宿主なしでは生きられない寄生虫の不思議な生態がよくわかる「目黒寄生虫館」に行ってきました


他の動物に寄生して生活を営む寄生虫は、その姿から気持ち悪いという印象を抱かれることがありますが、地球上に生活している生物のほとんどは直接的あるいは間接的に関わりを持っていて、寄生虫の生活様式である寄生もその1つです。そんな寄生虫を専門に扱った世界でも唯一の研究機関が「目黒寄生虫館」で、あまり見る機会のない寄生虫の標本や、不思議な寄生虫の生態をじっくり学べるとのことなので、実際に行ってみました。

公益財団法人目黒寄生虫館公式サイト
http://www.kiseichu.org/Pages/default.aspx

目黒寄生虫館はJR東日本・目黒駅西口から出て、目黒通りを約8分歩いたところにあります。


目黒寄生虫館の入場料は無料。入口を入ってすぐ右手にはロッカーがあり、使用には100円かかりますが、使用後に返却されます。


入口のドアを抜けると、すぐに展示スペースがあります。受付はなし。


目黒寄生虫館は1階と2階が展示スペースになっています。


展示フロアではショーケースや……


パネルを使って寄生虫の生態を説明。パネルを見ながら、実物をショーケースで見られるというわけです。寄生虫は、他種に異存せず独立生活を営む自由生活種ではなく寄生生活種に分類されます。進化に伴い形態や寄生の様式が変化し、寄生虫の種類は自由生活種よりも多いとも言われるとのこと。


ショーケースの寄生虫をじっくり見学する前にパネルで寄生虫について勉強。同じ場所に異なる種類の生物が生活する場合、強い種が弱い種を撃退・捕食したり、仲良く協力したり、他の種を利用したりする関係が生まれます。そういった関係の中で、寄生虫は一生涯あるいは一時期、他の生物にとりついて栄養を得ることで生活する種のこと。寄生虫に取りつかれる生物のことを「宿主(しゅくしゅ)」と言い、寄生虫は宿主に害を与えることがありますが、宿主なしでは生きていけません。


寄生虫と言っても、寄生の様式は種類によって異なります。多数ある寄生様式の中でも代表的なのが多種生物の体表に寄生するシラミなどの「外部寄生」や……


宿主の体内に寄生するアニサキスなどの「内部寄生」です。


また、イソギンチャクとヤドカリは共生の生活様式になります。ヤドカリはイソギンチャクを貝殻につけて身を守り、イソギンチャクはヤドカリの食物のおこぼれをもらい、お互いが協力しながら生活しているというわけ。


また、寄生虫の生活史も種類によって異なります。寄生虫の成虫が寄生する宿主を「終宿主」、幼虫が寄生する宿主を「中間宿主」、中間宿主と終宿主の間を「待機宿主」と言い、中間宿主を必要としたり、中間宿主と待機宿主の両方を必要とする場合などがあります。下記は中間宿主を必要としないぎょう虫の生活史の例。ぎょう虫は人の盲腸に寄生し、肛門周辺で産卵を行い、手などに付着して口から体内に侵入。タマゴは十二指腸でふ化して盲腸で数週間で成虫に成長し、中間宿主を必要としません。


中間宿主を必要としないウンモンフクロムシに寄生されたカニがこちら。上が寄生されていないカニで、下が寄生されたカニです。寄生されたカニは腹部から袋のようなものが出ているのがわかります。ウンモンフクロムシは幼生期にカニに付着して針を用いて細胞をカニの体内に注入。細胞はカニの体内で成長し、カニの全身に根を張り巡らせて栄養を吸収します。成長するとウンモンフクロムシのメスの生殖器がカニの腹を破って体外に姿を現します。画像のカニの腹部にある袋はウンモンフクロムシの生殖器というわけです。


一方、中間宿主を必要としない無鉤条虫という寄生虫の場合、中間宿主のウシの体内でふ化し、牛肉を食べた人の体の中で成長し増殖します。また、肝蛭(かんてつ)のように中間宿主の体内で増殖し、終宿主の体内でタマゴを生む生活史を持つ種類もあります。これらは寄生虫の生活史の基本になりますが、より複雑な生活史をとる種類も存在。


これは中間宿主を必要とするネコ条虫です。ネコ条虫は、成虫がネコの体内でタマゴを生み、ネコから排せつされたタマゴをネズミが食べて感染。ネコ条虫の幼生はネズミの体内でふ化し、ネコはネズミを捕食して感染します。ネコがネズミを捕食すると、幼生はネコの小腸で成虫に成長しタマゴを生み、再びネズミがタマゴを食べて……というのがネコ条虫の生活環になります。画像では、一番左がネコ条虫の幼虫、真ん中がドブネズミに寄生した幼虫、一番右が成虫。終宿主だけでサイクルしたり、中間宿主を介して終宿主に寄生したり、寄生虫の生態の不思議がよく理解できます。


パネルで寄生虫の生態や生活様式をじっくり学んだ後は、寄生虫がズラッと展示されているショーケースを見ていきます。


まずは、体が細長い糸状の線虫類から。


ブタやヒトの小腸に寄生する豚回虫。回虫の卵は手指などにくっついて口から体内に侵入し胃や腸でふ化して幼虫になります。その後幼虫は、肝臓や肺などを通って小腸に戻り成虫に成長。寄生しながら栄養を摂取し、1~2年生存するとのこと。


ニワトリやシチメンチョウ、クジャクの小腸に寄生するニワトリ回虫。豚回虫より少し細くなっています。なお、画像のガラス瓶の中には300匹あまりいるとのこと。


コレはライオンの腸から採取されたライオン回虫。見た目はニワトリ回虫とあまり変わりません。


続いては条虫類。内部寄生する条虫類は、体が細長く回虫と同じような形状ですが、真田ひも状なのでサナダムシと呼ばれることもあります。


犬に寄生していたマンソン裂頭条虫。成虫の体長は1~2mになり、体にひだがあるのがわかります。マンソン裂頭条虫は第一中間宿主のケンミジンコ、第二中間宿主のカエル・ヘビを介して終宿主のネコ・イヌ・タヌキなどに寄生。


コレは条虫の一種である胞状条虫の幼虫がウシの肝臓に寄生していたところ。


ナガスクジラから採取されたクジラの条虫。条虫といっても、寄生する動物の種類は多く、それぞれで異なる形状をしているのは興味深いです。


四吻目(しふんもく)条虫類の一種であるニベリニアの幼虫がタラコに寄生しているところ。人に寄生することがないので、健康被害の恐れはありません。


魚類から陸上脊椎動物まで、多くの動物を最終宿主とするのが吸虫類。外部寄生したり、内部寄生したりする種類があるとのこと。


カツオのエラに寄生していたロバドゾウム吸虫。エラの部分にタマゴのような吸虫がくっついているのがわかります。


ウシの胃に寄生していた双口吸虫。ウシの胃に白いツブのような吸虫が寄生しています。


体の頭端にある吻(ふん)と、それに続く細長い胴部からなる寄生虫の一種が鉤頭虫類です。


頭端にある吻には、宿主の腸壁に固着するためのかぎを備えていて、出し入れが可能になっています。約1000種類以上が確認されていますが、人を含むほ乳類に寄生することは珍しいとのこと。中間宿主の甲殻類、待機宿主の魚類を経由して、終宿主の鰭脚類(ききゃくるい)に寄生します。


クジラのオキゴンドウの腸壁に寄生していたボルボソーマの一種。壁にミッシリと寄生しているのがわかります。


こちらのむちゃくちゃ小さいのはサンマに寄生していたサンマ鉤頭虫で、左がオスで右がメスになります。


よく知られているダニ類も展示されていました。ダニ類の中には外部寄生を行い吸血するマダニ類とイエダニ類が寄生虫に含まれるとのこと。


動物に直接または間接的に害を与える昆虫で、衛生害虫とも呼ばれるのが衛生昆虫


ウマの十二指腸に寄生したムネアカウマバエの幼虫は芋虫のような形状をしています。実際に寄生されると食欲不振、栄養不良および消化器障害を引き起こすこともあります。


サヨリのエラを収納している鰓腔(さいこう)に寄生したサヨリヤドリムシ。体が大きいのでサヨリのエラに傷や圧迫変性を与えるとのこと。


1階のフロアでは、人に寄生する寄生虫の中でも代表的な寄生虫と、寄生部位を表した展示コーナーもありました。人に寄生する寄生虫は世界で200種類以上の報告があり、日本では100種類以上が確認されているとのこと。


1階を見学し終わり2階へ移動します。


2階では「人体に関わる寄生虫」を展示。


2階は展示物よりパネルが多めです。


そもそも、人に関わる寄生虫は約200種類あり、その90%は「人獣共通寄生虫」と呼ばれています。人獣共通寄生虫は、野生動物を本来の終宿主とする生活環を持っていて、人は偶発的に寄生を受けるとのこと。残りの10%は人を主な宿主とし、人体寄生虫と呼ばれます。日本では衛生状態の改善や予防対策により人体寄生虫はほとんど見られなくなったそうです。


世界各地に広く分布しているのが無鉤条虫と有鉤条虫です。人体感染の大半は外国で調理不完全な牛肉や豚肉を食べたことが原因とのこと。無鉤条虫は中間宿主のウシに寄生し、口から人間に感染。対して有鉤条虫はブタを中間宿主として人間に感染します。有鉤条虫の場合は、タマゴが腸内でふ化すると体内に各部に幼虫が移動して、有鉤のう虫症を発症することがあり、幼虫が脳に寄生すると命に関わるくらい危険とのこと。有鉤のう虫症にかかった患者の写真も展示されていましたが、ものすごいインパクトのため、どうしても見たい人は実際に足を運んでみてください。


バンクロフト糸状虫は世界の温帯から熱帯地域に広く分布し、日本でも古くから流行があったものの、1970年までに終息した寄生虫。蚊の体内で第3期幼虫に成長し、皮膚から人に感染します。


世界でも古くから知られているのが回虫で、現在でも8~12億人が感染しているとのこと。タマゴが付着した生野菜などをたべて人に感染します。ふん尿を肥料としていた戦後の日本では80%を超える人が寄生されていましたが、現在では珍しい寄生虫になったそうです。


下記の画像に映っているのは人から採取された回虫。


画像の回虫は、東京の人が吐出したものとのことで、さぞビックリしたのではないかと思われます。


回虫に関する説明を読んでいると少しゾッとしますが、日本における回虫の寄生率は1950年から急激に下がり、1975年以降はほぼ0%になっています。


線虫の一種であるぎょう虫は現在でも世界に広く分布しており、成人よりも子どもの寄生が多め。長さ1cmほどの成虫のメスは夜間に肛門から出てきて、肛門周囲に産卵。


ぎょう虫は、かつては80%以上の子どもに感染が見られましたが、寄生率は1%以下にまで減少。そのため、セロハンテープを使った「ぎょう虫検査」は2015年度限りで廃止されることになりました。


ここからは人体に関する寄生虫の90%を占める人獣共通寄生虫の一部を紹介。肝蛭(かんてつ)はウシ・ヒツジなどの肝臓に寄生する大型の吸虫。人間に感染すると上腹部腹痛や発熱など、胆石症のような症状を示します。


左の2つはウシに寄生していた肝蛭。右は中間宿主のヒメモノアラガイです。


海洋魚介類を生食する日本人にとってなじみ深いのがアニサキス。アニサキス属は約10種類が存在しますが、日本の魚やイカに寄生している幼虫は主に2種。


人間の胃や腸に一時的に寄生することがありますが、成虫にはならずに死滅するとのこと。人間への感染は年間500例以上の報告があり、アレルギー反応による激痛を伴います。


コレはアニサキスが寄生したイルカの胃。何匹いるかわからないくらい寄生しています。


アニサキスの幼虫に寄生されたスルメイカ。


コチラもアニサキスの幼虫が寄生したサンマ。よく見ると、腹部の内側にウニョウニョしたアニサキスがいるのがわかります。


犬のフィラリアとして知られているのは犬糸条虫(いぬしじょうちゅう)と呼ばれている寄生虫です。中間宿主の蚊を介して犬に寄生しますが、蚊から人間に寄生することもあり、感染すると成虫にならずに腫瘤をつくることがあります。


犬糸条虫の実物がコチラ。左の硝子瓶には、左にメス、右にオスがいます。右側は犬糸条虫に寄生された犬の心臓。


2階にある展示物でも一番目を引くのが全長8.8mの日本海裂頭条虫。第一中間宿主のケンミジンコ、第二中間宿主のサクラマス、カラフトマスを介して終宿主の人間やイヌへと感染。展示されている日本海裂頭条虫は人間から駆虫された成虫で、幼虫がいるマス寿司を食べて感染。マス寿司を食べた3カ月後に便と一緒に条虫の一部がちぎれて出てきて気づいたとのこと。1986年8月に駆虫薬を飲んで全虫体を排出。感染者に自覚症状はありませんでした。


むちゃくちゃ細いのが頭部で……


体部分がグルグルと続き……


こちらが尾部になります。8.8mもの寄生虫が体から出てきたことを思うと……。


寄生虫館では寄生虫の感染から予防するための注意事項を紹介しています。淡水産魚介類は煮るか、よく焼き、海のものは生で食べてもいいものの、アニサキスなどの幼虫には注意が必要。牛肉やブタ肉などはよく焼き、生野菜はしっかりと洗うこと。また、ペットなどと遊んだ後や、食事の前には手をしっかり洗い、皮膚から感染する寄生虫の流行地では水や土、昆虫などに注意するのが重要です。


2階には寄生虫以外にも目黒寄生虫館の設立の経緯を知ることができます。


世界でも有名な寄生虫学者である山口左仲博士が採集した約1万点の標本と文献資料が寄生虫館に登録・保管されています。


山口博士が使用していたプレパラート標本の複製。寄生虫館の地下1階の標本庫には山口博士が製作した多数のプレパラート標本が保存されていて、現在でも研究に利用されているとのこと。


山口博士が愛用していた顕微鏡および描画装置。山口博士は、この顕微鏡と描画装置を用いて寄生虫の形態を研究し、多くのスケッチや論文を残し、寄生虫学に貢献しました。


顕微鏡で寄生虫を観察しながら、鏡を使ってノートに寄生虫の形態を映して描画していたというわけです。


山口博士が作成したノート「虎の巻」の一部。驚くほど細かく描画されているのがよくわかります。


これにて目黒寄生虫館の見学は終了。目黒寄生虫館は入場料が無料で、じっくり見ても45分から1時間あれば十分に寄生虫について学ぶことができます。興味がある人は一度訪れてみることをオススメします。

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