サイエンス

最速の競走馬はDNAで判別可能か、競馬界における遺伝子検査とは?

By Jason Mrachina

遺伝子を検査して瞬発力系か持久力系のスポーツのどちらに向いているかわかるACTN3検査というものがありますが、遺伝子検査を採用しているのは人間だけにはとどまらず、競走馬の世界でも使われています。馬にはスピード遺伝子というものが存在し、検査することで距離適性の傾向を推測可能です。では、競馬に遺伝子検査を取り入れたのには、どのような経緯があったのか、Nautilusが詳細を公開しています。

Can Science Breed the Next Secretariat? - Issue 10: Mergers & Acquisitions - Nautilus
http://nautil.us/issue/10/mergers--acquisitions/can-science-breed-the-next-secretariat

競走馬の遺伝子検査の歴史はアイルランドで始まりました。家族がアイルランドで競走馬生産牧場を運営し、祖母がアイルランド初の女性ジョッキーという、まさに競馬エリート一家に生まれたエメライン・ヒルさんは、19歳の時に通っていた専門学校で遺伝子学を専攻し、集団遺伝学やアフリカの牛で発生した睡眠病など、多様な学科を勉強しました。

By Susie Blackmon

そんなヒルさんに転機が訪れたのは2004年のこと。当時28歳だったヒルさんは、競走馬の遺伝子について勉強するための奨学金をアイルランド科学協会から受け取りました。奨学金を受け取ったヒルさんはDNAサンプルをサラブレッドから集め、分析を開始。馬は人間と同じように、体内の全ての細胞にDNAを含有します。馬のDNAは約2万個以上の遺伝子で構成され、その組み合わせで馬の身長や毛色が決まるとのこと。

ヒルさんがDNAの遺伝子の中で注目したのがミオスタチン遺伝子です。ミオスタチン遺伝子は筋形成前駆細胞の増加をコントロールして、筋肉の成長を抑制する特性を持つ遺伝子で、1997年にはジョンズ・ホプキンス大学の研究チームがマウスを用いた実験でミオスタチン遺伝子が少ないほど筋力が多いことを発見。ジョンズ・ホプキンス大学の実験から、ヒルさんは、競走馬の走るスピードに重要なのはミオスタチン遺伝子であると確信します。

By University of Michigan School of Natural Resources & Environment

ヒルさんが148頭のサラブレッドのDNAを解析し、その中から勝利経験のある馬のDNAを調べた結果、「C/C型」「C/T型」「T/T型」という3種類のミオスタチン遺伝子を発見しました。C/C型は筋肉量が多く瞬発力に優れた1000~1600mの短距離向き、C/T型は筋肉量がC/C型よりすくない分、持久力に関係する遅筋の割合が多く1400~2400mの中距離向き、T/T型は遅筋がC/T型より多く2000m以上の長距離向きという特性を持ちます。

ヒルさんは、馬のミオスタチン遺伝子とレース適正距離についての研究をまとめた論文を2010年に発表しましたが、当時は誰も相手にしなかったとのこと。しかしながら、ミネソタ大学の遺伝子学研究チームが馬のミオスタチン遺伝子に関する研究を進め、ミオスタチン遺伝子が馬の運動能力に影響を与えることが明らかになり、ヒルさんは調教師のジム・ボルガーさんと共同でエクイノムという企業を設立し、遺伝子検査の受注を始めます。


実際に、ボルガーさんが調教したトレーディングレザーという競走馬は、遺伝子検査で中距離向きという結果の通り、芝10ハロン(約2000m)のシルヴァーSや芝12ハロン(約2400m)でアイルランド3歳最強馬決定戦のアイリッシュダービーを制しました。また、エクイノムは2013年に日本の公益財団法人競走馬理化学研究所とライセンス契約を結び、記事執筆現在、日本でも遺伝子検査を有料で実施しています。

ただし、オーストラリアで有名な競走馬生産牧場を運営するジョン・フライアー調教師は「遺伝子検査がなくても、実際に馬を見たり、血統を調べたりすれば、競走馬に向いているかいないかは判別できる」と述べており、遺伝子検査を快く思っていない関係者がいるのも事実です。「実際に走ってみるまで分からない」という意見の調教師もいる中で、遺伝子検査が競馬界で主流になるのかどうかはまだわかりませんが、科学によって裏付けされた指標の1つであることは間違いありません。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
一般入場不可、JRA東京競馬場の来賓用特別室「ダービールーム」に潜入してみました - GIGAZINE

スポーツで成功するには春生まれが有利 - GIGAZINE

ブログの書き込みから競馬の勝ち馬を予想する「スゴ馬」 - GIGAZINE

種目選択に迷ったら、遺伝子にきいてみよう - GIGAZINE

どう見ても今川焼きにしか見えない競馬場名物「G1焼き」を食べてみました - GIGAZINE

in メモ,   サイエンス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.