中国人はなぜアメリカでトウモロコシを盗もうとするのか?

By Sunset Alliance

イネ科の植物で、小麦・米と並んで世界三大穀物にも数えられるのが「トウモロコシ」です。メキシコや南米、アフリカの一部地域では主食として食べられ、家畜のエサであったりコーンスターチの原料としても使われるトウモロコシですが、近年のアメリカでは中国人によるトウモロコシの盗難が国家レベルの規模で巻き起こっているそうです。

Corn Wars | The New Republic
http://www.newrepublic.com/article/122441/corn-wars


2012年9月30日、連邦捜査局(FBI)の捜査官がアメリカのシカゴ・オヘア国際空港にいるアメリカ合衆国税関・国境警備局(CBP)とコンタクトを取り、「中国の北京から来た2人の乗客のカバンを即座に検査してほしい」と依頼しました。突如カバンの中身を調べられたのは、中国の農業関連企業であるBeijing Kings Nower Seed Science & Technology(Kings Nower Seed)のリ・シャオミ社長と、同社の研究所でマネージャーを務めるイエ・チーアン氏の2人。Kings Nower Seedはトウモロコシ・米・木綿・菜種油などの品種改良を行っている企業であり、そんな企業の重役2人がカバンの中身を確認されたのは、「危険なテロリスト」と疑われたからではありません。

CBPがリ社長のカバンの中身を検査した際、中には電子レンジで作る用のポップコーンの箱が入っていました。それだけかと思いきや、この箱の底には数百枚の小さなマニラ封筒が隠されており、この封筒にはひとつひとつ意味ありげな数字がふってあったそうです。同じようにCBPがイエ氏のカバンも調べたところ、イエ氏は衣服の中にサブウェイの紙ナプキンが隠されており、さらに税関検査官が2人のボディチェックをしたところ、2人のポケットの中からも紙ナプキンが発見されました。

CBPが見つけたマニラ封筒や紙ナプキンの中に入っていたのは、すべてトウモロコシの種子だったそうです。

By Joel Penner

同じ日、FBIの捜査官は中国人のワン・ホンウェイ氏もマークしていました。国境警備局がアメリカとカナダの国境でワン氏の車内を調査したところ、44個のトウモロコシの種子が車のシート下とスーツケースの中から見つかりました。また、ワン氏のデジタルカメラの中にはトウモロコシ畑を撮影した写真が何百枚も保存されていたそうです。

ワン氏に対する取り調べが行われた際、自身が持っていたトウモロコシの種子はKings Nower Seedの親会社であるBeijing Dabeinong Technology Group(DBNグループ)の「モ・ヘイロン」という男から購入したものだ、とワン氏は話します。その後、リ社長・イエ氏・ワン氏の3人は、トウモロコシの種子を押収された後に本国に送還されました。

By ZK-NZE

FBIで知的財産関連の事件を16年間担当してきたマーク・ベッテン氏によれば、3人から押収したトウモロコシの種子は全てバイオ診断研究所に送られ、精密な検査により「遺伝子組み換えで作られたトウモロコシの種子」であったことが判明。検査により、盗まれていたのはモンサントデュポンなどの種子開発大手メーカーが開発していたものであることが分かっています。加えて、GPS情報からリ社長・イエ氏・ワン氏の3人がアイオワ州やイリノイ州にある新型種子のテスト農場をまわっていたことも明らかになっています。なお、遺伝子組み換え種子は、除草剤に対する耐性などの特性を備えるよう開発されたもので、「ハイブリッド種」の作物を開発するための交配に使用されるそうです。

これを受け2013年12月、モンサントやデュポンの開発していた遺伝子組み換え種子の窃盗容疑で、ワン氏から名前の挙がったモ・ヘイロン容疑者とその他中国バイテク企業と種子企業の関係者5人が起訴されました。この起訴により中国のハイテク企業による産業スパイが明らかになったわけですが、事件自体は2012年9月より以前から少しずつ明らかになっていました。

事件発覚から起訴までの推移は以下の記事でわかりやすくまとめられて、中国のハイテク企業の重役たちによるスパイ行為の数々が記されています。

中国人によるGM種子泥棒は米国国家に対する経済スパイ活動か? | FOOCOM.NET


トウモロコシの種子の窃盗は「明白かつ危険な事実を示している」とアメリカ政府は警鐘を鳴らしています。

広大な土地を持っているにも関わらず、中国は自国で消費する分の食料も自国でまかなうことができておらず、中流階級の家庭で肉が好まれるようになってからは、家畜のエサとしても使用されるトウモロコシの需要が中国内で非常に高まっています。しかし、水不足や耕作に適した土地の不足により、中国は年間500万トンものトウモロコシをアメリカから輸入しており、これはアメリカのトウモロコシ輸出量の94%を占めているそうです。

中国が増加する人口を自国で養うことを望む、あるいはアメリカに頼った食糧事情を改善するには、国内で肉の需要を満たすだけでなく、原料となるトウモロコシに至るまで全てを自国の農家が生産する必要があります。過去数十年間、中国のトウモロコシ生産量は増加していますが、耕作に適した土地は使い果たしてしまっているそうで、そんな中でも自国の生産量を増やすためには、現状の耕作面積でも生産量を2倍に3倍に伸ばすことができる、ハイブリッドなトウモロコシの生産を目指してもなんら不思議はありません。

しかし、中国では遺伝子組み換えトウモロコシがほとんど開発されていません。それに対して、アメリカのモンサントやデュポンといったメーカーでは、いくつものハイブリッド種子が開発されています。DBNグループのような中国企業にとって、モンサントやデュポンが開発している遺伝子組み換え種子は今後10年を占う非常に重要なものであり、もしも手に入れることができればその種子は今後何百万、何千万ドルという大金を生み出すことは間違いありません。

By Garry Knight

こういった状況の中、アメリカの司法省は「中国政府が中国企業の産業スパイを奨励している」と主張しており、実際にアメリカ大統領に国家の安全に関わる諜報問題に関するアドバイスを行う機関の「National Counterintelligence and Security Center(NCSC)」は、「農業技術」が中国やロシアの産業スパイに狙われていることを示すレポートを2011年に公開しています。さらに、このレポートの中には「遺伝子工学や化学肥料など、作物生産に関するアメリカの技術の価値が高まっている」と書かれており、司法省が農業関連の産業スパイを厳しく取り締まるきっかけにもなっています。

連邦政府は農作物が資産となり、さらには中国に対する地政学的な武器にもなり得ることを暗に認めており、そういったロジックで考えると、中国のトウモロコシ種子を狙う産業スパイは、アメリカの新兵器や新システムをスパイする人々と何ら変わらないのかもしれない、とNew Republicは指摘。実際、2014年7月にモー容疑者が起訴された際、FBIのトマス・メッツ捜査官は「企業秘密の盗難を防ぐことは、FBIではテロリズムを防ぐことの次に優先度が高いものである」とコメントしています。

なお、遺伝子組み換え種子の窃盗容疑で捕まったモ容疑者は、最高10年の実刑判決と共に、500万ドル(約6億2000万円)の罰金を課せられる見込みです。

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