取材

アベノミクスも真っ青のインフレーションと通貨安に陥った国が南米に存在


インフレで物価が上がるのに耐えられず、警官までもが賃上げのストライキ。そして、その隙をついた暴徒たちの商業施設の襲撃。アルゼンチンは混乱に陥りつつあります。首都ブエノスアイレスは「南米のパリ」とまで呼ばれて、順調な経済発展を遂げていたのですが、2001年末に対外債務の返済ができずにデフォルトを宣言。それ以降何とか立ち直りつつあったアルゼンチン経済が、再び困難な状況を迎えようとしていました。

こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。世界を震撼させたアルゼンチンの通貨下落は、前もって両替していた自分の懐(ペソ)を直撃。日に日に上がっていくレートにやきもきしていましたが、滞在の後半には落ち着いて何とか乗り切りました。

時事ドットコム:略奪で9人死亡=警官スト中で不在-アルゼンチン
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201312/2013121100093

【ブエノスアイレスAFP=時事】アルゼンチンで、賃上げや労働環境改善を求める警官のストライキが続いている。警官不在をいいことに各地で略奪が起きており、1週間が経過した10日、死者数は9人に達した。

といったように、通常では理解できないことがアルゼンチンで起きています。自分の滞在で考えたことも含めて、アルゼンチンの国内事情を少し調べてみました。

◆首都ブエノスアイレス
パタゴニアの南の果て・ウシュアイアから飛行機で移動した首都ブエノスアイレスは都会過ぎて足がすくみました。これほどまでに高層ビルが立ち並ぶのはボリビアの首都ラパス以来の光景。街並みは立派ですが、至るところに落書きやゴミがあったり、歩道や道路が傷んでいたりと、ヨーロッパのように見えても南米であることを実感させてくれます。ウシュアイアは寒くて厚着だったのですが、ブエノスアイレスは日差しが強くてTシャツ1枚でも大丈夫でした。

日本を思い出すようなビジネス街の高層ビル群


街角のマクドナルドに、コカ・コーラ製品の巨大な電光掲示板。


横断歩道を渡る人々


交差点の中央に立つ銅像


歩行者天国のフロリダ通りは百貨店や洋服店、レストランやファストフード店が並ぶショッピングエリア。


奥にある建物がアルゼンチン大統領官邸のカサ・ロサダ


中心街を南北に貫く7月9日大通りは、片側七車線を擁する巨大な通り。遠くまで視界が開けているので、歩いているだけでも気持ちのいい通りです。


7月9日大通りの先にあるビルの壁には描かれたおしゃれなアート


世界新聞の松崎さんが「世界で2番目に美しい本屋さんで、優雅な時間に浸ってきた」という記事にした本屋さんにも立ち寄り。ここ、実は日本の漫画(スペイン語)も手に入ります。


こうしたビルに囲まれた中を走る道路に、かつて走ったヨーロッパを思い出したり。


歩道に描かれたおしゃれなタンゴのステップ


街中にあった綺麗な公園で一息


市内には高架の都市高速も張り巡らされていたりします


サッカーのボカ・ジュニアーズの本拠地でもあるボカ地区には「カミニート」と呼ばれるカラフルに彩られた街並みが観光エリアとなっていて、たくさんの観光客で賑わっていました。


ボカ地区のレストランで、素敵なタンゴを踊っていた二人に見惚れて。


アルゼンチンで発展していたのは首都だけに限りません。例えば、「『南米のスイス』と呼ばれるアルゼンチンのバリローチェからの壮大な眺め」で行った、パタゴニアの入口となったバリローチェ。


フィッツロイにペリト・モレノ氷河とパタゴニアの大自然が魅せる奇跡の光景」に出てくる、パタゴニアでも人気の観光都市カラファテ


南北アメリカ大陸を自転車で縦断するには521日と2万5698kmが必要でした」とアルゼンチン最南端のウシュアイア


といった感じ、南米ではチリと同じくらいに発展していました。アンデスのコロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビアと南部のチリとアルゼンチンには、大きな壁があったりします。経済が好調のチリと経済が不調のアルゼンチンで、また差があったりしますけど。

◆闇両替
アルゼンチンでは2・5・10・20・50・100ペソの紙幣と1・2ペソの硬貨が使われています。デザインの違う100ペソは2012年9月から流通している新紙幣。10ペソ以下の少額紙幣はクシャクシャになっていることもありました。


最高額紙幣の100ペソが闇レートで約1000円となるので、大量に両替すると嵩張ります。隣のチリでは2万ペソ(約4000円)、経済規模が劣るパラグアイでも10万グアラニー(約2250円)が最高額紙幣ですから、アルゼンチンの異常さは際立っていました。


アルゼンチンの闇両替は、外務省の海外安全ホームページでは……

海外安全ホームページ: 安全対策基礎データ
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcsafetymeasure.asp?id=241

(2)外貨からアルゼンチンペソへの両替は,空港内の銀行出張所及び市内の両替店等で可能です。フロリダ通り等の観光スポットにおいては,有利なレートを路上で提示するいわゆるヤミ両替を持ちかけられることがありますが,こうした換金行為は違法行為であるとともにニセ札を掴まされる可能性があるので,そのような誘いには乗らないよう注意してください。

と書かれていて、さぞかし悪いことかと思いきや、意外にもアルゼンチン人は大っぴらに外貨を求めています。観光地のお土産屋さんや旅行代理店のドアやショーウインドウには、堂々と闇両替のレートが張られていました。

バリローチェの服屋さん


カラファテの旅行代理店


ドアの入口に張られた闇レートの案内


しっかりと提示


南の果てウシュアイアでも発見


ブエノスアイレスでは、繁華街のフロリダ通りにもありました。普通に歩いていても「カンビオ、カンビオ(両替、両替)」の大合唱。ただし、ここにはインチキをする輩もいるようなのでご注意を。


両替所は公式のレートを提示しています。ただし、最初に入ったサンマルティン・デ・ロス・アンデスの両替所では、100ドルの高額紙幣は闇レートで両替してくれました。


スーパーマーケットでも公定レートの案内


そんな自分は、アルゼンチンのバリローチェでパタゴニアを含めて2ヶ月の滞在1200ドルを一気に両替。街のメイン通りで「カンビオ、カンビオ(両替、両替)」と誘ってくる男性が闇両替をやってくれるお店を紹介してくれ取引。例年のパタゴニアでは、レートが悪くなるので、ここで両替するのが鉄板でしたが、ペソ大暴落のせいで状況は一変。写真に挙げた形で、ある程度の街なら悪くないレートで両替できそうでした。米ドルで両替するにしても100ドル札なら1ドル=9.5ペソ、20ドル札なら1ドル=9.25ペソとレートが違ったりするので、高額紙幣を用意しておくのが無難。外貨不足に陥った旅人はブエノスアイレスからウルグアイに行って、現地のATMで米ドルを降ろしたりしています。

こうした闇レートのある国ではカードで買い物したり、ATMからお金を引き出すと公定レートで計算されるので控えておくのが賢明です。アルゼンチン航空のウシュアイアからブエノスアイレスの航空券2495ペソ(約2万5000円)も航空会社のオフィスで現金払いが可能でした。ただ、ブエノスアイレスからウルグアイのコロニア・デル・サクラメント(Colonia del Sacramento)へは、巨大なラプラタ川を渡るためBUQUEBUSのフェリーを利用したのですが、ここではペソ払いができずにカードを使用。もちろん引き落としは割高な公定レートですので損ですよね。

現金払いが可能だった航空券


公定レートでアルゼンチンペソを米ドルに両替できない以上、実際のレートに適した闇レートは物価の物差しとしては現実に即していました。アルゼンチンの米ドルに対するレートは「BuenosAiresHerald.com」を参考にすると、このように変化しています。

2014/03/31:正規レート8.01、闇レート10.80
2014/02/14:正規レート7.79、闇レート11.85
2014/01/23:正規レート8.01、闇レート13.06
2014/01/20:正規レート6.84、闇レート11.65
2014/01/09:正規レート6.63、闇レート10.80
2013/12/23:正規レート6.45、闇レート09.70
2013/11/29:正規レート6.15、闇レート09.57
2013/10/04:正規レート5.82、闇レート09.55
2013/10/04:正規レート5.82、闇レート09.55
2013/07/24:正規レート5.47、闇レート08.58
2013/05/30:正規レート5.29、闇レート08.87
2013/01/28:正規レート4.98、闇レート07.66
2012/12/14:正規レート4.88、闇レート06.53
2012/10/01:正規レート4.71、闇レート06.26
2012/05/22:正規レート4.48、闇レート05.90
2012/03/12:正規レート4.36、闇レート?
2011/07/29:正規レート4.17、闇レート?
2010/12/30:正規レート4.01、闇レート?

わずか3年で通貨の価値は2分の1に半減。特にアルゼンチンショックとも呼ばれた昨年末から今年頭にかけてに、正規レートが1ドル=±6.0から±8.0へと33%も下落しています。アルゼンチンがインフレに陥るのも当然でした。

インフレもあってアルゼンチンでは、値上げが頻繁に行われているようです。


◆インフレと物価
フランス資本のカルフールもアルゼンチンで店舗を展開中


パタゴニアを旅するのに欠かせない「La Anonima」というスーパーマーケットチェーン


パラグアイ、ウルグアイと国境を接するコリエンテス州や、イグアスの滝があるミシオネス州では中国系のスーパーが存在感を出していました。


という具合にアルゼンチンではスーパーマーケットが普及しています。チリの2倍を越える約4千万人の巨大なマーケットは、隣国のウルグアイ、パラグアイにも影響力があるようで、アルゼンチン製品が棚に並んでいました。消費税は21%と高額、ただし牛肉や果物といった生鮮食品には10.5%の軽減税率が適用されています。

では果たして実際の物価はどのくらいなのか、上に挙げた今年3月31日の正規レート8.01、闇レート10.80を使って調べてみました。分かりやすいように1ドルは100円というレートで計算しています。体感的には1ドル=10ペソ=100円が現実的だと思ったのですがいかがでしょう?

コカ・コーラ500mlは、国内で7ペソ(正87円、闇64円)から15ペソ(正187円、闇139円)と場所とお店によって値段に幅あり。


食パン340gは14.31ペソ(正176円、闇132円)


牛肉は1kgが57.2ペソ(正706円、闇530円)と広い国土もあってか安い傾向にあります


ブエノスアイレスにあるバーガーキングのバリューセットは26ペソ(正324円、闇241円)でした。主力製品ワッパーのセットは60ペソ(正749円、闇555円)になる模様。


コルゲートの歯ブラシは6.60ペソ(正82円、闇61円)になります。


そしてアルゼンチンを調べている中で「Precios cuidados」という政府の物価抑制プロジェクトを発見。スーパーマーケットで周りと比較すると割安だったので手にしていたのですが、価格統制があれば安いのも納得です。アルゼンチン在住の方が書かれた「インフレをやっつけろ」という記事は分かりやすくて秀逸。

アルゼンチン国内でCMを流していて、自分も目にした記憶があります。

Una jubilada que cuida los precios. Precios cuidados. - YouTube


「Precios cuidados」公式サイトでは、政府の統制下にある商品の値段が分かるようになっています。コカ・コーラ、ネスレ、ユニリーバといった外資の製品もあるようですが、生産はアルゼンチン国内の模様。実質のレートが10ペソ=100円くらいなので、表示の値段を100倍すると日本円での値段といった所でしょうか。

野菜・果物


精肉


パン


乳製品


飲料。ビールにコカ・コーラ!!


缶詰・調味料


調味料・コーヒー・砂糖


クッキー・クラッカー


洗剤


石けん・おむつ


「Precios cuidados」ではオフィシャルツイッターもあるようで、次のようなツイートをリツイートされていました。




ただし需要と供給によって、値段が決まる資本主義経済で政府による物価統制という政策は疑問に感じます。無理が生じる価格の負担は、政府や企業が負っているのか、それでも低所得者層のためにも、商品を供給し続けるのにこだわるのか、アルゼンチンは難しい舵取りを迫られているようです。ちなみに現大統領のクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領の夫で前大統領の故ネストル・キルチネルはベネズエラの故チャベス前大統領の盟友。こういう流れも社会主義的なアルゼンチンを作る一因となっているようです。

◆アルゼンチンが抱える闇
首都ブエノスアイレスは「ケチャップ強盗」の噂の通りに治安が保たれていません。ケチャップ強盗とは、旅行者に汚れた液体をかけて親切を装って拭いている隙に鞄や貴重品を奪い去るという手口。歩いていると鞄を前に持って歩く地元の人が多くて、否応なしに警戒しました。実際に到着したその日、カメラを盗ったらしい男を追いかける女性と警官を目撃。同じ宿の旅行者も、人通りが少なくなる日曜日のボカスタジアムの付近で暴漢に襲われ貴重品を奪われ、ブエノスアイレスから帰国しました。

ホームレスが住み着かないようにするためでしょうか?フェンスに鍵がかかった公園


広告を守るためにフェンスがあるなんて、世界広しといえどもアルゼンチンしか知りません。


地下鉄のエレベーターに貼られたチラシを清掃中の様子


ゴミ箱が近くにあるのに、このゴミの散らかり方はひどい。


街も落書きが多くて、街の空気を悪くしていました。


それだけに留まらず、地下鉄の車両まで素敵にペイントされていて目を疑います。二次元ではなくて、三次元でこういう世界があるなんて。


そして、車内にまで身勝手な広告が……。


地方の街中まで舗装が行き届いていないのがアルゼンチンの特徴でした。チリの半分で、ペルーと同じくらいの舗装という感覚。


中心部は舗装されているのですが、郊外は幹線から2つくらい離れるとこのような感じに。


バリローチェでも破壊されたバス停を発見


こちらは、ガソリンスタンドに並ぶ車の行列。同じく闇両替が存在してガソリン不足だったアフリカのマラウイの光景が重なりました。この他にもパタゴニアでは2度ほど、ガソリンが足りない様子を目にしています。


こうした通貨価値下落と抑えきれないインフレ圧力から、地下鉄やバスといった交通機関、水道やガスといった公共料金の値上げが行われるようで、アルゼンチン国民の負担は否応なしに高まります。こうした政治、経済の不満から滞在中にはデモの現場を目撃しました。


ブラジルに継ぐ南米第二位の経済規模を誇りG20にも参加するアルゼンチン。これからの行き先を全世界が見守っています。

(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak
)

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in 取材, Posted by logc_nt

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