サイエンス

宇宙を体験した人に生じる「ブレイクオフ効果」とは?

By NASA's Marshall Space Flight Center

宇宙から眺める地球の美しさは格別で、その光景を目の当たりにした宇宙飛行士で人生観や生命観や倫理観が大きく変わる人がいることが知られています。しかし、宇宙空間を体験した人に生じる効果は良いものばかりではなく、長らく忘れ去れていた「Break-Off Effect(ブレイクオフ効果)」と呼ばれる精神的な影響が再び注目されています。

Out Of This World: The Mysterious Mental Side Effects Of Traveling Into Space | Co.Exist | ideas + impact
http://www.fastcoexist.com/3036887/out-of-this-world-the-mysterious-mental-side-effects-of-traveling-into-space

地上から4万5000フィート(約1万4000メートル)を超えると酸素・窒素の濃度が減少し空中の色が変化し始め、7万フィート(約2万1000メートル)を超える高高度域に到達したところから、飛行機のパイロットは地平線の曲率から「地球が丸い」という事実を確認することができます。

しかし、この高度2万メートル付近の高高度域において、1956年にアメリカの37歳のある戦闘機パイロットが不思議な呼吸障害を訴えて飛行を拒絶しました。この戦闘機パイロットの体に起こった不思議な現象について海軍軍医や心理学者の研究チームが調査したところ、数自体は少ないものの他にも複数のパイロットが高高度域で「自分が地球から切り離された様に感じ、さらには現実世界からも切り離されたように感じる」という不思議な体験をしていることが判明。この不思議な感覚は「ブレイクオフ効果」と名付けられました。

By US Air Force

このブレイクオフ効果は、ソ連との宇宙開発競争を続け宇宙への有人飛行を計画していたアメリカにとって大きな懸念材料として認識されており、アメリカのライバルのソ連もまたブレイクオフ効果を認識して解決の必要性を感じていたとのこと。しかし、1950年代に宇宙進出への大きな障害になりかねない深刻な問題として捉えられていたブレイクオフ効果でしたが、1960年代に有人の宇宙飛行が実現し始めるととたんに議論されることがなくなり1970年代初頭ころには文献からも姿を消すようになりました。

その後、宇宙空間から地球を眺めた宇宙飛行士から語られたのは、ガガーリンの「地球は青かった」という名台詞を筆頭に「地球の想像を超える美しさ」を述べた感想が多くを占めました。そして、美しい地球を見ることで、かけがえのない地球を守る必要性を感じると同時に自分もまた地球の一部として存在することを再確認して突如として「地球環境の保護」に開眼するという「overview effect(概観効果)」と呼ばれる現象が続発し、広く知られるようになりました。

By Royce Bair

しかし、消えたかに思われたブレイクオフ効果の存在に再び光を当てる見解が、40年経った現在に現れました。NASAでフェローを務めるヨルダン・ビム氏は、ブレイクオフ効果と概観効果に何らかの関連性があると主張しています。

ビム氏によると宇宙飛行士は地上から離れる事で「恐怖」を感じていましたが、それは「精神的な不安定さが理由で飛行が許されないのではないか?」という恐怖ではなかったとのこと。そこで、この恐怖に打ち克つために「ウソ」をつくことを覚えて、何か叫びたくなるような恐怖を体験した場合でも報告しなくなったとのこと。そして、ブレイクオフ効果というネガティブな情報について宇宙飛行士が話さなくなった反作用として注目されるようになったのが概観効果であるとビム氏は考えています。


かつてNASAで研究していた航空心理学研究者のバレリー・ガウロン氏もまた、ブレイクオフ効果については医学文献では目にしなくなったけれども、その存在を認める多くのパイロットがいると述べ、「ブレイクオフ効果はもはや通過儀礼のようなものになっている」と話しています。

これまで宇宙空間への進出については、莫大な資金と研究成果を持つアメリカやロシアなどの一部の国・政府機関のみが独占してきましたが、SpaceXを代表格として民間の宇宙関連企業が近年、大きく成長しており、10年後には宇宙はより身近な存在になると考えられています。民間人を含めてより多くの人が宇宙空間を訪れる時代がくれば、ブレイクオフ効果が再び大きく議論される日がくるかもしれません。

以下のムービーは、気球を使った宇宙旅行を計画するWorld View Enterprisesのイメージムービー。World View Enterprisesは2014年6月18日に10分の1のサイズのテスト機を使った最初の飛行実験に成功しています。

The World View Experience - YouTube


なお、World View Enterprisesは最初の宇宙旅行を2016年に実現するとしており、フライトの前売り券は7万5000ドル(約860万円)で予約販売中です。

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in サイエンス,   動画, Posted by darkhorse_log

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