量は、アニメですべて使うわけにはいかないぐらいのボリュームがあると思います。落とし込んでいく作業というのは大変ではないですか?

吉田:
そうですね。どこを削り、どこにスポットを当てるのかは毎回苦労しつつ、みんなで相談して進めています。

木緒:
このシーンを立たせるならここは削らないと、というのは我々もきっとそこになるだろうなと想定できている部分なので、問題なく進んでいます。

鈴森:
「原作を短くした」という印象ではなく、うまく再現していただいているなという印象です。それこそ、原作には出てこないけれど「あれ?ここ、すごくいいな」というシーンもあったりします。

木緒:
見ていて無駄なシーンというのはなく、1つ1つのシーンがちゃんと理由付けされているなと思います。

G:
原作ファンの方の感想を見ていくと、キャラクターソングが良かったという声が結構見られました。現時点で監督にぶつける質問ではないかもしれませんが、アニメ版での歌の展開などの予定は……。

追崎:
どうなんでしょうね?(笑)。でも、すでにオープニングの仮歌は作っていただいていていいものができています。

G:
歌ではない音楽の面での質問ですが、アニメ用にすべて新しい曲が作られるのでしょうか。あるいは、原作のBGMが使われるのでしょうか。

追崎:
やはり、原作のイメージは絵だけではなく音もあると思いますので、活かす方向で考えていて、提案もいくつかいただいています。

鈴森:
「ここではこの曲とかどうでしょう?」という感じで伝えさせていただきました。

G:
ずっとお話をうかがってきて、すごく原作ゲーム側とアニメ側が協調した幸せな現場で作品が作られていっているなという印象を受けます。ここでこういった質問は難題かもしれませんが……どこもこうした幸せな現場になるものですか?

(一同笑)

追崎:
どうなんでしょうか?(笑) こういうケースが希だということはないと思います。

木緒:
僕が関わらせていただいた別の作品も、すごく幸せな現場だったと聞いています。それは、今、監督をやられている世代がゲーム好きな世代の方なので、ゲームのことをよく理解していただいていたからなんです。だから、今後はむしろ幸せな現場が増えていくんじゃないかというイメージを持っています。

追崎:
アニメを作っている側も普段はゲームで遊んでいるし、ゲームを作っている側も普段はアニメを見ていて、話の共通項があったりするので、うまくやれるんじゃないかなと思いますね。

吉田:
そうですね。作り手側にアニメを好きな方が増えていて、「自分の作品がアニメ化される」ということをストレートに楽しむのではなく、「自分の作品がアニメ化されたらどんな作品になるだろう」ということを楽しんでいらっしゃる方が多くなっているのかなと思います。自分でマンガを描いたりゲームを作ったりするのとは違う、大人数で行うアニメ制作そのものを楽しむ原作者さんが増えている気がしますね。


G:
なるほど……最後の最後にとんでもない質問で失礼いたしました。では、皆様から一言ずつメッセージをいただければと思います。

追崎:
シナリオは進んでいますが、ここからまだコンテ作業ほか諸々残っていますので、現時点では「頑張ります」としか言えないですね。明日香とみさきの2人を中心にしつつ、真白や莉佳、さらに原作のキャラクターの個性を活かしたストーリー展開をしていく予定ですので、オンエアを楽しみにしていただければと思います。

吉田:
原作者さんサイドにも協力していただいて、「フライングサーカス」というものがなるべくわかりやすく、盛り上がるものになるようにと努力しているので、それを頑張っている女の子たちの姿を応援してもらえると嬉しいです。

木緒:
原作ゲームにあった「楽しんで何事もやる」「前向きな気持ちで取り組んでいく」という部分について、アニメでも一貫してやっていただいていると思っています。見た後に力をもらえるような作品になるだろうなと僕も楽しみにしていますので、ぜひ通して見てください。

鈴森:
原作もすごく作るカロリーの高い作品でしたが、アニメはその何十倍もカロリーが高い作品だなと感じています。制作の方々をはじめみなさんにすごく頑張って作っていただいていますので、見届けていただければと思います。

サカモト:
スタッフのみなさんがすごく原作に気を遣ってくださっていて、例えば、キャラクターのアクセサリー1つのデザインまでも確認があったり、何でもかんでも原作チェックにかけていただいて……こんなに幸せな現場は本当にもう二度とないかもしれません。ありがたさで一杯です。

(一同笑)

サカモト:
それを受けて、こちらもできる限りのことはしようと思っていて、すごくいい関係ができていると思います。ファンの方も安心して放送を楽しみに待っていただければと思います。

G:
本日はありがとうございました。

アニメ「蒼の彼方のフォーリズム」は現在、アニメ化企画が進行中。続報を楽しみにしていてください。本日・8月27日(木)には、対談会場に貼られていたこのイメージビジュアルが解禁となりました。


なお、2016年にはPlayStation Vita版「蒼の彼方のフォーリズム」が発売される予定で、その直前の2015年12月末にはディファ有明で「sprite LIVE 2015」が開催されることになっているので、ファンの人はこちらもお楽しみに。

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in インタビュー,   アニメ,   ゲーム, Posted by logc_nt

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