取材

創業80年以上の歴史を誇りラーメンマニア・店長に熱い支持を受ける京都の製麺所「麺屋棣鄂」に見学に行ってインタビューしてきました


ここ10年で100種類もの麺を開発し、全国各地に顧客を持ち、ラーメンマニア・店長から熱い支持を受ける製麺所が「麺屋棣鄂(ていがく)」です。近年では雑誌で出る大阪の多くの店がこの製麺所を使っており、麺のクオリティが圧倒的とのこと。実際工場に行って麺が出来る様子や、代表取締役と工場長に会ってお話を伺ってきました。

麺屋棣鄂 ラーメン つけめんの麺はおまかせください
http://www.teigaku.com/

京都市にある麺屋棣鄂に到着。


工場の前には一目で分かる看板が掛かっています。中国には兄弟が仲むつまじくしている様子を表現する例えとして「棣鄂の情」という故事があり、麺屋棣鄂の由来はここからきているとのこと。


工場に入ると、知見芳典(ちけんよしのり)代表取締役が出迎えてくれました。


さっそく白衣を着て工場に入ります。


工場は昔倉庫だった場所を改造して作られています。


上から見るとこんな感じ。


さっそく工場の奥へ入っていきます。


奥へどんどん歩いて行くと……


小麦粉のある部屋に案内してもらいました。ここには製粉会社から購入した粉が30銘柄ほどあるとのこと。


この粉は内外製粉が作る麺屋棣鄂専用の小麦粉。


日清製粉のラーメン専用の小麦粉「荒武者」や……


京都にある井澤製粉の「エンゼル」が置かれていました。


工場の全体を見渡すとこんな感じ。製麺を行う機械が2台用意されており、従業員さんが忙しく動き回っています。


粉をミキシングする機械は、真空ミキサーを使ったものと……


そうでないものの2台を用意。


粉は機械でミキシングされています。麺を作る際には、仕入れた粉を数種類ブレンドして麺を作ることが多いそうです。


ミキシングされた粉は「複合」という行程を経て麺を成形し、麺帯を作ります。


機械からは麺帯が出てきました。


麺を近づいて見てみると、麺が重ねられて伸ばされています。この行程を経ることにより、麺がより強靱になり、表面も滑らかになるとのこと。


さらに麺帯に5回の圧延をかけ、麺を伸ばしていきます。


5回の圧延をかけることにより、麺帯はかなり薄くなっています。


最後に麺を切り出すのがこの部分で、切り歯を使って麺を切り出します。


麺を切り出している部分をアップで見るとこんな感じ。


麺を切り出している様子は以下のムービーから確認できます。

麺屋棣鄂の工場内で麺を切り出している様子 - YouTube


これが麺を切り出す際に使う切り歯。50本近くの数があり、値段は1本20~30万円するそうです。


最も太いものと細い切り歯を並べると、その差は一目瞭然。


6角歯は太い麺を作り出すことができ……


30角歯は細い麺を作り出すことができます。


切り出した麺は、最後に手作業で箱詰めされます。


麺を箱詰めしている作業の様子は以下のムービーから確認できます。

麺屋棣鄂の麺を箱詰めする様子 - YouTube


軽々とキレイに麺を巻いていますが、慣れるまでは時間がかかるそうです。


続いて、麺を冷蔵保存する部屋を見せてもらいます。


麺屋棣鄂ではオーダーメードの麺を多く生産しているので、100種類以上の麺を生産しています。


「Y」といった変わった名前のものから……


「東♯18」といったコードネームのような名前の麺がたくさん置かれていました。


一通り工場を見せてもらい、2階にある応接室でインタビューを受けさせてもらうことに。


応接室にはラーメンに関する書籍がたくさん置いてありました。


1冊3000円以上する専門書が数多く置いてありました。


今回インタビューを受けてくれるのは弟の知見 和典工場長と、工場内を案内して頂いた兄の知見 芳典代表取締役。工場長が製造、代表取締役が営業を担当しているため意見がぶつかることもあるようですが、屋号の棣鄂という名前の通り仲が良い様子。


◆目次
・麺に対するこだわり
・ビジネスについて
・今後の棣鄂の展開について

◆麺に対するこだわり

GIGAZINE(以下、G):
一般論としてラーメンはスープが主役の料理、つけ麺は麺が主役の料理と言われていますが、そのようなケースが多いのでしょうか?

知見 芳典(以下代表取締役):
ケースバイケースで店長さんが決めることですが、どちらが上にくると言われると難しいところです。数値化ができないものなので僕の感覚では麺とスープのバランスが絶妙でも、他の人が食べると麺が強いと感じたり、スープが強いと感じるケースもあります。

G:
粘度があるスープだと麺にスープが良く絡むじゃないですか?こういう場合は麺よりもスープの味が押し出されるケースが多いのですか?

代表取締役:
そうですね。たとえば「縮れ麺がスープに良く絡む」とみなさんおっしゃいますが、細麺の方がスープが口の中に入る量が増えるんですよ。なぜかというと表面積が多いんです、同じ麺量であっても。

G:
棣鄂さんで出されているウイング麺なんかはかなり麺の表面積が多いですよね?

代表取締役:
多いですね(笑)良く麺にスープが絡みます。

知見 和典(以下工場長):
一般的に細くすればするほどスープは絡むんですよ。いろいろな麺のオーダーがありますが、僕たち作り手としての狙いとしては口当たりや食感です。スープの絡みを良くするために施せることは、麺の中の水分量を減らして加水率を下げることと、麺をできる限り細くすることです。あとは麺で大切なのは僕は食感だと思います。僕は麺類という食べ物は6割食感、4割が味と思って作っています。すすり心地がよかったりかみ応えがいいと美味しく感じやすいんです。よく「小麦の味が~」とおっしゃる方がいますが、あんなの限りなくほのかであって、ラーメンのスープの中に入れば負けてしまうことがほとんどです。なのでどこで美味しいと感じるかということに関しては僕は口当たりだと思っています。食感が不愉快だとまずいとおっしゃる方が多いですね。

G:
では棣鄂さんが口当たりに関してこだわったり気をつけて作ってらっしゃる部分はどのあたりになりますか?

工場長:
それは店長さんのお好み次第です。たとえば店長さんが「低加水の麺を下さい」というオーダーを受けて、僕が作った低加水の麺を出してみると、食い違う場合があります。店長さんが「モチモチした麺」とオーダーされても僕の考えるモチモチと店長さんにとってのモチモチが違うということもあるんですよね。そんな言葉のニュアンスを探って、店長さんのオーダーに答えるのが仕事だと思っています。

G:
棣鄂さんは全国から麺のオーダーがあるかと思いますが、西と東で麺のオーダーの違いというのはありますか?

工場長:
昔は違いがあったのですが、今はだいぶ減ってはきていますね。麺の量は京都は130グラム以下のことが多かったんですが、東京では150グラム以上がざらでして、一昔前はまず麺の重さがまったく合わなかったんですよ。今では全国統一で150グラムが多い傾向にありますね。種類に関しては西と東というよりは地域によってバラバラですよね。たとえば札幌であれば黄色い縮れ麺が好まれるとか。

G:
さきほど様々な粉を見せて頂きましたが、粉は何種類くらい混ぜて使われるんですか?

工場長:
小麦の種類と言うのは大まかに言って7種類から8種類くらいなんですよ。それを挽き方や製粉会社が独自のブレンドしたものを使っています。ただうちは既に製粉会社が混ぜたものを使っていますね。それを2~3種類混ぜたりする感じですね。

G:
棣鄂さんが小麦を作ろうなんていうことは考えたりしてらっしゃらないんですか?

工場長:
それはすごい難しいことで、自分で作るとなるとつきっきりで見ないといけないんですよ。特に小麦に不満があるわけではないのでその予定はないですね。

G:
季節によって気温や湿度が変わるので、当然麺作りにも影響がでてくるものかと思いますが、職人さんの腕の見せ所はどういった部分になりますか?

工場長:
特に今ぐらいが大変なシーズンなんですよ。弊社の小麦粉の倉庫は空調が付いていないので、常温で置いています。具体的に何度とは言えませんが、生地を打つ際に麺に使う水に適温というものがあるんですよ。冬であれば水温高めなんです。今ぐらいの春先は気温がぐんぐん上がってますよね?気温の温度が上がったからといって、倉庫に置いてある小麦の温度が急激に変わるもんではないんですよ。小麦の温度が上がるんで今は水の温度を下げています。この季節は難しくて、ある店長さんからは「今日の麺はちょっとしっとりしていますね」と言われました。水温が上がるんで少ししっとりするんですよね。少し難しい話になりますが天ぷらを作る時ってたねを冷たくして作るじゃないですか?あれは温度を下げることによって水分を吸う量を減らしているのでカラっと揚がるんです。あれが温かいと水分が多くなってしまいカラっと揚がらないんですよ。麺を作る際に水と小麦を混ぜた時の温度は麺作りの際も重要です。

G:
梅雨の季節は湿度との戦いで、麺屋さんは大変ではないのですか?

工場長:
製麺する人によっていろいろ変わるんですが、僕にとっては温かくなり始めと寒くなり始めが一番気を使います。湿度は影響がないとは言いませんが、室内で麺を作るぶんにはそこまで影響は強くないんですよ。難しいのは気温でこれが一定であるほうが麺を作る僕たちにとってありがたいんです。たとえば33度の日が続くとか。今の季節のような昨日は10度、明日は20度というのが僕たちにとって一番しんどいですね。

G:
寒暖が激しい場所が麺作りに向かないということであれば、山岳地帯なんかは麺を作るのにあまり好ましい場所ではないんですか?

工場長:
そうですね。

G:
京都は盆地のぶん作りやすいということでもないのですか?

工場長:
どちらかというと寒暖の差があるので向いていないですね。湿度に関しては部屋でやるぶんにはどうにかなりますが、気温に関しては難しい。自分で製麺をしているラーメン店で、スープを炊いている近くで麺を打って湿度の管理がめちゃくちゃで、日によってゆで時間が3分くらい違うお店なんかもありますが、まずうちで作る限りそういうことはないです。麺のコンディションをできる限り同じ状態で納品するのは僕たちの義務だと思っています。万一麺のゆで時間が違うような麺を出荷したらクレームがきてしまいますし。

G:
ラーメンでは国産小麦を使っているケースが多いようですが、うどんに一番適している粉はASW(オーストラリアン・スタンダード・ホワイト・ヌードル・ブレンド)という外国産小麦と聞いたことがあります。棣鄂さんでも使ってらっしゃいますか?

工場長:
使っています。個人的には好きな粉です。がしっとした粉で粉に強さがあるんですよ。この品種は乾燥地帯で育てた品種になるので、麦が強くなるそうです。オーストラリアや北米は乾いた土地なので小麦を作るのに適しているそうです。雨が多い日本では本来「小麦粉なんかできないよ」と言われていたものが品種改良によって徐々に徐々にいい小麦ができるようになったんです。10年製麺やっていますが、日本の小麦はどんどん良くなっていますよ。


ビジネスについて

G:
棣鄂さんは全国にお客さんがいらっしゃるじゃないですか。たとえばAmazonではドローンを使っての配送実験が行われていますが、棣鄂さんも将来的に配送にそんなものを使おうかと考えたりしてらっしゃいますか?

代表取締役:
クール便の配送料が上がっているので、そういったもので配送ができればいいんですけど、麺はかなり重たいですし、湿度の管理などがあるのでしばらくは難しいと思います。ラーメン店に麺を届けているため、翌日の午前中に届けないといけないことがほとんどですし。安定した配送というのは難しくて、雪が降ると東京や北海道のお客さんに麺が届けられないこともあるのも頭が痛いところですね。

G:
京都でビジネスをする上で何か難しいことはありますか?

代表取締役:
昭和47年に天下一品・第一旭・横綱といった大きなチェーン店が京都に同時多発的に誕生して、ラーメン屋さんが増えたんですが、まだまだ店の数が少ないのが難しいところですね。昔は弊社は麺が2種類だったので麺固め・ねぎ多め系のお店が多かったんですが、オーダーメイドの麺を作ることで、全国に新しく取引するお店は増えてきましたけどね。

G:
天下一品の木村社長が昔麺を作ってほしいと訪れたことがあるそうですが、もし天一の麺を作っていれば棣鄂のウリであるオーダーメード麺は生まれていなかったかもしれないですかね?

代表取締役:
たらればの話ですが、大きな取引先が一つあればそういったこともあり得ますね。

G:
棣鄂は80年以上の伝統がある会社なので、経営も安定しているのかと思いきや、10年前はボロボロの状態だったそうですね。

代表取締役:
そうですね。親父が倒れて僕たちで会社を継ぐことになった時はひどい状況でして……自分たちの給料は3ヶ月なしで働いたり、小麦屋さんに支払いを待ってもらったりもしました。

G:
転機は しゃかりきさんのつけ麺用の麺を作ったことですかね?

代表取締役:
そうですね。それから自分たちで麺の種類を増やし、僕らが会社を継いだ時は麺が2種類だったのが今では100種類近くです。

G:
麺を卸しているうちに店長がこだわりをもった結果、自家製麺を作り始めるというケースもあるかと思います。そういった場合は棣鄂さんはどうされますか?

代表取締役:
そういったこともあるので卒業という形で、麺作りに関するノウハウを教えて快く送り出しています。

G:
麺屋さんから見て長く続くラーメン店さんの特徴はどのような傾向がありますか?

代表取締役:
ともかく謙虚ですね。テレビに出ると一気にお客さんが増えるので天狗になってしまう店長がいるというのは良く聞く話ですが、売れても謙虚な店長は商売が長続きしているかと思います。


棣鄂の将来の構想について

G:棣鄂が東京23区で麺のアンテナショップを開きたいという記事を見たんですけど、どのようなものを考えてらっしゃいますか?

代表取締役:
インタビューの勢いで言ってしまった部分もあるんですけどね(笑)アンテナショップというか、麺の啓蒙活動が出来るような場所を作りたいんですよ。たとえば1年365日麺が違うお店であったり、スープは1種類で麺が5種類食べられるお店とか。麺の存在感が強いラーメン、麺の存在感が弱いラーメンなんかもお客さんに体感してほしいんです。スープを何個も仕込むラーメン店は昨今では多くありますが、麺が主役になることは少ないです。でもスープに入れる麺が違うと確実にラーメンに対する印象は違うんですよ。そこらへんを知ってもらえる機会を作れたらと僕たちは思っています。

G:
具体的にいつ頃かというのは決まっていないんですか?

代表取締役:
まだ決まってないですね。僕たちの仕事のキャパシティもありますし。「時期が来れば」と思っています。

G:
関西ではラーメン屋さんの横のつながりが増え、スタンプラリーなどの企画が行われていますが、たとえば棣鄂さんの麺を使っているお店でスタンプラリーなどを行う予定はありますか?

代表取締役:
考えたことはなかったですけどそれは面白そうです。前向きに検討させて下さい。


インタビューを終え、棣鄂の麺を使っている東西のラーメン屋さんに実際行ってみることにしました。一件目は大阪市にある「麺のようじ」


お店には棣鄂の麺が置いてあります。


今回は縮れた麺を使い、加水率が高い「蔵出し生醤油ラーメン(税込850円)」を食べてみます。


スープは透き通っており、佐野ラーメンや喜多方ラーメンを思わせる作り。


麺は太く、縮れています。


麺の水分量が多く、スープが染みこみにくいものの、麺の存在感が強く、強い旨味を持った鶏節・生醤油との相性もグッド。すすり心地も良く、フルフルとした食感が楽しめます。


2件目は高田馬場にある「やまぐち」


今度は麺の良さを味わうために、つけそばを注文。


麺をよく見ると、茶色い粒が確認できます。


見た目の通り滑らかでコシのある麺に仕上がっており、香ばしさのある麺は麺だけで食べても料理として成り立つようなクオリティ。つけそばは既に昆布水に使っており、旨味や塩みが麺の味と良く合っていました。


麺屋棣鄂の麺を扱うお店は流通の都合で関西が多いものの、今では全国区になりつつあります。ラーメンを麺で選んで食べに行くというのも、一つの楽しみ方かもしれません。

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in 取材,   試食, Posted by darkhorse_log

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