「デアデビル」などの独自配信とともにやってくる「Netflix」の日本戦略を徹底解説、一体何がすごいのか?


世界50カ国以上で展開し6500万人以上のユーザーを抱える映像配信ネットワーク「Netflix」が2015年9月2日(水)から日本でのサービスを開始します。月定額制で動画が見放題という形態はすでに存在していますが、Netflixではユーザーの視聴履歴を参考にした独自のレコメンドシステムで大量のライブラリーの中からおすすめ作品を選び出していて、75%のユーザーがこのシステムによって次に見る作品を決めているというほど。作品自体も、過去から現在に至るまでの名作映画、傑作ドラマだけではなく、独占配信の最新シリーズも用意。直近の作品としてはマーベルの「デアデビル」がオリジナルシリーズとして始動しています。

Netflix
http://www.netflix.com/jp/


◆Netflixのオリジナルシリーズ「デアデビル」


「デアデビル」は1964年にスタン・リーが生み出したマーベルヒーローの1人。「X-MEN」「アイアンマン」など世界規模の敵と戦うヒーローがいる一方で、「デアデビル」は自分の生まれた町を守るために犯罪者たちを退治しています。


2003年に1度映画化されていますが、本作はリブートした完全新作で、Netflixによるオリジナルシリーズとなっています。

これが主人公のマット・マードック。子どものころに化学物質を浴びる事故に遭って視力を失っています。マット役は映画「スターダスト」の主役トリスタン・ソーンやドラマ「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」のオーウェン・スレーター役などを演じたチャーリー・コックス。


マットは親友のフォギー・ネルソンとともに弁護士になり、生まれ育ったニューヨークのヘルズ・キッチンで人々を守るべく、その力をふるっています。


弁護士事務所で秘書を務めているカレンも、実は2人に助けられた人々のうちの1人。


同僚が殺害された事件で、現場に居合わせたため唯一の容疑者として疑われるカレンのもとに現れたのがマットとフォギーでした。彼らはこのとき弁護士として仕事を始めてわずか7時間。ここで、「経験はないが依頼人が欲しい弁護士」と「お金はないが弁護士が必要な依頼人」とで利害が一致することに。彼らの出会うシーンはこんな感じです。

「デアデビル」マット&フォギーとカレンの初対面 - YouTube


しかし、この世界には法の力だけでは太刀打ちできないこともある、と実感したマットは正義を求める「覆面の男」として夜な夜な悪と戦うことに……。


マーベルのヒーローものというと、主人公たちは特別な武器や超能力を持っていて、敵もまた「超技術」と呼べる規模の対抗手段を出してきてド迫力のバトルが繰り広げられます。しかし、「覆面の男」は正体が分からないように顔を隠しているものの、ファンタジーの域に足を踏み込んだような武器は持ち合わせていません。あるのは、子どものころの事故で失った視力の代わりに得た、空気中の鉄の匂いをかぎ分けることで誰かが出血していないかどうかわかったり、鼓動の音で相手がどこにいるのかがわかったりする「超感覚」と、師・スティックから教わった武術のみ。


あくまで生身なので、ナイフで切られたり銃で撃たれたりすると、それだけ大きなダメージを受けます。しかし、それでもマットは戦い続けます。そんなマットの姿、そしてマットを支える周囲の人々との人間模様も見所の1つ。


本編中に出てくる戦闘シーンの一部はこんな感じです。

「デアデビル」覆面の男として戦うマードック - YouTube


そんなマットたちの動きの一方で、ヘルズ・キッチンの支配を企てているのが「キングピン」ことウィルソン・フィスク。演じているのは映画「フルメタル・ジャケット」の微笑みデブことレナード・ローレンス役や、「メン・イン・ブラック」で宇宙人に皮を奪われた農夫・エドガー役、「ジュラシック・ワールド」のインジェン社警備担当・ホスキンス役、ドラマ「LAW&ORDER:犯罪心理捜査班」ロバート・ゴーレン役などで活躍するヴィンセント・ドノフリオ。


不気味な存在感を見せるフィスク。しかし、彼は彼自身の「正義」のもとに行動しています。


以下の予告編映像では、「子どもの頃はヘルズ・キッチンから離れたかったが、今はこの街が私の一部だと気付いた」という、フィスクの内面が少しだけ語られています。

Netflixオリジナルシリーズ「デアデビル」予告編 - YouTube


ヘルズ・キッチンを守るべく動く「覆面の男」が、ヘルズ・キッチンを支配しようとするフィスクと衝突するのは必然。


そして、フィスクと戦いつつも日々の弁護士としての業務も続きます。これも、マットがヘルズ・キッチンを守っていくために必要なこと。


作中では、マットとフィスクとの戦いを通して、「正義の行いとは何か?」「正義と悪の境界線とは?」というテーマが描かれています。


メインビジュアルではこうやって大きく出てくる「デアデビル」ですが、ここまでの映像に出てきているのは「覆面の男」ばかりで、デアデビルとしての姿はほとんど出てきていません。


それはこの物語が、いかにしてマット・マードックは「デアデビル(向こう見ず)」になったのかを描くから。


正体を隠して「覆面の男」として戦い続けてきたマットが「デアデビル」として立ち上がるときにも注目です。


本格アクションとしてもクライム・サスペンスとしても、劇場公開される作品と遜色ない本作は、映画レビューサイトの「Rotten Tomatoes」で批評家から98%という高い評価を受けており、すでにシーズン2の制作も決まっています。


これがメインキャラクターたち、左からウィルソン・フィスク(ヴィンセント・ドノフリオ)、クレア・テンプル(ロザリオ・ドーソン)、マット・マードック(チャーリー・コックス)、カレン・ペイジ(デボラ・アン・ウォール)、フォギー・ネルソン(エルデン・ヘンソン)。


以下の特別映像にはチャーリー・コックスやヴィンセント・ドノフリオらからのメッセージも含まれています。

「デアデビル」特別映像 - YouTube


9月2日のNetflixの日本サービスインと同時に全13話の配信が始まるので、興味のある人はぜひこの機会に見てみてください。


◆「デアデビル」などを引っさげてやってくるNetflixの日本戦略
「デアデビル」をはじめとする作品群を連れてNetflixがいよいよサービスを開始するということなので、表参道の日本法人でいろいろと話を聞いてきました。


オフィス入口はこんな感じで非常におしゃれ。全体のイメージは本社と合わせてあるとのこと。


入ってすぐの場所はミーティングや休憩などに使えるオープンスペースになっていました。


昼食はケータリングが行われています。なお、夕食は「みんなちゃんと家に帰って、家族と食べよう」という考えなので、提供されないとのこと。


オープンスペースにあるミーティングルームにはオリジナルシリーズの名前がつけられていました。この部屋は「デアデビル」で……


仕切りのガラスにマット・マードックの姿が描かれていました。


ミーティングルームが並んでいた通路の奥がオフィススペース。手前と奥とで机の高さが異なりますが……


天板が電動で昇降する机を使っていて、立ちと座り、どちらのスタイルで仕事をするのもOKだとのこと。


まずはPR担当の中島啓子さんにお話を伺いました。


GIGAZINE(以下、G):
Netflixは現在、50カ国以上6500万人規模で展開しています。ユーザー数は各国でローンチするたびにどんどん増えていっているのでしょうか。

Netflix PR担当 中島啓子さん(以下、中島):
それは国によってペースが違います。日本の場合、「日本のコンテンツを見たい」と思っているユーザーが多いので、Netflixでは日本向けのコンテンツとして「TERRACE HOUSE BOYS & GIRLS IN THE CITY」と「アンダーウェア」の2作品を発表しました。ですが、サービス開始時点では「Netflixだけで見られる日本オリジナル作品」に関して大量に揃えているという状態ではないので、スタートダッシュで大成功を収めると楽観視はしていません。ユーザーの皆さんにNetflixのことをきちんとご理解いただけていない段階でご入会いただくより、いかに満足いただくかを考えたいと思っています。

G:
なるほど。

中島:
まずは弊社とサービスのことをご理解いただき、地盤を固めておくということが重要と考えています。Netflixでは「レコメンデーション機能」が、皆さまに自信を持ってお届けできる、信頼される機能の一つですが、この機能は使い込んで育てることで真価を発揮するものです。9月2日のサービス開始直後にはまだわからない部分もあると思います。ですが、本当に見たいコンテンツであれば、映画館まで1時間以上かけても見に行くと思うんです。私たちも、皆さまが最終的にすばらしい作品を求めていらっしゃるのだということは理解していますので、ローカルコンテンツはもちろん、世界の素晴らしいコンテンツが揃えば、ユーザー数も一気に増えるのではないか考えています。

G:
コンテンツが充実していくのに合わせてユーザーも増えていくという感じですね。データによると75%のユーザーがNetflixレコメンデーションの結果から番組を視聴しているそうですが、これだけ多くのユーザーに影響を与えているというのは、何か特別に強い部分があるのでしょうか?

中島:
まず第一の発想が、「検索をさせない」「検索をする必要がない」ということなんです。Netflixのモットーに「徹底的なユーザーフレンドリー」というものがあります。広告がないことでスキップする必要がなく、スキップのための待ち時間もないので、見たいものに早くたどり着ける。だから、検索もする必要をなくす、というのがベースです。

G:
ほうほう。

中島:
「レコメンデーション機能」というと「これを見たいでしょう?」と強くオススメされるような感覚があるかもしれません。しかし、Netflixの場合、各作品のカテゴリーを7万通り以上に細かく分類しています。アクション好きな人だから、年中アクションが見たいわけではないはずですよね?「アクションもいいですが、こういうのもあります。今日の気分に応じていかがですか?」というご提案をしています。

G:
この分類というのは、作品1個に対して膨大なタグがつけられているということでしょうか。

中島:
その通りです。大きいジャンルのタグから「エモーション」みたいなもの、「暗いトーン」や「警察モノ」「動物が多く出てくる」まで幅広く作っています。監督やスタッフ、キャストで分類することもできますが、どこか表面的なものになってしまう。その日の気分やムード、季節的なものまで含めたレコメンデーションになっていて、飽きられにくい作りになっています。Netflixで見られる作品だけでも選択肢は膨大ですし、何を選んでいいのかわからない、好みじゃない作品で時間を無駄にしてしまったという経験を、ユーザーの皆さまにして欲しくないですから、生活にあった、長く見続けられる機能になっていると思います。

G:
なるほど。

中島:
「使いやすい」の究極は、「普通である」ということだと思うんです。すごいけれど、すごいということに気付かせない。そういう意味で、使いやすさについては徹底的に追求しています。

G:
Netflixではユーザーインターフェイスもコンテンツを見続けるのに最適化されていると思います。それもあってか、Netflixで1シーズン分配信されるドラマをまとめて見てしまうユーザーが続出し、2013年には一気見を意味する「binge-watching(ビンジウォッチング)」という言葉が生まれ、オックスフォード辞典に収録されました。この、ビンジウォッチングをするユーザーはかなり多いんでしょうか?

中島:
13話あるシリーズを一気に見られるかというと、日々の生活や仕事もありますから、できない人もいると思います。アメリカでは、辞書に載るぐらいに流行したのは確かですね。Netflixでは、10話以上あるようなドラマシリーズを一気に配信するんですが、海外のマナーとして、友達や恋人が何話まで見たのかを確認してから、そのドラマの話をするのが常識になっているんです。先にネタバレを聞かされるとショックですよね?テレビドラマなら毎週に1話、DVDでリリースされるものなら1度に3話までと決まっているので、どれぐらい進むかは予想できますけど、シリーズを全部まとめて配信すると予想がつきません。うっかりネタバレをしてケンカになることが結構あるそうなんです。そういったマナーが話題になるというのは、多くの皆さんが見てくれているからだと思います。

G:
なるほど……。毎週ドラマが放送される環境とは異なる現象が起きるんですね。「デアデビル」はNetflixのオリジナルシリーズとして配信されているわけなんですが、2003年に映画が公開されていて、今回のドラマはリブート作品です。リブートにあたって、Netflixから「うちのオリジナルとして配信したい」と持ちかけたものなのでしょうか?

中島:
Netflixはデータカンパニーです。「何を配信すればお客さんに喜んでもらえるか」というデータを分析してからスタートするという形を取っています。基本的には、いただいた企画の中から「これはNetflixでやるべき」と判断したものを制作していて、Netflixがオファーしに行くことはないんです。「ハウス・オブ・カード 野望の階段」は、オリジナル第1弾の作品でしたので、オファーして制作しましたが、あの成功が業界に与えた影響は非常に大きかったです。以降は、データでヒットする可能性を抽出し、基本的には100%クリエイターの皆さまにお任せしています。

G:
100%お任せですか!

中島:
たとえば、ラナ・ウォシャウスキー&アンディ・ウォシャウスキー監督の最新作である「Sense8」というドラマは、当初は全10話の構想だったらしいんですが、途中でエピソードが増えそうだという話になったので、全12話になりました。これは「面白くなればOK」という発想で、クリエイターの皆さまにかなりの自由度をお渡ししているためです。

G:
予定より2話も増やせるのはすごいですね。テレビであれば枠が決まっているので、1話でも増やすのは難しそうですが。

中島:
Netflixはスポンサーがいないからなんです。広告を取っていないので、規制の枠に縛られることがありません。自分たちのサービス内なので、「いくらでも」と言っては語弊があるかもしれませんが、エピソード数制限や、放送枠のために、1話の時間を延ばしたり縮めたりするなどの調整をする必要がないというのも利点です。

G:
作品によっては、HDだけではなく4K:フルHD映像でも見られるようになっていますが、実際に4K作品を4K画質で見ているユーザーはどれぐらいいるのでしょうか。

中島:
4K対応のデバイスを現時点でどれぐらいの方が持っているのかによりますので、ユーザー視聴のパーセンテージは出していません。ただ、4K対応に関しては、今すぐというより、5年後、10年後を見据えており、ゆくゆくは見ていただけるであろうと考えています。ですので、Netflixオリジナル作品の撮影は、すべて4Kで行っています。4K対応が当たり前になったときに、古い作品だからといって視聴時の映像クオリティが下がるということはないような状態にしています。また、作品の世界観があっているものについてはHDRで撮影しています。

G:
サービスインと同時にローカルコンテンツを用意するのは日本が世界で初めての事例になるそうですね。

中島:
はい。日本では他国に比べて自国のコンテンツが好きだということがリサーチ段階で分かったので、戦略として用意をして挑むべきだと考えました。


G:
ちなみに、他国のローカルコンテンツも日本で見ることができますか?

中島:
できます。いわゆるオリジナル作品に関してはすべてです。日本語字幕も吹き替えもつきます。

G:
「デアデビル」を見ていたとき、日本語吹き替えのみや日本語字幕のみだけではなく、日本語吹き替え+日本語字幕の組み合わせや、逆に言語は英語で英語字幕を表示させるということも可能でした。ずっと画面に集中しているわけではないけれど見続けたいという時にすごく助かりますね。

中島:
良いですよね!私も家事をやりながら見たりするので、すごく分かります(笑)

G:
これからアジア進出をどう進めていくという戦略は決まっていますか?たとえば、人口の多い中国にはまだ進出されていなかったりするので、まずは日本に拠点を据えてじっくりと戦略を練るのかなと思ったりしましたが。

中島:
どこの国で、どのようにしていくのか、という点は同時進行です。インフラが整っている200カ国では、2016年末までにサービスインする予定で、もちろん中国も含め、アジアでのサービスを予定しています。どのような条件になるのかはまだ詰まっていないところもありますが、やります。これは「素晴らしい作品が世界を繋ぐ」というNetflixの考えがあるからです。ですが、インフラが整っていないとユーザーを集められませんから、200カ国という数字になっています。日本のコンテンツでは、アニメが世界的にメジャーになってきていると思いますが、クラシックな作品やエッジの効いた作品も多くあるので、世界中のユーザーも楽しみに待っているようです。

G:
作品ライブラリーについては、新しい作品だけではなく、古い作品でもどんどん増えていたりしますか?あまり、作品のタイトル数や何話見られるという数字は前面に押し出していないようですが。

中島:
作品数は、間違いなく増えていると思っていただいて大丈夫です。365日24時間、毎日見ている方がいるなら話は別ですが、Netflixでは先ほどご説明した「レコメンデーション機能」を推奨しています。弊社のレコメンデーションで、多くのユーザーの皆さまに納得できるだけの作品数を誇っていると思っていますので、公表する必要がないんです。大きな投資をしてレコメンデーション機能の改良をしているのは、作品数が多くても「探すのが面倒くさい」「探しきれない」となってしまうからです。数の多さを押し出すのは、私たちの進んでいる方向とは違うという考えから、あまり数字を出していません。でも、安心してください。本数は十分にあります。

G:
十分な作品群を持っているからこそ、レコメンデーション機能が有効に働いていると。

中島:
そうですね。たとえば、若いユーザーに対してクラシックな作品をレコメンドする。「こんなの、ビジュアルが古くさいから見ない」と最初は思っても、見てみたら面白い、ということが絶対にあるはずです。レコメンデーション機能は使えば使うほど育っていくので、触ってもらえばそれだけ気に入っていただける自信があります。ご入会いただくと1ヶ月間のトライアル期間を設けており、「まずは触ってみてください」というスタンスを取っています。ですので、忙しくて見られない月があるときも、「退会」ではなく「休会」をオススメしています。

G:
「退会」と「休会」では大きく違うんですか?

中島:
休会であればユーザー視聴データが残るので、レコメンデーション機能を1からやり直す必要がないんです。休会は、ボタン1つでできて、再開も簡単です。育てた子は、ぜひそのまま残していただきたいですね。

G:
休会を利用する方は結構いるんですか?

中島:
結構いらっしゃいます。私が実際に会った方の例だと、出張でしばらくNetflixを見られないという時には休会にしていくそうです。ボタン1つで休会できるので、たとえば「しばらく見られないから解約しようと思っていたのに手続きを忘れていた」「全然見られなかった月でも支払いは同じ」というストレスがなくていいとおっしゃっていました。

G:
なるほど、切替が楽なのはいいですね。

中島:
ここも「ユーザーフレンドリー」の考え方があって、サービス利用の一時停止・再開をカンタンにすることで、利用を続けていただきやすくすることを考えています。

G:
ふむふむ。

中島:
同じような考え方で、子ども用のUIだけを研究している人もいます。子どもというのは未就学児を想定していて、字は読めないから、UIには作品タイトルを入れず、キャラクターがメインになっています。プロファイルとしてキッズ用を分けているのは、親がうっかりバイオレンスな作品を見せることがないという安心感にもつなげているからです。アメリカは視聴者数が非常に多いんですが、その中でストリーミング時間が長いのはキッズです。これは、掃除中に子どもにタブレットを渡して「ちょっと遊んでいてね」みたいな使い方をされているからなんです。


G:
おおー、テレビ代わりみたいな。

中島:
たとえば、「マダガスカル」でよく踊っているキング・ジュリアンがカウントダウンをするショート映像を作りました。子どもたちは、Netflixでいつも見ているから彼とはお友達なんです。キング・ジュリアンから「じゃあ、10数えるから寝ようね!」って言われると、子どもがおとなしく寝て、親が「なんてすばらしい!」と、大ヒットしました。親に寝なさいと言われても絶対に寝ない子が、いくつかバージョンのあるこのショート映像だとぐずらずに寝る。そのおかげで、親は安心して外出できる、ということがあるんです。

G:
そんな便利なものがあるとは……。これからは日本でもテレビのリモコンにNetflixボタンがつくということで、テレビの延長線上で使えるようになるというのは大きいでしょうね。

中島:
「コンテンツが好き」という人が、Netflixかどうかを意識せずに見るということも起こると思います。これこそ、プロダクトチームの目的で、ストレスなく簡単に、ということの究極系はたぶんそういうことだと思います。

G:
それこそ、ケーブルテレビをやめてNetflixに移る人もいると。

中島:
Netflixでは蓄積したコンテンツを見ていただくことがメインです。スポーツのライブ中継やアダルトはありません。アメリカではケーブルテレビをやめてしまい完全にNetflixに移行するという「cord cutter(コードカッター)」という言葉ができたぐらいだそうです。

G:
日本でサービスが始まったときに「ビンジウォッチング」や「コードカッター」は出てくるんでしょうか。

中島:
私たちもどうなるのか気になるので、創業者のリード・ヘイスティングスが来日したときに聞いてみたんです。すると、これまで様々な国のローンチがあったが、予想通りに運んだことはなかったので「考えるのはやめた」って言っていました(笑)

G:
だから、とりあえず始めてみようということなんですね。

中島:
本当にその通りです。Netflixでは正確なデータを取る自信があります。何を受け入れてもらい、何を受け入れてもらわなかったのかをデータ分析して、自分たちの中で改良していく。長い目で見ていこうと。そして、Netflixボタンについても、ボタンのためだけにみなさんがテレビを買い換えるわけではないので、まずは1年後にリオでオリンピックがあって、さらに2020年には東京オリンピックが開催される。そういう長いスパンで考えています。

G:
なるほど、いろいろとありがとうございました。

◆ユーザーに最高の視聴体験を届けるための徹底的なこだわり
続いてお話を伺ったのは、日本法人立ち上げ以前から日本で技術関連中心にいろいろな仕事に携わっていたディレクターの下井さん。


G:
リモコンの実物を見せていただいたんですが、以前からこの位置にNetflixボタンがあったんじゃないかと思うぐらい馴染んでいますよね。主要4社から発売されるテレビのリモコンにそれぞれNetflixボタンが入るそうで。


最初からここにNetflixボタンがあったかのような配置。


NetFlix ディレクター 下井昌人さん(以下、下井):
ここにあるのはもう販売中のものでして、2015年2月に東芝さんのテレビに搭載されて以降、日本で販売されている東芝さん・シャープさん・パナソニックさん・ソニーさんの2K(フルHD)・4Kのテレビの全モデルにこのボタンを配置いただきました。サービスの開始以前にボタンを配置できた前例はありません。他のどこの国でもやったことがなく、日本ではメーカーさんとの関係が本当に良かったので、サービス開始前から置いていただけました。

G:
いざサービス開始が決まったから「じゃあ、ここに置きましょう」とさっと決まるものではないですよね。かなり長い準備期間があったのではないですか?

下井:
メーカーさんとは7~8年前からのお付き合いがあって、4年ほど前から海外向けのリモコンにボタンを置いた実績があることが大きいです。そして一番大きいのは、サービスを開始していない段階で置いてもらえるかどうかという点です。海外でNetflixが成功を収めていたので、開始前からつけておくと、サービス開始のタイミングでテレビをより多く使ってもらえるであろうと思ってもらえたということがあります。

G:
日本法人が始まったのは今年2月だと伺いましたが、下井さんはもっと前から日本で下地作りをしていたということでしょうか。

下井:
日本上陸の下地をやっていたというよりも、海外向けにメーカーの皆さんが出荷するテレビやBlu-rayレコーダー・プレーヤーにNetflixのアプリケーションを載せていただくお手伝いをずっとやっていました。

G:
その時点では、将来的に日本でサービスが始まるから「よし、地ならしをしておくぞ」という感じでもなかった?

下井:
これがまったく違うんです(笑)。メーカーさんとの間で、日本向けのアプリとかリモコンの話を始めたのは2014年2月ぐらいからのことです。

G:
テレビに直接ボタンがつくことになりましたが、モバイル端末やゲーム機、Chromecast、Apple TVなど、かなり幅広いプラットフォームをカバーしていますね。

下井:
リビングルームの端末に限らず、スマートフォンやタブレット向けのアプリケーションも出ますから、どこでもその瞬間に見られるようになります。

G:
今回、こちらのオフィスまでの移動中に、新幹線の中で「デアデビル」をおさらいしていたんですが、高画質でもまったく止まらずに見ることができました。それこそ、固定回線に繋いでいるPCと遜色ない品質で見ることができて、最初こそ画質は低めなんですが、裏で読み込みが終わったら一気に画質が高いものに移っていくのに驚きました、こんなことができるのかと。

下井:
それが、できるんです。「すぐに始まり、止まらないテクノロジー」という風に言うんですけれども、「デアデビル」についていくつものエンコードを用意しておくんです。例えばSD画質を3つ、HD画質を2つ、4Kを1つ、とかですね。モバイルであれば3G・4GとLTE回線ということですが、再生ボタンを押したときにサーバーが「おっと、この人はモバイル環境で見ているぞ」というのを瞬時に判断するし、一番低いビットレートのビデオを送るんですね。なので、すぐに始まったと思うんですよ。

G:
はい。

下井:
昔のストリーミングって、開始は遅いし、始まってもすぐに止まることがあったと思いますが、そういう経験は最悪ですよね。なので、映像と音声をすぐにお届けする。それを見てもらっている間に、バックエンドでビットレートを上げています。また、30分ぐらい見続けているとネットの状況やバンド状況も変わってくると思います。サーバー側では全ての視聴ポイントでスループットをモニタリングしていて、「このユーザーの環境のスループットが落ちてきたな」ということがわかると「視聴環境が悪くなってきたからビットレートを落とそう」と、ビットレートが低いものを送るようになります。環境を無視して高画質なものをずっと送り続けていたとしたら、ストリーミングが止まってしまいますから。ユーザーさんがどういう環境・状況で見ているのかをちゃんとチェックし、その環境に応じてバックエンド側で上げたり下げたりしているわけです。これはモバイル環境に限らず、テレビでも、ゲーム機でも、あらゆるデバイスで同様の運用をしています。これによって「すぐに始まり、止まらないテクノロジー」を実現しています。

G:
「途中でクルクルが出ない」というヤツですね。

下井:
出ないですね、これ、最初に言った人はうまく言いましたよね(笑)

G:
この「すぐに始まり、止まらないテクノロジー」はNetflix独自のものなのですか?

下井:
実は、皆さん同じようにやっています。キーワードは「アダプティブ・ストリーミング」という可変ビットレートのストリーミングです。これを徹底しているということが、Netflixの秀でているところかもしれません。例えば、「デアデビル」1本を7つのエンコードにしているとして、それを置いておくためのサーバー代が必要になってくるので、エンコードを増やせば増やすほどオペレーション上でお金がかかります。ということは、サービスを提供する側のコストになってしまう。しかし、Netflixの目的として「ユーザーに『グレート・エクスペリエンス』を届ける」と考えたときに、これはユーザーの皆さまに最高の視聴体験を届けるために払わなければならない必要コストなんです。エンコードを3本にすればコストは抑えられますが、ビットレートの幅が狭くなり、きめ細かい対応ができなくなる。すると、クルクルが出るんです。

G:
なるほど。

下井:
コンテンツができてもそれで終わりではなく、今度はあらゆるデバイスとサーバーが通信している環境をモニターし続ける仕組みが必要です。「あっ、このユーザーの通信環境、変わってきた」と思ったら、瞬時にビデオエンコードを切り替えるための運用が必要です。この細かい積み重ねが「クルクルが出ない」という結果につながっています。あらゆるオペレーションのあらゆるポイントを最適化することによって、ユーザーの皆さんから支持していただける最高の視聴体験が実現できているということです。先ほどの質問に改めて答えると、Netflix以外も皆さんやっていると思います。そこを最も上手くできているのがNetflixである、という言い方はできるかもしれないですね。

G:
視聴中、シークバーにカーソルを当てると、映像の再生直後はさすがに何も出ませんが、何秒か待つとキーフレームというか、サムネイルが見られるようになりますよね。それこそ、まだ映像は読み込み終わっていないはずなのにサムネイルは末尾まで見られるんですが、あれもそういう積み重ねの結果ですか?

下井:
そうですね。Netflixのコンテンツは全て10秒ごとにサムネイルをJPEGかPNGで撮影してあり、映像と音声とサムネイルのサーバーが違うんです。再生しながら英語と日本語を切り替えることができますが、映像と音声を分けて送っているからできるんです。あれがもし1本にまとめられていたら、映像も止めなければいけないんです。

G:
なるほど、全部別のサーバーに置いているんですね。

下井:
音声を切り替えるだけなのに再生が止まってしまうというのは、操作感がよくないですよね? ですので、映像を見ながらでも音声を切り替えられるように、別々に置いています。これも「グレート・エクスペリエンス」のためです。サムネイルも同様で、Blu-rayやDVDだと作品内でいくつもチャプターを打っていることがありますが、Netflixは10秒ごとに区切りがあるので、好きなところに行くことができます。音の切替についても、以前は再生しながらだとできませんでしたが、徐々に改善されたものです。

G:
ということは、「この人はモバイル回線から見ているから、あまり転送量を多くしてはいけないな」というような工夫もあるんでしょうか。

下井:
日本では1ヶ月に7GBという制限があったりしますからね。ユーザーさんの持っているデータ通信量の枠を意識しているというより、自然と「最高画質を最も効率よく送る」ということを心懸けているので、モバイル環境であろうと何であろうと、最高のものをできるだけ軽く送ることは気にしています。これは、サービス提供者は皆やっていると思いますが、Netflixでは特によくできているという側面はあるかもしれません。

G:
日本でサービスを始めるからといって、データ置き場を新たに日本に設置したわけではないんですね。

下井:
はい。日本に置けばさらに速くなるということはあるかもしれませんが、テスト段階でもまったく問題は出ていません。ですが、さらに良くするやり方はあると思うので、日本にいろいろなものを置くということは十分に考えられます。Netflixというのは面白い会社で、たとえば私はユーザーさんの視聴環境を整える、マルチデバイスを実現するということを6、7年やってきていますが、おかげさまで早い段階で整備ができました。そうすると整備された中で、いかに視聴環境を良くするか、簡単にするかということを深掘りしきます。Netflixではまず、その領域に取り組むか取り組まないかを決めるんです。「中途半端にやる」というのはなく、やると決めたら徹底的にやるし、やらないと決めたことは関知もしません。テクノロジーのイノベーションはあらゆる領域で起きえると思うんですが、社員が各分野で「まだまだできる余地があるでしょ」と思って作業しているので、Netflixのサービスは永遠のベータ版というか、現状の集大成がこうなっている、という感じなんです。

G:
永遠のベータ版。

下井:
9月2日から日本で開始するサービスは、その時点でのNetflixの最高ではあると思います。しかし、9月末、さらに年末、来年と時間が経つにつれてもっと良くなります。

G:
あくまで、9月2日に見られるものは日本でのスタート時点のNetflixであって、ゴールではないと。

下井:
たとえばここに作品の説明文が表示されていますが、その長さはこれぐらいが適当なのか、短い方が良いのか、あるいはもっと長い方がいいのか。細かいかもしれませんが、こういうことについてもA/Bテストで、毎日数万通りのテストパターンを任意の人たちで試しています。変えた方が効果があるとわかれば、6500万人分の環境に反映されます。そういう意味では永遠のベータ版であり、我々が勝たなければならないのは昨日の自分なんです。その結果として他のサービスに秀でていればありがたい話で、我々としては自分たちのプラットフォームをさらに良くするということをずっとやっています。


G:
使っていると、特に問題は感じませんでしたが、完成していない?

下井:
してないですよ!うちのエンジニアは「うーん……」って言っていいながら作業していますよ(笑) 私は定期的に出張でアメリカに行きますが、そこではいろいろなユーザーインターフェイスのパターンがテストされています。エンジニアたちが「こんなものを作ったよ!」と自分たちのオタク度合いを披露しているんですよ。ただ、エンジニアが何を作るのかは、エンジニアの好みではないんです。

G:
エンジニアの好みではない?

下井:
エンジニアの好みというのは、あくまで「その人の好み」であって、あるテーマをやるべきかやらないべきかは、まずはA/Bテストをしてユーザーに問うんです。例えば、創業者のリード・ヘイスティングスはフォーチュン誌の「世の中を変えた男」にも選ばれた、みんなに尊敬される伝説的な男なんですが、そんな彼が言うことでも全部正しいかというとそうではありません。

G:
創業者なのにですか。

下井:
Netflixのレーティングは5段階なんですが、リードがあるとき「3.5や4.5のように中間の値があってもいいんじゃないか。うちのレーティングを変えよう」と言ったことがありました。ところが、うちのエンジニアは「Yes」とは言わず、「リードが言っていることが正しいかどうか、まずはユーザーに聞こう」と言ったんです。それでA/Bテストをしてみた結果、「3.5や4.5といった細かい選択肢を与えた方が、人はレーティングをしない」ということがわかりました。たとえ有名なCEOの提案であっても「データは逆の結果を示しました。従って、やりません」となりました。分からないことはユーザーに聞くということが徹底している文化があるんです。


G:
これまででA/Bテストの結果、劇的に変わった部分というのはありますか。そもそも、インターフェイス自体が決定版ではないから、変わっていくのが当然という感じでしょうか。

下井:
そうです、変わることが前提です。全体のインターフェイスが与える印象というのは常に気に留めていて、たまたま今日の段階だとこういう見た目ですが、半年後には違った形かもしれません。アートワークの部分も、今は画像ですが、映像を流す案もありました。アイデアが世に出てくるかどうかはすべて、ユーザーさんのテスト結果次第です。

G:
なるほど……。いろいろ触ったり映像を見たりして「気持ちがいいな」と思っていたのは、そういうバックグラウンドに支えられていたのかと、いろいろ納得しました。

下井:
「気持ち良く」というのはキーワードですね。気持ちよく感じるかどうかはユーザーインターフェイスの見た目、ボタンを押してからの動きなどなど、いろんなところに分かれ道があります。我々の中では「ウィニング・モーメント」や「モーメント・オブ・トゥルース」と呼んでいますが、見ていただけるかどうか、見てくれた人が続けてくれるかどうか、その分かれ道をどう見つけるかが問われていますし、見つけたところをどう変えるかも大事です。


G:
レコメンデーション機能で出てきて、「今まで知らなかったけど、これは良かったぞ」という作品はありましたか?

下井:
残念ながら今は配信していないんですが「マージン・コール」という映画です。2011年のアメリカ映画で、ケヴィン・スペイシーが主演をしていてリーマン・ショックを描いています。私は金融系ドラマを見ていたわけではないし、ケヴィン・スペイシーが特段好きというわけではなんですが、何度かレコメンデーション機能で出てきたので「気になるなぁ」と思って見てみたら本当にハマってしまい、結局4回ぐらい見ました。

G:
おお、オススメされるだけの何かがあったんですね。自分で検索して探す形だとなかなかそういう出会いはないですからね……サービス開始後、日本のユーザーさんにそういう出会いがあることを楽しみにしています。本日はありがとうございました。

下井:
ありがとうございました。

「デアデビル」などのオリジナルシリーズを連れて、Netflixは2015年9月2日(水)からサービスを開始します。

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