サイエンス

適度な運動には目の病気の進行を遅らせる効果があることが判明

By Jeanette Goodrich

年齢を重ねることによる老化現象は、程度の差はあっても誰にでも起こること。できる限り長く健康でいたいというのは人類の永遠のテーマであり、「老化を遅らせる」という究極の長寿実現のための世界最大の遺伝子研究が始められていたりします。しかし、そんな大がかりな設備と費用を投じなくても、適度な運動を行うことによって加齢に伴う一部の老化現象を防止できるかもしれないことが明らかになっています。

Aerobic Exercise Protects Retinal Function and Structure from Light-Induced Retinal Degeneration
http://www.jneurosci.org/content/34/7/2406.short

Exercising for Healthier Eyes - NYTimes.com
http://well.blogs.nytimes.com/2014/03/26/exercising-for-eye-health/

目の網膜にある黄斑部が加齢に伴って変性を起こす加齢黄斑変性は、症状が進行すると失明を引き起こす病気です。アメリカでは高齢者における失明原因の第一位となっており、男性の発症率が女性の3倍になっているというデータも存在しています。

視力を失ってしまうことになる恐ろしい病気ですが、興味深いことに以前からこの病気を予防するには適度な運動が効果を持つということが語られていました。2009年に行われた研究で約4万人の市民ランナーについて調査したところ、適度な運動を行っているグループではこの病気の罹患率が低かったことも報告されています。

By Dave Schmidt

この現象を裏付けるべく、アトランタVAメディカルセンターの研究チームはマウスを使った実験を行い、運動の有無が加齢黄斑変性の発生にどのような影響を与えるのかを調査したところ、その結果には顕著な傾向があることがわかりました。

◆強い光を与えられた視神経細胞のダメージを比較
実験用には健康状態のよい大人のマウスが用意され、2つのグループに分けられたマウスにはそれぞれ異なる条件が与えられます。研究チームは実験に先立ち、2週間にわたって一方のグループにはトレッドミル上で走らせる運動を1日あたり1時間程度実施させ、もう一方には何も運動をさせない状態で過ごさせます。

By Daniel_isBORED

次に、各グループからさらに半分のマウスを取り出し、4時間にわたって非常に明るい光源のもとにさらして網膜にダメージを与えます。これは、実際の老化による変化を完全に再現するものではありませんが、疑似的に網膜細胞にダメージを与えるものとして広く用いられている方法です。残るグループは照明を暗くした状態のケージの中に放置されます。

その後、研究チームは両グループのマウスに最初と同じ行動を2週間にわたって実施させたのちに、眼球に含まれる神経細胞(光受容体細胞)の数を計測して受けたダメージの強さを判定しました。すると、運動を行わずに強い光を浴びたグループのマウスが最も強くダメージを受けていたことが判明。このグループのマウスは約75%の光受容体細胞を失い、ほとんど目が見えない状態になっていました。

By leandro agrò

一方、運動を行った後に光を浴びたマウスのグループは、運動を行わなかったマウスの約2倍の光受容体細胞を保持していることがわかりました。さらに、強い光を生き延びた細胞は通常よりも光に対する反応性が高まっていることがわかっており、運動の実施が網膜の保護と強化に効果を与えることが示されています。

◆「脳由来神経栄養因子」のはたらき
次に研究グループは、神経細胞の生存や成長に深く関わっている蛋白質の一種である脳由来神経栄養因子(BDNF)に着目し、実験による変化を検証します。先ほどとは別のマウスに同様の実験を実施したのちに、眼球と血中に含まれるBDNFの数値を調査したところ、運動を行っていたマウスは飛び抜けてその数値が高かったことが明らかになりました。さらに、BDNFの働きを阻止する成分を与えたマウスで同様の実験を行ったところ、運動したマウスであっても光受容体細胞にダメージが及んでいることがわかっており、運動により分泌されるBDNFが視神経細胞の保護と成長に重要な役割を果たしていることが立証されました。

◆人間への応用と病気の予防のためには
今回の実験では、運動が視神経細胞の保護に与える影響が明らかにされましたが、残念ながらこれはあくまで実験室のマウスにおける現象です。研究チームも、人間の体における運動の効果を判断することは「現時点で得ているデータからは、不可能である」とし、今後このデータを人間に応用させて同様の検証を行う方策について検討が重ねられています。

今回の研究チームの一員であり、エモリー大学の眼科専門病院・エモリーアイセンターに勤めているジェフリー・H・ボートライト博士は、チームの中にはBDNFの働きを阻止する成分や薬物を外部から注入する方法を検討している人もいると認めた上で、そういったことが可能な方法の代表的なものは網膜への注射であり、複雑・危険・高価なので基本的には反対の立場を取っており、「もっと安全で楽しくお金もかからない『日々の運動』を生活に取り入れ、病気の予防に努めるべきです」と語っています。

By nigeyb

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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