サイエンス

スポーツファンが応援するチームを自分自身と混同してしまう心理とは?


スポーツファンは自身が応援するチームのことを「私たち」「俺たち」「自分たち」「我々」と呼ぶことがあります。ファンがこうして、チームと自分とを分けずに混同して表現することについて、さまざまな研究結果やインタビューなどを通して得た知識からエリック・シモンズ氏がその理由を明かしています。

The psychology of why sports fans see their teams as extensions of themselves - The Washington Post
http://www.washingtonpost.com/2015/01/30/521e0464-a816-11e4-a06b-9df2002b86a0_story.html


2015年1月19日、アメリカン・フットボール・カンファレンス(AFC)の優勝決定戦であるAFCチャンピオンシップゲームの一戦としてニューイングランド・ペイトリオッツ対インディアナポリス・コルツが開催されました。この試合は45対7でペイトリオッツが圧勝したのですが、「ペイトリオッツはリーグ規定の空気圧に満たないボールを使用した」としてアメリカ国内で大きな話題となっています。

規定に満たない空気圧のボールが使用されていることは、偶然に偶然が重なり発覚しました。この試合ではコルツが大差で敗北したのですが、そのコルツでラインバッカーを務めるドゥクウェル・ジャクソン選手は、同試合中に相手チームのパスを見事にインターセプトしました。


これを記念し、ジャクソン選手はボールを持ち帰ろうと考え、チームのスタッフにインターセプトしたボールを預けたそうです。このボールを受け取ったスタッフは、ボールを触った際に違和感を感じ、チームのコーチを務めるライアン・グリグソン氏に「ボールの空気圧が低い」と進言。グリグソン氏はNFLのディレクターを務めるマイク・ケンシル氏にボールの空気圧について話し、調査の結果ケンシル氏は試合のハーフタイム中にボールの空気圧が低かったことをアナウンスしています。なお、試合後にはNFLが調査に乗り出すことも明かされました。

NFL JAPAN.COM|ペイトリオッツ戦で空気圧不足のボール使用?NFLが調査へ


なぜリーグの規定に満たないボールが使用されたのかというと、空気圧が低いボールは「気温が低い」など悪天候の際にパスのレシーブが行いやすくなるといわれているから。これを狙ってペイトリオッツが故意にボールの空気圧を低くしたのではないかとみられています。なお、事件が「DeflateGate」と呼ばれている理由は、これが「Deflate(しぼむ)」と「Watergate」を合わせた造語であるからです。

しかし、こういった大きなスキャンダルもスポーツの世界ではすぐに忘れ去られてしまうかもしれません。

By Parker Anderson

6カ月前、当時ボルティモア・レイブンズのランニングバックを務めていたレイ・ライス選手が婚約者に暴行を加える映像が公開され、ライス選手はチームを解雇されました。しかし、アメフトファンからは「頭部の外傷はアメフト選手が我慢しなければならないものだ」とライス選手を擁護する意見も多くあがりました。

こういった状況はアメフトの世界でだけみられる現象ではありません。2014年ブラジルワールドカップのオランダ対メキシコ戦では、オランダ代表チームのスター選手であるアリエン・ロッベン選手が、故意に転倒してファウルを受けたと見せかけて審判を欺きました。こういった行為はサッカーファンから非常に嫌われているのですが、オランダのサッカーファンたちはロッベン選手の行為を擁護しています。これと同じように、他のスポーツでも選手が汚いプレーをしても擁護されることはしばしばあります。

ロッベン選手が故意に転倒したシーン。後に、ロッベン選手は審判を欺く行為に対しては謝罪していますが、ファールは実際にあったと主張しています。


このように選手の悪行を擁護するファンの存在はどのようなスポーツでも見られるのですが、そういったスポーツファンの心理を調査したのが「The Secret Lives of Sports Fans:The Science of Sports Obsession」の著者であるエリック・シモンズ氏。彼は、熱心なスポーツファンが応援するチームのことを「私たち」という言葉を使って語ることに対し、「これは何が『自分』で何が『チーム』なのかを、脳が判断できなくなっている証拠だ」と語っています。

Amazon.com: The Secret Lives of Sports Fans: The Science of Sports Obsession (9781468308778): Eric Simons: Books


シモンズ氏は、ファンは無意識の内に自分の感情や行動などをチームに投影しており、チームの勝利とチームの持つイメージがファンの自尊心を支えている、と説明しています。また、スポーツファンは自身の愛するチームから、自尊心の他にアイデンティティーや帰属意識なども育んでもらっているそうですが、同時に仲間集団に対する過剰な認知バイアスも形成してしまうそうです。そして、スポーツチームを「自分たち」だとか「私たち」「俺たち」と呼ぶ、つまりは脳が自分自身もスポーツチームの一部分だと認識するようになると、認知バイアスはチーム全体にもかかってしまう、とのこと。

認知バイアスに関する有名な研究としては、1951年に行われたダートマスとプリンストンによるアメフトの試合で行われた調査が有名です。この試合では多くのラフプレーが飛び交ったのですが、「ラフプレーをどちらのチームが始めたか?」「プレーはフェアだったか?」などの質問を試合を観戦したファンに投げかけたところ、解答は完璧にそれぞれが応援しているチームを擁護するものになってしまったそうです。

このようにチームが不正行為で非難されたりした場合、チームのファンは本能的にチームを擁護しようとしてしまうわけです。そういうわけで、熱心なファンは自己防衛本能から「DeflateGate」の話題をそらそうとしてしまう、とシモンズ氏は語ります。

By chris elward

また、心理学者のアーサー・アーロン氏が数十年間に渡って行った対人関係の研究によれば、スポーツファンが自分の好きなチームやプレイヤーを見た際の脳の反応は、自身の配偶者の写真を見た際の反応と非常に似通っていることも明らかになっています。

これらの研究結果を言い換えて、シモンズ氏は「スポーツは秩序整然とした要素を全く重要視していない」とコメント。スポーツが秩序整然とした要素を全く重要視しないからこそ、スポーツファンは外部からの攻撃から自身の愛するチームやプレイヤーを守ろうとします。なので、自身を傷つけようとする主張に対して、より詳細な根拠を求めようとする行為は非常に合理的だ、とシモンズ氏は語っています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii