取材

スープストックトーキョーのスープ開発の裏側を見せてもらいつつ新製品の「オマール海老のフリカッセ」を試食してきました


「食を通じて人々の生活を豊かにする。」を掲げ、手間隙をかけて作られたスープを提供するスープストックトーキョー本社では毎日「テストキッチン」と呼ばれる場所でスープの開発・改良が行われています。以前、レシピ本を参考にして看板商品のオマール海老のビスクを作ったところ家庭で作っているとは思えないおいしさに衝撃を受け、しかしその後に市販されている冷凍版を食べて本家の濃厚さと風味に圧倒されたので、いったいスープストックトーキョーのスープはどのようにして作られているのか、テストキッチンで開発の秘密を探りつつ、新製品をもぐもぐ試食してきました。

Smiles: 株式会社スマイルズ
https://www.smiles.co.jp/

ここがスープストックトーキョーを運営する株式会社スマイルズ本社。マンションっぽい建物です。


さっそく入館。


中に入ってみると、建物の外観とは違う落ち着いた雰囲気。


建物の3階にスープストックトーキョーのテストキッチンはありました。ガラス張りでオープンな感じです。


さっそくお邪魔します。


テストキッチン内部はこんな感じ。真ん中に大きなテーブルがあり、壁際にシンクや作業台などが設置されています。


レンジやオーブントースターも置かれていました。


通路側の壁にはズラリと食器が並びます。


IHヒーターは大きなダイニングテーブルに直接埋め込まれているタイプ。


訪れた時はちょうど「鶏むね肉とトマトの塩糀スープ」の味の調整が行われている最中でした。スープストックトーキョーのスープは一度市場に出てしまったら完成というわけではなく、食べた人のフィードバックを受けて何度も味の調整が行われます。また、販売している途中で商品に使われている材料が手に入らなくなることもあるそうで、改良は常に行われているとのこと。いろいろ話を聞きつつ横から調理の様子を見ていると、スープ開発を行うフードプランナー桑折敦子さんが、おもむろに手にとったのはプラスチックケース。


一体何なのかと思ったら、中から豆腐が出てきました。ケースの中から豆腐を絞り出すことで簡単に豆腐を崩すことができるという、目からうろこのアイテムです。


写真の女性が桑折敦子さん。スープのアイデアは桑折さんらが「こういうの食べてみたいよね」と商品チームと雑談していく中で生まれ、レシピ自体は桑折さんがほぼ1人で考えているとのこと。またスープストックトーキョーの商品チームや開発チームは世界各地へ食材探しに出かけるので、その中で食べた食材や、個人的にでかけた旅行先で食べたものからアイデアを生みだし、そこからスープ作りが始まるわけです。


その他の開発の切り口はこんな感じ。「真っ白な雪が辺り一面を覆い尽くした風景」など、ストーリーから生まれたりもしています。


IHヒーターの上にはもう一つ鍋が載っており、ここではシイタケと昆布から出汁が取られていました。


だし汁は鶏むね肉とトマトの塩糀スープではなく、成田空港で提供される予定の新商品である、佐賀県の郷土料理だご汁に使われるもの。日本で展開するスープストックトーキョーではみそ汁を扱っていないのですが、空港では外国人のお客さんが多いとのことで、店長さん自らがアイデアを出して開発しているそうです。


こちらが成田空港店店長の玉井久恵さん。玉井さんのアイデアであるだご汁は一度ボツを食らったものの、試作を重ねて二度目の挑戦で商品化が決まりました。通常、店長さんから出されるアイデアは一度ボツを食らった時点で諦められることが多いらしいのですが、玉井さんは情熱と「良い意味でのしつこさ」をもって開発までこぎ着けたわけです。


なお、玉井さんらはロンドンでみそ汁を配ってロンドン市民の反応を見るというテストマーケティングを行っていました。詳細の内容は株式会社スマイルズの代表取締役社長である遠山正道さんのブログから見ることができます。

世の中の体温をあげる... 株式会社スマイルズ 遠山正道のブログ Soup Stock Tokyo、PASS THE BATON、giraffeを運営:LONDON 5 (「自分の仕事は、恋のよう」)
http://toyama.smiles.co.jp/archives/2506065.html


テストキッチンには人が入れ替わり立ち替わり訪れ、わいわいした雰囲気でした。


もう1つお鍋を発見。


これが12月1日(月)から始まる「オマール海老のフリカッセ」


カリフラワーをフライパンで焼いてもらい……


盛りつけてもらいました。


見た目はオマール海老のビスクと似たような感じで、ご飯の上にはパセリがかけられており見た目も鮮やか。


先ほど焼かれていたカリフラワー。


オマール海老の身は目視できるほどふんだんに使われています。


ということでさっそく試食。食べてみるとまず口に広がるのは濃厚なオマール海老の香りとコク。一瞬、オマール海老のビスクか?と思ってしまいそうなのですが、後からスパイスの香りが追ってやってきて、ピリピリと刺激を感じます。タイカレーのペーストが使われており、唐辛子が直接的に辛いのではなく、食べ進めていくとじんわり汗をかく辛さなので、寒い季節、体を温めるのにピッタリです。


オマール海老の身もたっぷり入っていました。


さらにスープをよそってもらいます。


これは来年1月末から提供される予定の白い韓国スープ。寒さが深まる時期なので、韓国スープで温まろう、というわけです。


スープの上には韓国のりが散らしてあり、ゴマ油の香ばしい香りがタラからだしを取った優しいスープによく合います。


中には白菜や豆腐などが入っており、ほっこりする仕上がり。


こちらは鶏と牛を使ったもう一つの白い韓国スープ。


韓国にあるトックと呼ばれるお餅を使ったスープをベースにしており、魚介ベースだった白い韓国スープと違って牛骨の旨みを感じます。


もやし・しいたけ・牛肉など具だくさんで、しっかりお腹にたまりそうです。


ここでスープストックトーキョーのレシピ本の話題に。


実際にオマール海老のビスクを作ってみて感動していたら、その後に市販されている冷凍スープを飲んでその違いに愕然としたことがあったので、「なぜでしょう?」と聞いてみたら、「どうしても家庭で手に入らない食材などがあるので、レシピは家庭用にアレンジしています。あと工場の機械で作ると食材をプレスしてだしを最後の1滴まで取れるのですが、家庭だとちょっと難しい」とのこと。レシピ本を使うとおいしいスープが飲めますが、やはり本家の味を楽しもうと思うとお店に行ったりインターネットでお取り寄せするしかなさそうです。


レシピ本も桑折さんが中心となって執筆。レシピ本第1弾は「素材を食べるスープ」「だしにこだわったスープ」「手間隙がおいしくするスープ」「世界の食文化を味わうスープ」「身体をいたわるスープ」「ストーリーから生まれたスープ」「Soup Stock Tokyoのカレー」「Soup Stock Tokyoのデザート」となっていますが、これもうんうんうなりつつ構成を決め、チャプターを決めたあとに該当するメニューを振り分けていったそうです。


例えば素材を食べるスープであれば「具材のないスープは物足りないなんて言えなくなるほど、材料そのものの生きた力を感じるでしょう。0歳の赤ちゃんから100歳のお年寄りまで、毎日の食生活の中で親しんで頂けたらと思います」という作り手の思いをベースに選んだメニューになっています。お話を聞いていると素材にかけるスープストックトーキョーの情熱は特にすさまじく、旬のある食材なら旬の時期にまとめてスープを作って、それを1年かけて販売していたり、「この材料・配合のつみれが欲しい」と工場に注文して「ない」と言われたら特注で作ってもらったりもしているとのこと。またスパイスは現地で取ったものが最も風味豊かなことがあるので、その場合は現地で加工されます。


「常連の方が毎週通われても、違う種類のスープが食べられるように」ということで、スープストックトーキョーのスープはレギュラーメニューとは別に週替わりのメニューも用意されています。期間限定のものを含めて、お店で提供されるスープはざっとこのくらい。一覧で見ると圧巻です。


開発が予想外に難航したスープはありますか?と尋ねたところ、「海老と豆腐の淡雪スープ」を指さした桑折さん。このスープは火にかけていると鍋の側面に具がくっついてしまうそうで、「減りが早い!スープがまた欠品した!なんで?!」と混乱が起こったもの。今ではそれを教訓に、開発の段階で4時間ほど火にかけて「よしよし減っていないぞ、具も崩れてない」ということを検証しているそうです。


新しい商品を定着させるためには、「まず商品を知ってもらう」ことから始まり時間がかかるものですが、スープ開発を始めた当時はそれが上に伝わらず「この商品人気でないね」と打ち切られることもあったようです。しかし今では企画の段階で意思疎通が図れるようになっており「ケンカは減りましたね~」と桑折さん。


お話をする桑折さんと、商品部の山内さん。どんなにおいしいスープでも現実としてお店で販売できるのかは別の問題なので、「おいしいけれど売れないね」「これはこのだしに変えてはだめですか?」など、コスト面でのアレコレを商品部が検討していくわけです。


特注で食材を注文していると使い切れなかった材料が出てくるわけで、しかし特注ゆえに他の会社に使ってもらうこともできないので、余った材料をもとに新しい商品を開発することもあるそう。


また市販はされていないのですが、オリジナル商品として添加物を使っていないトマト缶などもテストキッチンにはありました。


コスト削減のためにラベルは手作業で貼られているのですが、思いがあふれすぎて缶に貼りきれないほど長いラベルになっています。


この他「市販の布巾はピンクとか水色とかで雰囲気に合わない」ということで、無印良品とコラボレートして作ったキッチンダスターも発見しました。これはLOHACOから購入可能。


テストキッチンで開発裏話を伺いつつ新商品の味を堪能したところで、オフィスはどうなっているのか、ということを見せてもらいました。オフィス入口もガラス張りでオープンな感じです。


ガラスには小さく「Smiles:」の文字。


中はこんな感じ。「素材を生かす」というスープストックトーキョーの信念と同じく、オフィスも木の素材を生かしたウッド調です。


会議を行うスペースも何だかすごくオシャレ。


このイラストには株式会社スマイルズの事業計画が書いてあるとのこと。


お昼時にはスープの試食も行われていたフリースペース。


奥の方にパズルのピースが埋まっていると思ったら、これはアーティスト集団Chim↑Pomが訪れた時に設置されたもの。代表取締役社長の遠山正道さんが現代アート好きということもあって、スープを作っている会社とは思えないほどアートなオフィスとなっていました。


神は細部に宿ると言いますが、メインのスープだけではなく、お茶の1杯や台ふき1つにまでもこだわるスープストックトーキョー。化学調味料や保存料などに頼らず食材をじっくり炒めたり煮込んだりして手間隙で旨みを引き出すスープストックトーキョーの商品開発は、食材や味へのこだわりはもちろんのこと、開発を行う人や実際にスープを販売する人の「おいしいものを食べて欲しい」という思いの強さが全ての原動力となっている様子が印象深かったです。なお、今回訪れたスープストックトーキョーのテストキッチンでは料理教室なども行われており、実際にスープ作りのあれこれを現場で学ぶことも可能になっています。

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in 取材,   試食, Posted by darkhorse_log

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