WordPressの創始者マット・マレンウェッグが来日、WordPressとウェブの未来について語りました


オープンソースのブログソフトとして人気のWordPress(ワードプレス)。そのWordPressの創始者であるマット・マレンウェッグ氏が本日2014年6月7日(土)に開催されたWordCamp Kansai 2014に登壇して基調講演を行いました。マット氏はスピーチでWordPressの過去・現在・未来とウェブの未来について語っています。

WordCamp Kansai 2014 | 知識と経験の灯をわかちあおう
http://2014.kansai.wordcamp.org/


Matt Mullenweg | Unlucky in Cards
http://ma.tt/

グランフロント大阪に到着。


WordCamp Kansai 2014の会場はナレッジキャピタル・タワーCの8Fです。


会場には多くの人が集まっており、マット氏の到着を待っています。


WordCamp Kansai 2014のテーマは「知識と経験の灯をわかちあおう」


基調講演の前にWordPress Automatticのグローバライザーの高野直子氏がWordPressの活動についてプレゼンテーションを行いました。


部屋は満席で立ち見状態。


質疑応答のあと、いよいよマット氏の基調講演。


11時13分ころ、「交通事情によりマットさんの到着が遅れそうです」というアナウンスの直後にマット・マレンウェッグ氏が登場。汗をかきながら、スピーチがスタートしました。


こんにちは(日本語)。大阪に戻ってこれて嬉しいです。5年前のことなんですけど、当時は40人くらいしか集まってなくて……。今日はこんなに集まってくれて嬉しいです。みんなとストーリーを共有したいからです。


まず、WordPressがスタートして11年間にどのように成長したのか、僕がどのように何を学んできたのか。WordPressのスタート地点からお話ししたいと思います。ここから1万キロ離れたアメリカ・テキサスでWordPressはスタートしました。

僕は1984年1月生まれで、小さな頃から音楽が好きで、ピアノを習っていました。すぐにドロップアウトしちゃいましたけど(笑) でも3年生のころからサックスを始めて、それは継続して練習していました。

僕の父は油田関係の仕事をしていて、コンピュータサイエンスの学位を持った人でした。ですから、小さい頃からコンピュータに囲まれた生活を送っていました。自然とコンピュータに触れるようになりましたが、父はこれを許してくれました。ただ1つルールがあって、それは「トラブルが起こっても自分で解決すること。父が自宅に帰ってくるまでに修理すること」というもの。アメリカの普通のお父さんは子どもと自動車をいっしょに修理したりいじったりするのですが、我が家では親子でコンピュータいじりをやっていました。

ハイスクールに入学してから、音楽を真剣にやりたいと思うようになりました。僕が通っていた学校は、1日に3、4時間くらい音楽の勉強をできるめぐまれた環境でした。卒業生にはビヨンセがいるんですよ。僕はサックスをしていました。でも今日は演奏はなしで(笑)

音楽でもなんでもそうですが、上達するには練習が大切です。レッスン(授業)も必要です。けれど、音楽のレッスンは非常に高くて、それほど裕福ではない我が家では1時間50ドル(約5000円)のレッスン費用は厳しかったのです。そこで、僕はサックスのミュージシャンと取引を行いました。僕は彼らにサックスを教えてもらう。その代わりに僕は彼らにウェブサイトやPCを作ってあげる。正直なところ、当時の僕の(ウェブ構築の)スキルは高くなかったから、自作PCを選んだ人の方が得したと思います(笑)


当時のウェブサイトは静的なものばかりでした。そこで、僕はもっともっと動的な要素をサイトに取り込んでいきたいと思っていたのです。たとえば、フォーラム(掲示板)というのもそうです。僕は今でもフォーラムが大好きです。

ちょうどそのころ、僕の人生を大きく変える3つの「事件」が起こりました。僕にとっては大事件ばかりです。1つめは、ソニーのデジカメを買ったこと。2つめは父がO'Reillyのウェブ関係の本を与えてくれたこと。3つめは、(大学で)政治学と経済学を専攻したのでブログを読み始めて、自分でも書き始めたこと。何の関連性もないような3つの出来事ですが、僕にとってはすべてが深い関係性をもつ出来事でした。

デジカメを手にした僕は写真を撮りまくったのですが、当時はオンラインに何枚もの写真を置くことができませんでした。次に正規表現の美しさに気付きました。同時に恐ろしさも。ブログを始めて、まるで記者のように世界中の人に向けて意見を発信できることに気付きました。すごく感動しました。

当時、僕はMovable Type(注釈:大手CMSサービス)で(ブログを)始めました。Movable Typeを使ったことがある人いますか?何人かいますね。今でも使っている人は?(数人が挙手) おお。いますね。Movable Typeユーザーのみなさんのことも大好きですよ~(会場、笑いに包まれる)


僕のブログはphotomatt(フォトマット)という名前でした。英語にはPhotomap(写真地図)という単語があるのですが、それに僕の名前のMatt(マット)をかけたものです。ブログを更新していくと、だんだんとMovable Typeが難しく感じるようになりました。また(「再構築」という技術仕様上の問題から)遅いとも感じました。

そんなころフランスの技術者の人にブログソフトウェア「b2/cafelog(b2)」(注釈:WordPressはb2/cafelogの後継とされている)のことを教えてもらって使い出しました。b2のフォーラムに参加することは非常に楽しかったです。僕はまだまだスキルが足りなくて、いろいろと教えてもらって。そうしているうちに、僕よりももっと初心者の人がフォーラムに参加して、そこでは僕が教えてあげて。そうこうしているうちに、スキルが上がっていきました。「人に教える」ということは、これ以上ない勉強法だと思います。

スキルが上がってきて、コードを書いてb2に貢献することができました。最初のコードはタイポグラフィに関するものでした。作ったバッチファイルがb2に反映されて、世界の誰かが僕のコードを使ってくれている。これはすごく貴重な体験でした。ドラッグでハイになるよりもハイになれる体験でした。もちろんドラッグはやったことないんだけど(笑) きっと、それ以上です。ここにいるみなさんにも、そのような体験をぜひして欲しいと願っています。

b2はGPLに基づいており、そこには4つの理念がありました。0番目は、どんな目的に使用してもOKということ。1つめ(日本語)は、ソフトの動作具合を見ることができること。2つめ(日本語)は、ソフトを改変できること。3つめ(日本語)は、改変したソフトを自由に配布できること。あ、0番目から始めたのは僕が1、2、3しか日本語で数えられないからで深い意味はありません(笑)

GPLという考え方は僕が人生で最も影響を受けた思想と言っても過言ではありません。ソフトウェアを作ったり、配布したりするために、GPLという思想は最も道徳的だと思ったのです。


b2での活動はすごくうまく行っていたのだけれど、酷いことが起こってしまいました。b2のミシェル(注釈:Michel Valdrighi氏、b2/cafelogの創始者)がいなくなってしまって。b2の未来が描けなくなってしまいました。フォーラムのみんなも何をどうしたらいいのか分からなくなってしまって。僕は自分のブログにその件について投稿しました。「Dilemma of blog software(ブログソフトウェアのジレンマ)」というタイトルでした。その投稿では、b2の開発がストップしてしまったことがとても残念であることとともに、もし新しいソフトウェアを開発するなら、b2に他のソフトウェアの良さを合わせるべきであるということを書きました。

その投稿を見た、イギリス人のMike Little(マイク・リトル氏)が、マイクとはフォーラムでは「会っていた」ものの実際には会ったことがなかったのですが、「君がもし真剣なら、一緒にソフトウェアの開発をやらないか?」と声をかけてくれたのです。これはWordPressという木の種がまかれた出来事でした。こうして、アメリカのテキサスとイギリスとで共同作業がスタートしました。

最初に取り組んだのは、「ソフトウェアのインストールを簡単にすること」でした。「5分間インストール」と名付けられた有名なアレです。全然有名じゃなかったんですけどね(笑) でも、「有名だ」と初めから言っていました。「有名だ」と言っているうちに有名になると思っていました。「有名だ」と聞いた人は「有名なのか」と思ってくれるはず。そうすればきっと有名になる、と。起業家の人へのアドバイスは「実際にそうなるまでウソをつくこと」です。(ここで通訳者の高野氏にダメだし)韻を踏んでいないのでその和訳はダメですよ~。英語では「Fake it till you make it」と言うのです。韻を踏んでいますね。


当時、僕は大学生でしたがあまり授業に出てませんでした(笑) でも、好きな講義が1つあって、それはT・S・エリオットに関する講義でした。エリオットを知ってる人いますか?あ、何人かいますね。エリオットの詩は非常に短いですが深い意味が込められている。僕はそこが好きでした。WordPressのタグラインについて。みなさんが今日付けているネームタグにも書いてありますが「CODE IS POETRY(コードは詩である)」という考えを信じています。コードは実用的なものである(またそうあれば良い)とみんな思っていますが、コーディングにも「職人的」な姿勢で取り組めば「(詩のように)美しいコード」ができると信じています。


ちょっと脱線して音楽についてお話しします。WordPressのリリースネームにはジャズ・ミュージシャンの名前が付けられています。過去の偉大なジャズ・ミュージシャンたちです。この理由はジャズがカッコイイと思ったから。ジャズがカッコイイからWordPressもカッコイイとみんな思ってくれるでしょ?小さなことだと思うかもしれませんね。でも、これによってWordPressプロジェクトに参加したい、WordPressの一部になりたいという人を集めるのに成功したのですよ。予想以上に集まって、前に進まないこともあったんですが(笑) 日本語の「船頭多くして船、山に登る」ですね。みんなが多くの機能を欲しがったのですが、それに対応できるリソースが僕たちにはなかったのです。

そこで、プラグイン機能を導入することにしました。Ver1.2のときでした。プラグイン機能の追加はブログツールとして始まったWordPressがCMSに向けて歩み始めたきっかけでした。そんなころ、日本からとても大切な出来事がやってきました。

当時、WordPressには翻訳機能がありませんでした。けれど、ある朝起きたらWordPressを日本語で翻訳してる人がいたんです!何千行ものコードを全部翻訳・解説していました。とても美しい日本語で。でもクレイジー(イカれてる)と思いましたよ(笑) そこまでやってくれる人がいる。WordPressってすごいんじゃないかと感じました。WordPressはもっと大きくなるんじゃないかと思いました。「今後も彼が翻訳をやってくれるなら、もっと簡単にできるようにしなければ」とも思いました。

みなさんの中にWordPressのミッション(使命)を知っている人いますか?(何人か挙手) はい、あなた、どうぞ。(男性、英語で使命を話す) 正解です!(一同拍手) 彼が答えてくれたとおり、Pubulishing(投稿)をdemocratize(民主化)することです。誰でも、どこでも、どんな言語でも声をあげられることです。それも、ただのウェブサイトではなくて、美しいサイトで。かつ、ニューヨークタイムズ(注釈:WordPressでサイトを構築している)のように巨大なサイトでもOKなものを。


このようなウェブの民主化のために非営利団体の活動は大切だと考えています。もちろん企業のような営利団体の活動も大切です。非営利団体・営利団体がいっしょになって世界に大きなインパクトを与えられるはずだと考えています。非営利団体・営利団体の共存によってより大きなことを起こせるはずです。それがWordPressのビジョンです。もっと簡単にウェブを作れるように。ワンクリックでできるように。そうしてできたのがWordPress.comです。

ブログソフトを始めようと思ったときに、「他にもソフトがいっぱいあるから成長の余地はないよ」と言われました。そう言われるとやる気がでました。ブログソフトをオープンソースの形でやりたいと言ったとき「絶対無理だよ」と言われました。そうすると、逆に「やってやろう!」と思いました。


オフィスに通う代わりに自宅で働く。働く時間を自分で指定すれば好きな時間で働ける。これがWordPressの開発者の環境です。WordPressではアウトプット(成果)にフォーカスしています。一日中飲んだくれて、8時から9時までだけ働きたい?OKです!もちろん、普通の人と同じ成果を出せるならですけど(笑) どんなスタイルでもOKです。評価の対象は、成果やコミュニーションやプロフェッショナルな仕事をしているか、です。

オープンソースで開発するという活動から学んだことは「世界中には優秀な技術者がたくさんいる」ということ。地理的な状況による差別(障壁のこと)は良くないということ。例えば、「サンフランシスコ在住の人しか雇わない」という企業は、サンフランシスコに住んでいない99.99……%の人を差別しているということです。これはバカげていると思います。地理的な状況による差別は良くありません。

オープンソースによって、世界中にいる開発者によって、WordPressは開発されています。WordPressはオープンソースでMicrosoftやGoogleやYahoo!などの世界的な大企業と対等に闘っていきたい。スタート時は開発者5人でした。その5人で大企業に対抗したかった。みなさんご存じの通り、Google以外の大企業はブログシステムサービスを辞めてしまいました。そして、今、WordPressは世界の全ウェブの22%を占めるまでに至りました。オープンソースでみんなと一緒に協業することで良い仕事ができると考えています。


WordPressの未来についてお話しします。Ver4のことですね。何ヶ月か先のことになると思いますが、日本のみなさんのWordPressへの貢献に対して「お返し」ができると思います。それは、翻訳システムをより良くすることです。「LanguagePack」と呼んでいます。

WordPressの素晴らしいところは3万を超えるプラグインが開発されていることです。でも、そのうち数百のプラグインしか日本語に翻訳されていません。みなさんがWordPressを使っていると、いつも英語が出てくるはず。ごめんね。ほんとムカつくよね(笑) これは技術的な問題が原因です。翻訳システムがまだまだスムーズに動いていません。近い将来、インストールからプラグインの導入まで、すべて日本語でできるようにする予定です。

そうそう、数ヶ月前に重大なことが起こりました。歴史的な出来事です。世界中のユーザーのうち、英語版のダウンロード数を英語以外の言語のダウンロード数が上回ったんです!WordPressのユーザーの人口分布が、世界の人口分布に近づいています。もちろん、日本をはじめとする「アジア」の存在がますます重要になってくるということです。

(ここで、スタッフから「あと5分」と言われる) みなさん。ごめんね。時間がないみたい。昨日の東京・今日の大阪以外にも、シンガポールやマレーシアなどのアジア5カ国にニュージーランド・オーストラリアを訪問する予定なんです。今やりたいことは「寝ること」です(笑) それは冗談です。だってWordPressコミュニティに参加することは本当にエキサイティングで楽しいことだから。

アジアでのWordPressの広がり・成長・活況にはいつも驚かされます。前回の大阪での集まりは今思えば「惨状」ですね(笑) 地下の窓から陽もあたらない場所でひっそり開催したんですよ。でも僕がスピーチしている間に食事が出て、みんながむしゃむしゃ食べながら聞けたのは良かったかな。

今回も僕は「謙虚な生徒」として日本を訪問しています。みなさんからたくさんのことを学びたいと考えています。あと数時間しかないのが本当に残念です。みなさんに、WordPressの歴史や使命をもっと知ってもらって、ぜひWordPressのオープンソースプログラムに参加して欲しいと願っています。日本のWordPress Automatticで働くのも一つの参加方法です。今後、世界中で150人の人を雇いたいと考えています。


今、僕たちは歴史的瞬間に立ち会っています。何も行動をおこさなければウェブの世界はクローズド(閉鎖的)なものになってしまいます。TwitterやFacebookは僕たちをプロダクト(商品)と見ています。僕らは売られています。友達との会話をデータ化して広告主に売ってしまう。僕らは商材になっています。

ウェブが美しいのは「僕たちにフォーカスが当たっているから」です。「僕たちがコントロールできる世界だから」です。先ほど言ったとおり、WordPressは22%のシェアを得ました。でもまだ幸せとは言えません。78%も残っています。WordPressはもっと良いものを作らなければウェブをオープンな世界にしていけないでしょう。僕らの哲学をほとんどの人は分かってくれていないかも。みんな、ネットにつながればいい、動けばいいと思っています。

一緒に世界で最高のソフトウェアを作りましょう。素晴らしいプラグインやテーマをたくさん作りましょう。この大阪のWordCampのように、人と人がつながることで素晴らしい体験ができるはず。僕の今日のスピーチから、みなさんが学ぶ価値のあるただ1つのことがあるとすれば、それは周りを見渡せば分かるはずです。この部屋にいる人みんなが仲間だと言うこと。週末の(注釈:今日は土曜日)の素晴らしい休日の1日を、この小さな部屋に集まって、僕なんかの話をわざわざ聞きに来ている。みんな普通じゃないよ(笑) スペシャル(特別)な人たちですよ。


今日という素晴らしい日をぜひ活用して欲しいです。僕もそうだけどシャイ(照れ屋)な人も、ぜひぜひたくさんの人と話してみてください。そうすることでコミュニティがより強くなります。5年前は40人と言いました。今日はこんなにたくさんの人が集まってくれました。すごいことですね。この伸び率なら、次回は野球場での開催になるかもしれませんね(笑) ちょっと大風呂敷を広げすぎました。みなさん、今日は集まってくれて本当にありがとう。(会場からの大きな拍手でマット氏のスピーチが終了)

スピーチの後は記念写真大会。来場者に笑顔で応じているマット氏が印象的でした。

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