不妊症男性の皮膚細胞を使って精子の前駆体を作ることに成功

By Nancy L. Stockdale

近年の科学の進歩により、現代ではヒトの皮膚細胞から体内のあらゆる細胞に変化することができるES細胞を作成することができるようになりましたが、Cell Reportsにて発表された最新の研究によると、精子や卵子のような特別な細胞すら皮膚細胞から作ることができるようになるとのことです。

MSU News - Reijo Pera and team: Stem cell research holds promise for male infertility
http://www.montana.edu/news/12625/reijo-pera-and-team-stem-cell-research-holds-promise-for-male-infertility

【PDF】Fate of iPSCs Derived from Azoospermic and Fertile Men following Xenotransplantation to Murine Seminiferous Tubules - S2211-1247(14)00264-2.pdf
http://www.cell.com/cell-reports/pdf/S2211-1247(14)00264-2.pdf


Human skin used to create sperm - Telegraph
http://www.telegraph.co.uk/health/10802010/Human-skin-used-to-create-sperm.html


Scientists turn skin cells into sperm cells, but raise provocative new questions | ExtremeTech
http://www.extremetech.com/extreme/181746-scientists-turn-skin-cells-into-sperm-cells-but-raise-provocative-new-questions


世の中には遺伝子的に不妊な人が存在します。そういった人たちにとって、「男性の皮膚細胞を精子にする」という技術はまさに奇跡のような技術です。しかし、成熟した精子を作ることは、細胞内または細胞核を適切なものに調整してやる必要があり、調整した細胞を適切な環境でやさしく育て、成熟するまで継続的に外部から刺激を与えてやる必要もあるそうです。

皮膚細胞から精子を作成することに成功した研究では、遺伝子的に不妊なため子どもを作れない男性を含む被験者の皮膚細胞サンプルを遺伝子的に操作し、ES細胞の「理論上どんな生体組織にでも成長できる」という特性を活かして精子のもとになる細胞(精細胞)を作成しました。そして臨床実験ではハツカネズミの精巣に精細胞を注入し、培養して精子前駆体(初期段階の精子)を作成することに成功したというわけです。

ES細胞、およびiPS細胞を用いることで男性の皮膚組織から精子前駆体が生成できるだろうということは、2012年にピッツバーグ大学の研究者が論文を発表していましたが、実際に精子の数が少ない男性の皮膚組織からの生成に成功したのはこれが初めて。

研究所では培養した精子を使った受精にも成功しているようで、実験を行ったスタンフォード大学の研究員は「将来的には不妊な男性の皮膚細胞からより生産的に精子を作成できるようになるだろう」とコメントしています。

By Luca Fazzolari

「不妊」は現代を生きる男性や子どもの欲しい夫婦たちにとってとても大きな問題ですが、原因の約3分の1は遺伝子的な問題とのこと。そして最も多い不妊の原因は、男性のY染色体が欠けていることに起因する精子生産数の減少であり、研究ではY染色体性不妊は精子が成熟する過程の比較的遅い段階で生じることを指摘しています。

幹細胞生物学や再生医療の分野で活躍する研究主任のReijo Pera博士は、「我々の研究結果は、精子の成長過程を研究するための最初の実験モデルとなるだろう。また、不妊の男性の皮膚から作成した細胞を、男性の精巣に直接移植して精子を作ることができるようになるかもしれない」と話します。

シェフィールド大学の再生医療や薬学に関する上級講師を務めるAllan Pacey博士は「不妊の男性の皮膚細胞から精子を作れたとしても、精子が受精することはない」と考えていたため、自身の考えをくつがえす結果となった実験結果に対して素直に驚きを示しています。Pacey博士によると、不妊な人の皮膚から作った精子は通常よりも受精確率が低くなってしまう可能性があるものの、受精できないわけではないので、これは不妊で悩む多くの人たちの希望になり得る技術です。しかし、「不妊症の人の皮膚から作成した精子で誕生した子どもは、親と同じく不妊症を患う可能性が高くなるかもしれない」とも述べています。

By Cary and Kacey Jordan

ニュースサイトのExtremeTechによると、この技術を使って戦争で死んでしまった人物の皮膚から精子を作れば、死者が新しく生まれてくる生命の父親になることすら可能になるため、生命倫理学者の中には「新しい人権を確立するべき」と主張する者や、「皮膚から精子を作ること自体を禁止すべき」と訴える者もおり、倫理的にも論争の的となっているとのこと。Extreme Techは「この研究によって人間の更なる進化を制限するものは、科学でも技術でもなく、人間の倫理的な部分になった」とコメントしています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii