ユーザー自身よりもユーザーの好みな音楽を知るために音楽ストリーミングサービス「Spotify」が行っていることとは?


CDアルバムとダウンロード販売の売上げが急降下している中、順調にサービスの規模を拡大しているのが音楽ストリーミングサービスの「Spotify」です。日本でのサービス展開はまだ始まっていませんが、日本語ページは既に存在しておりサービス開始も間近と考えられています。そんなSpotifyの最新機能の分析をウォルト・ヒッキー氏が依頼されたそうで、分析結果をFiveThirtyEightにて公開しています。

Spotify Knows Me Better Than I Know Myself | FiveThirtyEight
http://fivethirtyeight.com/features/spotify-knows-me-better-than-i-know-myself/


◆SpotifyのNestify
FiveThirtyEightは米大統領選の勝敗を全50州分的中させたり、野球選手の成績を予測するための統計ツールPECOTAを開発した天才データアナリストであるネイト・シルバー氏が立ち上げた、統計を使ってあらゆる事象を分析するニュースサイトです。そんなFiveThirtyEightにてアナリスト兼ライターとして活躍しているウォルト・ヒッキー氏は、ある日Spotifyから最新のオススメ音楽提示機能の分析を依頼されます。

このオススメ音楽提示機能「Nestify」は、Spotifyが1億ドルで買収したThe Echo Nestの技術を元に仕上げられたプロトタイプで、ユーザー個人個人の再生履歴やお気に入りの曲に関する情報などを分析して、各ユーザーにオススメの曲を提示するというものだそうです。

Nestify機能の開発者のひとりがアジャイ・カリア氏で、この機能は数学的証明を駆使して各ユーザーにオススメの曲を提示してくれます。使用されるデータはSpotifyで曲をそれぞれ何回ずつ再生したのかといったデータから、どの曲をスキップしてどの曲をどの時間帯に再生したのかまで多岐に渡るそうです。

By Björn Olsson

ヒッキー氏は分析を始める前まで、音楽には「聴く音楽」と「周りに聴いたと言うための音楽」の2つがあると考えていたそうです。「聴く音楽」というのはそのままの意味で、「周りに聴いたと言うための音楽」というのは、FacebookやTwitterなどのSNSで共有したり、SNSのプロフィールに自分の好きな曲として書いたりするための音楽、ということ。しかし、実際に分析してみると、「他人に聴いたと言いたい音楽」「聴いたと思いたい音楽」「実際に聴く音楽」という3つのカテゴリーが浮かび上がってきたそうです。

ヒッキー氏は2013年の1月からSpotifyを使用して音楽を試聴し続けてきたそうで、総再生数は1735回、再生回数のトップ10は以下の通りになっています。


再生回数の5位に位置している「Let it Go」はディズニー映画「アナと雪の女王」の挿入歌のひとつで、曲の長さは3分44秒です。これを107回再生したということは、6時間半以上この曲を再生していたということになります。「The Mountain Goats」「Supergrass」「Arcade Fire」などはヒッキー氏お気に入りのミュージシャンとのことですが、例えば「Hooked On A Feeling」は映画ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのムービー予告編を再生しすぎたせいでこのような再生回数になっている、とのこと。

さらに、アーティスト別に見た再生回数トップ10は以下の通り。


これらのデータを見てカリア氏は、「ひとつの曲が何百回も再生されている場合、それはあなたが本当にその曲を好きだということを表します。10曲の合計再生回数が百回を超えている場合、それはユーザーが自分好みな曲を探しているということを意味しているそうです。そして、数百曲が数百回再生されている場合、これはたくさんの曲を再生してもひとつも引っかかる曲がなかった、ということを意味します」と再生回数が意味するところを解説します。

そして、カリア氏はアーティスト別に見た再生回数トップ10のデータを見て、ヒッキー氏は「Vitamin String Quartet」や「London Philharmonic Orchestra」の曲を特に意味なく聴き流している、と分析しています。ヒッキー氏はVitamin String QuartetとLondon Philharmonic Orchestraの曲を多く再生していますが、再生している曲の数も多いことがデータを見るとよく分かります。そして計算してみると、London Philharmonic Orchestraは1曲平均6.2回しか再生されておらず、Vitamin String Quartetでも1曲平均11.5回再生されている程度で、再生回数の多い曲と比べるとその差は歴然です。

しかし、カリア氏は「だからといってヒッキー氏がVitamin String QuartetやLondon Philharmonic Orchestraをさっぱり好んでいないというわけではない」とコメントしています。またヒッキー氏は、ライターとして長文のテキストを書いている際にVitamin String QuartetやLondon Philharmonic Orchestraがカバーしたポップミュージックを再生している、と打ち明けています。

Vitamin String Quartet viva la vida - Coldplay - YouTube


一方、ヒッキー氏はブルー・スウェードの曲を「Hooked On A Feeling」しか再生していませんが、再生回数は128回と非常に多いです。ヒッキー氏はそれほどこの曲を気に入っているとは思っていなかったそうですが、カリア氏はこれこそが本当は好きな曲である、としています。

Blue Swede - Hooked On A Feeling (Guardians of the Galaxy - Music Trailer) - YouTube


そして、ヒッキー氏が「自分のお気に入り」と思っていたThe Mountain Goatsですが、これは1曲平均18.2回再生されており、カリア氏の分析でもこれは「ヒッキー氏のお気に入り」として認められた、とのことです。

「Nestify」機能はユーザーの音楽再生データと、「どんな時にどんな音楽を聴いているか」のデータを使用します。例えば、ヒッキー氏は通勤時や仕事中は決まった音楽を再生するそうですが、Nestifyはそれを自動で行ってくれる、ということのようです。そのために、Spotifyは音楽に関するビッグデータを用いて、音楽やアーティストを「音楽を聴く際の気分」に合わせられるように分類しています。具体的には、各曲を「どれくらい親近感があるか」などのさまざまな側面から重み付けし、再生回数に基づいてタイプの似たアーティストを探すそうです。

◆なぜSpotifyはNestifyのようなアルゴリズムを作るために大金を使うのか?
ヒッキー氏は、Spotifyがオススメ機能の強化に大金をつぎ込むのは広告主を引きつけるためだと考えていたそうです。しかし、Spotifyは既にユーザーの大半がFacebookアカウントでログインしていることをよく理解しており、Spotifyのユーザー層を徐々に明らかにしていくことは技術的には可能ですが、まだまだそれらの情報は不確実でビジネスに使用できるレベルのものではない、ということも明らかになっています。さらに、Spotifyは現状の広告主を処理するので手一杯であることを考えると、Spotifyのオススメ機能は広告主を引きつけるためのものではない、とヒッキー氏は結論を出しています。

また、Spotifyを利用するには月額料金を支払うか、広告付きの無料のものを使用する必要があります。Nestifyは、この広告付きの無料サービスを使用しているユーザーを、月額料金を支払うユーザーに変換するための切り札なのではないかとヒッキー氏は推測していましたが、Spotifyの中の人たちはもっと大きなビジョンを持っていたそうです。

The Echo NestのCEOであるJim Lucchese氏は、「好きな音楽を再生するためにスマートフォンをポケットの中から取り出す、という動作が必要なくなるくらいに良いサービスになるというのが理想的」と語っています。The Echo Nestチームは、タイムスタンプを利用して、数週間前に再生した曲よりもついさっき再生した曲の方に重み付けするなどを行っており、長期的な目標は「金曜の夜は平日の朝と比べてどのような曲を流したいものなのか?」などの要求に応えた、ユーザーの生活の中により溶け込んだサービスを展開することだそうです。

ヒッキー氏は、「Nestifyは完全に個人化した予言のようなものを概念実証しようとしている」と記述しています。

◆「恥ずかしさ」と「インディー」という2つのグループ
ヒッキー氏は自身がSpotifyで再生してきた音楽は、主に「恥ずかしさ」と「インディー」という2つのグループに分けられることに気づきます。「恥ずかしさ」には、ラナ・デル・レイ、ブルー・スウェード、マイリー・サイラスバングルスマドンナケシャブロンディロードパット・ベネターロビン・シックアンドリューW.K.ザ・キュアーソフト・セルビリー・ジョエルといったアーティストが分類され、以下のようなジャンル(Spotifyにより分類されたジャンル)が含まれます。


この「恥ずかしさ」グループの中の44%はポピュラー音楽に分類されるものです。そして、大半の女性アーティストはこのグループに分類される、とのこと。

「インディー」グループに分けられるのは、The Mountain Goats、Arcade Fire、Supergrass、LCD SoundsystemCHVRCHESGenerationals、Matt&Kim、The StrokesPulp、Blow、Neutral Milk HotelSTRFKR、The Shins and Vampire Weekendなど。「インディー」グループの曲は以下のようなジャンルに分類され、ヒッキー氏の再生した音楽の中だと82%の曲が「indie rock」というジャンルに集約されたそうです。ただし、カリア氏はこのグループを「特有の音を出す緊密なグループ」と称しています。


さらに、この2つのグループには入らなかった多くの曲が存在します。それはLondon Philharmonic OrchestraやVitamin String Quartetなどの「サウンドトラック」群です。

◆Nestifyは自動でプレイリストを作成
Nestifyでは3つのプレイリストが作られます。ひとつは「My Music」という、これまでにたくさん再生した曲が入れられるプレイリスト。もうひとつは「Discovery」というプレイリストで、ユーザーの好みの曲に似たタイプのユーザーが再生したことのない曲が入れられます。そして3つめが「Default」で、これは「My Music」と「Discovery」のプレイリストに入らなかったものが入れられるプレイリストです。


このプレイリストは、「恥ずかしさ」「インディー」「サウンドトラック」といった3種類のグループごとに作られるようで、ヒッキー氏は「『インディー』グループで作られたプレイリストはとても面白かった」とコメント。もちろん、Nestifyがオススメしてくる音楽には気に入らないものなどもあったそうですが、新しくオススメされた曲の中で「どちらかと言えば好きだな」とヒッキー氏が感じた曲は、そのあと本当に好きになったとも語っており、Nestifyが作り出すプレイリストは非常に興味深く驚きに満ちたものだと評価しています。

ヒッキー氏が「Discovery」と「Default」に分類された曲を自身の主観に基づいて「好き」か「嫌い」に分けると以下のような内訳になったそうです。プレイリスト内の約3分の2は好みの曲とのことで、いかにNestifyがユーザーの好みの曲を髙精度で判別できているかが分かります。

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in ソフトウェア,  ネットサービス,  動画,  メモ, Posted by logu_ii