チンパンジーも人間のような「非合理的な意思決定」を行うことが研究で判明

By Wandering Panda

「今日のランチはどのメニューにするか」といった日常的なものから「自分はどんな職業に就くのか」「この相手と結婚してよいのだろうか」など、人間は人生のさまざまな時点でさまざまなレベルの意志決定を行いながら生きています。判断の際にはいろいろな要因が重なり、その中でもベストと思う選択を行うわけですが、時に人は理屈に合わない非合理的な判断を下すことがあるものです。デューク大学のChristopher Krupenye氏らによる研究では、そのような非合理的な判断は人間特有のものではなく、類人猿の間にも存在していることが明らかにされており、実は生物としての深い部分にその根源が植え付けられていたことがわかっています。

Bonobos and chimpanzees exhibit human-like framing effects | Biology Letters
http://rsbl.royalsocietypublishing.org/content/11/2/20140527

Like Humans, Apes Make Irrational Economic Decisions - The Atlantic
http://www.theatlantic.com/business/archive/2015/03/humans-inherited-loss-aversion-from-apes/386588/

ネットや街で見かける広告のキャッチコピーで「ホコリを80パーセントシャットアウト!効果は1年間にわたって持続!」のようなものを見かけると「おお、なんだかすごい」と思わず欲しくなってしまうこともあるものですが、実は「20パーセントのホコリは残ってしまい、1年後にはどうなっているかわかりませんよ」と受け取れることに気づく人はあまりいないものです。これは、例え同じ内容を指すものであっても、人はネガティブ(否定的)な内容よりもポジティブ(前向き)な内容に捕らわれがちになる、つまり「枠組み(フレーミング)が変わると物事の捉え方が変化する」という特性をうまく利用したものです。

表現(属性)がポジティブなものほど好意的に受け取られる傾向を示すことは「属性フレーミング」と呼ばれており、特にヒトが経済的な意志決定を下す時によく見られる現象です。例えば、一定額のお金が手元にある際に「これはボーナスです」と言われればあまり気兼ねなく使うのに対し、「仕入れた商品に対する売上金です」と説明されるとたちまち使うことを控えるようになる傾向があるようなもので、これは損失回避性授かり効果などと並んで意志決定に偏りを生じさせる心理的バイアス効果の1つであることが知られています。

By Colin Harris ADE

近年の研究では、このバイアス効果がどこから生じているのかについて研究が進められています。近代の社会では、世界中の多くの人々が子どものころからお金をやりとりする社会の中で生活を送っているため、経済的な影響を引き起こす意志決定を下す際に何らかの戦略的な思考を行い、バイアスが生じることは当然の現象であると考えることができます。

しかし研究が進むにつれ、このバイアスはさらに生物として深い部分に起因していることが明らかになっています。ヨーロッパ地方に住むムクドリの一種やオマキザルの仲間の中には、フレーミング効果のような非合理的なバイアスを持つものがいることが明らかになっているほか、より高い知性を持つと言われる類人猿のボノボチンパンジーについて実施した研究からも、同様の行動を取ることがわかってきました。

By DORIS META FRANZ

Krupenye氏らの研究チームは、コンゴ共和国の保護区に生息する17匹のボノボと23匹のチンパンジーに対してある研究を実施。それぞれに対してピーナッツと果物を選択させる実験を行ったのですが、その際には個体ごとに50%の確率で果物を2個もらえる「ポジティブ」な状況と、同じく50%の条件で今度は果物の数が減る「ネガティブ」な状況を作り出し、それぞれの反応を検証しました。

・「ポジティブ」条件
下図「Gain Frame」のように、複数のピーナッツと1つの果物のいずれかを選ばせ、果物を選んだ時に50%の確率で果物を2個「ボーナス」として与える環境を作る。

・「ネガティブ」条件
同様にピーナッツと果物を選ばせるが、下図「Loss Frame」のように最初から果物の個数を2個にしておく。そして、50%の確率で果物の数が1個になるという「損失」の環境を作り出す。


この前提条件からすると、理論的にはどちらの条件の場合でも果物を2個ゲットできる確率は1/2であるにもかかわらず、ボノボとチンパンジーはいずれも「ポジティブ」条件の時には明らかに「果物」を多く選択することが明らかになりました。つまり、「果物を2個」というポジティブな状況が得られそうな時ほど、より果物を選ぶ確率が高くなることが明らかになっており、彼らも人間と同様に属性フレーミングによるバイアスのかかった、非合理的な選択を行うことが浮き彫りにされました。

ボノボ、チンパンジーの類人猿、そしてヒトという3つの種族が同じように属性フレーミング効果を示すことがわかったことで、どうやらこの傾向はそれぞれの種族が独自で培ってきたものではなく、生物の進化の過程で会得されてきたものであるということが推測されるようになります。そしてこれが正しいとすると、属性フレーミング効果は人間による社会経済の中から生じた現象ではないという仮説が導かれることになります。つまり、選択におけるバイアスは、狩猟社会における困難な状況に対応するための進化の結果、あるいは「感情」のような特質を基にする行動による副産物といえる可能性が存在するというわけです。

By Jeroen Kransen

興味深いことに、この傾向はメスの類人猿よりも、オスのほうに強く現れることもわかっています。ヒトが選択をする場合には、男女それぞれに特有の社会の仕組みや動機の違い、経済社会への経験度などの要因によって生じるものですが、そのような前提条件をそれほど持たない類人猿における研究をさらに進めることが重要であると研究チームはその意義を語っています。

さらに研究チームは「今回の研究により意志決定のバイアスは生物としての深い場所に存在しているものであり、時にこれを覆すことが困難であること」を明らかにしたとその意義を強調。「意志決定についての研究」という大きなテーマの一部に貢献する内容であり、日々われわれが行っている意志決定の仕組みを理解することで、医療や金融、また人々の暮らしに関連する専門家の意志決定により良い結果をもたらすことができ、最終的に人々の暮らしを幸せにし、よい意志決定を行えることを可能にするとしています。

By Kyle Steed

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in サイエンス,   生き物, Posted by logx_tm