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名作パズルゲーム「レミングス」ができるまでの知られざる物語


人気ゲーム「グランド・セフト・オート」を開発したことで知られるゲーム会社「Memory Access Desing(現:Rockstar North)」が1990年代初頭にリリースしたゲーム「レミングス」は、当時のゲームの流行とはまったく異なる世界観で発売されるやいなや大ヒットとなり世界中にファンを生み出しました。その伝説的ゲーム・レミングスがどのように生まれたのかが明らかになっています。

The Making of Lemmings – Read-Only Memory
http://readonlymemory.vg/the-making-of-lemmings/

レミングスの生みの親のデイビッド・ジョーンズ氏はイギリス・スコットランドの生まれで、少年時代からゲームプログラミングに熱中しており、キングスウェイ・アマチュア・コンピュータ・クラブに出入りして、創作活動にいそしんでいました。ジョーンズ氏の愛機は両親に買い与えられたPC「Amiga 1000」で、高嶺の花だった高級マシンはプログラマー仲間のあこがれの的だったとのこと。


ジョーンズ氏は1980年代にゲーム「Salamander(サラマンダー)」をお手本としたシューティングゲーム「CopperCon1」を開発。CopperCon1の将来性を感じた当時のビデオゲーム会社大手のPsygnosisは、CopperCon1の権利をジョーンズ氏から買取りました。このCopperCon1は後にAmiga用ゲーム「Menace(メナス)」として発売され、ヒットを記録することになります。


ジョーンズ氏はCopperCon1を売却して得た資金を元手にゲーム会社Memory Access Desing(DMA)を設立。かねてからのプログラミング仲間をDMAにゲームクリエーターとして雇い入れます。そして、CopperCon1に引き続いてアーケードゲームで当時人気があった「横スクロール」タイプのシューティングゲームの開発に着手して、「Blood Money(ブラッドマネー)」を完成させました。当時のシューティングゲームの中では際だってグラフィックが美しかったブラッドマネーはリリース後、すぐに大ヒットを記録。DMAは一気にゲーム会社としてゲーマーに認知されるようになりました。そして、ブラッドマネーの開発から間もない頃、DMAはそれまでのどんなゲームとも異なるまったく新しいゲームの開発に着手します。それこそが後にレミングスとして花開くことになります。

なお、ブラッドマネーがどんなゲームなのかは以下のムービーで確認できます。

Amiga - Blood Money - YouTube


ブラッドマネーのリリース後、ブラッドマネーに登場させた「Walker」と呼ばれる敵キャラクターのデザインのカッコ良さとアニメーションのすばらしさを気に入ったジョーンズ氏は、ブラッドマネーに続いてWalkerを主人公に据えた新しいゲームの開発を決意します。矢印で示したキャラクターがWalker。


どういう風にWalkerを活かせばよいのかを開発チームメンバーが話し合ったところ、「16×16のSPRITEで描かれた巨大な二足歩行ロボットを相手に闘うゲーム」というアイデアが出されたとのこと。そして巨大ロボを引き立てるには5ピクセルと相対的に小さな主人公を採用するのが良いと考えました。

しかし、あるランチタイムに開発チームのマイク・デイリー氏がレーザーガンで吹き飛ばされる5ピクセルサイズの小さな人間のイメージを見せたところ、開発メンバーは全員この小さなキャラクターを大いに気に入り、他のメンバーがこぞってこの小さなキャラクターにいたずらし、メンバー全員が笑い転げたことがありました。そのときに、開発メンバーの一人だったラッセル・ケイ氏が「これこそ作るべきゲームじゃないか!」と叫び、巨大ロボWalkerではなく小さな男を主人公にするゲームに180度方向転換されたそうです。こうしてレミングスプロジェクトの「芽」が生まれました。


なお、レミングスプロジェクトと並行して、ジョーンズ氏主導でMonster Cartridgeというアクションゲームも開発されていましたが、プラットフォームのAmiga上で起こる技術的問題を解決できないことからついに開発を断念。こうしてDMAはレミングスプロジェクト1本に開発資源を集中させることになったとのこと。

ゲームの方向性も定まっていなかったレミングスプロジェクトですが、開発初期の時点で、開発チームは「集団自殺行為を行う」と信じられていたレミングというネズミの存在に気づいていたそうです。そして、自ら命を絶つという「自爆」イベントが娯楽につながり得ることにも気づいていたため、小さな男をコメディタッチで自爆させる方法を次々と開発。中には爆発させるだけでなく火炎放射器で焼き尽くすという過激なものまであったとのこと。

デイリー氏は「このような自爆という仕掛けがなければレミングスはダルいゲームになったでしょう」と振り返っています。こうしてレミングをモチーフにゲームタイトルも「レミングス」に決定。もちろん自爆はゲームの趣旨ではなく、あくまで小さな男を救い出すことが目的で、「自爆」というイベントはゲームクリアをあきらめてすべてを投げ出すときに使う最終兵器のような意味合いが与えられました。


なお自然界のレミングが危険をかえりみずに集団で川に飛び込む行動については当初、集団自殺行為と信じられてきましたが、現在では大量繁殖によって劣悪になった環境から脱出するための集団移住行動であると考えられています。一方でリーダーがいないゲームのレミングスでは、小さな男がレミングのように命を落とす無謀な行動に出ないように、プレイヤーが知恵をしぼって的確な命令を出すことが要求されています。レミングスがリリースされた当時のゲーム業界では、シューティングゲームに代表されるように、「敵を倒す」という命題が与えられるものが大半だった中に、「味方を救う」というテーマを採用したレミングスは革新的だったと言えそうです。

しかし、ゲームが革新的だということは、プロモーション活動が困難なものになるということ。過去に例のないテーマをもつだけでなく、ゲームの本質やおもしろさを言葉で説明することが難しいという事実から、レミングスのゲーム性を理解してもらい、ゲームタイトルを購入してもらうのは至難の業になるだろうというわけです。


しかし、意外にもレミングスというゲーム性から生じるPRの難しさを解決する方法は、それほど複雑なものではなかったとのこと。実際にレミングスを体験プレイしてもらえればゲームの世界観は一発で理解できるので、PR戦略は「できる限り数多くゲームをプレイしてもらう機会を設ける」というシンプルなものだったそうです。

ジョーンズ氏によると、レミングスには10万ポンド(当時のレートで約2600万円)という他のソフトと比較しても多額の費用がかかり開発期間も1年間という比較的長い時間が必要となったとのこと。しかし、1991年2月にAmiga用ソフトとして発売されたレミングスは、発売初日に5万5000枚を売り上げ、最終的に2000万枚を売り上げる大ヒット作に成長。その後もゲームプラットフォームを変えつつ続編やスピンオフゲームが多数開発され、世界中で愛されるヒット作となりました。レミングスの大成功はDMAのような独立系のゲーム開発会社がゲーム業界で光り輝くことができるということを証明した功績として今も語り継がれています。


デイリー氏はレミングスについて「リリースした後も何が起きているのか正確には理解できていませんでした。ゲームの評価が出てくると、10人中10人が最高点を付けるという状況に、ものすごく大きなことが起こっていると感じたものです」と振り返っています。また、レミングスプロジェクトを最初に呼びかけたケイ氏は「レミングスの夢をよく見ました」と述懐しています。

レミングスで成功を収めたDMAは、1999年にグランド・セフト・オートというメガヒット作を生み出した後、2002年にRockstar社に買収され消滅。また、ゲーム・レミングスに関する権利はPsygnosisを経てSCEに移動しています。SCEがDMAの遺産としてはシューティングゲームの功績をレミングスの功績よりも重く見ているのかどうかは不明ですが、レミングスという遺産を活用する様子は現在のところありません。しかし、有名タイトルのリメイクを待望するゲーム懐古主義が高まれば、いつかレミングスが現代に復活する日が来るのかもしれません。

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in メモ,   ソフトウェア,   動画,   ゲーム, Posted by darkhorse_log

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