メモ

小さなタンポポから自動車用のタイヤの原料となる天然ゴムを生産する研究が進行中

By Doug Brown

世界中を走り回って人や物を運んでいる自動車に欠かせない部品の一つがタイヤです。タイヤはその原料に「ゴムノキ」などの樹木から産出される天然ゴムを必要とするのですが、2007年ごろからは「タンポポ」を原料として天然ゴムを生産する研究が進められており、従来の生産能力に匹敵する規模での生産の実現が視野に入りつつあります。

Tire makers race to turn dandelions into rubber | Reuters
http://www.reuters.com/article/2014/08/20/us-dandelion-rubber-idUSKBN0GK0LN20140820

タイヤの原料の一つとなる天然ゴムの生産は主に東南アジアなどの地域に限定されており、疫病などを原因とする供給不安のリスクを懸念する声が挙がっていました。そんな中で、タンポポの根から採れる成分を原料にした天然ゴム生産を研究していたのがアメリカ・オハイオ州立大学の研究チーム。現在、プロジェクトは世界最大手のタイヤメーカーであるブリヂストンや第4位となるコンチネンタルなどのメーカーが参画する産学連携コンソーシアム「PENRA」に発展し、研究が進められています。

ブリヂストンはロシアタンポポを使ったタイヤづくりについて、2012年に以下のリリースを発表していました。

天然ゴム資源「ロシアタンポポ」の研究活動を加速 | ニュースリリース | 株式会社ブリヂストン
http://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2012051701.html


多くの人は「タンポポ」と聞くと野山や街中に生える黄色くかわいい植物を思い浮かべ、まさかタイヤの原料になると考える人は少ないはず。しかし、近い将来にはタンポポが工場で計画的に大規模栽培され、工業製品の原料として扱われる時代が来るそうです。

天然ゴム生産に用いられるタンポポはカザフスタンを原産とする「ロシアタンポポ」と呼ばれる品種で、その根からは白く粘度の高い液体が分泌されます。この液体にはゴム粒子と呼ばれる物質が含まれているのですが、これまで天然ゴムを生産するのに使われてきた「ゴムノキ」から採れる成分に匹敵した自動車用タイヤとして十分な品質を持つ原液を採取することができることが分かっています。


タンポポには品種改良が加えられており、背の高さが30cm程度と通常のタンポポに比べて低いものが作られているほか、通常は横に広がって生える葉が縦方向に伸びるようにも改良され、工場でロボットがつかんで収穫しやすくなるような工夫が行われています。養分が貧しい土地でも生産できるので、世界中の多くの場所での生産が可能になる予定。

自動車向けタイヤの生産に使用される天然ゴムの量は、世界で産出される天然ゴムの3分の2を占めており、これまで東南アジアの限られた国にほぼ限定されてきた天然ゴムの産出に依存する体制はさまざまなリスクを抱えるものとなっていました。石油由来の合成ゴムが発明されてからすでに100年以上がたちますが、天然ゴムには低温時の柔軟性や耐破損性などの面で合成ゴムを上回る特性が備わっているために、いまでもタイヤの生産には天然ゴムが欠かせない状況が続いています。一般自動車用のタイヤでは原料のうち10~40%が、そしてトラックや航空機向けのタイヤはさらに多くの比率で天然ゴムが必要とされています。

By D W S

タイヤメーカーが最も恐れるリスクは疫病などに感染することで天然ゴムの生産が打撃を受けることで、過去には実際にそのような危機が発生したこともありました。このような原料供給の脆弱性を課題とするタイヤメーカーにとって、代替の生産手段となる新たな植物の模索は急務とされています。2011年に天候不良を原因とするゴムの不作が発生した際は、1kgあたり6ドル(約600円)を超える記録的高値を記録しています。しかしその後、近年の価格は1kgあたり2ドル(約200円)と低迷。これは世界最大のゴム消費国である中国の低い経済成長が予想されるためでもあるとのこと。また、新たなゴム農園の開発にはおよそ7年という期間が必要なことも、この不安定性に拍車をかけることとなります。

このようなリスクを回避するためにロシアタンポポの研究が進められているわけですが、実はこの植物に注目が集められたのは今回が初めてではありません。第二次世界大戦の時代、アジアからの原料供給が滞った欧米諸国ではロシアタンポポの栽培が行われ、収穫量は乏しいものの緊急用の供給源として用いられていたという歴史があったのですが、戦後に供給が復活した後にはよりコスト効率の高いアジア産の天然ゴムにシフトするという状況が続いていました。その後、疫病などによる供給不安をきっかけに、2000年に入ってからロシアタンポポからゴムを生産する研究が再び行われるようになったということです。

By CumulusHumilis

この研究は2007年にスタート。オハイオ州立大学の研究チームは、ロシアタンポポとアメリカ南西部およびメキシコに自生する灌木であるグアユールゴムについての研究を開始し、のちにブリヂストンとアメリカのタイヤメーカーであるクーパー・タイヤが参加し、産学連携コンソーシアム「PENRA」として研究が進められてきました。その後、ヨーロッパを拠点とする研究チーム、インドのアポロ・タイヤ、チェコ共和国のトラクター用タイヤメーカーのMitas、そして前出のコンチネンタルが次々と参加するという状況になっているとのこと。

現在までの研究は順調に進んでおり、現段階の試作では、1ヘクタールに換算した生産量では1500kgというゴムの生産に成功しており、これは現状のゴム農園で産出される量に匹敵するレベルだとのこと。さらに研究チームでは、およそ3.3ヘクタールに相当する8エーカーの規模でロシアタンポポの栽培を行って検証を続けています。仮に1ヘクタールあたり1000kgの生産能力が実現されると、オーストリアの面積に相当する耕作面積だけで世界で消費される天然ゴムを生産することが可能になるとのことで、効率的に安定した生産に期待が寄せられています。


2020年にPENRAのプロジェクトが終了する時点では、詳細な事業計画と生産者向けのガイドラインが公開される予定。収穫された原料をゴムに加工するプロセスについては、まだ明らかにされていませんが、基本的には根の部分を切り刻んで水を加えながらパルプ状に加工するというもので、さらに複数の工程を経てゴムの原料が生成されることになります。研究に携わるIngrid van der Meer氏はこのプロジェクトについて、「砂糖が作られるテンサイは太い根を持っていますが、その先祖となった野生のテンサイには、人の親指ほどの太さの根しかありませんでした」と、品種改良による可能性を語ります。

試作品でテストを行ったところ、従来のタイヤと同等の性能を満たしていることが確認されましたが、実際にタンポポから作られたタイヤが市場に出回るのは研究プロジェクトが完了して数年後になる見込みとのこと。現在まだ研究が進められているプロジェクトですが、すでに多くの注目を集めており、生産を検討する農家からは「いつ生産に入れるのか?」という問い合わせが寄せられているということです。

By Denis Vahrushev

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
家の庭や砂漠でさえも肥沃な土地に変えることができる方法とは? - GIGAZINE

ミニ植物工場を店舗内に備えた「サブウェイ野菜ラボグランフロント大阪店」 - GIGAZINE

ベジタス「野菜工場」亀岡プラントで野菜の安定供給の次世代スタイルを見た - GIGAZINE

1日1500円で稼働する超ミニサイズ「野菜工場」、約40日で野菜が完成 - GIGAZINE

自然に生えている樹木のような擬装をしたが不自然極まりない携帯基地局を集めた「Invasive Species」 - GIGAZINE

in メモ,   乗り物, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.