メモ

消えかけている電子書籍を後世に残すための戦い

by Tim RT

16歳から24歳の約3人に2人が電子書籍より紙の本を好む」という調査結果が出ているものの、電子書籍マーケットは広がりを見せており、オンラインマーケットで自費出版する人も増えています。しかし現在の電子書籍には「後世に残すための記録保存が困難である」という大きな問題があり、貴重な本が後世に伝えられないまま消えていってしまう可能性があることをThe Vergeが指摘しています。

The fight to save endangered ebooks | The Verge
http://www.theverge.com/2014/5/9/5688146/the-fight-to-save-endangered-ebooks

「史上最低の映画監督」と呼ばれるエド・ウッド監督は制作した映画すべてが興行的に失敗し、常に赤貧にあえぎ、晩年は低予算映画の脚本やポルノ小説の執筆で生計を立て、貧困のうちに没したことで知られています。しかし、あまりにも最悪な映画だったにも関わらず映画に対する情熱を失わずに作品を作り続けたことから、没後になって注目を集めることになり、「ハリウッドの反天才」「芸術の突然変異」としてティム・バートン監督やクエンティン・タランティーノ監督を始めとする熱狂的なファンを得ました。


そんなエド・ウッド監督がさまざまなペンネームで書いたポルノ小説は当時ゴミのように扱われましたが、現在は貴重な本の1つとしてコーネル大学に保存されています。

出版社のBoo-Hoorayは2011年にウッド監督が書いた小説の展示会を行った際にプレスリリースで「Googleやその他の検索エンジンを使って簡単に本を探せる現代でも、彼のペーパーバックを見るのは本当にまれです」と記述しました。Boo-Hoorayの担当者はウッド監督の本を収集するのに多くの時間を割いたそうですが、多くの作家がKindleや自費出版プラットフォームから電子書籍を販売している現代に彼が本を書いていたとしたら、本の収集はより困難だったかもしれません。

紙の書籍しかない時代では、出版は今よりも難しい行為でした。しかし紙書籍には「アーキビストやコレクターが出版物を保存する限り、例え100年後であっても出版から1年しかたっていないもののように読むことが可能」という大きな利点がありました。電子書籍は保存記録できず、古本屋に売ることも、各社のコピーライトシステムを無視して新しいフォーマットに書き換えることもできないので、紙の書籍のように長期にわたって保持するのが困難なのです。

どうして電子書籍の保存が困難なのか?というと、そこにはまず、現在Amazonを始めとするオンラインショップで販売されているのが書籍データ自体ではなく、データの利用を認めるライセンスである、という問題があります。

by unten44

書籍や映画、音楽CD、写真など、さまざまな形をとる記録を収集・整理・保存し未来に伝達することをアーカイブといい、欧米ではアーカイブを専門として行うアーキビストという職業も存在しています。アメリカの場合、これまでアーカイブは「物理的な書籍や映画やアルバムについては取得した人がそれをどう扱おうと法律的には自由」という「権利消尽理論」に支えられてきました。しかし、電子書籍をはじめとするデジタルコンテンツには物理的なコンテンツと違って寿命がなく、コピーや頒布が簡単にできるという特徴があります。無尽蔵にコピーして海賊版を作ることが可能なため、デジタルコンテンツの利用をめぐっては多くの裁判が起こっており、ダウンロード方式で販売されたコンテンツに関しても権利消尽理論が認められた裁判例が存在する一方で、2013年にはデジタルコンテンツについて権利消尽理論が認められないという判決も下されました。電子書籍だけではなく、CADソフトウェアなどを扱うAutodeskの裁判では「ユーザーはソフトウェアを購入することはできず、譲与不可能な永久的ライセンスを得るに過ぎない」と述べられており、またAppleのiTunesの規約にも「ユーザーはコンテンツの利用権を有するにすぎず、利用権を設定したアカウントを誰かに譲渡することができない」といった内容が書かれています。

このような流れの中で、セキュリティ面を考慮して出版社のPenguinは2011年に電子書籍の貸出を中止し、同じく出版社のHarperCollinsは電子書籍ベンダーのOverDrive社に対し「電子書籍1冊につき貸出回数を26回までとする」という形で貸出サービスを制限しました。

一方、図書館では特殊なフォーマットを利用して電子書籍の貸出が行われていますが、たった1つの図書館の本から海賊版が広く作りだされてしまうかもしれない、という部分が出版社の懸念事項となっていました。そこで各社はデジタル著作権管理(DRM)システムによって第3者による電子書籍の複製や再利用を困難にしました。海賊版が出回ることを予防した結果、電子書籍の制限が厳しくなり、本来なら行われるべき書籍の保存までも困難になってしまったのです。

書籍の保存を目的としておらず、人気の高い本を貸し出すことが求められるような公立図書館の多くはライセンス制でも問題ないのですが、書籍の「歴史的記録」を目的とする研究図書館となると話は別です。

by Samantha Marx

学術の分野において、アーキビストは出版社や学術的文書が委託されているPorticoのような第3者とコンタクトを取ることで電子書籍の存在を確認します。出版社はPorticoが将来性のある書籍や雑誌をデータベース上に保管することを許可しており、図書館はPorticoが提供するサービスへのアクセス権を購入しているという仕組みです。しかし出版元ではないという立場上、Porticoは書籍や文書の積極的な広報活動は行っておらず、図書館がもれなく書籍を収集できるとは言い切れません。

出版社が電子書籍と平行して物理的な本を販売する限り、電子書籍が書籍のメインとなることはないかもしれませんが、Amazonは既に人気作家と電子書籍限定で本を出版する契約を結んでおり、スティーヴン・キング氏に至ってはKindle 2が発売された時にKindle 2をゲットした読者が物語の一部として関わってくる短編小説を電子書籍限定で公開しました。作家がAmazonのビジネスモデルに満足し電子書籍中心の出版が行われるようになれば、Amazonは人知れず書籍を改訂したり、本の存在を消したりすることが可能になります。スティーブン・キングが自ら絶版とした「Rage(邦題:ハイスクール・パニック)」のペーパーバックを古本屋で手に入れることは今でも可能ですが、もしAmazon独占で小説を販売することとなれば、他で手に入れる手段はなくなるのです。

このような状況についてCoalition for Networked Information(CNI)のディレクターであるClifford A. Lynch氏は「大手出版社はこれまで『デジタル書籍限定の販売』ということを簡単に行ってきましたが、私はこの状況が近いうちに変化すると考えています」と語りますが、もし出版社が電子書籍のフォーマットを変更し、ライセンス制をやめ、オンラインショップを閉店したら、図書館もそれらの変化に合わせて書籍を保存する方法を見つけ出さなければなりません。

電子書籍の保存について問題を同じくする出版社と図書館ですが、これらの制限を超えたところにあるのがアメリカ議会図書館です。アメリカ議会図書館は商業的価値がなくなってしまっても、それが歴史的に意味のあるメディアである限り書籍を保存します。もし著者や出版社が書籍のコピーライトを公的に登録したいと考えるならば、それが電子書籍であるか物理的な書籍であるかに関係なく、アメリカのコピーライトオフィスに2部のコピーを提出すればOK。この方法ならばライセンスやフォーマットの制限がないため、理論的には全ての文書を記録できます。

by Lynn Gardner

アメリカ議会図書館は保存する価値があると考える書籍の保存を自主的にも行っているのですが、Lynch氏と同様に電子書籍を保存する法律的・技術的な問題について考えをめぐらせているのがプロジェクト・マネージャーであるCarl Fleischhauer氏。アメリカ議会図書館は出版社と協力して、制限がかかっておらず何度でも別フォーマットに変換することが可能なDRMフリーのファイルを取得しようとしており、同時に、コンテンツの品質の低下を防ぐための「BagIt」というツールも開発しています。

またライセンス制の問題のほかに、ゲームやウェブサイト、データベースなど、さまざまなメディアとインタラクティブな関係にある電子書籍の保存が単純なテキストデータの保存よりも技術的に複雑だという問題もあります。数学記号1つをとってもデジタルで正確に記録するのは至難の業なのです。


そして、これまで大手出版社が行ってきた出版に取って変わってKindleやSmashwordsから自費出版が行われていますが、アーカイブがそれに追いついておらず、著者が有名でない場合は特に図書館のレーダーに引っかからないという問題もあります。アーキビストにとって自費出版の書籍は大手出版社による書籍よりも集めるのが難しい上に、著者がコピーライトオフィスに保存用のコピーを送っているのかどうかも疑わしく、仮に送っていたとしてもアメリカ議会図書館の選別から落とされてしまっている可能性もあります。

もちろん自費出版された書籍の作者の多くは無名のままで、書籍自体もゴミ箱に入れられ、すぐに忘れ去られます。しかしエド・ウッド監督が書いた小説のように、例え今日においてマイナーな作品でも、明日にはその判断が誤りであると分かり歴史的記録が行われることだって考えられます。これが今日の問題がはらむ大きな危険なのです。

かつてパルプSFや恋愛小説・マンガなどは「子ども向けで重要でないジャンル」と考えられてきましたが、現在では文学的価値があり文化的にも重要だとされています。最初にこれらのジャンルに属する出版物が現れた時、図書館は価値を軽んじて収集を行わず、後にコレクターから集めるはめになりました。しかし電子書籍の場合は権利に制限があるので、「お気に入りの本のコピーを図書館に寄付したり古本屋に売ったりする」ということが簡単にできないのです。

by Capture Queen

「デジタルコンテンツの興味深い点は、コレクターにとっては扱いが困難であることです」とはLynch氏の言葉。物理的な書籍の場合は読んだ後に倉庫で50年間保存するか、孫にあげる、という選択ができますが、Kindleで手に入れた本は例え50年間保存できたとしても誰にも渡すことができず、公に記録できないまま消えていってしまう可能性が高いと言えます。結局のところ大きな目で見た時に、現在の電子書籍のあり方は人類全体の損失に繋がりかねず、この状況を何とかする必要があるのです。

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in メモ,   ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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