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スタートアップで30億円の大金を集めるも、従業員の3分の1を失った「Clinkle」


スタンフォード大学の学生が設立した「Clinkle」は、モバイル決済プラットフォームを開発するシリコンバレーのベンチャー企業です。創業者は22歳の青年Lucas Duplanさんで、サービスのリリース前にも関わらず3000万ドル(約30億円)もの資金を集めて世間の注目を浴びましたが、その後あらゆる困難と迷走を続け、ついには従業員がマックス時の3分の1もいなくなってしまったそうです。

Inside Story of Clinkle - Business Insider
http://www.businessinsider.com/inside-story-of-clinkle-2014-4


この写真は2013年7月に撮影されたもので、写真に写っているのは当時のClinkleチームのメンバーたち。顔に「×」印がついているメンバーは既にClinkleから離脱してしまったメンバーで、真ん中で胴上げされている青年がClinkleのCEOであるLucas Duplanさん。


Clinkleはスマートフォンから利用できる決済アプリで、Duplanさんと彼の仲間数人により共同で作成されたサービスです。このアプリは彼らが19歳の頃に行ったヨーロッパ旅行で、簡単にサンドイッチを購入できなかったという経験から、簡単に決済ができるアプリがあればと思うようになり生まれました。

初めはスタンフォード大学のクラスメートであったFrank LiさんとJason Riggsさん、それにDuplanさんを含めた3人が共同でアプリの開発を行い、2012年にはRiggsさんとDuplanさんが一緒にClinkleのテクノロジーに関する特許を出願しています。そしてClinkleは3年以上に渡ってサービスの詳細な内容を極秘にしていたにも関わらず、多額の資金調達に成功しました。


Clinkleを使用したことがある人物によると、アプリは非常に良くデザインされており、簡単に利用できるのでユーザー間の金銭のやり取りにおいて高頻度で使われそうなサービスであったとのこと。金銭のやり取りには端末同士でQRコードをスキャンしたりメールを送ったりといった面倒な動作は一切必要ないそうです。

また、Clinkleはゲーミフィケーション要素を含んだ強靱な報酬システムも採用しており、例えばユーザーがClinkleを使用して何か物を購入した場合、無料のコーヒーをゲット可能。さらには他人にアプリを勧めることでポイントが得られ、そのポイントで何らかの報酬を得ることもできる仕組みとなっている様子です。


Clinkleが公式でアップしているサービス紹介ムービーは以下の様な感じで、ほとんどどんなサービスになるのかは分かりません。このムービーを見ても分かる通り、現在もClinkleがどんなサービスになるのかは一般には公開されていないわけです。

Clinkle: We’re All In This Together on Vimeo


しかし、デモアプリが動作している様子を収めたのムービーも公開されており、こちらを見ればなんとなくClinkleアプリのイメージがつくようなつかないような。

Clinkle Demo Video - sneak peek - YouTube


アプリの開発を始めたのはCEOのDuplanさんが19歳の時。そして2013年6月、彼が22歳の時に2500万ドル(約25億円)という初期投資としてはシリコンバレーの歴史上で最も大きな資金調達に成功し、さらに数ヶ月後には500万ドル(約5億円)の追加資金調達にも成功します。

初めは大学内で一緒にClinkleで働きたい学生を募っていたそうですが、資金調達後は従業員数が一気に70人以上に拡大、さらにその後はサンフランシスコの中心部にオフィスをかまえ、従業員数は150人を超えるまでに成長しました。


彼が在籍していたスタンフォード大学内ではすっかりスターのような扱いとなり、多くの称賛の声であふれることになります。しかし、彼の成功をねたむ一部の生徒たちが存在し、彼らはなんとか極秘扱いのClinkleの情報をリークしようとやっきになっていたとのこと。

しかし、10万人のベータテスターによりClinkleが実際に「使える」サービスであることが実証されます。そして、このベータテスト以降はアプリの詳細が少しも漏れないように、全ての求職者に対して秘密保持契約書へのサインが義務づけらるようになりました。

そんな順風満帆に見えたClinkleに危険信号がともったのは2013年の秋頃。Clinkleは現在もサービス提供前の段階ですが、既にサービス利用ユーザーを募集しており、予約人数は10万人を突破、当時のセールスチームの当面の目標が達成されました。セールスチームメンバーはもともと金曜日のランチにミモザというカクテルを飲むくらいだったので、目標達成祝いとして会社の経費でお酒を飲みまくったのですが、その2日後に羽目を外したメンバーの元にClinkleの経営チームから「明日からは仕事に来ないでください。解雇です」と電話があったそうです。あまりにも急なリストラ劇に、社内の従業員たちは少なからず動揺をみせます。

By Mat Wall

その後、Duplanさんの監督役として、元はNetflixで最高財務責任者(CFO)を務めていたBarry McCarthy氏が、最高執行責任者(COO)としてClinkleに参加。DuplanさんはMcCarthy氏を尊敬しており、2人の思考パターンも似通っていたそうです。ただし、元従業員いわく、「Duplanは最悪だが、McCarthyはもっと最悪」とのこと。なお、McCarthy氏がClinkleに参加するまで、30歳以上のメンバーはほとんどいなかったそうです。


経営陣に頼れるメンバーを迎えた後の2013年11月のある週、Clinkleの全従業員約40名がサンフランシスコにあるオフィスに集められました。この前日の全員ミーティングでは、Yahoo!とxAdで役員を務めたChi-Chao Chang氏をClinkleの新しいエンジニアリング副社長として迎え入れることを発表していたのですが、その日のミーティングで伝えられたのは「Chi-Chao氏はClinkleを去りました」という言葉でした。これはClinkleの従業員に大きな衝撃と混乱をもたらします。

さらにその後、従業員の何人かが珍しくMcCarthy氏からメールを受け取り「月曜の午前9時ちょうどに出社するように」と通達されます。そしてメールを受け取った従業員たちは、翌月曜日に会議室に呼ばれ、McCarthy氏に解雇の旨を言い渡されます。その際のMcCarthy氏は非常に感傷的で、自身が過去にリストラにあった後にNetflixで重要な役職に就けるまでに至った経緯を話し、解雇される従業員たちに激励をしたそうです。

スタートアップ企業では従業員のリストラが比較的多く、売るべき製品がまだないClinkleのセールスチームが解雇される、というのはとても理にかなったことのように感じられます。これらのリストラ劇について、CEOのDuplanさんは「自身の無経験さがこの混乱を起こした」と語りました。


また、Clinkle社内には部門間の差別が存在するようで、例えばエンジニアと一部のデザイナーたちにだけ株式が分配され、オペレーター部門の従業員などには与えられなかったとのこと。また、Duplanさんはほとんどが女性で構成される「ops girls」と呼ばれるチームを持っており、このチームをしばしばエンジニア用の雑用として使用し、車の洗浄やガソリンの補充、食料品の買い足しなどを行わせていたことが元従業員の証言による明らかになっています。これらをリークした元従業員は「Clinkleのために働くことは虐待に耐えることに似ている」とコメントしています。


さらに、Clinkleは数ヶ月でそのほとんどの経営陣を失っており、エンジニアリング副社長、顧客サービスディレクター、デザイン副社長、オペレーション副社長、そしてCOOのMcCarthy氏など多くの経営陣が辞職しています。この大量辞職の1番の理由はChi-Chao Chang氏の解雇とのこと。

Chi-Chao氏に近い情報筋によると、Chi-Chao氏はClinkleにエンジニアリング副社長として入社することになっていたのですが、多少の不安を持っていたそうです。なぜならClinkleはその秘密主義故に、入社前の段階ではどのようなサービスなのかがほとんど分からず、自身がClinkleの役に立てるかどうかを確かめるにはClinkleに入社するしかなかったためです。

彼は入社後、アプリや開発ロードマップ、マネジメントチームの報告書などあらゆる資料を集めまくったそうです。そして集めた資料の中で、Clinkleがもう1度大量解雇を行おうとしていることを知ります。前回リストラが実行されたのは2か月前で、解雇されそうになっているのは懸命に働いている従業員ばかりでした。これは、エンジニアリングチームと経営陣への出資が積み重なったせいで行われるリストラだったそうで、Chi-Chao氏は「リストラされる従業員たちを助けることはできなかった」と言っています。しかし、なぜサービスリリース前のスタートアップ企業が熱心に仕事を続ける従業員を解雇し、そして費用のかかる経営陣ばかり雇うのかと不思議に思ったそうです。

さらにリストラ情報に加えて、彼が想像していたよりもかなりひどい状態のアプリと市場戦略に関する資料を発見したそうです。アプリは多かれ少なかれChi-Chao氏が修復できる範囲のものでしたが、Clinkleの経営方針はChi-Chao氏自身の考えとは乖離していたようです。そして夕方になってからDuplanさんと話し合いの場を設け、長い議論の末に自ら辞職する旨を伝えたとのこと。

Chi-Chao氏が辞職を決めた本当の理由は彼にしか分かりませんが、彼は「Duplanは私がこれまでに出会った中で最も印象的な人物のひとりです」とDuplanさんの印象について語り、Clinkleの成功を祈っていますとコメント。Chi-Chao氏がわずか24時間でClinkleを去ったことはClinkleの従業員に大きな衝撃と混乱をもたらし、ある元従業員は「落胆しました」とそのときの心境を語ります。


スタッフの約3分の1がいなくなってしまったClinkleですが、Duplanさんは楽観的で、資金調達で得た大金のうち2000万ドル(20億円)はまだ残っている、とコメントしています。そんなClinkleは現在銀行の買収を企んでいると噂されており、そのために新しい資金調達に動くのではとも言われています。また、不平不満が大量に漏れているのも事実ですが、まだまだ多くの人たちがDuplanさんを支持しているというのも事実なので、今後のClinkleの展開に期待です。

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in メモ, Posted by logu_ii

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