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インターネットを支えるバックボーンの仕組みとエリア間のコスト体系の傾向とは

By Ben

普段何気なく使って身近に感じているインターネットも、その流れをたどれば世界中にくまなく張り巡らされたケーブルと無線によるネットワーク通信が土台になっています。世界中にデータセンターを置いてコンテンツデリバリネットワーク(CDN)のサービスを提供しているCloudFlareは、そんなインターネットを支えるバックボーン接続の仕組みと、世界のエリアごとにみられる料金体系の傾向についてブログで解説しています。

The Relative Cost of Bandwidth Around the World | CloudFlare Blog
http://blog.cloudflare.com/the-relative-cost-of-bandwidth-around-the-world

◆インターネット回線の料金体系
インターネットの仕組みは、無数の小さなネットワークが集まった1つの巨大なネットワークです。ネットワークごとの接続方法には大きくわけて2つのタイプがあり、ネットワーク同士が直接つながっている状態を「ピアリング接続(Peering)」、中間に別のネットワークを介している状態を「トランジット接続(Transit)」と呼んでいます。

インターネットの接続のほとんどはトランジット接続によるものとなっていますが、インターネット通信の最も土台の部分で各エリア間の通信を担っている企業が世界でも10社しか存在していないTier 1と呼ばれるプロバイダで、日本ではNTTコミュニケーションズがアジアで唯一Tier 1に認定されたプロバイダとしてサービスを提供しています。なお、「Tier(ティア)」は「下請け」を意味する言葉でもあり、製造業などでは一次下請け、二次下請けのことを「ティア1、ティア2」という風に呼ぶこともあります。

By Marc Smith

世界中にデータセンターを置くCloudFlareでは、エリアごとの状況に応じてTier 1とトランジットプロバイダのいずれかから回線幅を仕入れています。契約はその月ごとに利用した「キャパシティ」ベースで請求される体系となっており、月間に利用した転送量ベースで請求されるAmazon Web Serviceや従来のCDNなどとは異なり、一定の期間ごとに利用した帯域幅の最大値に応じて請求される仕組みになっているとのこと。

以下の図は、CloudFlareのグローバルネットワークにおける転送量をグラフで示したもの。世界で28箇所に存在しているデータセンターごとに色分けされています。


各プロバイダに対する契約のうち、ほとんど全ての契約では、毎月の実績のうち95パーセンタイルの値をもとに請求が行われているとのこと。「95パーセンタイル」とは、一定の期間における全ての数値を一覧に並べ、少ない方から95パーセントめの値を取るというもの。逆に言えば、上位5%の値は切り捨てられることになり、ひと月(=720時間)のうち5%にあたる36時間に相当する時間内では、どれだけ大量の利用があっても料金に反映されないということを意味しています。半ば都市伝説と化しているエピソードでは、ごく初期のGoogleはこの仕組みを利用し、月々の契約では帯域幅を細くして利用料金を下げておき、実際に転送量を消費する「検索インデックス」の送受信をひと月あたり24時間という短い期間で一気に完了させるという手法を用いることで、通信料を抑えていたということが伝えられています。

また、トランジットプロバイダとの契約は、受信(ingress)と送信(egress)のどちらか多い方のバンド幅にのみ料金が発生することが多いのも特徴です。CDNサービスであるCloudFlareはキャッシングを行うプロキシサービスなので、送信(egress)が受信(ingress)を上回るようになっており、その差は4~5倍に達しているとのこと。この状態のメリットは、仮にサーバに対してDoS攻撃が行われて大量のデータを送りつけられた際でもegress側のバンド幅を上回ることがないため、不要な料金が発生することがない点が挙げられています。

◆ピアリング
上記のように転送を経由するトランジットプロバイダーに料金を支払う方法がある一方で、相手プロバイダとのダイレクト接続を行う「ピアリング」では、通信量に応じた料金が発生しないことが一般的になっています。つまり、ピアリングによる接続を増やしてトランジット契約の転送量を減らせば従量コストが削減されるということになるため、CloudFlareでも以下のグラフが示すようにピアリング構築の取り組みを進めています。


また、中間に存在するプロバイダーを介さないことでデータの遅延(レイテンシー)が軽減されることにもつながり、総じてピアリングは多くのメリットを持つものとなっています。以下のグラフはCloudFlareにおけるピアリング接続(水色)とトランジット接続(青色)の比率を表すもので、およそ3000にも達するピアリング接続の比率が増加して全体の約40%に達している様子が示されています。


◆世界の各エリアごとの状況
上記を踏まえ、CloudFlareは世界中に存在するデータセンターでの実績をもとに各エリアごとの現状を示し、主にコスト面での比較を行っています。比較にあたっては、北米でのトランジットプロバイダ料金をもとに「転送量1Mbpsあたり10ドル(約1000円)」という基準値を設け、各エリアの料金との比較を行います。なお、データセンターが存在していないロシア、中国、インド、アフリカ地域のデータは存在していないとのこと。

・北米
全世界レベルでは40%に達しているピアリングの比率ですが、北米エリアでは20%にとどまっているとのこと。これは、北米のトランジット料金が世界一安い水準に収まっていることが理由の1つとされています。ピアリングの比率が20%とすれば、全体のコスト単価は1Mbpsあたり8ドル(約800円)という計算となり、これは同社の中では2番目に安い単価になっているとのことです。


・ヨーロッパ
ヨーロッパ地域でのトランジット料金は北米とほぼ同一であることから、1Mbpsあたりの基準コストは北米と同じ1Mbpsあたり10ドルと設定。しかし、以下のグラフからも一目瞭然であるように、ヨーロッパではピアリング接続の比率が顕著に多くなっています。およそ50%にも達するピアリング率のおかげで、ヨーロッパにおけるコスト単価は1Mbpsあたり5ドル(約500円)となり、同社の中では最も低い水準となっています。


ヨーロッパでピアリングが増加している要因は、この地域特有の「Peering Exchanges(ピアリング交換)」を行う組織の存在であるとのこと。これは各ネットワークが共通で通信回線を共有する仕組みであり、各ネットワークがコストを分担できるためにコストが抑えられること、また、運営団体が非営利組織であることからも利用のハードルが低くなっているためとされています。

・アジア
アジアでのピアリング状況はヨーロッパとほぼ同じレベルの比率となっているために低コスト構造が想像できますが、実際にはトランジット接続の費用が跳ね上がっているために結果的に全体のコストは増加しているとのこと。1Mbpsあたりの基準コストはおよそ70ドル(約7000円)と、じつに北米の7倍にも達しています。これにピアリング接続の比率である約50%を差し引くと、アジア地域のコスト単価は1Mbpsあたり35ドル(約3500円)という計算となり、北米地域よりもおよそ4倍の単価であることがわかります。


この高コスト体質にはさまざまな要因がありますが、大きく分けて2つの要因があるとのこと。1つはサービスを提供する企業が少ないため、サービス間の競争レベルが低いこと。そしてもう一つは、主に太平洋を横断する光ファイバー通信網の構築と維持に必要なコストが価格に影響を与えている点が挙げられています。

・ラテンアメリカ
ラテンアメリカとは、一般的にメキシコを含む中南米とカリブ諸島を指しています。この地域はCloudFlareにとって最も新しく進出したエリアになるとのことで、最初のデータセンターを開設した地点ではネット網の開発がそれほど整っていなかったこともあり、トランジット接続が唯一の接続手段だったとのこと。

その後、ラテンアメリカで最大のデータ消費地であるブラジル、そしてコロンビアでのサービス体制を構築した時点で本格的にピアリング接続の比率が増加。その比率は約60%にも達しているとのことで、同社では最高のピアリング化率となっています。1Mbpsあたりの基準コストは80ドル(約8000円)となっており、ピアリング率の約60%を差し引くと、ラテンアメリカ地域のコスト単価は1Mbpsあたり32ドル(約3200円)という計算となり、アジア地域とほぼ同一であることがわかりました。


・オーストラリア
この地域は同社の中でも最もコスト単価が高くなる地域であるとのこと。1Mbpsあたりの基準コストは200ドル(約2万円)となっており、ピアリング率の約50%を差し引いてもそのコスト単価は1Mbpsあたり100ドル(約1万円)というケタ違いなものとなっています。


この高コストの原因は、オーストラリアでトランジット接続のサービスを提供しているTelstraによる要因が最も多いとのこと。同国内でのシェアはおよそ50%にも達するというTelstraが非常に高い料金を設定しているために利用料が跳ね上がっているとのことで、人口7億5000万人のヨーロッパに対してオーストラリアは2200万人とわずか3%しかないにもかかわらず、月々支払っているコストはほぼ同一であるという事実がその特異性を物語っていると強調しています。

◆まとめ
各地域ごとのコスト単価をまとめたのが以下の表になり、最もコストが安いヨーロッパに比べ、アジアとラテンアメリカではおよそ6倍、オーストラリアに至っては20倍もの開きがあることがわかりました。ある程度は地理的な要因を加味することも必要ではありますが、それだけでは説明のつかない部分があるのも興味深いものとなっています。


なお、CloudFlareでは世界同一価格を実現するために取り組みを続けているということで、あらゆるルートを通じてコストを抑える方策を探っているとのことでした。

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in ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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