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旅客機の中の「空気の質」はどれぐらい安全なのか?

By Luke Lai

ヨーロッパでは「上空を飛行中の旅客機のキャビン内では空気が汚染されており、乗客や機内スタッフの健康に影響を及ぼしている」として対策を求める訴えが起こされようとしています。そんな訴えに共感をおぼえる人、まったく何も感じない人などいろいろな反応があると思われますが、実際のところキャビン内の空気はどのような状態になっているのでしょうか。

How safe is air quality on commercial planes? - BBC News
http://www.bbc.com/news/health-32786537

訴えを起こすのは、すでに退職した人をを含む17名のキャビンクルー(客室乗務員)によるグループで、汚染されたキャビン内の空気により深刻な健康被害を受けたというのがその理由。イギリスの民間航空行政を管轄する「イギリス民間航空局(CAA)」の統計によると、イギリスの航空会社が運航する大型旅客機のキャビン内に煙が入り込む出来事は、2010年以降で1300件以上報告されているとのことですが、これはフライト全体の回数に比べるとわずかな数と言うことができ、ただちに健康に被害が現れるとするには疑問が残る部分でもあります。

◆飛行中のキャビン内に空気を送り込む仕組み
旅客機が飛行する高度1万メートル付近は地上に比べて気圧が低いため、そのままでは人間は呼吸できません。そのため、ほとんどの旅客機ではジェットエンジンが動作する際に発生する高圧・高温の空気の流れを一部抜き取り、十分に冷却・調圧したうえでキャビン内に導き入れることで地上2000メートル程度と同等の気圧を保つ与圧システムが搭載されています。この機内に導き入れられる空気は「ブリードエア」と呼ばれます。


ブリードエアはエンジンの内部を通過するため、その経路で異物やオイルなどの成分が混入する可能性はゼロではありません。そのため、航空機各社ではオイルが漏れ出すことを防ぐオイルシールで対策を行ったり、配管の途中にエアフィルターを設置して異物や汚染物質などを除去しています。

訴えでは、このオイルシールやフィルターに潜在的に存在する欠陥のためにブリードエアにエンジンオイルや油圧を発生させる作動液、健康に被害を与える有機リン酸エステルなどの有害物質が漏れ出す危険があるとしています。問題とされるこの方式は現在使われているジェット旅客機のほとんどが投入している仕組みとなっており、この危険を完全に回避できるのはブリードエアをエンジンではなく電気モーターを使って作りだしているボーイング・787型機しか存在していません。

By Kentaro IEMOTO

訴えではこの健康被害を「汚染空気シンドローム」と呼んでいますが、航空会社およびCAAはそのような状況が発生することを示す科学的な証拠は存在しないという姿勢を見せています。

◆機内に煙が充満する発生率
インペリアル・カレッジ・ロンドンのアラン・ブービス教授は、機内に煙が充満するインシデントが発生する割合は、イギリスの航空会社が運航するフライト2000回に対して1回という試算を行っています。その低い発生率のため、実際のインシデントの際にデータを取得した例はこれまでのところ1件も存在していないとのこと。さらに教授は「潜在的な発煙インシデント」の際にも空気汚染のレベルは低く、「人体に影響を与える可能性は低い」と見解を述べています。

一方、これまでに多くのクルーを看てきた「Biolab Medical Unit」のジェニー・グッドマン医師は、特に古い機体でエンジン始動時に煙が機内に入り込むことが多いという逸話を聞いており、仮に乗客が搭乗する際に煙が機外に排出されていたとしても、残留した成分によって乗客やクルーが影響を受ける可能性が存在していると指摘しています。

By Roger Schultz

グッドマン医師は、「頻繁に飛行機を利用する場合やクルー業務で飛行機に頻繁に搭乗する場合は、継続的な低汚染度の空気に長時間露出されることになります」として、健康への影響を受けるリスクが高いと指摘しています。また、航空専門の弁護士であるフランク・キャノン氏はパイロットやキャビンクルーは健康被害のリスクが高い状態にあり、汚染空気に長時間露出されることで業務に適さない健康状態におちいることがあること、さらにパイロットがその状態に気づくことがないために、知らずのうちにフライトの危険性を高めることにつながるという危険性を指摘しています。

ブービス教授は、発煙インシデントに繰り返し遭遇することによる長期的な健康被害への影響は、さらなる調査が必要な分野であるとしています。

◆健康への影響度
グッドマン医師によると、汚染空気シンドロームは中枢神経系、特に脳に対して影響を与えるとのこと。遺伝要因による違いは存在するものの、汚染空気に含まれる化学物質が体内の細胞膜に溶けこんで細胞内に侵入し、ひいては体内のあらゆる場所に広がると指摘。その結果、偏頭痛や疲労感、思考困難、関節や筋肉の痛み、呼吸困難や消化不良、そして女性に対しては乳ガンの発生リスクを高めることになるとしています。

一方のブービス教授は、発煙インシデントがあった場合でも、機内に残る化学物質のレベルは「一般家庭や職場と同レベル」として、健康に影響を与えるものではないとしています。ブービス教授はグッドマン医師の主張についてノセボ効果である」としています。ノセボ効果とはプラシーボ効果の反対を意味するもので、ある人の思い込みや想像力、潜在意識が実際の肉体にマイナスの影響を与える効果のことを指しています。

By Abdullah

ブービス教授はノセボ効果が健康状態に影響を与えることは否定しない一方で、これを「汚染空気シンドローム」と混同すべきではないと指摘しています。

◆考えられる対策は?
グッドマン医師とキヤノン弁護士は、航空各メーカーはフィルターの取り付けを確実にする対策をとるべきであると主張。キヤノン弁護士は「世界には2~3社の主要なフィルターメーカーが存在している」と指摘しています。両者は、航空会社がフィルターの対策について乗り気でないのは、空気汚染が存在していることを認めている「暗黙の了解」によるものであると考えているとのこと。

ブービス氏が議長を務め、イギリス運輸省が任命したCommittee on Toxicity(毒性に関する委員会)が2013年に発表した報告書では、その原因が毒性物質かノセボ効果であるかには関わらず「症状を引き起こす発煙インシデントの発生リスクを下げる継続的な義務が存在している」と記しています。

CAAは声明の中で「キャビン内の汚染された空気と長期的な健康被害を結びつける肯定的証拠はないものの、その結びつき事態は完全に排除されるものではない」としています。

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in 乗り物,   メモ, Posted by darkhorse_log