サイエンス

日本が開発中の超伝導用磁石で10万Aの超大電流を達成、核融合炉実現に一歩近づく

By Paulina Clemente

世界の核融合炉研究をリードする核融合科学研究所が、最先端の高温超伝導導体の製作に成功し、従来の記録を大幅に上回る10万アンペアという超大電流を達成しました。この類を見ない大きさの電流を生み出す、核融合科学研究所・東北大学共同開発の磁性体材料によって、夢の発電所である「核融合炉」の実現に大きく近づくと期待されています。

プレスリリース / 自然科学研究機構 核融合科学研究所
http://www.nifs.ac.jp/press/140331.html

火力発電所のように二酸化炭素を排出せず、原子力発電所のような制御不能の連鎖反応が原理的に起こらないため比較的安全で、かつ、一度のサイクルで地球全体のエネルギーを賄えるほどの巨大なエネルギーを生み出すことのできる「核融合炉」は、21世紀のエネルギー問題を解消できる技術として一刻も早い実用化が望まれています。

By Steve Jurvetson

「地球上に小さな太陽を創る」と表現される核融合炉は、原子核融合という現象を利用するエネルギー創出装置です。原子力発電所が、重い元素が2つ以上のより軽い元素に分裂する際にエネルギーを放出する核分裂反応を利用するのに対して、核融合炉では水素やヘリウムなどの比較的軽い元素同士が融合してより重い元素になる際にエネルギーを放出する核融合反応を利用する点でメカニズムが180度異なっています。

核分裂はウランやプルトニウムを原料にしており、反応後に生じる核分裂生成物が放射能を帯び連鎖反応しやすいため制御・事後処理が難しいのに対して、一般的な核融合反応であるD-T反応では、水素の同位体である重水素と三重水素からヘリウムが生成されるのみ。ヘリウム自体が再利用の価値のある気体であるとともに、反応の原理上、連鎖反応を利用していないため暴走の危険がなく安全性に優れており、生み出されるエネルギーの量も核分裂に比べてはるかに大きいという優位性が核融合炉にはあるため、エネルギー問題を解決する切り札として早期の実現が強く望まれています。


従来型の発電所に比べてはるかに大きなメリットのある核融合炉ですが、実現に向けて技術的なハードルは極めて高いことが大きな欠点です。原子核融合を行うためには、融合させる元素の原子から電子を離脱させ原子核状態にする必要があり、このため気体が電離した状態であるプラズマ状態が反応の場として利用されています。つまり、原子核融合反応を起こすために重水素・三重水素はプラズマ状態で衝突させるというわけです。

しかし、原子核同士が衝突して核融合反応を起こすためには、原子核同士の電気的反発力(クーロン力)を上回るほど大きなエネルギーを与える必要があります。そのため核融合炉ではプラズマを1億度以上の高温にする必要があるところ、このような超高温プラズマを閉じ込めることが極めて困難である点が核融合炉実現への大きなハードルの一つとなっています。


そこで、超高温プラズマを閉じ込める技術として有力視されているのが「トカマク型」で、トカマク型では3種類のコイルによって磁場を変化させることでプラズマをトーラス形状(ドーナツ形状)に保持することが可能です。しかし、トカマク型よりもはるかに複雑な立体形状を要求されるため設計が極めて困難であるものの、トカマク型以上にプラズマを安定的に閉じ込める磁場を発生できるのが「ヘリカル型」で、ヘリカル型装置としては核融合科学研究所の「LHD」が技術的に世界をリードしています。


ヘリカル型のプラズマ閉じ込め方式による核融合炉で重要な鍵を握るのが、電流で磁場を調整できる電磁石です。しかし、核融合炉で用いる電磁石は大きな電流を安定して流す必要があるところ、銅を使った常伝導マグネットでは温度上昇を抑えるために冷却する必要があり、この冷却に必要な電力が核融合炉の最終的な発電量を上回るおそれがあるため、発電所として不適格であることは明らかで、代わりに一定温度以下になると電気抵抗がゼロになる超伝導体を利用する超伝導マグネットの必要性が唱えられています。

核融合科学研究所は2014年3月に、銅・ステンレス筐体に挟み込んだ幅10mmで厚さ0.2mmの「イットリウム系」高温超伝導テープ線材を低抵抗の接続技術を応用して54枚つなぎ合わせて世界記録を塗り替える超大電流値を達成したと発表しました。核融合炉では安定的で経済的な高温型超伝導体の開発が期待されているところ、LHDに使える複雑な形状のコイル製作方法に難点がありました。これに対応したのが東北大学と共同開発した「イットリウム系」高温超伝導線材を積層した導体で、絶対温度20度(セ氏マイナス253度)で10万アンペアという国際熱核融合実験炉「ITER」に用いられる導体の性能をはるかに凌駕する超大電流を実現したとのこと。


さらに、核融合科学研究所が誇るLHDは、水素・ヘリウムなどの燃料粒子の制御を最適化することでプラズマ性能を向上させ、密度1ccあたり10兆個でイオン温度9400万度を達成し、定常運転において1200キロワットの加熱電力によって約48分間のプラズマの保持に成功したことも同時に発表しています。山田弘司研究主幹は「発電実証を行う核融合炉を設計するためには、LHDにおいて核融合で燃えるプラズマを見通せるようになる必要があります。そのために、LHDの最終目標である1億2000万度のイオン温度を密度1ccあたり20兆個で達成すること、また超高温プラズマの定常運転実証のために3000キロワットの加熱電力で1時間保持することが必要ですが、その目標に向かって着実に前進することができました」と述べています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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