あの手この手でライバルを蹴落とそうと熾烈な販売競争を10年繰り広げてきた「ココナッツウォーター戦争」とは?


ココナッツウォーターは「健康に良い万能ドリンク」としてテレビや雑誌で取りあげられたり、セレブが愛飲しているだとかで大きな盛り上がりを見せています。そんなココナッツウォーター市場を10年に渡って牽引してきたのがVita CocoZICO。両社がココナッツウォーターの販売を開始した2004年の時点では一部のメーカーが移民の要望に応えてココナッツウォーターを販売していただけだったものの、現在では世界中に200以上のココナッツウォーターブランドが存在し、年間4億ドル(約410億円)以上の市場に成長しているそうです。

そんなココナッツウォーター市場を引っ張ってきたVita CocoとZICOは、偶然にも同時期に同じニューヨーク市で同じ商品を売り始めたという奇妙な縁を持っており、Vita Cocoの代表が眠っている浮浪者の横にZICOのココナッツウォーターを置いてその様子を写真で撮影してZICOの代表に送りつけたり、ZICOが突如Vita Cocoのオフィス前で自社ココナッツウォーターの無料サンプルを配ったりと、完全にやり過ぎな妨害行為なども繰り広げながらお互いに切磋琢磨してきたライバル企業です。そんな2社の争いを「coconut water wars(ココナッツウォーター戦争)」と題し、10年に渡るストーリーをNew York Timesが紹介しています。

For Coconut Waters, a Street Fight for Shelf Space - NYTimes.com
http://www.nytimes.com/2014/07/27/business/for-coconut-waters-a-street-fight-for-shelf-space.html


◆ココナッツウォーター戦争の始まり

By Alex Masters

2003年、マンハッタンのロウアーイーストサイドのとあるバーで、後にVita Cocoを創業するMichael Kirbanさんと、彼の友人であり未来のビジネスパートナーであるIra Liranさんは2人のブラジル人女性に出会います。Liranさんはこのブラジル人女性のひとりと親しくなり、一緒にブラジルに渡ります。Liranさんがブラジルに渡って間もなく、Kirbanさんはブラジルのサンパウロに向かったそうで、その時にLiranさんが本気でブラジルにとどまって女性と結婚する気であることを悟ります。しかし、Liranさんはその時無職で、何か仕事を探す必要があったそうです。

そこで、KirbanさんとLiranさんはいろいろと試行錯誤し、2人がバーでブラジル人女性と出会った際に聞いた、「アメリカに来て一番恋しく思うのはココナッツウォーター」という言葉を思い出します。ブラジルではオレンジジュースよりもココナッツウォーターがポピュラーな飲み物とのことで、実際にサンパウロに長期間滞在したKirbanさんは、彼女が話していたことが冗談ではなかったことを思い知らされたとのことです。

Vita Cocoの創業者であるMichael Kirbanさん。


Kirbanさんはソフトウェア企業を立ち上げた起業家で、ソフトウェアビジネスは堅実にいっていたそうです。しかし、ブラジルに来て新しいチャレンジを渇望するようになっていたKirbanさんは、Liranさんと共にココナッツウォーター工場をブラジル東部のエスピリトサント州に作り、食品パックなどを製造するテトラパックと契約し、ココナッツウォーターの販売を開始します。Vita Cocoの最初の出荷は2004年の5月のことで、約10万ドル(約1000万円)分のココナッツウォーターが出荷されたそうです。

◆次々と起きる問題
「最初の出荷分のココナッツウォーターが到着する予定の2日前、アメリカ食品医薬品局(FDA)から連絡がありました」と、Kirbanさんは当時の出来事を振り返ります。FDAは、「あなたは船で運んでこれを売るつもりだったのでしょうが、登録番号がないのでアメリカ国内に持ち込むことはできません」と、初回生産分のココナッツウォーターをアメリカ内に持ち込むことができないことを伝えてきました。その後、Kirbanさんは初期生産分のココナッツウォーターをバハマ諸島に運び、飲み屋などを回って、約半数を売り切ったそうです。

アメリカ国内にVita Cocoのココナッツウォーターを輸入できるようになったのは2004年8月のことで、その後Kirbanさんは背中にココナッツウォーターのパックを背負い、スケートを履いて飲み屋の中を売り回ったりもしたそうです。

Kirbanさんがココナッツウォーターのベンチャー企業であるVita Cocoをスタートさせてから一週間が経過した頃、マンハッタンのヘラルド広場にあるスーパーマーケットにて、「他のブランドのココナッツウォーターを見た」という情報を聞きつけます。その時は「そんな馬鹿な」と思ったそうですが、後にZICOのココナッツウォーターが販売されているところを見かけて仰天した、とKirbanさんは語ります。その時、ちょうどZICOの創業者であるMark Rampollaさんも、Vita Cocoのココナッツウォーターを見て、まさか同じココナッツウォーターを売ろうとしている相手がいるとは思わず驚愕していたそうです。

ZICOの創業者、Mark Rampollaさん。


Rampollaさんがココナッツウォーターと出会ったのは、彼がアメリカ合衆国連邦政府が運営するボランティア団体の平和部隊でコスタリカにボランティアに来た頃とのこと。平和部隊を離れたあとにInternational Paperの飲料パッケージ部門で管理職に就き、その後妻のモーラさんと共にZICOを創業したRampollaさん。彼はZICOの活動で自分が億万長者になるという夢の他に、社会に良い影響を与える何かを行いたいとも考えていたそうです。この考えと、ココナッツが世界中の85カ国で育てられておりココナッツを使った商品ならば開発途上国に多くの仕事を生み出すことができるという考えが合致し、RampollaさんはZICOでココナッツウォーターを販売することを決めます。

こうして、2004年の8月にはニューヨーク市内のとても近い場所で、2つのココナッツウォーターが販売されるようになったそうです。

By Li Tsin Soon

◆Vita CocoとZICOの熾烈な争い


アメリカで販売されている飲料の中で人気の高いVitaminwaterSnappleArizonaRed BullMysticなどは、ニューヨークでスタートしたブランドで、この理由はひとつのブランドしか取り扱わないような小売り店舗がニューヨークにはほとんどないから、とのこと。その代わり、小売り店で商品を取り扱ってもらうには全国規模のチェーン店を口説き落とす必要があり、場合によっては商品を置く代わりにお金を要求してくる店舗もあるそうです。

ZICOは早い段階からヨガを楽しむ人々に好まれるようになり、ニューヨークのヨガスタジオBikram Yoga NYCにて自社ココナッツウォーターを取り扱ってもらえるようになります。これに対して、Vita Cocoのココナッツウォーターを最初に取り扱ってくれるようになったのは、ユニオン・スクエア近くという一等地に構えるスーパーマーケットWhole Foods Marketでした。

By David Shankbone

その後、Whole Foods MarketでZICOのココナッツウォーターの取り扱いが決まりますが、Vita CocoとZICOのココナッツウォーターは商品名がまったく同じ「coconut water」で、2社ともにこれを変更しようとしなかったため、ココナッツウォーターを陳列しているゾーンはものすごいことになっていきます。

元ZICOのセールスマンであるChris Michaelsさんは、「『もしも値札がなければ、それは売り出されていない』という古い格言がありますが、Vita Cocoのセールスマンは我々の商品の値札を捨てるか、あるいは商品をすべてカートの中に入れて在庫品倉庫に放置したりしてきました」と、当時のWhole Foods Market内での2社の争いについて語ります。もちろんZICO側も仕返しとばかりに、50個購入すると25個無料でZICOのココナッツウォーターをプレゼントだとか、Vita Cocoの商品がひとつも置けないくらいに商品棚に自社ココナッツウォーターを置きまくったり、と対抗していたそうです。ZICOのRampollaさんは、その当時を振り返って「私自身は王道をとろうとしていましたが、自社の営業チームにだけはこのことを伝えませんでした」と、語っています。

By Mike Mozart

当時、Vita CocoとZICOはさまざまな方法で競い合ったそうですが、その間にKirbanさんとRampollaさんが話し合いの場を設ける、ということは一度もありませんでした。

白熱する2社の争いは消費者の注目を大いに集めることに成功し、Vita Cocoは運搬車を購入できるようになります。これにオーシャンビューの塗装を施し、無料のサンプル品と道でフラフープをするための女性スタッフを載せて街中でVita Cocoのサンプルを無料配布しまくります。対するZICOでは、大学生を雇ってクーラーボックスに自社製ココナッツウォーターを入れて売り歩きさせたそうです。

無料サンプル配布用にVita Cocoが購入したというバン。

By Adam Fagen

その後、Vita Cocoが最初に「腎臓結石を除去する」という旨の健康促進効能表示を自社ココナッツウォーターに表示するようになり、次第に「肌がきれいになる」や「精力がつく」などの効能もパッケージに表示されるようになっていきます。ブラジルやタイ、インドネシアなどのココナッツウォーターを愛飲する国々ではこういった健康促進効能があると言われているそうです。

しかし、2011年にVita Cocoは「『保湿に優れている』だとかのフレーズと共に、誤解を招きやすい栄養表示をしている」と告訴され、これ以降は「誇張」健康促進効能表示は一気になくなります。ただし、現在は多くのココナッツウォーターブランドが、「体に有益な電解質とカリウムを多く含んでいる」ということを推すようになっており、「天然の秘薬」のように扱われるココナッツウォーターに対して、こういった評判は不相応なものだ、と考える栄養学者もいるそうです。

Vita Cocoのココナッツウォーターは1オンス(約28グラム)当たり5.5kcalと、ゲータレードよりはカロリー控えめなものの、それでも多くのカロリーが含まれています。ハーバード公衆衛生大学院のLilian Cheung氏は、「喉の渇きを潤すためにココナッツウォーターを飲むのは適切でない」と語っており、これは液体から多くのカロリーを摂取する人は、通常の固形食でもカロリーを多く摂取しがちな傾向があるからだそうです。なお、Vita Cocoが告訴された際、Vita Cocoはちょうど世界展開を進めている最中で、多くの投資家からの援助があり、最終的に1000万ドルの賠償金を支払うという形で決着がついています。

By One Way Stock

また、Vita CocoとZICOの争いは商品を販売する前の段階から始まっていました。両社ともに初めはとても小さな企業でしたが、2005年にはVitaminwaterが全国に広まる際にひと役買った配給企業であるBig Geyserとの契約を望むようになります。Big GeyserのLewis Hershkowitz社長は結局ZICOとの契約を選ぶわけですが、その理由を「Vita Cocoは極端にエスニック調過ぎたが、ZICOはより平均的でプレミアム感があり、何よりセクシーな名前だった」と語っています。Big Geyserとの契約をZICOにとられたことで初めは大きなダメージを受けたVita Cocoですが、すぐに元Big Geyserの従業員であるSteve Gressさんが創業したExclusive Beverageとの配給契約を結ぶことに成功しています。

Exclusive BeverageのGressさんは、ZICOがBig Geyserと契約する前に配給契約を成立寸前のところまで進めていたそうですが、ZICOに突然一方的に交渉内容を白紙にされたそうです。怒り狂いながらGoogleで「ココナッツウォーター」と調べてみると、一番最初にVita Cocoが出てきたそうで、これも何かの縁ということですぐにVita Cocoと配給契約を結ぶことにした、とGressさんは語っています。

Big Geyserとは異なりExclusive Beverageは多くの商品を取り扱っていなかったので、Vita CocoはたちまちExclusive Beverageの人気商品となります。一方、人気商品を多数扱うBig Geyserとの契約を勝ち取ったZICOですが、「Big Geyserとの契約を破棄したい」とRampollaさんがGressさんに漏らしており、思うような展開とはいかなかったそうです。

その後、2009年7月までにVita Cocoはニューヨーク・ニュージャージー・コネチカットの隣接3州と、ボストン・マイアミ・ロサンゼルスにて毎月3万ケースのココナッツウォーターを売り上げるほどに成長していますが、この時点ではVita CocoとZICOのココナッツウォーターに対する評価にはほとんど差がなく、発売開始から5年間は両社互角の争いを続けてきた、とNew York Times。

◆コカ・コーラによるZICO買収

By Sebastian Thiel

アメリカで最も大きなソーダメーカーのコカ・コーラの社員が、ヨガスタジオに置いてあったZICOのココナッツウォーターを気に入り、2009年にコカ・コーラはZICOの株式約20%を800万ドル(約8億2000万円)で取得、さらに2013年には完全に買収しています。

コカ・コーラがZICOに投資したというニュースは、Vita Cocoにとって終わりを告げる鐘の音のようだったそうで、「私たちは終わったな、と思った」とKirbanさんは当時の心境を語っています。しかし、Vita Cocoも投資会社のVerlinvestに自社株20%を200万ドル(約2億円)で売却しており、資金調達に困る、といったことはなかったそうです。なお、Verlinvestによれば、Vita Cocoは2006年の時点で年間60万ドル(約6100万円)の売上を出していたそうで、これらの業績が投資を決定づけたことはいうまでもありません。

さらに、2010年1月にはコカ・コーラがCoke-Zicoを発表しました。Vita Cocoは何か新しい行動を起こす必要性に駆られ、マドンナやデミ・ムーア、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのアンソニー・キーディスなどのセレブに株式全体の約10%を売却し、500万ドル(約5億1000万円)を集めることで資金を集め、さらにセレブたちに自社ブランドのファンであることを公言してもらうことで大きなブームを生み出すことにも成功します。

もちろんこれだけがVita Cocoが生き残りに成功した理由ではなく、この年の6月にアメリカで3番目に大きな飲料メーカーであるDr Pepper Snapple Groupとの配給契約を結び、さらに追加の配給契約に関する権利を持っていたので、アメリカ全土にある45の独立配給業者とも契約を結ぶことに成功し、アメリカ全土で広く支持を得るようになっていきます。そして2014年の7月、Vita Cocoは自社株の25%をRed Bull Chinaに売却し、世界で最も人口の多い国での販売の足がかりを作ることに成功しています。

Euromonitorの調査によると、Vita Cocoは、現在ココナッツウォーター市場の60%以上を占めているのに対して、ZICOは約20%未満しかシェアがないそうです。2社の間には大きな差ができてしまっていますが、ZICOがコカ・コーラに買収された際にZICOをよく知る従業員を解雇せざるを得なかったことが敗因である、とKirbanさんは分析しています。

ZICOの創業者であるRampollaさんは、「コカ・コーラは大人で、コカ・コーラはZICOとダンスを踊りたがっているんです。しかし、ZICOはまだ幼児で、ダンスをするには最低でもティーンエイジャーくらいにまで成長する必要があります。そうでないと、大人のコカ・コーラに潰されてしまうでしょう」と、ZICOが身売りをするには少し早すぎた、と自身の考えを述べています。

「ココナッツウォーターは年間10億ドル(約1000億円)以上の市場になるでしょう」と言うのは、飲料業界紙を発行するBevNetにてCEOを務めるJohn Craven氏。Craven氏は、「ココナッツウォーターはコーラの新しい味ではないし、Bud LightLime-A-Ritaでもありません。しかし、ダイエット中の人々に人気で、持久力があります」と、ココナッツウォーターが飲料市場でいかに大きな存在になってきているかを解説します。コカ・コーラのZICO買収の他に、2010年にはペプシコーラなどを販売するペプシコが、ココナッツウォーター市場でVita Coco、ZICOに次ぐ3番手であったO.N.E.の株式の過半数を取得しており、飲料最大手の2社もココナッツウォーターに並々ならぬ注目を注いでいることが分かります。

なお、現在Vita Cocoの市場評価額は約6億6500万ドル(680億円)にまでふくれあがっています。

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