サイエンス

抗生物質が家畜を太らせるだけでなく人間にとっては「肥満薬」にもなり得るメカニズムの解明へ

By Michael Mortensen

抗生物質(抗菌薬)は感染症予防に使われていますが、過度に服用することで耐性菌が生じるという問題が指摘され、「不必要な抗生物質の使用を削減するべき」というキャンペーンも広がってきています。この耐性菌の問題の他にも、抗生物質の使用が「肥満」の問題を引き起こしているのではないかという見解が示されています。

The Fat Drug - NYTimes.com
http://mobile.nytimes.com/2014/03/09/opinion/sunday/the-fat-drug.html

養鶏所や養豚所では、飼料に抗生物質パウダーを混ぜて飼育するのがごく当たり前の光景となっています。ひよこや子豚に抗生物質入りの飼料を食べさせることで家畜がより大きく育つことから、安い肉を生産するために抗生物質の利用は生産現場では当然のように使われる「スーパー飼料」として扱われています。

家畜に抗生物質が利用されるようになったのは1948年にオーレオマイシンが家畜に与えられたのが始まりです。生物学者のトマス・ジューク博士とレダリー研究所の同僚は、ひよこにオーレオマイシン入りのエサを与えたところ、体重が2倍になる個体が現れることを発見しました。ジューク博士は家畜を肥えさせる用途にオーレオマイシンを活用したいと考えましたが、その新薬は人間の病気を治療する目的が最優先であったため、レダリー研究所はジューク博士にオーレオマイシンの使用を禁じました。しかし、諦めきれないジューク博士たちは、なんとオーレオマイシン製造後に出てくるスラリーを飼料に混ぜて豚・羊・雄牛に与えたところ、すべての家畜の体重が増加することを見つけました。「ゴミを肉に変えられるかもしれない」可能性が見いだされた瞬間でした。

By Mike Tigas

1950年代は「大きいことは良いことだ」という風潮の時代で、特大サイズの動物や植物、高層ビルや巨漢の赤ちゃんなどがもてはやされていました。製薬会社のファイザーは、「4カ月間で誰が一番多く体重を増やすことができるか?」というイベントに賞金を出していたとのこと。オズワルドクルーズ財団のルイス・カエターノ・アンチューンズ博士は、「当時、どうして抗生物質が家畜を太らせることができるのかというメカニズムを気にする人はいませんでした」と述べています。

しかし、抗生物質の研究が進むと、「アメリカ人の肥満の原因の一つに抗生物質があるのではないか?」という疑念が投げかけられます。1980年にニューヨーク大学のマーティン・ブレイザー教授が家畜飼料へ大量の抗生物質パウダーを混ぜる光景を目の当たりにして、その量の多さに驚愕したとのこと。抗生物質が家畜を肥満化させるのを見たブレイザー博士は数年かけてハツカネズミの成長に対する抗生物質の影響を研究したところ、抗生物質を含むエサを与えられたハツカネズミが2倍多く脂肪をつけることを発見しました。ブレイザー博士は、抗生物質が余分な脂肪を蓄えるためのスイッチになっているのではないかと考えました。


さらに抗生物質と肥満の関係について研究を進めたブレイザー博士は、腸内細菌の数に注目しました。腸内で活動するバクテリアの中には、免疫反応、食物の消化、栄養素形成、健康的な体重の維持などに関係するものがあることが知られていますが、ブレイザー博士は抗生物質が有益なバクテリアを殺してしまうことが肥満につながっているのではないかと考えたというわけです。

これまで体内のバクテリアを識別しその数を測定する方法がありませんでしたが、近年開発された超高速ゲノム塩基配列解読装置によって体内バクテリアの検査が可能になりました。超高速ゲノム塩基配列解読装置を使った最近の研究では、抗生物質シプロフロキサシンを投与された患者の消化器官の細菌は全個体数が10分の1まで減少することが明らかになっています。

By Shaury Nash

ブレイザー研究所のチョン・イルセン博士は、抗生物質が腸内細菌に与える影響と肥満の誘発との因果関係が徐々に判明してきていると考えており、抗生物質と違って腸内細菌を殺さない新薬の開発が望まれていると述べています。しかし、感染症に対して抗生物質が効果的であることは厳然たる事実であり、急に抗生物質の使用をやめることは現実的ではないとも話しています。抗生物質が副作用を伴うとしても、この特効性に鑑みれば使用せざるを得ない場面は確実にあるため、医療現場ではメリット・デメリットを考慮して乱用を避け、適度なバランスを保った使用が必要だとのことです。

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in サイエンス,   生き物,   , Posted by darkhorse_log

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