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3Dプリンターで妻を救って本人が気付かない間に医療を革新していた男の話


あらゆる製造プロセスを大きく変えた3Dプリントの技術ですが、医療の分野にも影響がありました。安く高度なロボット義手の作成に成功し、今後10年以内には本物の心臓を3Dプリンターで出力できるようになると考えられています。そんな新しい医療分野において、3Dスキャンや3Dプリントの技術で妻を救うとともに、知らず知らずのうちに革命をもたらした1人の男性がいました。

How 3D Printing Helped a Man Save his Wife's Sight | Make:
https://makezine.com/2015/01/14/hands-on-health-care/

マイケル・バルザーさんは2013年の8月まで、空軍のテクニカルインストラクターを務めるなどして生計を立てていた、普通のソフトウェア開発者でした。3Dイメージングに精通していたバルザーさんは、妻であり心理セラピストのスコットさんを手助けすべく3Dグラフィックスも作成しており、これまでの人生で何度も医学や回復というテーマが浮上することはあったものの、本業とは関係ないものと考えていたそうです。そして2013年の夏にバルザーさんは3Dデザイン・スキャン・プリンティングの仕事を開始しました。

バルザーさんが3D関係の仕事を開始したのと同じ夏、妻のスコットさんは頭痛に悩まされ始めます。スコットさんは数カ月前に甲状腺を摘出したところだったため、心配したバルザーさんはスコットさんにMRIを受けるように頼み、その結果、彼女の左目の後ろから3cmの腫瘍が発見されました。当然2人は怯えたのですが、神経科医は「女性にはよくあることだから年内にもう一度チェックを受けるように」と無関心な様子で指示するだけだったとのこと。


先に行った甲状腺の手術で「自身で調べることの重要性」と「最先端の医療技術」を目の当たりにしていたバルザーさんとスコットさんは、「年内に再チェック」という神経科医の言葉を無視して、国内でも一握りしかいない優秀な神経科医にMRIの結果を送りました。すると、彼らのほぼ全てが「スコットさんは手術をする必要がある」という意見に同意したのです。

数カ月後、スコットさんが再びMRIを受けたところ、恐ろしいことに「腫瘍はさらに大きくなっている」と伝えられました。しかしバルザーさんが新しいMRIデータを家に持ち帰りPhotoshopで開いてみたところ、腫瘍は全く大きくなっていないことに気づきます。MRIのデータはDICOMという2Dのファイル形式を取ることが多いのですが、放射線技師が前回のMRIとは別の角度から撮影したために、腫瘍が大きくなっていると勘違いされていたのでした。そして「どうしてもっといい方法でデータを見ないのだろう」と考えたスコットさんは、自分で2DのDICOM画像を3Dに変換することを決心しました。

バルザーさんはスコットさんの腫瘍の位置や大きさを3D技術で正確に把握し、必要な処置を導き出せるようにしたいと考えていました。一般的に、髄膜腫に分類されるスコットさんの腫瘍を摘出するには開頭術が必要と言われています。この手術では脳の下にある腫瘍を摘出するためにスコットさんの脳を一度頭蓋骨の外に出さなければならず、場合によっては嗅覚や味覚、視覚を失う可能性がありました。しかし、最先端のロボティックアームを使った甲状腺手術を受けた経験があるスコットさんとバルザーさんは、他の方法があるかもしれないと考えました。

by Teemu Kuusimurto

バルザーさんはブラジルで開発されたInVesaliusというMRIやCTのデータを3D画像に変換するソフトを使ってDICOM画像から3Dボリュームレンダリング画像を作り出し、あらゆる角度から腫瘍を観察できるようにしました。次に3Dモデルのデータを共有できるSketchfabにデータをアップロードして新しいタイプの施術を行ってくれる医師を探したところ、ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)に該当する医師がいることを発見。UPMCの神経外科医は開頭術を行わず、マイクロドリルを使って左まぶたから腫瘍を摘出するという方法を取ると知ったバルザーさんは、手術をスムーズに行ってもらうため、MakerBotで出力したスコットさんの頭蓋骨の実物大モデルをUPMCに送ったとのこと。

これが3Dになったスコットさんの頭部のイメージ。


そして以下がUPMCに送られた頭蓋骨の実物大モデルです。


この時のバルザーさんには知るよしもありませんが、3Dプリンターで出力したモデルを使って患者に診断を説明するというスタイルは、後にMedical Innovation LabsのCEOであるマイケル・パットンさんが「治療における新たなスタンダードになるだろう」と予測しています。知らず知らずのうちにバルザーさんはこの分野の草分け的存在になっており、パットンさんは「3Dプリンターでプロトタイプを作ることで、動物実験を省いたり、多くの患者に施術が行われる前にそのコンセプトを実証したりできる可能性がある」と語っています。

技術の進歩により、今回の例のように医学分野以外の人の手によって「革命」が起きることも多くなっています。「医療に携わる人々は診療に集中するあまり『なぜその方法でやっているのか』『どうすれば別の方法を行えるのか』ということを考えないことがあります」とパットンさん。3Dプリントや3Dスキャンに精通したバルザーさんが、医師とは別のプロセスによって医学界に進歩をもたらした今回の事例は、新たな医療革命の姿だ、というわけです。


現在、バルザーさんは医者や患者が画像をシェアできる安全なクラウドサーバを使った3Dスキャン・プラットフォームを開発しているところ。またAll Things 3Dというポッドキャストの運営も行っており、医療分野における3D技術のセミナーなども開催しているそうです。

なお、無事手術を終えたスコットさんですが、もし初診で言われたとおり6カ月の間様子を見ていたとしたら、視力が大きく低下していただろうと考えられています。8時間の手術により腫瘍の95%が摘出されたスコットさんは、3週間後には仕事に復帰、手術の痕跡もほとんどわからない状態になったとのことです。

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in ソフトウェア,   ハードウェア,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

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