ヒト遺伝子操作のガイドライン策定に向けて動き、タブーの領域に踏み込んだ「ヒトの遺伝子操作」に歯止めか

By Stuart Caie

遺伝子工学が発達したことで、人間は生命の根幹をなす遺伝子を自由に操れる手段を手中に収めました。とりわけ、これまで人間の遺伝子を直接操作することは避けられてきたのですが、2015年4月にはついにそのタブーを破る論文が公表され、世界的な物議を醸しています。これを受け、科学者の中からは人間の遺伝子を操作するガイドラインを策定する動きがおこっているほか、操作そのものを禁止しようとする動きも見られるようになっています。

US science academies take on human-genome editing : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/us-science-academies-take-on-human-genome-editing-1.17581

Scientists Seek Ban on Method of Editing the Human Genome - NYTimes.com
http://www.nytimes.com/2015/03/20/science/biologists-call-for-halt-to-gene-editing-technique-in-humans.html

2015年4月、ほぼ無名の科学誌「Protein & Cell」に掲載された論文で、中国の研究チームがヒトの受精卵に世界初の遺伝子操作を行ったことが公表されました。中国広州市にある中山大学などが主体となって行われたこの実験にはCRISPR-Cas9と呼ばれる技術を用いた遺伝子操作が行われているのですが、受精卵の遺伝子を操作するという、将来の世代にまでその特徴が引き継がれる潜在性を持つ試みが実行されたために、科学者や倫理学者の間からは異論の声が多く挙がっているといいます。

ヒト受精卵の遺伝子を「編集」、中国研究に世界の科学者が異議 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
http://www.afpbb.com/articles/-/3046387


この流れを受け、米国科学アカデミー(NAS)と米国医学研究所(NAM)は5月18日、ヒト遺伝子の操作に関するガイドライン策定について構想を立ち上げることを明らかにしました。2015年秋にはNASの国際会議が開催されるほか、ワーキンググループが数か月の間に立ち上げられ、倫理・法律・社会・科学などの面についての調査や議論が進められることになっています。

科学者や倫理学者の間では、4月に発表されたようなヒトの受精卵を使った遺伝子操作における研究を続けることには否定的な意見が出されている一方で、倫理面や法的な側面を整備したうえで、受精卵を人体に再び戻す手前の段階までの研究については、さらなる議論を深めるべきだという意見も挙がっています。なお、多くの国ではヒトの生殖細胞系列を操作することは明確に禁じられており、アメリカでは国家による予算をそれらの研究に充当することが禁止されています。ただし、ほとんどの州レベルでは合法とされているという事実も一方では存在しているのが興味深いところといえそう。

By Micah Baldwin

NASは現在取り組んでいるこの状況について、1975年に開催されたアシロマ会議の状況によく似ているとしています。1975年当時はDNAの研究が大きく進んだ時代で、会議では遺伝子組み換えという「神の領域」に科学者が踏み込むべきか否かが議論されました。この会議は科学者が研究の自由を放棄してまでも社会責任を問うという、科学の歴史に残る大きな出来事として記憶されています。

しかし、そこからさらに遺伝子技術が発達した2015年の段階では、根本的に大きな違いがあるとNASのラルフ・シセロン会長は語ります。1975年当時はまだ遺伝子レベルの研究を行える機関が少なく、まだまだ科学者にとってもなかなか手が出せなかった遺伝子の世界ですが、2015年においては設備さえあれば誰でも容易に手が届く世界になっているといえます。物理的距離感が近くなったことで、当時よりも規制のハードルが下がっていることは確実といえる状況です。

いずれにせよ、ついに遺伝子技術の発達が行き着くところまで来た状況であり、ここから先は従来を上回る慎重さをもって研究を進める必要があることは間違いないといえそうです。神の領域に入り、さらにその上を超え始めた遺伝子研究の行く末には、世界中から大きく関心が集まりそうです。

By StooMathiesen

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in サイエンス, Posted by logx_tm